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AとK  作者: 東久保 亜鈴
9/29

Kの巻(その四①)

裕樹と知り合い、どんどんと落ち着いて来る薫。

それと反比例するように薫の裕樹に対する想いは強くなっていく。

優しい裕樹に薫は自分自身でいていい、その自分は裕樹の中にいていいんだという思いからだった。

どんどん明るく本来の自分に戻っていく薫の前に、悪夢が戻って来る。

自分を悪夢に誘い込んだ男を裕樹に見られたくない。

薫はクモの巣にかかった蝶のようにもがいても、身動きが取れなくなっていく。

そして、薫は再び堕ちていく。

6月の下旬。

しとしと雨降る日曜日。


ベッドの中で薫は裕樹の腕を自分の腕の中に抱えるように横になっている。

「中間テストが終わったら、直ぐに期末テスト。

 なんで、テストばかりあるんだろう」

薫は不満たらたらだった。

「でも、薫ちゃん、成績は良いんだろう?」

「全然。

 学年350人中180番。

 ど真ん中のストレートよ。

 それよりモデルの仕事をしているので、尚更チェックされているみたい。

 仕事で学業が疎かになったら、即退学って。

 本当に嫌になっちゃう」

「モデルの仕事、順調なの?」

「うん。

 最近、また、ポチポチ舞い込んできて。

 学校もあるから週末中心だけど、日曜日は断っているのよ。」

「え?

 断っている?」

「そうよ。

 だって、私の大好きな仕事の日じゃない。」

「う…」

薫は裕樹と体の関係1回に付き5千円で契約していたが、すでに建前になっていたが、真面目な裕樹は、気になって仕方なかった。


「ねえ、それより、中間テストの時。

 テスト前、テスト期間中2週間以上会えなかったけど、寂しくなかった?」

「え?

 寂しくなかったって?

 だって、毎日LINEしているから寂しくなかったよ」

「えー?!

 会えなくて寂しくなかったの?

 もしかして、他に女がいるとか?」

「馬鹿」

裕樹はそう言うとしっかりと薫を抱きしめ、頬にキスをすると、薫は嬉しそうに笑顔を見せる。

そしてごそごそと毛布の中に潜り、裕樹の胸に顔を埋める。

裕樹は男臭くなく不思議といい匂いがして、薫は裕樹の匂いが好きだった。


そして、自分で大きく変わってきたことを思う。

(2週間も一人でいられるなんて。

 男の肌の温もりがなくても平気だったなんて、なんて久々だったんだろう。

 今でも大丈夫。

 きっと1か月位なら一人でも大丈夫かな。

 ううん。

 裕樹がいれば。

 セックスなんてしなくてもいい。

 ただ、裕樹と一緒にいて、裕樹の温もりだけがあれば私は満足。

 こんな気持ちになるなんて。

 嬉しいな…)

セックス依存症に陥っていた薫は裕樹と出会う前、相手は誰でも良く、毎日のように男の肌を感じていなくてはいられないという地獄のような日々に苦しんでいた。

それが、裕樹と出会い状況が一転し、裕樹と男女の関係は持つが、それで満足するようになりそれと同時に裕樹以外の男性と関係を持つことは想像できないくらい落ち着いていた。

そして、男の肌のぬくもりを常に感じていないと自分の存在価値がなくなるような強迫観念も裕樹といることで薄れていた。

(そう。

 いつでも、裕樹がいてくれる。

 こんな私でも裕樹は喜んで手を広げて、迎え入れてくれる)

