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AとK  作者: 東久保 亜鈴
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Aの巻(その三)

葵が翔太に声をかけてから1か月近く経ち、葵と翔太の関係は微妙な距離感で進んでいく。

葵は学校帰りに、休みは昼前から翔太のマンションに入浸り、翔太は葵に食事させ、自由に振る舞わせる。

しかし、関係はそれだけ。

葵は、ほのかに翔太に恋心を寄せるが、翔太は全くその気がない…はず。

ある時、翔太は葵に高校受験の話をするが、葵の話を聞き、無性に腹立たしくなり、いろいろな提案を葵にする。


木々の緑が青々としてくる4月末。

テレワークが終わりリビングに戻って来る翔太を、学生服姿の葵が笑顔で迎える。

「翔太さん、お疲れ様です」

「ん?

 ただいま」

いつものことだが、仕事が終わり部屋から出てくると翔太は決まって「ただいま」という。

葵は、それが何となく可笑しかった。

「“ただいま”って、何か面白い言い方」

「そうか?」

「だって、同じ家の中にいるのに」

「まあ、それで、オンとオフを切り替えれるからね」

「オンとオフ?」

「そう。

 以前だと会社に出社すると、そこから仕事モード。

 会社を出ると、自分の時間と切り替えが容易かったんだけどね。

 テレワークだと、どこから仕事でどこから自由時間かの区別が付けづらいからね」

「へぇー、会社員て、たいへんなんですね」

素直に感心する葵をみて、翔太はほっこりとする。


「そうそう、もうすぐゴールデンウィークですね。

 翔太さんは、どうするんですか?」

心配そうな顔で葵が尋ねる。

葵は最近では、翔太が出社で家にいない日以外は、土日でも入浸るようになっていた。

翔太も特に嫌な顔をせず、逆に葵がいるのが普通のように接していたせいか、葵にとって翔太のマンションは居心地がいい場所になっていた。

「連休か?

 今のご時世、どこにも行けないし、実家に行くのも気乗りがしないから、ここに居るかな」

「そうですか」

翔太がここに居るということは、連休中もここに来れるということを暗黙に示しており、葵は顔をほころばす。


「葵ちゃんは、どうするの?」

「え?

 私は、何も予定がなくて…

 ここに来てもいいですか?」

心配そうな声で尋ねる葵を翔太は笑って頷く。

「それはいいけど、お母さんが帰って来るんじゃないの?」

葵は一瞬考え込む。

「たぶん、逆です。

 お休みだから、彼氏と一緒だと思います」

「そうか。

 言われてみれば、そうかもな」

「それに、最近では、どうやら県外に引っ越したみたいで、家にも帰ってきません。

 この前、1か月の生活費って、1万円送ってきました。

 足りなかったら、バイトをするか、お姉ちゃんを頼りなさいって」

「1万円だって?!

 いくら家賃やガス光熱費を出しているからって、一日ワンコインもないじゃないか。

 それじゃ、ろくすっぽ、食事もとれないだろうし、必要なもの、何も買えないじゃないか」

「でも、土日を抜かせば、お昼は学校の給食があるから。

 あとは、もやしやお豆腐、食パンと結構、食べれますよ」

「もういい」

翔太はやんわりと話を遮る


(もやしや豆腐や食パン?

 育ち盛りに栄養が足りないだろう。

 前も聞いたが、聞くたびに腹が立つ。

 完全に育児放棄だろうに。

 お姉さんがいなかったら、とっくに倒れているんじゃないか)

最初に葵からその話を聞いた後、翔太は葵が家に来るたびに、自分の食事がてら一緒に夕飯を食べさせていた。

葵は、その都度恐縮して遠慮するが、翔太が一人で食べるのは寂しいからという台詞を信じ、喜んで一緒に食べるようになった。

葵にとっては、居心地の良い部屋に美味しいお菓子、そして夕飯と申し訳ないと思いながら、感謝していた。

翔太にいろいろと食べさせてもらい、葵は肌に張りが出て来て少し健康的になってきていた。

それと同時に気力や集中力もだいぶ戻って来ていた。


「そういえば、葵ちゃん。

 高校はどこを受けるの?」

「え?

