表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AとK  作者: 東久保 亜鈴
25/29

Kの巻(その八②)

出演している戦隊シリーズで薫の演技は努力もあってか次第に評判になり始めてくる。

それと相反するように慢心の裕樹は周りから疎んじられていく。

そんな中で二人は暴漢に襲われ裕樹の目の前で薫は玩具にされ、それを機に裕樹の心は離れ、荒んでいく。

夜な夜な薫の泣き声が部屋に木霊する。

「えーん、裕樹ぃ~寂しいよ~」

翌日も、また翌日も夜は麻里に裕樹を独占され薫は悶々とした生活を送る。

「そうそう、監督さんが薫ちゃんの演技、褒めていたわよ」

夜の勉強会で麻里が来るまでの間、一美が昼間薫の出演している戦隊ものの監督から聞いた話をし始める。

「今のクール、故郷を追われ地球に逃げてきたアカルイナ姫。

 それを追いながら地球侵略をもくろむワルイデス総統率いるワルイダー軍。

 アカルイナ姫を保護して迎え撃つピカレンジャー。

 善戦していたけど、敵も強力になってきて苦戦を強いられるピカレンジャー『勝てるのかしら?』と不安に襲われるアカルイナ姫。

 最初の山場っていうところね」

「一美さん、なんだかんだ言っても詳しいですね」

当初一美は薫が戦隊ものに出演するのはいい顔をしておらず、物語も子供向けと言うこともあって興味がなかったはずだった。

その一美が目を輝かせて話をするのが裕樹は面白かった。

「当たり前でしょ。

 ウチの薫ちゃんが出演しているのよ。

 出来栄えのチェックで毎週テレビを見ているし、物語もちゃんと把握しているわよ」

うそうそ、主演のピカレッドの俳優が好きだって言っていたじゃないか。

薫ちゃんよりそっちが目当てでしょ。

裕樹は吹き出しそうになるのを抑える。

「それで監督さんはなんていっていたの?」

「え?

 あ、そうそう。

 なんか一皮むけたように、仕草に感情が現れるようになってきたんだって。

 特に、今は難しい“勝てるのか”という不安を表現するのだけど、表情のでないお面で手や肩の落とし方、俯く仕草にその感情が良く出ているんですって」

「へぇ~。

 練習の成果が出ているんだな」

そう言えばもう2週間以上、薫ちゃんとSEXしていないな。

以前だったら薫ちゃんの方から寄って来ていたのに、きっと演技の練習に夢中なんだろうな。

裕樹は麻里の相手で薫との時間を作れていないことをついつい忘れていた。

その監督の感想がそのまま視聴率に現れる。

「最近のアカルイナ姫不安そうだけど大丈夫かな」

「アカルイナ姫、可哀想~」

子供たちがテレビを見た子供たちが話をし、一緒に見ていた親やオタクがうなずき始めた。

「アカルイナ姫を演じるアクターが変わったのかな」

「そうだな。

 演技が上手くなったもんな。

 前はガキの遊戯だったけど、最近は見ていて頷ける」

「それに体の線もふっくらしていて女っぽいしな。

 きっと可愛い女優だと思うけど」

「そう、俺も気になってさ。

 でも誰なんだろう。

 配役の名前が出ないし、ネットで検索しても”?”だからな」

オタクたちの間でアカルイナ姫を演じている薫が評判になっていく。

しかし、今回は監督の意向で、薫が演じていることは一切公開しないようにと指示があり、スタッフ、関係者たちも完璧に口外していなかった。

一美も裕樹も最初は名前が出ないことについて不満だったが、話題づくりという説明を受けしぶしぶ了承していた。


「そうそう、裕樹さん。

 美由紀に会ったでしょう。

 美由紀ったら大喜びよ」

一美が話を変える。

「そうかぁ?

