89.魔王
あらすじ
唐突に現れた人間の形をしたソレは、旧友と語り合うような言葉をガルセコルトに向けた後、あっさりとガルセコルトを滅ぼした。
その存在から私が感じたのはダンジョンコアの操るDPと同じ力。
私はそこでそれの正体を理解した。
魔王。もしくは大魔王と呼ばれる存在。
ガルセコルトを瞬殺したその存在は、六属性の魔法を操り、襲い掛かった魔狼たちを消し去ると、ダンジョンに向けて歩き出す。
ガルセコルト含む魔狼たちをあっさりと殲滅したソレは、そのままの足取りでダンジョンの中へと侵入してきた。
私はソレがダンジョンへと足を踏み込んだ瞬間、恐る恐るソレのステータスを確認する。
ステータスを確認出来れば、そこから何かしらの打開策が思い浮かぶかと、そんな淡い期待を持って。
そうして、すぐにその行いを後悔した。
名前:レティシア・アルドア・エルロンド
種族:トワイライトヴァンパイアクイーン ランク:A
年齢:323
カルマ:99
LV:92/99
スキル:『社交LV10』『計算LV10』『筆記LV10』『舞踊LV10』『楽器LV10』『歌唱LV10』『統治LV10』『記憶LV10』『信仰LV10』『魔力感知LV10』『魔力探査LV10』『魔力精査LV3』『魔力操作LV10』『魔力制御LV10』『魔力掌握LV3』『魔術理論LV10』『魔法陣学LV10』『吸血LV10』『吸血支配LV10』『吸血転化LV10』『血液操作LV10』『肉体操作LV10』『暗視LV10』『超聴覚LV10』『超嗅覚LV10』『超視覚LV10』『神聖魔法LV10』『山歩きLV10』『物理耐性LV8』『精神耐性LV10』『投擲LV7』『加速思考LV10』『高速思考LV8』『爪牙術LV10』『真・爪牙術LV10』『気配察知LV10』『気配探査LV10』『気配精査LV3』『飢餓耐性LV10』『忍び足LV10』『気配隠蔽LV10』『魔力隠蔽LV10』『威圧LV10』『身体強化LV10』『見切りLV10』『心眼LV10』『剣術LV10』『突剣術LV10』『刺突剣術LV5』『体術LV10』『身体操作LV10』『身体制御LV7』『料理LV10』『盾術LV10』『軽盾術LV7』『槍術LV10』『閃槍術LV7』『火炎耐性LV7』『疾風耐性LV7』『斧術LV10』『重斧術LV7』『火炎魔法LV7』『流水魔法LV9』『岩石魔法LV8』『疾風魔法LV8』『飛行LV10』『地形把握LV10』『経路探査LV10』『罠感知LV10』『罠探査LV8』『閃光魔法LV9』『暗黒魔法LV8』『魔剣術LV10』『魔導剣術LV8』『並列思考LV10』『広域探査LV8』『鑑定LV10』『岩石耐性LV7』『流水耐性LV7』『指揮LV10』
称号:【元冒険王国エルロンド第二王女】【生残者】【悲劇の姫君】【追放者】【◆◆◆◆神の加護】【復讐の狂姫】【魔神の信奉者】【転化者】【原初の唯一種】【吸血鬼の始祖】【人間の殲滅者】【黄昏の吸血女王】【魔王】【新生エルロンド王国女王】
種族:トワイライトヴァンパイアクイーン ランク:A スキル:『吸血』『吸血支配』『吸血転化』『血液操作』『肉体操作』『暗視』『聴覚』『嗅覚』『視覚』
不死族魔人系の魔王種特殊個体トワイライトヴァンパイアクイーン。◆◆◆◆神の力によって魔物へと転化した元人間が魔王への進化を果たした者。血を吸った者を支配する力、同種族に転化させる力、自らの血液を操る力などといった血液系統のスキルを有する。また自らの肉体を操作することで、鋭くした爪での攻撃や、翼を生やすことで飛行することも可能。
ステータスに記された何もかもが桁違い過ぎて、もはや何かと比べると言うことすら滑稽なほどだ。
これが、魔王という存在。これがAランクとAランク相当の違いだというのか。
勝ち目があるとか、無いという問題ではない。
これでは目をつけられた時点で、死が確定しているようなものだ。
そうして今、この魔王レティシアは堂々とダンジョンへ侵入してきた。
ダンジョンマップに記された侵入者を示す赤い点が、魔王レティシアを敵だと告げている。
あの圧倒的な力を持った存在が、私の敵として存在しているのだ、と。
絶望が、私を支配する。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『精神的苦痛耐性』のレベルが9から10へ上がりました〉
『精神的苦痛耐性』がレベル10に上がった次の瞬間、ふいに私の本能ともでも言うべきものが、私の中で生じようとした何かを敏感に察知して、それを全力で押し留めた。
『精神的苦痛耐性』の上位スキルであろうそれが、私の禁忌に触れたのだ。
私が死を恐れるのと同じように、私は私が私という枠を超える程に変質してしまうのを恐れている。私は私がどのように成長しようとも、どのように退化していこうとも構わない。それが今の私と繋がっているというのなら、どんな道を進む私であろうとも、私は私を肯定する。しかし、そんな私という枠組みを超える程に変わりすぎてしまうのは、どちらであっても許容できない。それは私にとって、死と何ら変わりのない概念なのだ。