そう思うと薫は目の奥が熱くなるのを感じた。


「さあ、シャワーを浴びて、ケーキでも食べよう」

「うん。

 じゃあ、待っているから」

「わかった」

裕樹がバスルームに入って行くのを見送った薫はベッドの上で気持ちよさそうに伸びをする。

それから嬉しそうにベッドの上をゴロゴロと転がる。

最初の頃は、自分の姿を盗撮されているのではと、部屋をチェックしていたが、今では裕樹に全幅の信頼を置いているのか気にもしなくなっていた。

一方、バスルームに入った裕樹はいろいろと薫のものが増えてきているのを目にする。

シャンプー、リンスはもちろんのこと、洗顔用石鹸やクリーム、歯磨き、歯ブラシやコップなど所狭しと並び始めていた。

「泊まらないのに、なんで歯磨きセットなんておくの?」

一度裕樹が尋ねたことがあった

「だって、ケーキ食べたりした後、放っておいたら虫歯になっちゃうでしょ」

薫は笑って答えた。

それだけが目的なのかは裕樹にはわからないが、薫は身だしなみもしっかりしていて、いろいろなエチケットにも気を配る女の子だった。

そして、裕樹には薫の物が増えると、なんだかあちらこちらが明るくなるようで気に入っていた。


裕樹と入れ替わりに薫がシャワーを浴びる。

「薫ちゃんは、今日はコーヒーで良いのかな?」

「うん。

 今日はその気分」

裕樹はコーヒーをドリップし、自分のカップと薫専用のカップに入れて目の前に置く。

「あと砂糖とクリームだね」

「うん!」

薫は笑顔で頷く。

「それとケーキ。

 レアチーズとレモンパイ。

 どっちがいい?」

ケーキの箱をテーブルに置くと、薫は「どれどれ」と覗き込む。

「どっちも美味しそう」

「じゃあ」

「うん。

 いつものように“半分こ”ね」

「了解」

以前は飲み物や食べ物も警戒していた薫だったが、今は裕樹の出すものなら安心して口にするようになっていた。


「あ~あ、明日から期末テストの準備をしなくっちゃ。」

ケーキを食べ終ると、薫はため息をつく。

「そうか。

 7月入ったらすぐだっけ」

「うん。

 また、2週間くらい会いに来れないな。

 つまんな~い。

 裕樹も私に会えなくてつまらないでしょ?」

「え?

 あ、ああ」

「なによ。

 その仕方なさそうな返事は。

 私、いない方がいい?」

一瞬、薫の目が真剣な光を帯びる。

「いや。

 そんなことない。」

「本当?」

「ああ、本当だとも」

それを聞いて薫は『私はここに居ていいんだ』と甘えたような笑顔を見せる。

裕樹にとっても、薫の存在は自分の中の大事なものになっていた。

どちらかというと押しかけてきたのと、上から目線的な生意気なところがあったが、それとは裏腹に、裕樹に甘え、また尽くすところがあり、裕樹にも薫は子猫のように可愛らしく、心地よい存在になっていた


「ねえ、裕樹。

 小説の方は進んでいるの?」

「ああ。

 読んでみる?」

「うん、読んでみたい。

 あ、でも、テストが終わってからにする。」

いつもは裕樹の小説を読むのを楽しみにしているが、今日は明日からのテスト準備でしばらく会えなくなるので裕樹に甘えていたかった。

「そうだ。

 ねえ、テストが終わったら動物園に連れて行って」

「へ?

 動物園?

 いいけど、夏は暑いよ?」

「いいの。

 動物園が好きなの」

「パンダか?」

「パンダなんて、この付近の動物園にはいないじゃない」

「じゃあ、ライオンとか虎とか?」

「ううん、外れ~。

 私、カバが好きなの」

「ヒポポタマス?」

「あ、あの難しい英単語は、そう発音するんだ。

 さすが、小説を書くだけあるわね」

「いや、それほどでも。

 でも、なんでカバなの?」

「え~、可愛いじゃない。

 あのずんぐりむっくりした体と大きな口。

 つぶらな瞳で可愛いよ」

「ふーん」

(女の子の好みは、わからん。

 カバが好きってことは、俺もカバに似ているのかな。

 でも、ヒポポタマスって面白い響きだよな。

 小説に使ってみるかな)

「ね~ぇ、良いでしょ。

 連れて行ってぇ」

「はいはい、わかりました。」

小説のヒントになるかと思い裕樹は快諾する。

「やった~!!

