Aの巻(その四②)
痴漢に襲われ、寸でのところで翔太に助けられた葵。
その夜、1人になった時、言いようのない恐怖に襲われ、翔太に助けを求め、翔太は葵を自分のマンションに一晩泊まらせ、葵を安心させる。
葵は翔太の優しい腕の中で、恐怖を乗り越えていく。
そして、その後、葵に新しい制服をプレゼントする翔太。
喜んだ葵は、翔太の腕の中に飛び込んでいく。
見知らぬ気味の悪い男に腕を掴まれ葵は薄暗い建物の中に連れて行かれる。
(いや。
助けて)
恐怖で抗うことが出来ず、葵は男に引きずられるように奥に入って行く。
奥の部屋に連れ込まれると、床に体操で使うマットのようなものが引かれていて、葵はその上に突き飛ばされる。
(痛い)
男はうつ伏せになっている葵の片手を引っ張り仰向けにすると、片手で葵の胸を掴み、片手をスカートの中に荒々しく差し込む。
(い、いや。
助けて。
助けて、翔太さん!!)
声にならない声で必死に助けを求める葵。
その時男の後ろから一番聞きたかった翔太の声がする。
「てめえ、俺の大事なXXXに何やっていやがるんだ!!」
翔太の蹴りが稲妻のように光り、男をかき消す。
「葵ちゃん。
もう大丈夫だから。
何かあったら俺が守ってあげるから、安心して。」
葵がぼんやりと目を開けると、ふかふかのベッドの上で温かな布団にくるまれている自分に気が付く。
そして、頭を撫でる手の感触。
常夜灯の仄かな灯りに照らされ、優しい笑顔を見せる翔太がいる。
(翔太さん…
私を守ってくれた。
何かあったら私を守ってくれるって言ってくれた
もう、怖くない。
翔太さんがいつでも守ってくれる)
夢の中の翔太の台詞と現実が混同しながらも、葵は恐れが消え安心すると、瞼が重たくなってくる。
(翔太さん。
なんて言ったんだろう。
私のことを『俺の大事な…』。
なんだ…っけ…)
頭を撫でる翔太の掌の温かさに、葵は気持ちよくなり、安心してぐっすりと眠りに落ちて行く。
次の日の朝、葵は翔太のベッドの中で目を覚ました。
(うーん、良く寝ちゃった。
翔太さんのベッドって気持ちいい)
葵は気持ちよさそうに伸びをすると、時計を見る。
時計は朝の10時を指していた。
(きゃあ、もう10時じゃない。
翔太さんに呆れられちゃう!)
葵は急いでベッドから出て、着替えてリビングに行くと、翔太はすでに着替えを済ませてコーヒーを飲んでいた。
「翔太さん、おはようございます」
「おう、おはよう」
返事をする翔太はどこから見ても眠そうだった。
「翔太さん、眠そう…。
もしかして、ソファで横になって、眠れなかったんじゃないですか?」
「いや、そんなことはない」
結局、夜中に葵が寝ぼけて翔太の寝ていたソファに転がり込み、翔太は葵の体の柔らかさやいい香りに刺激される煩悩と闘いながら明け方まで眠ることはできなかった。
そして、明け方近くに、葵を抱き上げベッドに寝かせ付け、それから一寝入りしようとしたが、葵がうなされ、結局明るくなってくる頃まで傍にいて、それから一寝入りしようとリビングに戻ってきたが毛布に着いた葵の残り香が気になり、結局寝られなかったのであった。
(俺としたことが、こんな小娘ごときで平常心になれずに何をやっているんだろう…)
自問自答する翔太だった。
(でも、元気そうだな。
昨日、あれだけ怖い経験をしたから心配していたが、大丈夫そうだな)
葵の元気そうな姿にほっとする。
「そうだ。
葵ちゃん、今日の予定は?
何か予定ある?」
「え?
予定ですか?
とくには」
「じゃあ、午後になったら付き合って。
一緒に行きたいところがあるから」
「いいですけど。
どこに行くんですか?」
「ん?
