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AとK  作者: 東久保 亜鈴
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Kの巻(その三)

出会ってから1か月近く経ち、薫と裕樹の間は急接近してくる。

二人の間が近づけば近づくほど、薫の心は騒がしくなってくる。

そんなある日、薫から裕樹にLINEで「妊娠したかもしれない」というメッセージが届く。

裕樹の思わぬ行動で、薫の心は裕樹に大きく傾き、そして、薫の口から依存症の原因となった驚くべき事実が告げられる。

薫から体を離し、裕樹は薫の隣で仰向けに横になる。

ごそごそと、薫が裕樹ににじり寄り、裕樹の肩をそっと噛む。

「先にシャワーを浴びて来てね」

「ああ、そうする」

裕樹は上半身を起こすと、薫の額に優しくキスをしてベッドから出て、シャワーを浴びに行く。

その後ろ姿を見送り、裕樹がバスルームに入って行くのを見届けると、薫は小さく伸びをして笑みを浮かべる。

(気持ちいい。

 なんだろう、この満ち足りた感は。

 最近は、あの強迫観念みたいな男の肌がないとどうしようもなく不安になることが無くなったみたい)


最近では、週に1、2回、裕樹のところにやって来る。

ただ、裕樹の休みと薫の休みが合わないため、午後の数時間だけ。

それでも、薫はその時間が楽しみで待ち遠しくなるようになっていた。

以前だったら、毎日、男の肌に触れていないと、自分が自分でなくなるような恐怖に襲われ、精神的にも肉体的にも辛い日々だったが、裕樹に出会ってから、少しずつ変わって来きたのを最近、実感するようになっていた。


「薫ちゃん。

 シャワー、空いたよ」

少ししてバスルームから戻って来た裕樹が声を掛ける。

「はーい」

返事をした後、薫は手提げ袋から何かが入ったビニール袋を出す。

「?」

「これ?

 私のお気に入りのシャンプーとコンディショナー、それと、ボディソープよ。

 ここのバスルームに置かせてね」

「え?

 …

 ああ、いいよ」

整理整頓が趣味な裕樹は、一瞬、自分以外のものが置かれることに一瞬難色を示したが、薫の笑顔を見て頷く。

「えへへ。

 やったぁ」

鼻歌を歌うように、シャンプー等が入った袋と、服を持って薫はバスルームに入って行く。

(誰かが言っていたな。

 女の子は一回、OKすると、どんどんその子の持ち物が増えてくるって。

 でも、僕と薫の関係ってなんだろう。

 恋人同士でもなく、ただ単に薫の欲求のはけ口?

 いや、やめよう。

 変なことを考えるのは。

 取りあえず、今はどうでもいいじゃないか)


自分自身を納得させる裕樹、一方、薫はバスルームに入り、いつものように綺麗に整理整頓されているのに舌を巻く。

(本当に綺麗に整理整頓されていること。

 我家うちよりも綺麗かしら。

 でも、女性がいないからね。

 女性がいると小物から、化粧落とし洗顔ソープ、美容液とか、それにカール用のドライヤーとか物が増えるものね。)

そう思いながら、自分の持ってきたシャンプー、コンディショナー、ボディソープを上手に裕樹のシャンプー、リンスの隣に並べる。

バスルームの中が自分の好きな香りに包まれていくと自然と顔がほころぶ。


「ねえ、裕樹。

 裕樹は、ゴールデンウィーク、どうするの?」

シャワーを浴び、ほかほかした顔の薫が椅子に座る。

「特に、平日と変わらないよ。

 逆にいつもより、職員が少なくなり、利用者が増えるから忙しくなるよ。」

裕樹は冷蔵庫から、抹茶オレ、ミルクティ、カフェオレのペットボトルを取り出し、薫の前に並べる。

薫は躊躇せずに抹茶オレを取ると「ありがとう」と裕樹に言う。

「薫ちゃんは?」

「私は、お仕事。

 雑誌のモデルよ。

 なんかね、この中学3年という年齢って中途半端みたいで、高校生になるとSEVENTEENとかハイティーン向けの雑誌があるし、小中学生向けはNICORAとかあるけど、私どっちつかずの歳なので仕事が減っているんだって。」

「そんなもの?」

「そんなものらしいわ。

 今回もセンターじゃなくて、その他大勢の中の一人。

 以前は表紙まではいかなかったけど、私だけで大きく1ページ取っていたのに」

薫は自嘲気味に笑う。

「薫ちゃんは、モデルになりたかったんだ」

「え?」

薫はおもわず言葉を詰まらせる。

「?」

「え?

