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AとK  作者: 東久保 亜鈴
28/29

Aの巻(その九②)

翔太との生活を満喫している葵。

葵の中には翔太しかいなかった。

翔太もいつの間にか、可愛い葵に魅かれて二人の結びつきは強くなっていた。

しかし、そんな翔太に忍び寄る暗い影が。

12月、受験組とは異なり就職も決まっている葵はのんびりした日々を過ごしている。

寒さのせいか空気は澄み青空のいい天気の朝。

「じゃあ、行ってきまーす」

「いってらっしゃい」

制服の上にコートを羽織り、白とピンクのもこもこしたマフラーを巻き元気いっぱいの笑顔で家を出ようとする。

「あ、葵ちゃん。

 マスクは?!」

「あ!!」

葵は慌ててポケットからマスクを取り出すと改めて「行ってきます」と手を振る。

「いってらっしゃい」

翔太も笑顔で手を振り見送る。

葵ちゃんの制服姿もあと数か月かぁ。

うーん、惜しい。

しかし、早いな。

中学3年の時に出会ってからあっという間だったな。

最初はガリガリでどこもかしこもぺったんこ、髪も肌もパサパサ。

目つきも近視の子がメガネ忘れた時みたいにきつかったし、どこもいいところが…。

でも、匂いは今もだけどいい匂いだし、性格も素直でかわいいし、面白いし、それに傍にいると妙に落ち着くし…。

自然と顔をほころばすと玄関の鍵がガチャガチャという音がしドアが開くと気まずそうな顔をして葵が入って来る。

「どうした?

 忘れ物?」

「え、えへ。

 今日は3年生は授業がない日でした。

 失敗、失敗。

 うへへへ」

外が寒かったにか照れくささからか葵は頬を染めて息を弾ませている。

か、可愛い!

翔太はのろのろと手を葵の方に差し出す。

「?」

きょとんとする葵の肩を掴むとそのまま引き寄せ抱きしめる。

「わわわ。

 しょ、翔太さん。

 か、会社、お、お仕事―!」

葵は翔太の腕の中でもがきながら声を上げる。

「今日は有給休暇。

 午後から病院に行くって言ったろ」

翔太は一向に治らない変色した足の親指の爪が気になり、午後から病院に行くために有給休暇を取っていた。

「え?!」

葵の動きが止まったのをいいことにマフラーと素肌の境に顔を埋める。

そっかー、お休みだった。

ならばいいかぁ。

葵は翔太が自分を抱きたがっているのがわかっていて好きに任せていたがふとあることに気が付く。

「あ!

 やっぱり駄目!!」

「え?」

葵のいきなりの大きな声に翔太はびくっとして抱擁の力を緩める。

「ほ、ほら、マフラーとか…

 そうそう、コートも着ているんだから」

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない!