買い物。
買い物に付き合って」
「は、はい…」
葵は翔太が食料品かゲームでも買いに行くのに付き合えと言っているのかと思った。
「え?
ここ…」
遅い朝食をとったあと、午後一番に二人は駅近くの洋服屋に出かける。
その洋服屋は葵が通う中学の学生服を扱っている店だった。
「あ、店長。
本人を連れてきましたよ」
「え?」
自分の事なのかと、葵は躊躇する。
「ああ、いらっしゃい。
この娘だね。
学生服を新調したいっていう子は」
「学生服?
新調?
翔太さん、いったい?」
葵はいきなりなことで何のことだか理解できなかった。
「ん?
いや、ボーナスが近いし葵ちゃんに学生服をプレゼントしようと思ってさ。
昨日、ここの店長と話していたら、たまたまメーカーに在庫があるっていうんで本人を連れて来て採寸をして大丈夫かどうか見てくれるって約束していたんだ」
「背格好は、お客さんから聞いていたのであとは簡単な直しだけで済むので早く出来ます。」
「早くって?」
「ええ。
今日明日とメーカーは休みなので取り寄せは月曜日になりますが、昨日、話はしておいたのですぐ取り寄せはできると思います。
それから直しをして、そうですね、水曜日の夕方渡しでいかがでしょうか」
「そうだ、葵ちゃん。
昨日、ほら、スカート破けちゃったじゃない。
どうするんだっけ?」
「え?
ええ。
取りあえず直しに出して、それまでは体操服の下を履いて行こうかと思っていました」
「そっか。
水曜日まで待てるかな?」
「それは大丈夫ですが、そんなことよりなんで?
なんで、制服を新調してくれるんですか?」
「勉強頑張っているじゃないか。
学年上位に入ったお祝い。
それといつも僕と付き合ってくれるから」
「そ、そんな。
たかだか、そんなことで?」
「いいじゃないか。
3年生もあと1年もないけど、せめてお古じゃなく葵ちゃんだけの制服を着てもらおうと思って」
「だ、だって、そんなの悪すぎます」
「いいから、いいから、遠慮しないの」
「遠慮しますよ。
制服って高いんだから」
「知っているよ
でも、大丈夫。
そのくらい、屁でもないって」
「だって」
「いいから、ごちゃごちゃ言わんで、遠慮なく受け取って」
「いいえ。
そ、そうだ。
お姉ちゃんに聞いてみます」
どうしたらいいか判断できなくなった葵は茜に電話を掛ける。
しばらく話し合った後、電話を切って葵は神妙な面持ちで口を開く。
「本当に、いいんですか?」
「ああ、遠慮しないで受け取って」
「本当に?」
「ああ」
「う、嬉しい」
葵はいつしか涙声になっていた。
「お姉ちゃんのこと大好きだから、お下がりでも別にいいと思っていたの。
でも、心の中では、新しい制服に憧れていたんです」
そういうと葵は俯いて、涙をぼろぼろとこぼし始める。
「葵ちゃん…」
「嬉しいな。
翔太さん、翔太さんは何でそんなに優しいんですか?」
「え?」
(そう言われれば、なんでだろう…)
考え込んでいる翔太を見て、葵は吹き出す。
「もう。
なんでそうなの?
おかしな翔太さん」
目を真っ赤に腫らしながら葵は茜との会話を思い出しながら笑い出す。
茜との会話。
「いいわよ。
くれるっていうものは、もらっちゃいなさい」
「お、お姉ちゃん」
「私もずっと気にしていたのよ。
いくら私のお下がりでいいと言っても、卒業の時くらい、自分のためにあつらえた制服を着て卒業しなくっちゃ。
それにあのスカート、ボロボロ過ぎて修理は難しいみたいだし」
「でも、お姉ちゃん。
翔太さんは…」
「ん?
葵は翔太さんのことが好きなんでしょ?」
「うん」
「あ、単なる好きっていう意味じゃないよ。
男女関係として好きかっていうこと」
「うん。
好きよ」
「ならば、翔太さんも、葵に気があるんじゃないの?
昨日の夜は何もなかったんでしょ?」
「え?」
「躰を迫られたかってこと」
「か、躰?