 でも、いろいろな事教えてくれたよ。

 取引先の担当者の裏情報。

 びっくりしたよ。

 あの真面目そうな担当者がキャバクラ三昧しているとか」

裕樹は誘われて前の週末に美由紀とその友達というやはり同業他社のマネージャーの男女合わせて4人で酒を飲みながら情報交換会をした。

しかし、そんなに情報を持っていない裕樹はもっぱら聞き手に回っていたが、聞き上手の裕樹を気に入ったのか美由紀たちはクライアントの裏情報を含めいろいろと裕樹に話し、帰り際には定期的に交換会を行おうと約束までしていた。

それだけでなく、結構な頻度で仕事以外のことでも裕樹にLINEを送って来て、裕樹は可愛らしく美人な美由紀にまんざらではない感情を抱くようになっていた。

「あ、あの人?

 有名よ。

 しかも赤ちゃんプレイ!」

「え?

 赤ちゃんプレイ?」

「『僕ぅ~、疲れちゃったぁ~』

 『あらあら、頑張り過ぎちゃったでちゅか?

  可哀想でちゅね。

  胸でパフパフしてあげまちょうか?』

 なんてね」

一美が面白そうに笑う。

「ふーん、あの真面目そうな人がな。

 人は見かけによらないって本当だな」

裕樹は失笑するしかなかった。

それから麻里の勉強を見るのに加え、勉強会がない時に薫が裕樹の部屋に遊びに行っても頻繁に美由紀からLINEや電話が入ったりして二人きりで肌を合わせる時間がなくなっていた。

もう、折角二人っきりの時間ができたのに。

裕樹ったら居留守も使わないで。

何日も私とセックスしていないのに、平気なのかなぁ?

・・・

美由紀さんとなんの話をしているのかしら。

とっても楽しそう。

そう言えば最近何だか感じが悪くなったみたい。

妙にちゃらちゃらするようになったし…。

もう!!

目の前で最近使い始めた横柄な言葉づかいで話す裕樹を見て、薫は小さくため息を漏らすと裕樹の部屋から何も言わずに出て行く。

裕樹はすっかり美由紀とまるで恋人のようにため口言葉で話をした後電話を切ると薫がいなくなっていることに気が付く。

薫は自分の部屋に戻ったか。

まあいいや。

でも、こんなに頻繁に連絡してくるなんて美由紀は()()惚れているのかな。

麻里もいい匂いをさせてそばに寄って来るし、やっぱり俺って女の子にもてる?

モテ期に入ったか?