 いえ、私…」

(私、モデルになりたかった?

 気が付いたら写真を撮られて、雑誌に載ったりするのが当たり前だと思っていた。

 写真もトップページに載るものだと。

 他の子がトップページを飾り、悔しいと思うことはたくさんあった。

 でも、モデルをやりたいと心から思ったことはなかった。

 それにもモデルなんかやっていなければ、あんなことには…)


「薫ちゃん?」

「え?」

裕樹の声に薫は現実に戻る。

「どうしたの?」

「なんでもない。

 そ、そうよ。

 モデルになりたかった。

 私、可愛いでしょ?

 美人でしょ?

 トップモデルになって、雑誌の表紙を飾るの。

 それを見た人が、みんな、この表紙の子、可愛い、美人て言われるのが」

(私、何を言っているの?

 私の本心は、一体どっちなの?

 もう、訳わかんない)

「薫…」

裕樹の前で、薫は目から大粒の涙をこぼす。

「あ、なんだろう…

 今日は、もう帰るね」

薫は涙を手で拭い、慌てて帰り支度をすると話しかける裕樹を振り切るように外に出て行った。

(どうしたんだ?

 なんかまずいこと言ったかな?

 でも、モデルをやる子って競争心は強いだろうな。

 トップページや、1ページ独占したいんだろうな。

 確かに中3でハイティーンでもローティーンでもなく、年齢的にも精神的にも中途半端か。

 でも、それだけが問題じゃない気がする)

裕樹は、可愛さの中に何かが足りないと、それが何かを腕組みしながら考えていた。


数日後、薫からLINEが届く。

(え?

 一昨日、来たばかりじゃないか)

薫からのLINEはいつも決まって裕樹のところに来る前日に予定を連絡する内容だったが、その日は内容が違っていた。

その薫のLINEの内容は以下の通りだった。

『生理が来ないの。

 子供が出来たみたい。

 また、連絡する』

裕樹は頭から冷水を掛けられたように、さっと血が引く。

(な、なんだって?

 子供が出来た?

 …

 ちゃんと、コンドーさんを付けて避妊していたのに。

 でも、コンドーさんの避妊率は高く無いって雑誌に書いてあったよな。

 なんだっけ。

 そうだ、正しく装着しても80%だっけ。

 それに、つけ方が悪いと横から漏れたり、破けたり、穴が開いていたりで避妊率は高く無いって言っていたな。

 出会ってから、何回やったっけ?)

裕樹は指で数えてみる。

すでに、片手で折り返していた。

(ともかく、まずい。

 フリーターで、お金はないし。

 どうしよう)

裕樹は悶々としながら、薫にLINEを送る。

『状況をきちんと教えて。

 いつ会える?

 電話して良い?』

しかし、それ以降、薫から音沙汰なく、次にLINEがあったのは連休の後半だった。


ビービーとLINEの着信を裕樹に知らせる音が鳴る。

『あれからすぐに来た。

 ちょっと遅かっただけみたい。

 もう、大丈夫。

 明日、行くね』

連休中、ずっと悶々と考えていた裕樹は、内容を読んで、その場にへたり込みそうになるほど気が抜けた。

翌日、いつもと同じように薫が裕樹のアパートにやって来る。

「ちょっと。

 ちゃんと話を聞かせてくれ」

「いいから、いいから。

 先にね」

薫は甘えるように裕樹の腕を抱きしめ、上目使いで裕樹を見つめる。

その眼は潤んでいるようだった。

「寂しかったの。

 ね、先にお願い」

「…」

薫の甘え切った声に、裕樹は薫を抱きしめるようにベッドに倒れ込んでいく。


「ごめんね。

 驚かせちゃった?」

シャワーを浴び、着替えた薫は椅子に座って悪戯っぽい笑顔を見せる。

「いつもの抹茶オレでいい?」

裕樹は冷蔵庫を開け、中を覗き込んでいた。

「ううん。

 たまには、温かいのがいいな」

「え?