 ともかく、ともかく、うー。

 ちょっと待っていて!!」

そう言うと葵は翔太の腕の中からするり抜け出し自分の部屋にさっさと入りドアを閉める。

あっ、制服姿が…

翔太は葵の剣幕に押され、ぼーっと葵の部屋のドアを眺めるだけだった。

部屋に入った葵はカバンを置き、マフラーを外しコートをと制服のブレザーを脱いでハンガーにかける。

まったく、もう。

翔太さんたら本当に私の体だけが目当てなんだから。

そう思いながら葵は頬を緩める。

そしてブラウスのリボンを外し机の上に置き、ブラウスを脱ぐ。

今日寒かったからシャツを2枚重ねて着ていたんだから。

こんなの見られたら笑われちゃう。

そう思いながら2枚重ねに着ていた長袖のシャツを脱ぐ。

部屋の冷気が温まっていた肌をいじめる。

さ、寒い。

早く翔太さんの部屋に行って温まらなくっちゃ。

うーん。

やっぱりブラウスの下はブラだけがいいかな。

透けるから夏でもキャミじゃなくてインナーを着るんだけど。。。

きっと翔太さん、ブラウスの下は何も着ていないと思っているだろうな。

よし、ブラだけにしよう。

それと今日は黒のタイツだけどハイソックスの方が喜ぶわね。

前、確かハイソックスがいいって言っていたもんね。

葵は身支度を整え姿見鏡の前に立つ。

鏡はお洒落に気にするようにと翔太が買って葵にプレゼントしたもので、葵のお気に入りの一つだった。

鏡に映った葵は白い長袖のブラウスに可愛いリボン。

チェックのスカートに白いハイソックス、髪は短めのポニーテールという典型的な女子高生だった。

私の体だけが目当て…。

でも、翔太さんの腕の中って居心地良いし、それに体だけじゃないよね。

そう心の中で言いながらも実際翔太に大事にされていることを自覚している葵は心が弾み、体の芯が熱くなっていた。

さてと。

翔太さん、首を長くして待っているかしら。

ふと机の上の可愛らしい小さな巾着袋が目に入る。

中には処方されたアフターピルが入っていた。

それを見てふと思い出す。


翔太と肉体関係を持つようになってからすぐに茜が懇意にしている産婦人科に葵を引きずっていく。

「お姉ちゃん?

 なんで病院に?」

「心配しなくても大丈夫。

 私のよく知っている女医さんなの。

 怪我した時に診てもらってから意気投合しちゃって、なんでも安心して相談できる先生よ。

 結婚する前に旦那がよく避妊に失敗して、まあ、生がいいって半分確信犯だったけど、その都度先生にアフターピルを出してもらって」

「私…」

「この前、先生にあんたのことを話したら一度連れておいでって。

 大丈夫よ。

 説教されるわけじゃなくて、私の話を聞いて心配しているだけだから」

「…」

何を心配されているのか全く分からず、やっぱり翔太と同居し関係を持ったので反対されるのかと疑っていた。

診察室に入ると茜と同じか少し年上か若くて優しい目をした女医が葵を見ると微笑んだ。

「あなたが葵ちゃんね。

 同棲しているんだって?

 まだ高校生でしょ?」

「はい…」

“やっぱり”と葵は身を固くする。

「あ、いいのよ。

 別に悪いことじゃないわ。

 ただ、葵ちゃんが納得しているかだけど、どうなの?」

葵は無言で頷く。

「肉体関係を無理強いされていない?」

「そ、そんなことありません。

 私から押し掛けたし翔太さん嫌な顔一つせずに迎え入れてくれたし、それに私の嫌がることは絶対にしません!」

翔太のことを悪く言われている気がした葵は、つい食って掛かる。

「無理強いじゃないし優しくしてくれて温かいし安心できるし、私とっても気持ちいいんです!!

 あっ…」

とんでもないことを口走ったと葵は恥ずかしくて真赤になる。

それを見て女医は笑いながら茜を見る。

「本当に茜の言うとおりね。

 で、その気持ちよくしてくれる翔太さんは避妊もちゃんとしてくれている?」

「はい、毎回ちゃんとしてくれています」

「そう。

 彼は性病とかは大丈夫?