いや、そんな一過性じゃなく、今まで気が付かなかったけどモテるんだ…

裕樹はまじまじと鏡に映した自分の顔を眺める。

そこには以前のような青白い顔ではなく、少し日に焼けたような、自信に満ちたような自分の顔があった。


数日後、薫が裕樹に話しかける。

「ねえ、裕樹。

 最近、裕樹ちょっと変よ」

「変?」

「うん。

 なんか態度も言葉づかいも横柄になったって。」

「誰がそんなことを?」

「う、うん。

 ちょっと耳に入っただけ」

実際は麻里やレッスンに通っている劇団の人間、それに撮影の現場スタッフから聞いて、ヤキモキしていたところだった。

特に麻里は勉強を見てもらっていた裕樹の態度の変化に敏感だった。

「何か最近の高橋さん、気持ち悪くて」

「え?」

「私を見る目が厭らしくなった気がする。

 それにまるでチャラ男みたいに言葉も態度も横柄になって。

 あんなの私の好みじゃないわ」

「…」

嫌悪感丸出しの麻里に薫は何も言えない。

最近、仕事も馴れたからかしら。

でも、こんなのじゃその内皆からそっぽ向かれちゃう。

全く気にかけていない裕樹の顔を見て、薫は心配と同時に怒りがこみあげてくる。

こんなの私が好きな裕樹じゃない。

どうしたら前のような優しい裕樹に戻ってくれるかしら。

目の前で美由紀と電話でニヤニヤしながら話している裕樹を見て、薫は少し乱暴に部屋から出て行く。

電話をしながら出て行く薫が目線に入る。

最近相手にしていないから薫も俺のことを変だと言っているのか。

そうだよな。

アイドル並みに俺はモテるし。

以前、バイトしていた図書館でも結構女子高生や大学生くらいの女の子がちらちら俺の方を見ていたっけ。

少し年上の事務職の女性もなんだかんだと話しかけてきたなぁ。

やっぱりそうだ。

裕樹は妙な自信が沸いてくると同時に気も大きくなってくる。

薫は焼きもちを焼いているんだろう。

確かに可愛いけど、他にも可愛い子や美人の女性もいるし。

薫に嫌われても、そうだな美由紀がいればいいか。

麻里は高校生だから後々面倒になるしな。

今度、美由紀を誘ってみよう。

きっと俺に惚れているのだろうから声を掛ければ喜んで結婚してとか言ってくるだろう。

そうしたら、ここから出て一緒に暮らすか。

仕事ももっと大きな会社に入って好きなことをして。

まあ、俺しか知らない女の子を好みに育て上げるのもいいかもな。

それは何人もの男と関係があった薫に対するわだかまりが顔を持ち上げたものだった。

裕樹は大学生の時にバイト先で一緒だった40代後半の独身女性に寂しいからと手ほどきを受け筆おろしをし、その後女性経験はやはり学生時代飲んだ勢いで同級生と関係を持ったくらいで、しかも両方ともすぐに別れ女性経験は人数、回数とも少なかった。

薫の話を聞くとどう数えても両手の指では足りない程はあり、自分よりも数段異性との経験があることにコンプレックスを感じていた。

今まで女性から好意を持たれることがなかった、実際は気が付いていなかったこともあったが、その自分が薫以外にも一美や麻里、そして美由紀に親しくされ自惚れ自意識過剰に陥るのも造作なかった。

「この前、監督さんにこのタレントさん使ったらって提案したらすごく感謝されたのよ」

「そうなんだ」

「そうよ。

 現場の人たちって所詮視野が狭いのよ。

 だから、私たちに提案してもらうとすごく喜ぶのよ。

 やってごらんなさいよ。

 裕樹ならみんな喜んでいうこと聞くわよ」

美由紀におだてられ裕樹は本来のマネージャーという範疇を超え、まるで自分が総監督のように現場で雰囲気を乱すようなことを平気で言うようになり、薫をはらはらさせていた。


ピカレンジャーも新しいクールに入って行く。

「今回のクールは敵との戦いで連戦連勝しているピカレッドたちピカレンジャーが自意識過剰になり、今までアカルイナ姫の助言を聞いていたのが耳を傾けなくなった。

 アカルイナ姫は今戦っているのは様子見の比較的弱い敵でそろそろ強いのが出てくることを知っている。

 なんとか気を引き締めさせ、もっと訓練したり研究したりしないと大変なことになると一生懸命言うが聞き入れられず、心配と怒りが入り混じるというちょっと難しい設定だ。

 大丈夫?」

「はい。

 がんばります」

監督から説明を受け薫は明るく返事をする。

この子はだいぶ、いや当初から比べると演技もうまくなったし、それにこの性格の良さ。

頭も顔もいいし、スタイルもこれから磨いて行けば良くなる。

女優として大成する素質がある。

それに比べて…。

監督は目を細めて薫を見た後、蔑んだ目で裕樹を見る。

最初合った時は、まじめでいい奴と思っていたのだが、最近、所かまわず女のスタッフに色目を使うようになって。

話し方も横柄だし、訳の分からんことを口出ししてくるし。

この前なんか敵の女キャラをもっと見栄えのいい女優に変えた方がいい。

皆見る目がないから自分の知っている女優を紹介するだと?

一気にスタッフ間で気まずい空気を作りやがって。

薫くんが一生懸命取り持っていたからなんとかなったが。

あんなちゃらちゃらした男がいると現場の雰囲気も悪くなる。

できれば現場に来てほしくないのだが、この子がうんといわないしなぁ。

「この前話したマネージャーを代える話はどうなった?」

監督はストレートに薫に話しかける。

「え?