 うーん。

 コーヒーくらいしかないな。

 そうだ、抹茶オレをレンジで温めようか」

「うん。

 それでお願い。」

裕樹はコーヒーカップにペットボトルの抹茶オレを注ぐと、レンジで温め薫の前に運んでくる。

「僕のカップで、悪い。」

()()()

 でも、今度は、カップ持って来ようかな」

薫はにっこり笑うと、カップに口をつけ抹茶オレを美味しそうに口に含む。


テーブルの上にはフルーツがたくさん載った美味しそうなケーキが載っている。

「美味しそう」

「今日は、売れてしまったのかそれ以外美味しそうなケーキがなかったから同じ物にしたけど、良かった?」

「うん。

 大丈夫よ」

薫は躊躇せずにケーキにフォークを指し、一口食べる。

「ねえ、驚いた?」

「ああ、驚いたよ。」

「ごめんね。

 私、いつもきちんとした周期で、ずれるのってあまり経験なかったの。」

「そうか」

「ねえ。

 もし、本当に子どもが出来ていたら、どうしていた?」

「さあ、何も考えていなかった」

「そう…」

冷たい返事に薫は落胆したように裕樹から視線をずらし、部屋の中に目をやる。


部屋の中には薫の見たことのないものがあり、慌てて、部屋全体を見回す。

「ねえ。

 背広買ったの?

 求人案内の雑誌があるけど、就職するの?」

「え?

 いや…」

「?!

 まさか、子どものため?」

裕樹は小さく息を吐き頷く。

「そうだよ。

 子供が出来たら、フリーターじゃ金銭的にも困るだろ」

「え?

 ええ?

 ねえ、本気で思っているの?

 私、まだ中学3年よ。

 もうすぐ15歳だけど、まだ14歳よ。」

「わかっている。

 産むか産まないかは、薫の意思を尊重するけど、自分なりに精一杯責任を取ろうと思ってさ」

「堕せって言わないの?」

「薫の意思を尊重するっていったろ。

 産むならそれでいいし、堕すというならそれなりに責任はとるつもりだった」

「じゃあ、産むと言ったら?」

「僕も一緒に育てる」

「私の両親、怖いわよ」

裕樹は一瞬つばを飲み込む。

「それでも、許しをもらう」

薫はいつの間にか俯く。


「ねえ、自分の子じゃないと思わないの?