ううん。
そんなこと一切なかった」
「じゃあ、尚更ね。
本気だから優しく、大事に思ってくれていると思うよ」
「だって、聞いたらわからないって」
「聞いたの?」
「うん」
「ま、そういう“にぶちん”の奴もいるか…」
「え?」
「いいから。
今は翔太さんの好意に甘えちゃいなさい。
あとでなんだかんだ言われたら、私がお金を突っ返してあげるから大丈夫よ」
「お姉ちゃん…」
「今は何とも言えないけど、翔太さんは信じてもいいんじゃない?
受け取っておきなさいね」
「わかった。
そうする。
ありがとう、お姉ちゃん」
『信じていい』と茜に言われ、葵は余計に翔太に甘えるようになる。
そして、制服が出来上がる日。
前の日に早く出来上がったので昼以降なら何時でも取りに来ていいと連絡を受け、葵は授業が終わると真っ先に洋服屋に駆け込み試着をして最終確認をすると、真新しい制服を持って翔太のマンションに駆け付ける。
「制服、出来たの?」
「はい。
着替えますね」
「え?
見せてくれるの?」
「何を言っているんです。
当然です。
ちょっと待っていてくださいね。」
葵は、どこで着替えようかと部屋の中を見回す。
「あ、着替えなら、あっちの部屋を使ってな」
「はーい」
葵は翔太のベッドのある部屋で制服に着替え始める。
制服と一緒に買った真っ白なブラウスも袋から出し、袖を通す。
着替えが終ると何だか新鮮な気分になり嬉しさが込み上げて来てどうしようもなかった。
「どうですか?
似合いますか?」
部屋から出てきた葵は真新しい制服姿を翔太に見せる。
「す、すげぇ…」
たかが中学生の制服姿と高を括っていた翔太は、中学3年になり15歳を過ぎ、女性としても丸みを帯びてきた葵に何とも言えない色気を感じ胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
「似合っていますか?」
「あ、ああ。
凄く可愛い。
最高だよ」
「えへへへ」
葵は翔太の反応を見て満足げにほほ笑む。
「そうだ。
お姉ちゃんにも見せてあげなくっちゃ。
翔太さん、お願い。
写真撮って」
「おお、いいとも。」
翔太は葵に渡してあるスマートフォンで何枚か葵の全身のショットを撮る。
ついでに自分のスマートフォンでも撮ることを忘れずに何枚か撮っていた。
「さあ、汚したらいけないから、着替えてご飯を食べよう。」
「はーい。
あ、そうだ、そうだと」
葵は独り言のように言うと、玄関の壁に付いている姿見のところに行って、まじまじと自分の制服姿をいろいろなポーズをとって見ていた。
そして急に静かになる。
「?」
どうしたのかと翔太が近づくと葵は目に涙をため、笑顔で翔太に抱き着いて来る。
「嬉しい。
こんなに新しい制服がうれしいなんて思ってもみなかった。
翔太さん、ありがとう。
私、翔太さんが大好きです」
そう言って葵は翔太を見上げるようにして眼を閉じる。
翔太は、不意打ちのように葵に抱き着かれ、葵の柔らかな体の感触と、葵から湧き上がる良い香りを吸い込み、そして目の前に可愛い葵の顔が、可愛らしい唇が迫り、一気に煩悩が理性を押しのけ暴走する。
「葵ちゃん…」
葵を抱きしめる。
葵の体は思った以上に華奢で、力を込めると壊れるのではないかと思うほどだった。
そして、優しく唇を重ねる。
「葵ちゃん、いいの?」
「うん。
翔太さんならいいです」
葵は翔太が言っていることを理解しているように、恥ずかしそうに頷いて見せる。
「きゃ」
翔太は葵の膝に手を回すとそのまま抱き上げ、ベッドのある部屋に葵を運んで行き、ベッドの上に優しく下す。
「制服が皺になっちゃうから」
そう言って、翔太は葵の制服を脱がせハンガーにかける。
その間下着になった葵はベッドの上で毛布を体にかけて、じっと翔太を見つめている。
(翔太さん。
優しいなぁ。
私の制服、ちゃんと扱ってくれる。
大好き)
翔太も下着だけになると、葵は翔太を招き入れるように毛布を広げ、翔太はそのまま葵に覆いかぶさる。
葵の体を直接触れるのは初めてだった。
そして、女性の肌に触るのは久しぶりだった翔太はその柔らかさ、温かさ、何もかもが初めてのように新鮮で、我を忘れて夢中になる。
男女間の経験が豊富な翔太が本気を出すと、経験のない葵はあっという間に今まで知らなかった世界で夢の中を彷徨う。
そして…
「痛いっ!!」
「え?」
「痛い~!!」
葵の声が部屋中に響き渡り、翔太はベッドの上で飛びあがる。
(やばい!