 い、いえ。

 マネージャーを代えるなんてとんでもないです。

 私のマネージャーは裕樹だけです」

「そうか。

 でもなあ…」

「わかっています…」

薫は監督が何を言いたいのか痛いほどわかっていた。


数日前劇団フォースの浅倉からも言われていた。

「最近演技が凄く上手になったって褒めないことで有名なあの監督が薫ちゃんを誉め捲っていたわよ。

 お子様向けの戦隊モノって軽くみられるけど、今はそこから男優、女優に花開いて行く人が多いのよ。

 お子さんと一緒に親が見るじゃない。

 この人カッコいいとかかわいいとか、あっという間にママ友の間で広まっていくから馬鹿にできないのよ。

 それに強大な戦隊オタクもいるから」

「ありがとうございます。

 でも私、お面被っているし顔が見えていないし、名前も出ないし…」

「でも監督さん、表情が出ないお面を被っていても仕草で伝わるようになってきているって凄く褒めていたわよ。

 それに、何かを考えているみたい」

「なにか?」

「それは私にもわからないわ。

 … 

 で、今日はそれ以外に話があるの」

「は、はい」

薫は唾を飲み込むと緊張した面持ちで浅倉の視線を受け止める。

「ふーん。

 やっぱりいい顔つきになって来たわね。

 未だに他の人からもらった食べ物や飲み物を口にしないのね。

 どうして?」

「え?

 そ、それは…」

昔、薬の入った飲み物や食べ物を摂取させられ体を玩ばれていたため、今でも裕樹が持ってきたものしか口にすることが出来なかった。

身を固くする薫を見て浅倉は視線を緩める。

「まあいいわ。

 初めの頃は団員達も違和感を感じ”何をお高くとまっているんだろう”って思っていたらしいけど、その他の態度では薫は真面目で素直だとわかったらしく、ダイエット絡みで制限をしているんだろうって気に留めなくなったきたし。

 それより皆、薫ちゃんのことを可愛いって褒めているしね」

「あ、ありがとうございます」

薫は恥ずかしそうに顔を染める。

「すぐに『マネージャー、お茶買って来て!』ですものね。

 始めは皆()()()()()()に同情したわ」

「?」

薫は浅倉の口から『高橋君』、『裕樹君』とではなく『マネージャー』と言う言葉が出て違和感を感じる。

「で、本題なんだけど、薫ちゃん、マネージャーを代えない?

 一美さんでもいいわ」

「え?

 なんのこと?」

「知っていると思うけど、あのマネージャーさん、人が変わったみたいに横柄になり感じが凄く悪くなったわ。

 お母さんに言われていない?」

加津江から『最近の裕樹はおかしい』と言う言葉を思い出していた。

思い起こせば最近裕樹は自分との間に一線を引いているのか、仕事以外の接点が少なくなっている。

特にSEXはここ数か月で数えるほどしかなく薫は寂しくて仕方なかった。

仕事が忙しいのだろうと自分に言い聞かせていたが、態度も口調も冷たく感じ自分のことを嫌いになったのか不安で仕方なかった。

「いろいろな現場で顰蹙(ひんしゅく)買っているの。

 関係ない所にまで口出ししてきて、『お前は何様だ』って皆文句言っているわ。

 『お前は現場監督か?それともスポンサーか?』ってね。

 薫ちゃんの評判が上がっていくのと反比例して、あんなマネージャーが付いているなら使えないなっていう声もちらほら上がってきているわ。

 このまま足を引っ張られると勿体ないじゃない。

 大事にならない今のうちに代えたらどうっていうこと。.