 私の病気のことを言ったでしょ。

 裕樹以外に何人もの男としているのよ。

 赤の他人の子供かも知れないって、考えなかったの?」

「そんなこと考えていなかった。

 考えても仕方ないことだし、それよりも、薫ちゃんが僕に連絡してくれたから、それを信じる。」

「他の人にも、同じLINEを送ったかも知れないわよ?」

「いるの?」

薫は首を左右に振り、顔を上げる。

その顔は涙と笑顔でくしゃくしゃだった。

「いるわけないじゃない。

 裕樹と出会ってからは裕樹だけよ。

 それで、裕樹は小説家の夢をあきらめて、正社員になろうと考えたの?」

「当たり前だ」

「…馬鹿」


しばらく沈黙が流れた後、唐突に薫が口を開く。

「中学2年に上がった時。

 ある男に、若手の俳優に犯されたの…」

「?!」

裕樹は驚いたが、声を出さずに、薫の話を聞く。

「その頃、私は結構雑誌の表紙を飾ったりして注目を浴びていたと思うの。

 まだ、何も知らない普通の中学生。

 その私に何かにつけ優しく声を掛けてきたの。

 話しは面白くて、いつしか、警戒心もなにも無くなっていた。

 そして、ある日、撮影の後、その人は待っていて美味しいものを食べに行こうって誘うってくれたの。

 マネージャーさんもその人ならと言ってくれたので、私は、その男の誘いに乗ったの」


薫の目はその頃を思い出すような遠い目をしていた。

「行ったのは、ホテルのケーキバイキング。

 楽しく食べて、飲み物を飲んでいたら急に目眩がして。

 思えば、その時に何か薬を混ぜられたのね。

 そして、気が付いたらホテルのベッドの上。

 体の自由の利かない私を、その人はニヤニヤ笑いながら強引に制服を脱がし丸裸にして…。

 横にはビデオカメラが置かれていた。

 その人は、私の体を舐め回し、そして無理やり…」

眉間に皺を寄せて語る薫の顔は憎悪に満ちていた。

「痛かった…。

 身体が裂けるのではと思うほど痛かった。

 痛がる私をあざ笑うように、涎を垂らしそうな嫌らしい顔をして、その人は痛がる私をいたぶるように激しく突き入れ、恍惚の顔をして私の中で…」

「…」


裕樹は無意識に眉間に皺を寄せ、怒りが心に宿る。

「その人は、私に『ビデオを撮っている。親や学校にばらされたくなかったら言うことを聞け』ってね。

 それから、地獄の日々が続いた。

 週に何度も呼び出され、その度に犯される。

 サディストなのか、私が痛がる顔や、嫌がる顔を見て喜んで、いろいろなことをされたわ。

 四つん這いにさせられ後ろからとか、口であの人のものを銜えるとか…。

 その度にビデオが増えて行く。

 そして脅され、もっとひどいことをされる。

 その繰り返し。

 途中から、その人以外も相手にさせられたわ。

 その人が弟のように気にいっている人。

 私より3,4歳上で好青年と世間でもてはやされていた人。

 でも、見た目と違っていた。

 ある日、薬を飲まされ、朦朧としているときに、その人が呼んだの。

 そして、『筆下しさせてやる』って、私の中に。

 『こいつは、痛がるのが快感だから、激しくやれ』って。

 獣のように何度も相手させられたわ。

 違う日には、また違う人を相手に

 皆狂ったように私を犯して喜んでいた」


諦めにも似た絶望が薫の顔に浮かぶ。

「親には?」

たまらずに裕樹が声を掛ける

「無理よ。

 あのビデオがあの人にお手元にあるのだから。

 ネットで拡散されたら私生きていけない」

「じゃあ、今でも?」

薫は首を横に振る。

「ある日、今回のように生理が来なくて子供が出来たってその人に言ったの。

 そうしたら、

 『僕の子じゃない。

 (弟分たちの)誰かの子供だ。

  堕すなり、なんなり勝手にしろ、

  僕は知らない

  つきまとったらビデオを拡散させる』

 って。 

 途方に暮れていたら、数日後、その人結婚したの。

 若い20歳そこそこの人気グループの一人と“できちゃった婚”ですって。

 私を弄んでる時に、しっかりと他の子にも手を出していたのね。

 その報道を見たら、いきなり生理がやって来て、それでそれっきり」

「ビデオは?」

裕樹の問いかけに薫は首を横に振る。

「今でも、その人が持っているんじゃないかしら?

 もう、思い出したくないわ。」


「ふ、ふざけるな!

 そんなの泣き寝入りだろうに。

 それに、いつ、またそのビデオを盾に脅してくるとは限らないだろうに」

裕樹は思わず声を荒げる。

「な、なによ。

 大声出さないでよ!

 もう、私はそれに触れたくないんだから。

 それに…、それに、その後からよ。

 私が誰かの肌に触れていないと我慢できなくなったのは。

 男の肌を感じていないと我慢できなくなったのは!

 臭かろうがなんだろうが。

 私だって嫌なのよ。

 こんな私に誰がしたのよ。

 嫌よ、嫌なの。

 見ず知らずのオジサンに相手をしてもらって満足するなんて。

 ううん。

 満足何て、ほんの一時。

 すぐに、また肌が欲しくなる。

 誰の肌でも、何でもいいの。

 ともかく、しなくちゃ自分が自分でなくなっちゃう気がして。

 こんな気持ち、裕樹にはわからないでしょ!

 わかる訳ないよ」

険しい顔をする薫の目から涙か一滴、滴り落ちる。


「馬鹿野郎!

 僕が買う」

「え?」

「僕が、ずっと薫のことを買うって言っているんだ」

「な、なに?

 私の素性を聞いたでしょ?!

 こんなに汚れた女なのよ」

「汚れた?