 今、結構流行っているみたいよ」

「大丈夫です」

葵は翔太を侮辱しているのかとちょっとㇺっとする。

そして数日前に健康診断の結果だと翔太から見せてもらったことを思い出す。

「一緒に暮らし始めて直ぐに健康診断の結果を見せてもらいました。

 あ、たまたまですよ。

 ちょっと太ったとか言って、あと血液検査の結果だといって悪玉コレステロールは大丈夫だし性病やHIV感染も当然ないって自慢気に見せてくれました」

それを聞いて女医は再び茜を見て頷いて見せる。

普通、健康診断の血液検査で性病や、ましてはHIVまで検査しないわ。

それに普通のカップルがそこまで相手に言わないわよね。

茜が言うみたいにちゃんとした人ね、しかも葵ちゃんのことを大切に扱っているか。

本当、偶然出会った相手がちゃんとした社会人で運のいいというかなんというか。

ならば協力してあげよう。

女医は葵を気に入ったようだった。

「そうなんだ。

 よく避妊せずに迫まられてトラブルになるケースが多いから。

 ほら男性が避妊しないと妊娠は当然のこと病気を貰うケースがあるって保健の授業で習わなかった?」

葵は頷く。

「まあ、その翔太さんていう人はちゃんとした男性のようだから大丈夫のようね。

 ただ、避妊していてもずれて漏れたり、最中に破ける場合があるから注意が必要よ」

「そうなのよ。

 うちの旦那もよく私の中でコンドーム破裂させてえらい目にあったわよ」

茜が口を挟む。

「中で破裂…。

 そうなんだ」

妊娠何て考えてのいなかった葵はそれを聞いて現実を直視する。

妊娠なんて考えてもいなかった。

子供が出来たって言ったら翔太さん何て言うだろう。

結婚もしていないし堕せって言うかな。

いやだ、怖い。

葵はそんなことを翔太が言うこと自体考えてもいなかったので、もし優しい翔太が豹変したらと思うと怖くなった。

「避妊に失敗した時に使うようにアフターピルを少し持っていたらいいわ。

 高校生なんだから望んでもいない妊娠は避けないと。

 話からきっと翔太さんはきちんと責任を取ってくれると思うけど、それでもやっぱり子供は同意のうえで計画的に作らないとだめよ。

 処方してあげるから、不安になったらともかく飲みなさい」

「あ、ありがとうございます」

葵がほっとした顔でお礼を言うと女医は葵の耳元で囁く。

「少なくなったらいつでも来てね。

 たまには自然に任せる(生)のもいいっていうしね」

「え?!」

葵はまた顔を真っ赤にする。

それから何回かピルを使うことがあったが、女医が切らさないようにという言葉を守り、少なくなったら女医に相談しながら処方してもらっていた。


「…」

葵はその巾着袋をじっとみてから頷くようにしてドアに向かって歩き出す。

そしてドアをカチャッと開けるがドアの前に翔太の姿はなかった。

さては、また驚かそうとしているのかな?

後ろ?

ドアから顔を出し、ドアの反対側を見ても翔太の姿はなかった。

あれ?

そっと廊下に出て翔太の部屋のドアの前に立ち、中を伺うとすぐにドアが開き翔太が出てくる。

「うぁ!」

「きゃっ!」

お互い驚いた声を上げる。

「翔太さんたら」

「悪い悪い」

そう言いながら翔太は葵の姿に目が釘付けになる。

パ、パーフェクト!!

なんて可愛いんだ。

白いブラウスにブラが少し透けて見えて!!

も、もう!!!

翔太は葵に近づき軽々と抱き上げるとそのまま部屋に入って行く。

翔太の部屋は暖房が効いていて温かだった。

あ、私が寒くないように暖房強くしてくれたんだ。

優しいなぁ。

翔太が部屋から出てきた意味が分かり、葵はますます嬉しくなり翔太の頭に腕を回すと自分の胸に押し付けるように抱きしめる。

「あ、葵ちゃん。

 う、嬉しいんだけど前が見えない」

そう言いながらも葵の胸の柔らかな感触といい匂いで翔太は興奮していた。

「大丈夫です!

 あと3歩でベッドのところです。

 真直ぐ、真直ぐ」

葵ははしゃぐように翔太に指示を出す。

ベッドにたどり着くと翔太は葵をそっとベッドの上に寝かせる。

葵は嬉しそうに微笑んで見せる。

可愛いなぁ。

もう、変態ロリコン野郎となじられてもかまわん。

この子を抱けるならなんだってする!

翔太は葵の上に馬乗りになって両手でブラウスの上から葵の胸を撫でるように優しく触れる。

葵は目を閉じ翔太の好きにさせる。

なんて柔らかな胸だ。

大き過ぎもせず片手にすっぽりと入るサイズ。

黄金比だ。

訳の分からないことを考えながらブラウスの上から触れることで翔太はますます興奮を覚える。

キスをした後、翔太は制服のリボンを外す。

その横で葵はブラウスの袖のボタンを自ら外す。

スカートを脱がすと白いブラウス1枚だけ身にまとっている葵は恥ずかしそうに身をよじる。

部屋の中は天気のよさも手伝ってか陽の光で明るくベッドの上に横たわる葵のブラウスが光り輝いているように見えた。

翔太は葵の白いハイソックスを脱がそうとした手を止める。

ソックス履いたままでも色気があっていいかな。

ソックスはそのままにしてブラウスのボタンに手を掛ける。

ボタンを全部外すと白いソフトブラとお揃いの白いショーツが現れる。

完璧だ!

なんて可愛いんだろう。

ブラウスがまだ袖を通していて、純白のブラとショーツ姿、それに白いハイソックス。

もう、これだけで男の夢の世界だ!!