 高校ですか?」

葵は面食らったような顔をする。

「高校は行きません。

 お金かかるし」

「今って、高校無償化じゃないの?」

「そうですけれど、話を聞いたら制服や体操着、教科書代やその他諸々のお金がかかるそうです。

 お母さんは、そんなお金出せないから、進学しないで働くようにって」

(なんて親なんだろう。

 自分は彼氏との生活にお金を掛けて…

 ろくすっぽ、食事もとらせないし)

他人の家の事情ながらも翔太は腹が立つのを感じていた。


「お姉さんも、中卒で働いたんだっけ」

「ええ。

 お姉ちゃんは、勉強が嫌いだったのと、内申が悪すぎたそうです。

 でも、お姉ちゃんは私に高校に進学しなさいって言ってくれているんです。

 掛かる費用は、何とか考えるからって。

 お姉ちゃんも、やっぱり高校に行きたかったみたい」

「良いお姉ちゃんじゃないか」

「はい。

 大好きですし、お姉ちゃんも私のことを可愛がってくれます。

 お姉ちゃんと私、お父さんが違うんですけど」

「え?!

 お父さんが違うの?」

「はい。

 それに、私もお姉ちゃんもお父さんが誰何だか、顔も知らないし、お母さん、教えてくれないので」

「なんて…」

(なんて勝手な母親なんだろう)

翔太は、ただただ、驚くだけだった。


「でも、いいんです。

 お母さんとお姉ちゃんがいれば、私は寂しくないです」

「でも、お姉さんも家にいないのだろう?」

さすがに『出て行った』など言えなかったが、「はい」と答える葵の顔は寂しそうだった。

「でも、いいんです。

 お姉ちゃん、気にしてくれて様子を見に来てくれますから」

「お姉さん、結婚しているんじゃ?」

「はい。

 旦那さんと共稼ぎなので、週に一回あるかないかですが、暇を見つけて様子を見に来てくれます。

 あ、でも、電話はしょっちゅう掛けて来てくれます」

「そうなんだ。

 それで、お姉さんは高校に進学するの賛成なんだろ?

 ならば行けばいいのに」

寂しそうに葵は首を横に振る。

「お姉ちゃんも、決して楽な生活じゃないんです。

 それに、私の学力じゃ」

自分の学力じゃ高校進学は無理だという葵だったが、翔太は真剣に学校の勉強をしている姿を見ていた。


「今から始めれば、間に合うだろう?

 それに葵ちゃんは勉強が好きなんじゃないかな?」

「え?

 ええ、好きです。

 それに、特に最近、翔太さんに色々教えてもらって、わかるようになってきたので楽しいです。

 でも…」

「あのさ、受けるだけ受けてみたら?」

「え?」

「受験しなかったら、絶対に進学できないから、ともかく受験してみればいい。」

「でも、塾も受験参考書も買うお金がないから、やっぱり無理です」

「俺が勉強を見てあげるよ。

 こう見えても、教員免許、持っているんだよ」

「え?

 す、すごい」

「すごいだろ?

 まずは、受験勉強してみたら

 確か、授業料以外の給付金制度もあるはずだから調べてあげる。」

本当のところ、高校に進学する夢を持っていた葵は顔を輝かす。


「でも…。

 でも、翔太さん、なんで私に親切なんですか?」

「え?

 …」

(そうだ。

 なんで、俺はこの子の世話を焼きたがるんだろう。

 こんな子供の体を目当てにするようなロリコン趣味じゃないし。

 眼つきも鋭いし、くせ毛で髪も真黒じゃないし、好みとはいいがたいしな。

 大きくなったら、弄ぶ?