 あの監督さんが私からも言ってくれって」

「そ、そうなんですか…」

薫は最近現場スタッフが今浅倉が言ったことを言っていたことを思い出す。

あまりのことで薫はどうしたらいいのかわからなかった。

「今ここで返事をしろと言わないけど、なるべく早くに手を打った方がいわよ。

 ちゃんとお母さまに相談してね」

「は、はい…」

それから薫は裕樹に何回かみんなが言っていることを自分の口から裕樹に話そうとしていたが、裕樹の自信満々な言動の前で言えなかった。

もし、こんなこと言って裕樹が気を悪くしたらどうしよう。

何度か好きだと言ってくれたけど、最近なにも言ってくれないし。

私のことを本気で嫌いになったらどうしよう。

そんなことになったら私、生きていけない…。


不安が渦巻くのとは裏腹にアカルイナ姫の人気はうなぎ登りに上昇し、誰が演じているのかあちらこちらで話題になるほどだった。

また、演技の影響か表情を作るのも上手くなった薫本人もモデルとしての人気が出始め、いろいろな雑誌に載るようになっていた。

「あれ?

 こいつ、確かあの時の女じゃないか」

薫の写真が載っている雑誌を見ながらひとりの男が呟く。

「なに?

 この子、翔馬の知り合い?」

「え?

 あ、いや、ぜんぜん」

マネージャーに声を掛けられ男は雑誌を閉じる。

男は福地翔馬19歳。

子役時代から母性本能をくすぐるような顔立ちで”みんなの弟”と呼ばれる俳優だった。

純情派路線で売っているが裏ではデビュー前や日の目の見ないモデルや若手女優に言葉上手に手を出しマネージャーに火消しをさせる女癖の悪い一面も持っていた。

こいつ、たしか加平の玩具だった女じゃないか。

俺も加平に言われてこいつで筆おろしさせてもらったっけ。

まだ、この業界にいたんだ。

てっきり加平が逮捕され、女もいなくなったと思ったんだが。

あの時は加平のものだったしそんなでもなかったけど、あれから随分いい女になったな。

・・・

今の女も飽きてきたし昔のよしみだ、また犯らせてもらうか。

翔馬はにやにやと笑う。

数日後。

ロケの帰りの駐車場で車に乗ろうとした薫と裕樹は3人組の暴漢に襲われる。

裕樹はスタンガンで身動き取れなくなったところに殴る蹴るで気を失い、薫は後ろ手を取られタオルで口を塞がれ、二人とも暴漢たちの車に乗せられる。

「…」

裕樹は目を覚ますと体が動かないことに気が付く。

意識がはっきりしてくるとどこかの部屋で太陽光なのか電灯なのか部屋は明るくかった。

その中で裕樹自身は椅子に縛り付けられ、口にはさるぐつわを噛まされ声を出すことが出来なかった。

「ひろき…」

「!!」

薫の声に気が付き声の方向を見ると目の前にベッドがあり、その上に手首をベッドの柱に縛られ仰向けに寝かされている薫が見えた。

薫の姿は下半身はすべて脱がされ白い脚があらわになり、上半身も着ていた白のブラウスのボタンが全部外されインナーも剥ぎ取られ、可愛い乳房があらわになっていた。

「さてと、お前の大事な『裕樹さん』が目を覚ましたところで、楽しませてもらうか。

 こいつ、一生懸命お前の名前を読んでいたぜ。

 『ひろき~、ひろき~』てな」

男の顔はどこかで見覚えのある顔だった。

男は全裸で舌なめずりするように薫の裸体を見下ろしていた。

そして下半身の一物は狂気のように猛り狂っている。

男はゆっくりと薫に覆いかぶさる。

「い、いやー!

 裕樹、助けて!!」

薫が悲鳴を上げるが男はお構いなしに薫の胸を掴むと揉み始める。

そして顔を薫の首筋に埋めるとチュッチュと嫌らしい音を立て首筋を舐めたり吸ったりし始める。

乳房をもんでいた指が乳首をつまむ。

「く、くぅ」

痛みからなのか薫は苦悶の声を上げる。

「おほ!