翔太は自分の嗜好が変わったことに気づかず、まじまじと葵の全身を眺める。

「翔太さん…」

葵が恥ずかしそうな顔で声をかける。

「あ、寒かった?

 ごめん、ごめん」

完全に見入っていた翔太は我に返る。

「ううん、大丈夫。

 それよりこんな明るい部屋でそんなに見つめられて、その、恥ずかしい…」

葵の言葉に翔太は胸がキュンとなる。

「あははは、ごめん、ごめん。

 あまりにも素敵すぎてつい見とれてしまった」

「翔太さん…」

葵は嬉しそうに微笑む。

翔太が服を脱ぎ裸になり避妊具を付けようとしている時に葵が声をかける。

「翔太さん…」

「ん?」

葵は両手で口元を隠し、もじもじしながら続ける。

「あのね…」

「なに?」

「今日はそのままがいい」

「え?

 だって」

「お姉ちゃんからアレを分けてもらったの」

葵は翔太が常習化しないように自分のピルじゃないって誤魔化しなさいと女医からの言いつけを素直に守っていた。

「そ、そうなのか」

また、茜に何か言われるかな。

まあ、その時はたくさん酒でも飲ませてやればいいか。

一瞬茜になにを言われるかとドキッとしたが、性欲には勝てなかった。

「わかった」

翔太はブラウスの下から葵を抱きしめる。

葵の体は柔らかく温かだった。

そして上半身を抱き上げるようにしてブラウスとブラを脱がす。

それからいつも以上にねっとりと葵の体をくまなく愛撫すると、いつしか葵の息が乱れていた。

ショーツを脱がし、葵の秘部に触れると十分すぎるほど翔太を迎え入れる準備が出来ていた。

それでもじらすように指で愛撫すると葵は身をよじり、痙攣の様に体を震わす。

葵はいつも以上に敏感で興奮していた

「しょ、翔太さん…」

我慢できなくなったのか葵の声が翔太を求める。

その声に翔太も我慢しきれず、ハイソックスを履いたままの葵の両脚を広げさせるとそのまま葵の中に挿入していく。

「う、うう」

翔太のモノが狭い葵の入り口に入ると葵は目をぎゅっとつぶり、くぐもった声を漏らす。

それでも狭い中を押し広げるように奥まで挿入すると葵は翔太にしがみ付く。

葵ちゃんの中って温かいし、なんて柔らかいんだろう。

それに締まりが…

「葵ちゃん、素敵だよ」

翔太は葵の耳元で囁くと上下に腰を動かし始める。

あ、いや、気持ちいい…

今日はいつもより気持ちいい…

いつの間にか葵はポニーテールをほどいていて横を向いた顔に髪がかかる。

それを翔太はかきあげ頬にキスをし、それから葵が敏感に感じる首筋をねぶる。

「あぅっ」

ピクンと体を動かし、葵は聞き取れないような小さな声を漏らす。

この子の体は正直だな。

首筋から肩、脇、胸、他にももっともっと感じるところはあるだろう。

見つけるのが楽しみだ。

翔太は自分の愛撫で葵が感じ、悶えるのを見るのが堪らなかった。

翔太のモノが葵の最深部まで届くと葵はピクンと体に力を入れ、翔太のモノが締め付けられる。

それを繰り返していくと葵は自分の意志とは別に体が勝手に反応し乱れたように体を震わす。

「い…」

口から声が漏れるが小さな声でしかも歯を食いしばっているのか聞き取れない。

いつもより感じているな。

やはりいつもと違って生だからかな。

葵の体から湧き上がって来る葵のいい匂いに包み込まれている気がして翔太もいつもより興奮していた。

二人は息を切らせながらお互いを求めあい、翔太も絶頂に達する。

「翔太さん、私、いっちゃう」

「俺もだ。

 いくよ」

「う、うん。

 来て、来て」

「葵ちゃん」

翔太は葵を包み込むように抱きしめ、葵の奥深くで射精する。

「あっ、あぅ…」

それを感じたのか葵は声を漏らすと翔太に強くしがみ付き体を痙攣させる。

葵も翔太もこの時が一番至福の時だった。

しばらくして葵の力が抜けると翔太は体の下の葵の顔を覗き込む。

葵の胸はまだせわしなく上下していたが顔は目をつぶったまま無防備の天使のような満足そうな表情をしていた。

その唇にキスをすると葵は目を開ける。

「恥ずかしい」

葵の声は甘えていた。

翔太は毛布を被って葵を包み込む。

「寒くない?」

「うん、大丈夫」

葵の上から横に体をずらし仰向けになると、葵はいそいそと寄ってきて翔太の腕を枕にして体を密着させる。

「翔太さん」

「?」

「もし、赤ちゃんが出来たらどうしますか?」

「え?