 そんなことしなくても、外でナンパすれば成熟した女性とウハウハできるし。

 なぜだろう)

翔太自身、なんで葵をそこまで気にかけるのか、全くわかっていなかった。

「翔太さん?」

『好きだから』という返事を期待した葵は、そうでもなさそうな翔太の態度に少し失望しながら、尚も、返事を聞こうとした。

「わからん」

「え?」

その答えは、葵と混乱させる。

(なんで?

 どうして?

 何も理由なく親切に、優しくしてくれるなんて。

 魅力ない?

 単なる気まぐれ?

 同情?

 私はどうしたらいいの?)

ポンポン。

翔太の手が葵の頭を軽くたたく。

「!」

いつの間にか俯いていた葵は、顔を上げると、翔太の笑顔が飛び込んできた。


「深刻に考えることないさ。

 いいじゃないか、今、すぐに答えが出なくったって。

 今は、ただ、葵ちゃんのことが放っておけないということだけ。

 その内、『なぜ?』の答えが見つかるだろうから、そうしたら、葵ちゃんに返事をするからね。

 ほら、考え過ぎると、また、目つきが悪くなるよ」

「え、ええー?

 そんなぁ。

 ひどいな」

翔太の笑顔を見て、葵は胸のつかえが取れた気がした。

(好きでなくても、嫌いっていうわけでもないし。

 私は翔太さんが好き。

 そのうち、振り向かせればいいだけだわ。)

「さて、今はなんの科目の宿題をしていたのかな?

 わからないとこある?」

「え?

 はい。

 英語の宿題をやっていました」

「お!

 英語か。

 俺、こう見えても英語は得意なんだ。」

「本当ですか?

 ここがわからなくって」

葵が示すところを、翔太はこともなげに説明する。

(凄いな、翔太さんは。

 英語も数学も国語も全部わかるなんて。

 やっぱり、大人だからかな)

羨望な眼差しで翔太を見る葵の恋心は、また一段と膨らんでいった。


夕飯は宅配ピザ。

「外食や宅配ものだと、栄養が偏るかな。

 肉や魚、野菜や果物もまんべんなく食べないとな。

 葵ちゃんは、好き嫌いある?」

「ピーマン」

葵は小さな声で答える。

「へー、ピーマンなんて美味しいじゃないか」

「あの青臭さが、どうもダメで」

「他は?」

「たぶん大丈夫です。

 でも、なんで?」

「あ?

 うん。

 ゴールデンウィークは、朝から来るんだろ?」

「いいんですか?

 朝からでも」

顔を輝かす葵を見て、翔太はほほ笑む。

「いいよ」

「やったー!!」

小躍りする葵。

「ゴールデンウィーク中は自炊しよう。

 料理は?」

「からきし、ダメです」

「だって、いつも自分で作って食べているじゃないの?」

「レンジでチンして、醤油や調味料を付けて食べているだけです」

「さ、さよか…。

 じゃあ、尚更、家飯にしよう。

 俺、料理得意だからご馳走してあげる」

「翔太さん、料理も得意なんですか?」

(凄い。

 仕事も勉強もできて、尚且つ、料理まで作れるなんて。

 サラリーマンになる人って、凄いんだ)

葵は、変に感心して翔太を見た。


「あの、私にも料理を教えてもらえますか?」

「ああ、いいよ。

 あとは、受験勉強だね。

 取りあえず、受けてみるでいいだろ?」

「え、ええ。

 受けてみるだけなら」

もともと葵も高校に行きたいという思いがあったので、少し目の前に光が見えてきた気がして、自然と顔をほころばせる。

「じゃあ、今までの復習ですよね。

 中二の時の教科書もあります」

「いや。

 復習はしないで、先に教科書を終わらせよう」

「だって、わからないところがあるんですよ」

「うん。

 進めて行ってわからないところが出て来たら、そこで理解していけばいい。

 何も無理に後戻りしなくていいんだよ」

「は、はい!」

葵は踊りだしそうな程、楽しくなっていた。


数日後、翔太が出社日のため葵はアパートにいると、姉の茜がお弁当を持って葵の様子を見に来る。

「ねえ、葵。

 最近、家にいないでしょ?