 じゃあ、きれいに洗えばいい」

「な、なによ。

 他人の体のことだからって、軽く言わないでよ。

 もう、10人以上相手しているのよ。

 半分以上は見ず知らずの男よ。

 汚いでしょ?

 触りたくもないでしょ?」

(嘘よ。

 私、嘘ついている。

 誰かに助けてほしい。

 綺麗にしてほしい。

 綺麗な体、普通の女の子に戻りたいの)

薫の心が絶叫する。


「だから何だっていうんだ!

 僕一人に絞ればいいだろ。

 僕だけで満たされれば…

 僕が綺麗にしてやるよ!」

「何言っているのよ

 裕樹が、どうやって私を綺麗にしてくれるのよ」

(嬉しい。

 嘘でも、そんなこと言ってくれるなんて。

 もし、私のことを少しでも本気で好いてくれるなら、私は変われる?)

怒った顔で裕樹に詰め寄りながら薫の心は大きく動く。

(言っちまった。

 まあ、いい。

 僕は何も処女性を求めているわけでもないし、こんな可愛い子が相手なら、今までのことがどうのは、気にすることはないし、僕が抱く回数が今までも薫を相手してきた人間達の回数を上回ればいいのさ)

興奮している裕樹の思考回路は論理的ではなく、感情的になっていく。

「それとも、同情?

 こんな哀れで小汚い私に同情して、すこし遊んで、飽きたら捨てればいいって思っているんでしょ」

「いい加減にしろ」

ピクリと裕樹の手が動き、薫は打たれると目を閉じたが、一向に裕樹の手は飛んでこなかった。


「?」

恐る恐る目を開け裕樹を見る。

裕樹は真剣なまなざしで薫を見ている。

「本気なの?

 本気で、私を専属で買い続けるつもりなの?」

裕樹は真顔で大きく頷く。

「お金あるの?」

「あっ!」

裕樹は現実に戻り、声を上げる。

その声を聴いて薫は胸が温かくなり笑い出した。

「ねえ、裕樹。

 同情じゃないの?

 ううん。

 同情でもいい。

 でも、少しは私のことを気に入ってくれているの?}

“好きか”と聞こうとしたが、薫は裕樹の答えが怖くて聞くことが出来きなかった。

(そうだ。

 まだ、出会ってから一か月位しかたっていないが、僕の中で薫の存在は大きくなっていた。

 好きなんだろうか。

 きっと、そうに違いない。

 ともかく、今は、薫が傍にいてくれた方がうれしい)


裕樹は、優しい顔で頷く。

その優しい笑顔を見て、薫の心は溶け出しそうだった。

「あのさ。

 お金は、その…」

「いいわよ。

 ある時払いの催促なし。

 それと、出世払いの併用も“可”よ」

いつしか、裕樹も薫もお互いの歳の差を感じることなく対等な口調になっていた。

「ねえ、裕樹…。

 本当に、私のことを綺麗にしてくれるの?

 裕樹の…、その…、なんとかで…」

薫は顔を赤らめ、ためらい口調で囁く。

「あ、ああ」

裕樹も照れながら、薫を抱きたいという衝動に駆られている。

「じゃあ、早速…。

 もう一度。

 したい…」

ガタ!