 赤ん坊?

 …」

冗談でも堕せなんて言いたくないし、俺としては葵と俺の子なら万々歳で大切に育てるし、その自信ありだ。

あっ、まずは結婚だな。

お腹が目立つ前に。

でも葵ちゃんがイエスというかだな。

歳も離れているし、やっぱりやだって言われたらショックだしなぁ。

「翔太…さん…?」

黙り込んでしまった翔太を心配して声をかける。

やっぱり嫌なのかな。

体だけ?

堕せって言うのかな。

その言葉は聞きたくない。

葵も泣きそうな顔になる。

「おいおい、そんな顔して。

 ちょっと考え事しただけだって」

「…」

「そうなったら葵ちゃんとお腹の子と二人を幸せにしなくっちゃって」

それを聞き葵は目を輝かせ、翔太に抱き着く。

やっぱり私の想った通りの人だ。

絶対、絶対、大事にしてくれる。

私もちゃんとしなくっちゃ。

女医先生の言った通り赤ちゃんはきちんと計画して作らないと、翔太さんの負担になっちゃう」

葵は翔太と結婚するものだと信じて疑わなかった。

そして嬉しさからか体の中が熱くなり、肌が火照り始める。

それを感じてか翔太はもぞもぞして葵に覆いかぶさる。

「きゃっ、翔太さん?」

そう言いながらも翔太が何をしたいのかわかっていたので、腕を広げて翔太を迎え入れる。


お昼過ぎに翔太は病院に行くためにマンションを出る。

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

ピンクのセーターにジーンズ姿の葵がおぼつかない足取りで見送る。

2回もしてしまった。

今日の葵ちゃんは制服姿だったけどなんだか色気があって本音はあと1回したかったな。

葵との情事を思い出し、思わずにやける。

翔太は足の親指の爪が黒く変色したのを気にして車で少し離れている病院で診てもらうことにした。

そして診察が終わり翔太は医師から信じられない宣告を受ける。

「え?

 癌ですか?」

「ええ、皮膚の癌の一種で酷く悪性のものです」

「病理検査はしないのですか?」

「この手の皮膚癌は見ればわかります。

 この大きさと形から状況からすでにステージⅣで癌は全身に散っています。

 お気の毒ですが、余命1か月もないでしょう」

「俺、元気なんですが…」

「皮膚の癌の厄介なところは痛みとか自覚症状がない所です」

なんだって、俺は死ぬのか?

あと1か月もないだって?

どうやって病院から出てきたのかわからない。

翔太は車でどこかに向かっていた。

車が止まったのは夕日が落ちかけた頃、かつて翔太が通っていた高校だった。

試験休みに入ったせいか校庭では部活の生徒が数名いる程度だった。

翔太は裏門の近くに車を付けて降りる。

そして、静かな校舎を見ながら最も親しく一緒に遊んでいた頃の友人の顔を思い出す。

14,5年ぶりか。

あいつどうしたかな。

卒業してから会わなくなって、風の噂で結婚したって言ってたな。

懐かしいな。

結婚か。

俺がいなくなったら葵ちゃんはどうするだろう。

茜のところに転がり込んで、普通に勤めて、普通に恋して、普通に家庭を持って、普通に人生を全うするか。

俺との3年間はこれから先の長い時の中で思い出になって、そして忘れて行くだろう。

それも嫌だな。

他の男に抱かれているのを想像するのも嫌だ。

ふぅ。

俺は一体何しに生を受け、何をしてきたんだろう。

高校時代は楽しかったなぁ。

あいつと馬鹿ばっかやっていて、時間を無駄に過ごして。

でも、それがあったから今の自分があるってか。

さて、どうやって(人生の)終焉を迎えるかな。

やはり、死ぬのは嫌だし、怖い…。

普段は吸うことのない煙草に火をつける。

特に葵と一緒に住むようになってマンションでは一切吸わなくなっていた。

陽が完全に落ち暗くなった校舎に別れを告げ翔太は車に乗り込みエンジンを掛ける。

マンションまで車で1時間程、ハンドルを握りながら考える。

どうするか。

残された葵ちゃんに何をする?