 どうしたのかな?」

茜は葵の変化に敏感に気付いていた。

「え?

 ちゃんといるよ」

「嘘、嘘。

 夕方とか、前は家にいる時間に電話しても、いないじゃない」

「う、うん」

「何しているの?

 バイト?

 それとも彼氏でも出来たかな?」

「そんなこと…」

『そんなことない』と言いかけて、翔太の顔が目に浮かび、葵は口ごもる。

「ふふん。

 図星かぁ」

「ち、違うよ。

 お姉ちゃん」

「いいじゃないの。

 他人から見ると、ちょっと取っ付き難いところがあるけれど、わかればそんなことないし、逆に可愛いわよ」

茜は例え父親が違っても、小さなころから葵のことが好きで可愛がっていつも気にかけていたし、葵もそんな茜が大好きで、今まで、姉に対しては隠し事ひとつしたことがなかった。


「もう。

 そんなんじゃ、ないんだから。

 あのね…」

葵は洗いざらい、翔太とのことを茜に話して聞かせた。

茜は、最初は驚いた顔をしたが、その後は、興味津々の顔で葵の話を聞いていた。

「…

 ということなの」

「ふーん。

 だから、ここのところ顔色も良くなったし、体つきも少し、丸みを帯びてきたのかな」

「ええ?

 そうかなぁ…

 少し太った?」

お腹回りとかを気にする葵を茜は面白そうに眺める。

(馬鹿ね。

 恋をしているってこと。

 でも、よりによって、干支で一回りも上の男に惚れるなんて。

 意外と大胆な子ね)

茜としては葵の話から翔太が分別のある大人の男性だとイメージし、特に反対をするわけでもなかった。

ただ、年齢が離れすぎているので翔太にその気があるのか疑問で、葵の一方的な片想いだろうと思っていた。

だから、弄ばれて傷付かないかと心配でもあった。


「それでなに?

 連休は、その彼氏の家で合宿?」

「そ、そんな。

 泊まったりなんかしないわよ。

 昼間に行って勉強を教えてもらって、あと、料理も教えてくれるって」

「なーんだ、お泊りしないのか」

「お姉ちゃん。

 私そんなにふしだらじゃないわよ」

(おー、良く言うわ。

 最初に近付いて何をしようとしたんだか。

 そっちの方がよっぽど“ふしだら”じゃないのかしら)

茜は吹き出しそうになるのを懸命の堪え、葵は“泊まり”という言葉に何を想像したのか顔を赤らめる。


「で、高校進学を目指すことにしたの?」

「うん。

 でも、取りあえずは受験するだけ」

「葵なら私なんかよりも数段、頭がいいから受かるわよ。

 そうしたら、進学するんでしょ?」

「最初は、お母さんに言われた通り、進学しないで働きに出ようと思っていたの。

 ううん。

 今でも、半分はそう思っている。

 でも、半分は行ってみたい。

 お友達作って、勉強もしたい」

「そうでしょ。

 葵は勉強が好きだもの。

 それに修学旅行や文化祭、中学とは違った学園生活が待っているわよ。」

茜は自分が行けなかった高校生活に妄想を抱いているようだった。

「でも、お金が」

「今、確か無償化で学費いらないんでしょ?

 制服代や必要なものにかかる費用は、お姉ちゃんが出してあげるから。

 あとは、少しバイトすればいいんじゃない」

「お姉ちゃん。

 本当にいいの?