裕樹は立ち上がると、薫の傍に行き、薫を立ち上がらせると徐に抱きしめ、その首筋に顔を埋める。

「もっと…、もっと強く抱きしめて。

 私を離さないで」

「ああ」

しばらく裕樹は言われたように薫をしっかりと抱きしめる。

「…」

薫が小さく息を漏らすのを感じ、裕樹は抱きしめる力を緩め、薫の顔を覗き込む。


薫は上気したように赤い顔をし、潤んだ眼をしながら、うっとりと裕樹を見つめる。

裕樹は半開きになった薫の唇を自分の唇で塞ぐと、ゆっくりと抱き上げるようにしてベッドに運んでいき、薫を横たえさせると、その上に覆いかぶさる。

二人は今まで以上に激しく、お互いを求め合った。

薫の体は少女体形から少し丸みを帯び女性として発育していく初期段階で、まだまだ青い果実の様だったが、きめの細やかな皮膚に艶と弾力があった。

裕樹はスポーツマンではないが、それなりに締まった体で、薫に安心感を与えていた。

そして、裕樹が体の中で流れ込んでくるのを感じながら、裕樹の良い香りを胸いっぱいに吸い込み、薫は初めて満足し、そして嬉しさで満ち溢れていた。


「ねえ、裕樹。」

「ん」

裕樹の腕枕から顔を上げ、薫が話しかける。

二人はベッドの上で、全裸で抱き合うように寝転んでいた。

裕樹は寒くないように、薫と自分の上に毛布を掛ける。

「あのね…」

薫は話の続きをするのを躊躇しているようだった。

「なんだよ」

そう言いながら裕樹は薫の鼻の頭にキスをする。

薫は照れくさそうにしながら、口を開く。

「変なことを言うようだけど…。

 初めて裕樹と、その…、あれをした後ね、不思議なんだけど、あの嫌な衝動が治まって来たの。

 前は、誰でもよくて…、した後、翌日にはすぐに“したい”という欲求に駆られていたの…」

話し難そうな薫を、そっと抱き寄せる。


「裕樹との後、裕樹以外考えられなくなったの。

 私は、この人だって。

 そうしたらね…

 だんだんと落ち着いて来たみたいなの。

 毎日欲情に駆られていたのが変わって来て、裕樹のところに行けば安心できるぞって。

 裕樹の匂いや温かさを感じると、それで満足できるぞって。

 そうしたら、誰かの肌を感じないとダメだっていう脅迫にも似た思いが無くなり、その…裕樹がいれば、他の人はいらないって…。

 大丈夫だって」

そう言うと薫は恥ずかしそうに毛布の中に顔を埋める。

そんな薫を裕樹は自由にできる手で頭を撫でていた。


帰り道、駅まで送っていく間、薫は人目をはばからず裕樹の腕を抱え込んで嬉しそうな顔をしていた。

駅で薫と別れ、裕樹はコンビニで弁当を買う。

(そうだ。

 お金を節約しないと。)

律儀に薫に払う金額のことを考え、つい、安い方の弁当に手を伸ばす。

弁当を買いアパートに戻り、ドアを開け、室内に入ると、まだ薫の残り香を感じることができ、裕樹は思わず顔をほころばせ、薫の香りを胸いっぱいに吸い込むように深呼吸をする。

(考えたら、今まで女性から僕じゃないとダメだった言われたことなんかなかったな)

弁当も食べ終わり、ベッドの上でくつろぎながらぼんやりと考える。


(でも、初めていわれた女性が、中学生の女の子。

 わからん。

 一緒にいると、僕も薫と同年配のような気がしてならない。

 今まで、恋愛なんて無縁だったな。

 僕も今の薫ちゃんが好きだ。

 ずっと一緒にいられたらいいな)

その時、裕樹のスマートフォンからLINEの通知音が聞こえ、裕樹はスマートフォンを手に取る。

LINE通知は薫からで、「おやすみなさい」の文言の後にハートの絵が踊っていた。

裕樹も「おやすみ」と返す。

短い文のやり取りだったが、お互いそれだけで十分な気がした。


避妊率80%と言ったら、変な話ですが10回SEXをしたら、避妊をしたつもりでも2回は失敗するということですかね。

もともとSEXという行為は、子孫を残そうとする本能的なもので、失敗するのが(本能的なところで言うと成功なのでしょうが)当たり前かと思ったりします。

ピルの方が避妊率は高いのですが、では、ピルを飲むだけでよいか。

答えは「否」だそうです。

そこは避妊という観点ではなく感染症という観点から、併用を勧められています。

さて、裕樹は薫からショッキングなことばかり聞かされていますが、聞くたびに薫に対しても思いが強くなっていきます。

薫はというと、逆に、裕樹に嫌われたくないと恐れ、それと同時に裕樹に疑心暗鬼な想いを抱いていきます。

ぴったり合いそうで、微妙にずれている薫と裕樹の関係はどうなっていくのでしょう。

次回は、薫にとんでもない厄難が降りかかります。

しかし、それに裕樹を巻き込みたくない薫。

心の叫びが裕樹に届くでしょうか。


次回は、Aの巻(その四)です。

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