 絶対よ」

「ああ、わかった。

 それより、これからどうする?

 何か食べに行こうか?」

「うん。

 駅前のファミレスがいい。

 今、カレーフェアやっているから」

「いいね。

 行こう」


それから二人は駅前のファミレスに行く。

薫はその道中もずっと裕樹の腕を掴んだまま、楽しそうに歩く。

そしてファミレスでもカレーを食べながら、なんだかんだと二人は会話を楽しんでいたが、一瞬、薫の顔が強張ったことがあった。

「あの若手俳優の加平って子、離婚したんだって?」

「えー、そうなの?

 つい最近、そうそう去年の年末だか、年明けに出来ちゃった婚をした俳優でしょ。

 相手は確かアイドルグループにいた子でしょ」

「そうなの。

 手を出して、子どもを作って、なんでも浮気がばれたみたいで、即離婚だって」

「まあ、たしかにその加平って俳優、良い噂ないもんね。

 ところでさぁ…」

近くの席で女性通しが話している会話を聞いて、薫の顔が見る見る強張っていく。

「薫ちゃん、どうしたの?」

「え?

 ううん、なんでもない

 …

 ち、違う…

 なんでもなく…ない」

「え?」

「お願い」

薫は体を乗り出し、裕樹は薫が小声で話したいことがあるのだろうと察し、同じように体を乗り出す。

「あの…あの発作が…

 お願い…

 アパートに連れて帰って…そして…して…」

「発作?

 あれか?」

苦悶の表情で薫は頷く。

「わかった」

ただならぬ薫の気配を感じ、裕樹は薫を抱えるようにしてアパートに連れて帰る。


ベッドの中で薫は裕樹が今まで見たことのなかったほどの被虐的で、裕樹はつい自分が薫を責めていると錯覚し、暴力的な欲望が裕樹を誘惑する。

(だめだ。

 俺は何を考えているんだ

 相手は女の子だ。

 しかも中学生だぞ)

裕樹が心の中での葛藤を続けていると、いきなり薫の様子が変わってきているのを感じ、薫の顔を見る。

薫の顔は裕樹が見たことも想像したこともないほど悲しそうで、目尻から涙が零れていた。

「薫ちゃん…」

ことが済むと薫は裕樹を押しのけ、ベッドから出て行こうとする。

その手を裕樹が掴む。

「薫ちゃん」

「見たでしょ、私の本性を。

 ああやって、いろいろな男とやってたのよ。

 嫌になったでしょ?

 それとも裕樹も他の男のように、()()()の私の方がいい?」

声を荒げ、憤怒の形相を見せる薫の腕をグイっと自分の方に引き寄せると、勢いなのかそれとも薫自らなのか、そのまま裕樹の腕の中に飛び込む。


その薫を裕樹はしっかりと抱きしめる。

「な、なに…」

「薫は薫だ。

 どっちの薫でも俺は薫ならばいい。

 傍にいてくれればいい。

 いや、傍にいてほしい」

「裕樹?」

裕樹の胸に顔を埋めていた薫は顔を上げ、裕樹の顔を見上げる。

「裕樹は、私のこと嫌じゃないの?」

「ああ」

「本当に嫌じゃないの?

 私のことを聞いて、そして見て」

「ああ」

「私、傍にいていいの?」

「傍にいてくれ」

「本当に?」

「本当だ」

「私…」

「薫は綺麗だし、可愛い」

「本当?

 汚れていない?