 制服代とか、けっこうするのよ」

「知っているわよ。

そのくらい、貯金があるから大丈夫。

心配しないで、高校に行きなさいね。

 お母さんには、私からよく言っておくから」

「お姉ちゃん。

 大好き!」

目にいっぱいの涙をためている葵を見て、茜も胸がジーンと来ていた。


「それと、その翔太さんって男は大丈夫なの?」

「大丈夫?」

「変なことされたり、いやらしい目で見られていない?

 裸になれとか言われていない?」

葵には全く覚えがないので、首を左右に振る。

「そうなの。

 でも、油断しちゃだめよ。

 変なことされそうになったら、直ぐに逃げて、お姉ちゃん言いなさい。

 お姉ちゃんがやっつけてやるから」

「うん。

 でも、翔太さんは大丈夫」

「なんで?」

「なんでも。

 私はそう思うの」

「ふーん」

(恋する乙女は盲目か。

 まあ、聞いたところでは大丈夫そうだけど、一度会ってみたいかな)

「あら?

 それなに?」


茜は、葵の鞄からはみ出していたスマートフォンを見つける。

「え?

 ああ、これ?

 スマフォ」

「そんなこと、わかっているわよ。

 どうしたの?

 買ったの?」

スマートフォンを買うお金など持っていないはずだと、茜は怪訝そうな顔をする。


数日前、翔太のマンションのリビングで勉強していた葵の前に、テレワークを終えた翔太がIPHONEの入った箱を持ってきた。

「?」

「このスマフォ、連絡用に使って」

「連絡用?」

「そう。

 急に俺が出勤になるかも知れないだろ?

 だから、来る前に確認するようにって。

 ほら、マンションに来ても俺がいなくてエントランスでふらふらしていたら、不審者に思われるだろ?

 だから、居ることを確認してから来るようにって」

翔太としても中学生の制服を着た葵がエントランスでふらふらされると、どんな噂が立つか気が気ではなかった。

「でも、スマフォってお金がかかるんでしょ?」

「大丈夫。

 安物だし、プランも最安のプランにしてあるから、そんなにかからないよ」

葵を安心させるのと、葵との関係が終わった後、なにかに流用できるよう、本体はIPHONEの最新機種で、プランは使い放題のプランにしておいたので、安くはないが月々一定の金額で、給料の良い翔太には、負担にならなかった。

「本当に、いいんですか?」

「ああ。

 その代わり、失くしたらすぐに言ってほしいのと、葵ちゃん以外の人には貸さないでね」

「はい。

 約束します」

葵は真新しいスマートフォンを目の前にして、興奮気味に返事をする。

「それと、勉強していて、わからないことや、調べものにもインターネット検索してね。」

「どうすればいいんですか?」

「それはね…」

翔太は連絡用のLINEの使いかたや、インターネット検索の方法などを丁寧に葵に教えた。

 

「このスマフォ、翔太さんが持たせてくれたの。

 連絡用にって。

 都合が悪くなった時に連絡くれるって」

「へ?

 彼氏のなの?」

「うん。

 (わたし)用にって、わざわざ貸してくれたの。

 安物だって」

茜は葵からスマートフォンを受け取る。

(IPHONEのどこが安物なの…)

「でも、これ、わざわざ契約したんでしょ?

 月々の料金だって結構かかるんじゃないの?」

「わからない。

 そういうことは気にするなって。

 勉強で調べものしたいときとかにも、使っていいって言われたの」

「そうなの…」

茜には、ますます、翔太の真意がわからず、普通だったら、『返しなさい』というところだったが、様子を見ることにした。


「ねえ、葵。

 そのスマフォの電話番号は教えてくれてもいいかな?