初めてだったか。
そうだよな、普通に考えてもわかるわ)
「葵ちゃん、大丈夫」
「ううう…」
葵は顔を横に向けて辛そうに唸る。
「ごめん。
痛かった?
もう、しないから」
スンスンと鼻をすする葵。
翔太から見て葵の顔は見えなかったが、泣いているのは確実だった。
(困ったなぁ。
どうしようか…
完全に勢いだよな。
まさか中学生の子供相手にやらかすとは、我ながら情けない。
でも、途中?
あれ、どこまで入った?
まあ、いい。
そんなことより、訴えられたらどうしよう。
素直に謝るしかないよな…)
5分程、スンスンと鼻をすすり翔太に背中を向けて横になっている葵を見ながら、翔太は「ごめんね」と言いながら背中を撫で、考えあぐねていた。
そしてゆっくり葵は裕樹の方に体を向け、翔太の顔を見る。
(やべー!
やっぱり怒っているよ)
葵の目はきつく、怒っているようだった。
「ごめん、葵ちゃん。
すごく痛かった?
葵ちゃんが初めてだったというのを忘れて、つい本気で。
ごめんよ」
毛布から目だけを出すようにして、葵は首を左右に振る。
「ううん。
私こそごめんなさい。
その…翔太さん…最後まで終わって…」
「い、いや、そんなことどうでもいいんだ。
葵ちゃんの体の方が大事だよ」
(お、怒っていない?
そうだ、この子の目、もともときつかったんだ…)
「だいぶ痛いのも治まって来たので、続きしても構わないです。
今度は痛くても我慢しますから」
葵の一言に翔太は胸がきゅんとなった。
「いや、今日はやめておこう。
痛いのに無理することはないよ。
今度、そうだな、もっと葵ちゃんが大人になって、葵ちゃんにその気があったら、あらためて、ね」
「本当に、いいんですか?」
葵はほっとしたような、また残念そうな複雑な表情を浮かべる。
「でも、大人になったらって、いくつ位ですか?」
「え?」
(うーん、二十歳以上といってはぐらかすか。
それがいい。
いつまで一緒にいるかわからんし、また、我を忘れて子供相手にふしだらな真似をするといかん。
やっぱり俺は成熟した女性の体がいい)
「翔太さん?」
考え込んでいる翔太を葵は怪訝そうな顔で見る。
「翔太さん。
大人って16歳以上のことをですか?」
「そうそう、16歳を超えればOKだよ。
ほら、16歳だと親の承諾があれば結婚できるっていうじゃないか。
だから一人前の大人だよ。
…」
(え?)
「わかりました。
1年後ですね。
じゃあ、その時に…」
さすがに恥ずかしそうになって、葵は語尾を濁らせた。
(ちょっと、ちょっと。
何を勝手に納得しているんだ?
誰が、16歳って言った?
俺だ…
たかだか1年で成熟した女性の体になるか?
ならんだろうに。
うわ!
葵ちゃん、嬉し恥ずかしそうな顔をしているし。
今から“ちゃう”なんて言ったら泣き出すか?
無理無理。
泣かすなんてできやしないよ。
おお、神様~!!)