私は直感的に、『精神的苦痛耐性LV10』から派生して、私の内で形を成そうとしていたスキルが、私という枠組みを超えるようなスキルであると察した。
そのスキルにはそれほどの力がある。だからこそ、私の本能はそれを押し留めたのだ。
こんな状況下であっても尚、私は私を維持し続けている。死は何よりも恐ろしいが、私が私で無くなることも同じくらい恐ろしい。どちらかを選べと言われても、私にはどちらも選べないほどに。
スキルの発生は一時的に止まっているが、この状況が続く限り、またすぐにでも同じスキルが発生する。
私の本能はそれを察知して、無意識に対抗策を行っていた。『並列思考』により分けた思考同士で、それぞれの思考を相互に支えさせたのだ。
簡単に言ってしまうと、それは自分を自分で励ますという行為を、少し複雑な手順でしているというだけのこと。殆ど無意識のスキル操作だった為に、単純なことしか出来なかったのだ。
子供だましのような方法だったが、それでも何とかギリギリのところで心が安定してきた。
押し留めていたスキルが消えていくのを感じる。
私が改めて魔王レティシアへと意識を向けると、魔王レティシアは何故かダンジョンに入った所で立ち止まり、何やら思案をしている。
「確かに聞いた通りだったな。まさか、生きたダンジョンに魔王が潜むとは。それにしても、この魔力の感じは……」
そう呟いた後、レティシアはようやくダンジョンの奥へ向けて進み始めた。
その足取りは順調の一言で、分かれ道で迷うことも、罠にかかることも一切無く、一直線に最短経路を進んでいく。まあこの辺りは、レティシアのステータスに『罠感知』や『経路探査』のスキルを確認した時点で、既に想定していた事だ。
前回、同じスキルを所持する高ランク冒険者たちがやってきた時から、これらのスキルの厄介さは理解している。しかし、レティシアと前回やってきた高ランク冒険者たちとでは、その在り方が全く違っていた。
二者の違いは明白だ。
高ランク冒険者たちも殆ど立ち止まることなくダンジョンを進んでいたが、そこには未知なるダンジョンの中で、敵を警戒する緊張と慎重さがあった。
それに対してレティシアは、まるで見知った近所を散歩でもするかのような気軽な足取りで、ダンジョンを進んでいるのだ。
その姿からは警戒心というものが一切感じられない。
だというのに、レティシアを襲わせた複製体の魔物たちは、レティシアへ近づく前に魔法で殲滅されていた。
レティシアの周囲では幾つもの属性の魔力の塊が、ふわふわと宙を旋回している。それらが敵を見つけると、自動的にそれに向かい飛んでいき、消し飛ばしていくのだ。
その間、レティシアの歩みは欠片も揺るぐことは無い。
ステータスで確認したスキルから考えて、『並列思考』で分けた副思考に知覚系スキルを使わせて、それで発見した敵をまた別の副思考が用意した魔法で迎撃しているのだろう。恐らく魔狼たちを殲滅したのもこの方法だ。
それにしても、いくら相手がかすり傷すらつけられないような弱い魔物であったとしても、敵意をもって襲い掛かってくる相手に対して一切動じることのないその姿は、非常に不気味である。
どうすれば、あんな化け物を退けることが出来るのだろうか。
倒すというイメージが、全く出来ない。
どれだけ『加速思考』と『並列思考』を費やして様々な思考を重ねても、現状を解決する方法は何一つ思い浮かばなかった。
大量のスキルを持つ上に、覚えているスキルの殆どで上級スキルまで派生しており、その上級スキルすら幾つかは上限レベルまで鍛えられている。さらに上級スキルのその上らしきスキルまで存在しているなんて、対処のしようが無いだろう。
私がそんなことを考えている間にも、レティシアはどんどんダンジョンを進んでいく。歩く速度は散歩程度でも、最短経路を止まることなく進んでくるのだ。私にはあまり長い時間は与えられていない。
いっそのこと、ダンジョンを崩壊させてみようか。
意図的に部屋と通路の役割を外し、魔力の供給路を強制的に切断するのだ。そうすれば、魔力により強化されていたダンジョンを支えている壁や天井の強度は一気に低下し、地下深くに続くダンジョンは完全に崩壊する。
その巻き添えにしてしまえば、如何な魔王と言えども。
いや、ダメだ。
それはあまりにも狂気的な思考である。
そんなことをすれば、まず私がタダでは済むまい。
前回はすぐに魔力の供給路を繋げ直したから、あの程度で済んだのだ。もしあのまま放っておいたら、行き場を失った魔力の暴走により、ダンジョンコアが砕け散る未来すらある。
そう。これは、人間が自らの首に刃を当てて、勢いよく引く行為と何ら変わらないのだ。
そんな方法を考え付いてしまったというだけで、私は私が恐ろしい。
たとえそれでレティシアを退けることが出来たとしても、私が死んでしまったら何の意味も無いだろうに。
それがそういう意味を持つと知ってしまった以上は、もはや私がそれに手を出すことは出来ない。
それは私の中で、禁忌となったのだ。
そもそも、その程度の威力であの魔王を退けられるとは思えない。