 綺麗?」

「薫」

裕樹は唇で薫の唇を塞ぐ。

そして、薫の首筋に顔を埋める。

「あ…」

裕樹には見えなかったが、薫は至福な顔をする。

(裕樹は私の全てを受け入れてくれる。

 私のことを綺麗だと言ってくれる。

 可愛いと言ってくれる。

 裕樹なら信じられる。

 それに裕樹は私の躰が目当てじゃない)


「薫ちゃん」

「ん?」

「もう一度、いいかな?」

「へ?」

「いや…

 明日からしばらく会えないかと思うと。

 怒ったりしないから、だめならだめと言ってくれ。

 薫ちゃんが大事だから」

「裕樹…」

(裕樹は、躰も目当てか…

 でも、それはそれで嬉しいかな)

薫の心は温かい思いで満ち溢れた気分になり、小さく頷く。

それから二人はお互いを優しく、時に激しく求め合う。

薫は温かく気持ちいい夢の中にいるようだった。

それから『帰りたくない』『裕樹のところに泊まる』と、駄々をこねる薫を宥め透かし、薫の家がある最寄りの駅まで送っていく。

駅には母親が車で迎えに来るということでホームまで。

裕樹がアパートに帰り着く頃は夜中に近かった。


帰ると早々に薫からLINEが届いていた。

『遅く帰って母親に渋い顔をされた』、『期末テストが終わったら動物園に連れて行くこと』が中心で最後に『会えない間、他の女性と遊んでもいいけど自分のことを忘れないで』とあった。

裕樹は“ふふん”と鼻で笑い、最後の文面に対し『バカ』と書いて返信すると直ぐに返信があった。

『遊んだら今までの借金を取り立ててやる』

その記載で、裕樹は薫が元に戻った気がした。

『遊ぶなんて、滅相もない。

お代官様、それは許してけれー。』

『有無。

 ならば考えておいてやろう』

『へへーい』

そんなやり取りが数回続き、最後に『おやすみ』で終わる。

結局、発作のこととか一切触れていなかった。

裕樹は、薫の気の強いところ、切り替えの早さが好きだった。


シャワーを浴び、コンビニで買ってきた缶チューハイを開ける。

なにか落ち着かない激動の日だった気がした。

原因は、薫の変貌で思い当たる節が一つだけあった。

(そう言えば、ファミレスでいきなり変わったんだよな。

 …

 そうだ、近くの席の2人連れが何かを離していた時。

 誰か、若手俳優が離婚したっていった時だ)

裕樹はノートパソコンを開き、ネット検索をする。

(あった。

 これだ。

 加平永治、若手俳優、28歳?

 28歳で若手かぁ)

加平と書かれた写真を見ると癖が強く、擦れたような顔つきの男で裕樹は交換を持てなかった。

(今年1月に元アイドルグループの敦美(22歳)と入籍。

 同月敦美が加平の子供を出産。

 典型的な出来ちゃった婚か。

 で、6月離婚。

 原因は加平の女癖の悪さかぁ…

 まさか、薫ちゃんに暴行を加えた奴はこいつか。

 そうだ、確か出来ちゃった婚してそれっきりと言っていたな。

 でも、ビデオや写真はこいつが持っているって。

 大丈夫かな…)

裕樹は、薫の見せた悲しい顔を思い出していた。


一方、薫は寝付けずにいた

(あいつが離婚した。

 自由になったということ?

 きっと、また私にちょっかいだしてくるに決まっている。

 ビデオも写真もあいつのところにあるし)

薫はギリギリと音がするほど奥歯を噛みしめる。

(言えない。

 裕樹には絶対に言えない。

 巻き込んではダメ。

 裕樹は私の唯一の存在。

 安心できる場所。

 自分が自分でいられる場所。

 絶対に守らなくっちゃ。

 例え、あいつと刺し違えても)

残忍な加平の笑い顔、受けた仕打ちを思い出し、薫の目には覚悟の色が浮かんでいた。


薫や裕樹の心配を他所に静かな日々が流れて行く。

薫の学校は中学高校大学と一貫教育だが学業の成績には厳しく、ある程度の点数を取っていないと上がれなく、また、大学に上がるのはかなり難しく中学の時から良い点数を取っていないと外部の大学を受験することになるほどだった。