慰謝料としてマンションの権利を渡すか。

配偶者じゃないから税金やらなんやらであまり手元の残らないかもしれないな。

あと、俺の全財産、こんなことなら真面目に貯金していればよかったか、全財産を渡そう。

両親にも連絡しておかないとな。

葵ちゃんという子がどういう子かって伝えておかないと大騒ぎになるしな。

あと葵ちゃんは成人と言っても18歳だし公正証書は茜に託すか。

さて、あとは死に方、死に場所と葵ちゃんに何と伝えるか…。

車をマンションの駐車場に置くと翔太は葵の待つマンションの部屋を見上げる。

結局、考えはまとまらずか。

まあ、当たり前だよな。

死刑宣告を受けた身だ。

翔太はまるで人ごとの様だったが、それだけ精神的にダメージを負っていたのを気づいていなかった。

玄関を開けて中に入るとそこには心配している顔をした葵が立っていた。

葵はピンクのスウェット上下に可愛い柄のエプロン姿でリビングから美味しそうな匂いが漂ってくる。

夕飯を作っていまかいまかと翔太が帰ってくるのを待っていた。

「ただいま」

「おかえりなさい。

 遅かったですね。

 心配しました」

「遅い?」

「今、夜ですよ。

 8時過ぎですよ。

 病院に出かけたのはお昼過ぎ。

 いくら混んでいたからってかかり過ぎです。

 事故にでもあったのかと心配してました」

心配していた?

そうだな、その顔を見れば嘘じゃないことが良くわかる。

可愛い子だ。

「ごめん、ごめん。

 偶然、高校時代の友人に会って懐かしくなって高校を見に行ってきたから遅くなった」

「高校って、確か…。

 車で1時間以上かかるところでは」

翔太は頷いて見せる。

「じゃあ、仕方ないですね。

 心配しちゃった。

 夕飯、店長に勧められたキムチ鍋にしました」

「え?