「あの、翔太さん。
よかったら、洋服を着たいのですが…
その、翔太さんも服を着ませんか?」
葵の一言で翔太は自分がほぼ全裸なのを思い出し、近くにあった服で体を隠す。
「そ、そうだね。
そうだ、葵ちゃん。
シャワーを浴びる?」
「え?」
葵は少し考えてから首を横に振る。
「シャワーは家に帰ってから浴びます。
お気に入りのシャンプーや石鹸がウチなので」
「そうか。
わかった。」
「あの…
できれば、お願いが。
リビングに着替えの入った袋が置いてあるので、持って来てくれませんか。
それで、この部屋を着替えに貸してくださいますか?」
「ああ、もちろんだとも」
翔太はそのままリビングに行くとパンツを履き、葵の言っていたバッグを部屋に届けるとまたリビングに急いで戻り、洋服を着る。
しばらく待っても葵が部屋から出てこないので、心配になって様子を見に行く。
「葵ちゃん、着替え終わった」
ドアの外から声をかけると「はい」と葵の声が聞こえたので、部屋の中に入ると、着替え終わった葵がハンガーを通して掛けてある制服を嬉しそうに眺めていた。
「制服、嬉しい?」
「はい。
めっちゃ、嬉しいです。
明日からこれを着て学校に行けるなんて、夢のようです」
「そっか。
確かに、良く似合っていたし、可愛かったな」
「ほ、本当ですか?!」
葵は飛び上がるようにして、翔太の顔を見る。
「翔太さんが、そう言ってくれるだけで、もう十分です。
よかったぁ」
全身で喜びを表現している葵を見て、翔太は買ってよかったとほほ笑む。
「さ、じゃあ、皺にならないように制服を畳んでしまいましょう。
それとお腹が空いただろう?
今日は、制服のお祝いにお寿司にしよう」
「は、ほんとうですか?
私、この前ここで食べたお寿司、大好きです。
わーい」
最近では遠慮なしに素直に喜ぶようになったお葵を見るのが嬉しくもあり、楽しくもなっていた。
「翔太さん、私、さび抜きじゃなくて普通のがいい」
「え?
ワサビ入っていていいの?」
「はい。
だって、もう大人なんですもの」
お道化たように言う葵に一瞬ドキッとする。
(大人になったってか?
え?
まさか…)
それからは、二人はいつものように寿司が届くまでゲームで遊び。食事をしながら途切れることのない楽しい会話。
葵にも、翔太にもこの時間はかけがえのない時間になっていた。
ただ一つ変わったのは、帰りは翔太が車で送っていくことになったこと。
暗くなり一人で帰すのは心配だと翔太から言い出し、葵も痴漢に襲われたこともあり、申し訳なさそうにしながらも車で送ってもらうことにした。
葵のアパートの近くで車を止めると、葵はいきなり周りをきょろきょろと見回す。
そして誰もいないことを確認すると、助手席に座りななおし、小さな声でおねだりする様に言う。
「翔太さん。
キスして…」
「OK」
翔太は、葵の額にキスをする。
「そこじゃないの…」
葵はそういうと、指で自分の唇を触る。
「はいはい」
翔太は周りをさっと見渡し、誰もいないのを確認すると、そっと葵の唇にキスをする。
「ありがとうございます。
もう一つお願いがあるのですが」
「な、なに?」
何を言われるのだろうかと翔太は狼狽する。
「あの。
夏休みに入ったら、水族館に行きませんか?」
「水族館?」
「はい。
小学校の低学年の時に行ったきりで、また、行きたいなと思って」
「イルカのショーとか?」
葵は笑いながら首を横に振る。
「クラゲが見たいの」
「ゼリーフィッシュ?」
「はい。
ゼリーフィッシュです。
ふわふわ浮いて気持ち良さそうなの。
また、見に行きたいなと思って」
(大好きな人と見に行きたいと思っていたの)
「ふーん。
確かに一時ブームになって見に行きたいと思っていたな。
いいよ。
じゃあ、夏休に入ったらね」
「はい!!」
葵は満足そうに笑うと荷物を持って車外に下りてから、車中の翔太に向かって笑顔を向ける。
「今日はいろいろとありがとうございました。
少し残念なこともありましたが、記憶に残る日でした。
じゃあ、おやすみなさい」
「お、おやすみ」
(少し残念?)