薫ももう少し順位を上げておかないと大学へストレート進学は厳しい状況だった

薫は裕樹と動物園に行くことを楽しみに今まで以上にテスト勉強に集中していた。

そして何事もなく期末テストが始まる。

その頃になると薫は加平のことを忘れていた。

そして、最終日の前日、それは突然やって来る。

LINEの着信音が鳴り、薫は裕樹からかと思いいそいそとスマフォを取り出す。

(まだ、明日もテストなんですよ。

もしかして、寂しくなったのかしら…)

そしてLINEの送り主を見て顔を歪める。

(加平…)

そのLINEの送り主は、もっとも会いたくない男、加平からだった。

内容は『明日、14:00に綾部グランドホテルの1階ロビーで待つ。ビデオはまだ俺の手にある。』というものだった。

“ビデオはまだ自分の手にある”と言うことは、ビデオを流されたくなかったら誰にも言わずに一人で来いということと、目的な何かを暗黙に語っていた。

また、薫の学校の行事のことを知っているのか、試験が終わって真っ直ぐホテルに来れば丁度の時間を指定してきたということは薫に考える時間を与えないという用意周到なものだった。

(本当、こういうことは相変わらず細かい人だこと)

薫は、ビデオが加平の手にあるということ、加平の性格上、それは嘘ではないこと、そして、言うことを守らなければ本当にネットで流されるだろうと思い、従わなくてはとあきらめていた。

(また、あの時だけ我慢すればいいだけ。

 そのうちきっと飽きられて捨てられるから…)

自分に言い聞かす。

(でも、いろいろなことをさせられるのも、いろいろな人の相手をさせられるのはやっぱり嫌。

 ならばいっそう)

思い詰め、ペーパーナイフをこっそりとバックに入れる。

(裕樹…

 裕樹、やっぱり嫌。

 裕樹、助けて)

薫はベッドの体を投げ出すと、声を殺して泣き出す。

延々と。


翌日、14時に綾部グランドホテルの1階ロビーに薫の姿があった。

「よう、薫。

 久々だな。

 ますます綺麗になったな」

加平が薫に声をかける。

その顔は制服姿の薫を見て嫌らしいぐらいにニヤニヤしていた。

(く、く、く。

 やっぱり10代のガキがいいや。

 言うことをよく聞くし。

 それに薫の制服姿はやっぱりいいなぁ。

 いたぶり甲斐もあるし、嫌がる顔なんか最高だしな)

加平はいかつい体つき、ぼさぼさ頭で髭を生やしていた。

特にハンサムというわけではないが、女性に対して小まめで、また、仕草が母性本能を擽るのか女優との噂が絶えないプレイボーイだった。

その裏では、年端も行かぬ少女に異常な執着があり、薫以外にも暴力と脅迫で押さえつけ弄んでいる少女モデルが数名いた。


「そこ、ケーキバイキングやっているんだ。

 昼食べていないんだろう?