 それと、お姉ちゃんとLINEの設定してもいいかな」

「うん。

 お姉ちゃんなら、いいよ」

「じゃあ、今度から、そのスマフォに連絡するからね。

 葵も何かあれば、LINEちょうだいね」

「うん」

お互いの設定が終わり、帰りがけにそういうと、茜は家に帰っていった。


その夜、翔太は、葵からのLINEを読んで、返事を返していた。

ほぼ、毎日のように葵から学校のことやとりとめのない内容のLINEが届くのを読んで、簡単に返事をするのが翔太の日課になっていた。

葵はスマートフォンを持ってから、こまめに姉と翔太にLINEし、返事をもらうのがひそかな楽しみになっていた。

(やれやれ。

 喜んじゃって、毎日LINEしてくること。

 いないときはもちろん、さっきまで、ここに居てもLINEの話題は尽きないのかね。

 まあ、テレビのこととか中学生の女の子には話題が尽きないんだろうな。

 しかし、俺も酔狂だよな。

 あんな子にスマートフォンを貸すなんて。

 何を考えているんだろう)

翔太は自分の行動に首をひねるだけだった。


連休、ゴールデンウィークは葵にとって夢のような日々だった。

朝の10時前には翔太のマンションを訪れる。

それから、翔太のすぐそばで勉強を始め、わからないところはすぐに翔太に聞くと、翔太は優しく時間をかけ、葵が納得するまできちんと教える。

また、葵のために学習参考書も買え揃えてあり、理解度を計るに丁度よかった。

昼は一緒に、スパゲッティやラーメンを作って食べる。

午後は、また、違う教科の勉強。

元来、勉強が好きな葵は、翔太の傍で集中して覚えて行き、翔太の感心するくらいだった。

夕方になると、二人で近所のスーパーに買い物に行き、夕飯の食材やお菓子類を買い込む。

そして、夕飯は、ハンバーグやカレーなど翔太に手ほどきを受けながら葵はメモを取りながら夢中になって料理を作る。

二人で夕飯を食べた後、少しゲームで遊んで、翔太の車で送ってもらい家に帰る。

車の助手席に乗るのは生まれて初めての葵は、車に乗るたびに興奮しているようだった。

連休中、毎日、その日の報告が葵から茜にLINEで届く。

その文章から嬉しさがにじみ出ているようで、茜は目を細めて読んでいた。


茜とLINEをした後、翔太にLINEをして、最後に「おやすみなさい」で1日が終わる。

その夜も、翔太に「おやすみなさい」のLINEを送った後、満ち足りた気分で布団に入る。

(LINEって楽しいな。

 いつでも、お姉ちゃんや翔太さんとつながっているみたい。

 でも、連休、楽しかったな。

 車の助手席に乗せてもらったのも楽しかったし、お料理も勉強も、全て夢のよう。

 なんか楽しい。

 早く明日にならないかな。

 …

 でも、翔太さん、私のことをどう思っているのかしら。

 妹なのかな。

 女性として見てくれているのかな。

 手もつないでいないし、それに…)

葵は顔が熱くなるのを感じる。

(魅力的な大人の女性になれるかな。

 そうしたら、翔太さん、私のことを恋愛対象とみてくれるかな。

 頑張らなくっちゃ)

そういうことを考えながら、葵はいつしか眠りについていく。


高校無償化。

学生服のいあるところは学制服代、教科書代、修学旅行の積み立て、給食のある学校は給食費。

授業料が無償化になっても、諸雑費が結構かかります。

全部、無償化対象になればいいのにと思ったりしてしまいますが、学生服は義務付けている学校と自由な学校とあったり、給食も有り無しで分れます。

修学旅行もどこに行くか、学校が置かれている場所も左右し、一律いくらというのは設定しがたいのでしょうね。

学生服。

私は、中学、高校と学生服でした。

しょっちゅう、あちらこちらに脱ぎ捨てたり、乱暴な扱いをしても長持ちしてくれました。

今思えば、丈夫なだけに高かったはずなのに、あんなに荒っぽく着てと後悔しています。

また、ちょうど成長期に入り、1年で10cm以上身長が伸びたりします。

それを見越して、タブタブのを新入生の時に着たりしました。

さて、次回はある事件をきっかけに翔太と葵の仲が近づきます。


その前に、「Kの巻(その三)」です

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