「あ、帰り道、気を付けてくださいね」
「はいはい。
じゃ、じゃあ、またね」
(記憶に残る日だったって?)
「はい!」
葵は万遍の笑みを浮かべ、手を振って翔太の車が見えなくなるまで見送っていた。
翔太は車を走らせながら考える。
(水族館に連れていけだって?
可愛いなぁ。
じゃあ、今日のこと嫌じゃなかったっていうのか…
そう言えば、『キスをして』だってか?
やばい。
完全に懐かれた。
邪険にしたら…)
「わっ!
危ない!!」
車の前を何かが横切り、翔太は急ブレーキを踏む。
横切ったのは黒猫で、猫は翔太を見て笑って茂みに入って行ったように見えた。
翔太と別れてからシャワーを浴びて一息ついた葵。
「でも、いきなりあんなに痛いなんて…
お姉ちゃんも初めての時、痛かったのかな…。
そうだ、聞いてみよう!」
葵は茜に電話をする。
翔太もマンションに戻りシャワーを浴びてリビングでハイボールを飲みながらくつろいでいた。
(なんで、俺は中学生の制服にむらむらしたんだ?
確かに葵ちゃんは随分と可愛く、女っぽくなってきたようだけど、体つきは熟女に到底及ばないじゃないか。
なのに我を忘れて…。
でも、あんなに良い匂いのする女の子に出会ったことはないな…)
ハイボールを一気に、ぐびっと飲み込むとお代わりを作る。
(俺は葵ちゃんに惚れたのか?
馬鹿言うなよ、相手はまだ中学生だぞ。
変なことすると犯罪者になるじゃないか。
変なこと…
今日みたいなことをすると、やはり犯罪者か?
さすがに、誰にも言わないよな。
仲のいい友達はいないって言っていたし、まさか、お姉さんに言わないよな。
あの姉さん、何をするかわかったもんじゃないしな)
また、コップのハイボールを飲み干し、お代わりを作る。
(だけど、これからどうする?
あんなことして、しかも懐いているし、無下に扱ったら傷付くだろうな。
そんなの可哀想だし、せっかく、勉強も頑張っているしな。
あとは向こうから自然に離れて行ってくれるのを待つしかないな)
翔太は珍しくアルコールが回って来る。
ふとスマフォをみると、葵からLINEが入っている。
(なになに?
今日は楽しかったって?
制服、凄くうれしいって?
それはよかった。
また、明日遊びに来る?
どうぞ、どうぞ。
葵ちゃんなら、いつでも歓迎ですよーだ。
おやすみなさい?
はい、おやすみ。
かわいいなぁ~。
性格も良い子だし、明るいし、傍にいて楽しいし。
なんといってもいい匂いがするし。
いつまでも、傍にいてほしいな~
明日、遊びに来るのか。
楽しみだな。
さて、寝よう)
酔いが回り、ふらふらした足でベッドに潜り込む。
ベッドの中は、葵の残り香を感じとり、酔っていながらも思わず興奮する翔太だった。
後悔先に立たず。
成り行きでとうとう葵に手を出してしまった翔太。
未遂だろうが、なんだろうが、出したことには変わりがなく、自責の念に駆られる翔太。
でも、翔太の中で葵の存在は日増しに大きくなっていきます。
その後さらに翔太の心を揺さぶる大きな事件が。
と、その前に。
次回は「Kの巻(その四)」です。
薫に大きな危機が訪れます。
おまけ
前回といい、今回といい、投稿が夜中になってしまいました。
話しの内容がR15だから、気を回した?
いえいえ、単に昼間は良い天気に誘われるように用事をしていただけです(笑)。
それよりも、パソコンの調子が悪く、カーソル(マウスポインター)が暴走し、入力し辛くなっています。
画面左上付近にUFOのような円が2,3個現れ、カーソルがそこに持っていかれるし、タッチパッドも動作しなくなってしまいました。
かれこれ、この子(PC)を迎い入れてから、すでに7年以上。
片時も離さずに可愛がって使っていた子で、愛着があるのですが、さすがに買い替え時かなと頭を悩ましています。