 もう乳首が固くなってきてるじゃん。

 あいつには『ともかくぶっこんで荒々しく突きまくれば喜ぶ』って聞いていたけど、そんなことないよな。

 可愛がってやるよ」

「や、やめてぇ」

薫の声は泣き声の様だった。

裕樹は助けようともがくがぴくりとも体を動かすことが出来なかった。

「や、やめ…て…」

男は薫の乳首を口に含み、チュパチャパと音を立てて吸う。

「嫌…」

薫は体をよじって逃げようとするが両手を縛られ逃げることが出来ない。

すると男の手がするすると薫の股間に伸びで行く。

「!」

薫は大事なところを守ろうと体を強張らせるが男の手はいとも簡単に滑り込む。

「くくく。

 結構、びしょびしょじゃねえか。

 乳首刺激しただけでこんなに濡れて。

 お前、欲求不満か?」

「うぅ…

 やめて…」

言葉とは逆に薫の脚の力が抜けていく。

「ほらほら、可愛がってほしいのか。

 ほら」

「やっ…」

男の手が動くと薫はピクンと腰を持ち上げるように動かす。

「中も熱いじゃねぇか。

 それにねちょねちょだぜ」

男が手を動かすたびに薫は腰を上げ体を仰け反らせる。

「いいね、いいね。

 そろそろほしいだろ?

 入れてやるよ」

裕樹は半狂乱になって体を動かそうとするがだめだった。

薫!

がんばれ。

そんな奴に感じるな!!