 葵ちゃん、辛いの苦手じゃなかったんじゃないの?」

「大丈夫です。

 店長さんもそんなに辛くないって言ってました。

 それに子供じゃないので辛いのも食べられるようにならなくっちゃ」

この前、テレビ見てたまには食べたいと言ったのを覚えていたな。

それに俺に合わせようとしているのか…。

葵ちゃんには病気のこと、余命のことは言えないな。

死に場所も決めた。

子供じみた笑みを浮かべる葵を見ながら翔太は答えを見つける。。

「病院どうでした?」

「ああ、足の爪は何でもないって。

 その内治るでしょうってさ」

「よかったぁ。

 心配しちゃいました」

葵は安堵の顔をする。

心配も嘘じゃないか。

本当にいい子だ。

葵の顔を見て心が和らぐ。

「さ、中に入ってご飯にしましょう。

 寒かったでしょ。

 お酒でも飲みますか?」

新婚家庭みたいだと思うがもう自分の時間が残り僅かだと思うと何とも言えない気持ちになる。

しかし、葵の笑顔や笑い声を聞くと翔太は信じられないくらいに平和な気分になった。

夜、部屋の中。

もう少しするとパジャマ姿の葵が入って来る。

それから二人で楽しい時間を過ごし、抱き合って眠る。

ここ1年くらい当たり前のように過ごしてきた時間。

抱けないな。

翔太は思う。

もし万が一でも子供が出来たら葵ちゃんに申し訳ない。

今朝はピルを飲むって言っていたから大丈夫だと思うけど、これからはもうできないな。

いきなりやらなくなると葵ちゃん、変に思うだろうな。

今日は疲れたって言うことで誤魔化せると思うけど明日以降は…。

ドアをノックする音が聞こえ葵が入って来る。

「葵ちゃん、今晩は…」

“今晩は疲れているから別々に寝よう”と言おうとしたその時、葵がすまなそうな顔をして遮る。

「翔太さん、ごめんなさい。

 急に始まっちゃって」

そう言うと翔太のベッドの上にある自分の枕を手に取り抱きしめながら、上目づかいに翔太を見る。

そっか、生理が来たのか。

なら今朝ので妊娠することはないか。

良かった。

「ごめんなさい」

小さくなって謝る葵を優しく抱きしめる。

「謝ることないじゃないか。

 葵ちゃんが悪いわけないだろ」

「でも、寂しいなぁ」

葵は生理中自分の部屋のベッドで眠るため、翔太との添い寝が好きな葵はその期間だけ寂しくて仕方なかった。

しばらくぐずぐずしていた葵は後ろ髪を引かれる用に自分の部屋に戻っていくと部屋には翔太のみが残される。

翔太はため息を一つつくと机に向かい何かに憑りつかれたように茜宛の手紙や両親に向けたメールを作り始める。

夜は深々と更けていった。


翌日、本能的に何かを感じたのか葵は翔太に一日中まとわりつく。

なんだかんだと話しかけ笑いかける。

不安から気持ちが折れかかる翔太は葵の笑顔に救われていた。

改めて葵の存在の大きさ、自分には必要な存在だということを感じる。

なんだろう。

こんな状況になるのなら、もっと葵ちゃんを笑顔にし、もっともっと優しくしていれば良かった。

俺はこの子のことを心から愛していたんだな。

悔しいな。

それから微妙な雰囲気の中、数日が過ぎる。

「葵ちゃん、明日は登校日だっけ?」

「はい、そうですよ。

 午前中ですけど、楓花ちゃんが昼ご飯食べて帰ろうっていうから少し遅くなります」

「そうか。

 実は俺も明日から出張で1週間くらい家を空けることになった」

「え?」

いきなりのことで葵は目を見開く。

今まで出張と言っても日帰りばかりでどんなに遅くなっても家に帰ってきていたが、一緒に暮らして初めて家を空ける、しかも1週間という長期で驚きが隠せなかった。

「他県の大きなプロジェクトでシステムのトラブル対応なんだ。

試験と本番稼働確認まで缶詰状態になるんだ」

「そうなんですか。

 たいへんですね」

仕事、しかもたいへんそうな仕事だとわかり、葵は寂しいけど我慢しなくてはいけないと観念する。

「明日の午前中にでるから葵ちゃんが学校から帰ってきて一人になるけど、大丈夫かな?」

「う、うん。

 お仕事終わったらちゃんと帰ってきてくれるんですよね?」

葵は無意識に尋ねる。

「あ、当たり前だろ。

 仕事で家を空けるだけだ」

嘘つきめ…

「いない間ちゃんと戸締りや火の用心頼むね。

 帰る家が無くなっちゃったなんてことが無いように」

「大丈夫です。

 絶対にちゃんとお留守番しています。

 だから早く帰ってきてください」

「ああ、わかっているって。

 お土産たくさん買って帰って来るって」

嘘つき…

「仕事なんだからお土産なんていいです。

 大変そうですよね。

 体壊さないでくださいね」

「ああ、わかっている」

「それと…」

「ん?」

「あ、やっぱりいいです」

寂しいから一緒に寝たいんだけど、まだ3日目だから出来ないし翔太さんがその気になったら応えられないし…。

やっぱり今は我慢して帰ってきたら思いっきり甘えちゃおう。

私って、もしかして淫乱なのかな?

「じゃあ、寝ますね」

そう言って葵は翔太の前に立つ。

何をして欲しいのかわかっている翔太は葵を抱きしめ、葵も翔太の体に手を回し抱きつく、

「じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

翌日、葵を見送ったあと翔太は名残惜しそうに部屋の中を見る。

自分の部屋、リビング、キッチン、洗面所、風呂場。

気が付かないだけだったがどこもかしこも葵の持ち物が生活空間の中に溶け込んでいた。

葵ちゃんが居て当たり前になっている。

葵の物を愛おしそうに眺めた後、翔太はドアに鍵をかけ車に乗り込みマンションを後にする。


覚悟を決めマンションを出た翔太。

そんなことは思いもせず、翔太の帰りを待ちわびる葵。

このまま引き裂かれてしまうのか、次回まで。

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