 ケーキご馳走してやるよ。

 行こうぜ」

そう言って半ば強引に薫をバイキングをやっているレストランに連れて行く。

「おい、もっと楽しそうにしろよ。

 周りに変な目で見られるだろう」

「はい…」

薫は愛想笑いをするが、心の中は空虚だった。

加平としては、中の良い兄妹を装うことで周りの目をごまかそうというのが目的だった。

そのため、こまめに楽しそうに薫に話しかけ、薫も楽しそうに笑っているふりをしていた。

「あ、薫。

 ちょっと、コーヒーのお代わりを持って来てくれるか」

唐突に加平が薫に話しかける。

ケーキバイキングの他、セルフサービスで飲み物も飲み放題だった。

「…」

頷くと薫はコーヒーを取りに立ち上がりバーにコーヒーを取りに行く。

その間中、何度も加平の方を振り返り、自分の飲みものに何か入れられていないかを確認していたが、加平の方が一枚も二枚も上手だった。


「さて、そろそろ部屋に行くか」

加平はニヤリと笑って薫を促す。

薫は、ケーキやジュースを飲んでも体に変調を来さなかったので少し安心するとともに、覚悟を決めていた。

「さてと」

加平と薫は407号室と書かれた部屋に入って行く。

部屋はダブルで大きなダブルベッドが置かれていた。

ホテル自体は高級なホテルだったので、部屋もそれなりに広く綺麗だった。

しかし、薫は部屋に入ると壁を背に、加平を睨んだままバッグに手を入れる。

「ん?

 薫、どうしたのかな?

 怖い顔をして。」

「加平…」

加平の名を読んだ途端、薫は目眩と脱力感に襲われ、鞄を落とすと、その手にはペーパーナイフが握られていた。


「なにか…飲ませた…」

ふらつく自分の体を支えようと手からペーパーナイフを取り落とす。

「ひゃ、ひゃ、ひゃ。

 お前の顔を見れば、何がしたいのか、全てお見通しだよ。

 さっき、遅効性のしびれ薬を飲ませたんだよ。

 気が付かなかっただろう?

 うひゃ、ひゃ、ひゃ」

「加平…」

立っているのがやっとの薫に加平は近付くと、むんずと薫の髪の毛を掴み、そのままベッドに引きずるように連れて行くと、ベッドの上に薫を突き飛ばす。

そして、薫の上に馬乗りになると、2,3回平手で薫の頬を叩く。

薫は悔しさと怒りの目で加平を睨み付ける。

「くぅ~!!

 そうそう、その顔。

 その眼。

 それが、絶望で歪んでいくのが、苦痛で歪んでいく顔を見るのが楽しみなんだよな。

 さあ、時間はたっぷりある。

 楽しませてもらおう。」

加平の両手は薫の胸を制服の上から掴み、揉む。

「いいねぇ。

 この感触。

 やっぱり薫はいいわ。

 あの女、生意気にも俺に噛みついてきやがって」


加平が言っているのは、この前まで妻だったアイドルのことで、ただでさえ結婚など、また子供など作る気のなかった加平にとっては、結婚生活はつまらず、苦痛の日々だった。

さらに追い打ちをかけたのは、加平の趣味の少女ポルノの写真を見られ、それを(なじ)られたことだった。

そして、女の方から愛想をつかされ離婚。

加平としては自分の一番好きなことを詰られた悔しさが、尚更、薫に対する虐待と言う行為に向けられていた。

「そうそう。

 また、新しいビデオを撮らなくっちゃな」

加平はベッドから降りビデオを撮りだすとテーブルの上に置き、向きを調整する。

それが済むと、また、体に自由が利かなくなった薫が横たわっているベッドに乗る

「うーん。

 柔らかいし、いい匂いがする」

加平は薫の胸に顔を埋め、こすりつける。

(く、悔しい…

 所詮、私はこの男から逃げられないのかな…

 悔しい…

 裕樹…

 裕樹、助けて…)

自由の利かなくなった体を加平に弄ばれながら、薫は涙を流した。


近年、薬が絡む犯罪が多い気がします。

特にネットなどで合法、非合法化変わらずいろいろな薬が手に入ることと思います。

しかし、薬はご存知の通り大変危険なものです。

筋弛緩剤は量を間違えたりすると死に至ります。

なにせ、心臓などは筋肉の塊なので、それを弛緩するということは心臓の働きを妨げるということです。

薬は、きちんと医師と相談し、自分だけで使用するようにしましょう。


薫は裕樹を巻き込みたくなく、単独で加平と対峙しようとして返り討ちにあってしまいます。

このまま、加平の毒牙に屈してしまうのか。

体の自由が利かない中、悲痛な叫びが心の中に木霊します。


次回は続きで、「Kの巻(その四②)」です。

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