裕樹の声はさるぐつわを噛まされていたので唸り声にしかならない。

男は体をずらし、薫の両ひざの後ろに腕を通し脚を持ち上げると腰を薫の秘部に押し付けて行く。

「ひ、ひろきぃー!!」

薫は悲鳴に似た声を上げるが、男の猛り狂った一物がその悲鳴を引き裂くように薫の中に入って行く。

薫は目をぎゅっと閉じ眉間にしわを寄せ、顔を仰け反らせる。

「いいねぇ。

 熱く柔らかでいい気持だ。

 優しくやってやるからな」

男はゆっくり腰を動かすとその動きに合わせ薫も腰を動かす。

薫、感じているのか。

裕樹は絶望の中に落ちて行く。

いつの間にか薫を縛っていた縄が解け、男は薫を四つん這いにし後ろから突き入れる。

それと同時に片手を薫の股間に伸ばし突き入れながら指でも刺激をしているようだった。

「あっ、ああ…

 いやぁ…

 あああ…」

薫の口から裕樹が聞いたことのない喘ぎ声が漏れる。

「ほらほら、いい気持だろう」

「いや、いやあぁぁ」

薫は腰を痙攣させ顔を布団に埋めるが男のいいなりになり快感に耐えているような苦しげな顔を裕樹に向ける。

薫の眼中に裕樹は写っていないようだった。

「よしよし」

男はそのまま薫を後ろから抱いたまま胡坐をかくと、両脚を開いたままの薫を胡坐の中に座らされる。

男の太く大きな一物が別の生き物のように背後から薫の中に入って行く。

正面の裕樹から男が腰を動かし下から突き上げるようにして一物が薫の中に入って行くのが良く見えた。

薫は上下に抜き差しされる度、それに合わせるかのように顔を下げたり仰け反るように顔を上げる。

その顔は眉間に皺を寄せながらも何か歓びを感じているようで、男の一物は薫の愛液を纏い黒く光っていた。

「さて、そろそろお前の中に出してやるか。

 欲しいだろ?」

再び仰向きに寝かされ両脚を持たれ中に挿入された薫の目は虚ろだった。

グチュッ、グチュッ

男との接合部分から厭らしい音が聞こえる。

薫は目を閉じ口を半開きにしている。

「…」

男の動きに合わせ乳房が上下に動く。

「欲しいだろ?」

薫は小さく頷く。

「ほら、欲しいと声を出して言え」

男は腰を動かしながら薫に命じる。

薫は眉間に皺を寄せながら何かに必死に耐えているようだったが、ついに「欲しい」と小さく漏らす。

「よしよし。

 そんなに言うならお前の中に出してやるよ」

男の腰の動きが早くなると薫の額に汗がにじみ上気した顔を横に振りながら男の腕を掴む。

そして哀願するように口から声を漏らす。

「あ、ああ…

 く、ください

 あああ…

 いっいいー」

「くっくっく。

 いいだろう」

男も汗を浮かべながら腰を動かす。

ギシギシというベッドがきしむ音とともにグチュグチュと卑猥な音が聞こえる。

「ふ!」

男は体を硬直させ動きを止めると薫の中に何かを流し込んだようだった。

「あっ、ああー」

薫は声を上げ体をのけ反らせ腰を痙攣させ、それを受け入れている。

男は裕樹に振り向きにやりと笑う。

や、やめろー。

裕樹は絶叫する

「え?」

気が付くと裕樹は自分のベッドの上だった。

「ゆ、夢かぁ…。

 夢でも薫が知らない男に犯され歓んでいるなんて…」

その時裕樹の中に薫に対する明確な嫌悪感が芽生えた。


その日を境に裕樹の薫に対する態度が変わっていく。

「ねえ、裕樹。

 最近どうしたの?

 一緒にジムにも行かないし、なにか余所余所しい…」

「そうか?

 少し疲れているからかな」

こいつ、病気だなんていいながら結局男が好きなんじゃないか。

今でも、隠れて男をあさっているに違いない。

そう言えば最近撮影現場でも楽しそうだし。

ピカレッドやっている俳優、なかなかイケメンだし妙に仲いいし、もしかして出来てる?

だとしたら病気じゃなくて根っからの好きものか…。

いつものように寄って来る薫から距離を取るように離れる裕樹。

「?

 なに?

 どうかしたの?」

訝しがる薫。

「どうかしたかって?」

「え?

 ううん、なんでも…」

私のことを避けている?

ううん、そんな…

でも、でも言わなくっちゃ。

薫の頭の中に浅倉の言葉が浮ぶ。

『マネージャーを代えない?』

私のマネージャーは裕樹だけ。

最近、仕事が忙しくて自分を見失っているだけよ。

いつもの裕樹に戻ってもらわなくっちゃ。

意を決して薫は口を開く。

「ねえ、裕樹。

 最近どうしたの?

「また、その話か。

 特に何でもないって言っているだろ」

あからさまに不機嫌になっていく裕樹はその口調、表情で誰が見るよりも明らかだった。

しかし、薫も必死だった。

「周りの人にいろいろ言っているじゃない。

 少し言い過ぎ…」

「うるさい!!」

大声を上げる裕樹を初めて見たのか、薫は体を硬直させる。

「皆わかっていないんだよ。

 センスがないって言うのか、頭悪いって言うか。

 だから、俺が忠告してやっているんだよ。

 俺の言ったようにやれば上手くいくのになんだあの煙たそうな目で俺を見やがって。

 自分たちの無能さを気が付いていないんだよ」

「ひ、裕樹。

 そんな、言い過ぎよ…」

「うるせえな。

 ()()だって何一つわかっちゃいないよな」

「裕樹…」

裕樹から『お前』呼ばわりされるのも初めてなことで薫は驚き委縮する。

「ちょっと顔がいいからって、でも結局スーツアクターの話しか来ないじゃないか。

 そう言えば最近楽しそうに現場に行くよな。

 あのレッド君、好きなのかな?

 もうとっくに俺は飽きてそっちに乗り換えたかな?

 お前本当は男好き…」

パチンと薫の平手が裕樹の頬を捉える。

「痛ぇな、何するんだ!」

裕樹の目の前にいる薫の顔は怒っていながら泣いている顔をしていた。

そして裕樹に背を向けると薫は肩を震わせながらそのまま小走りに去っていく。

ちっ、なんだ図星か…。

嫌なものを見るような目で裕樹は薫の後姿を見送る。

ただ、何か後味の悪いようなもやもや感じていた。


それから数日後。

薫と裕樹の間には微妙な空気が流れていた。

会話は極端に少なく、薫は「はい」「いいえ」の返事のみで裕樹の部屋に行くことはなくなり、裕樹も敢えて仕事以外の話はせずに薫の方を見ようともしなかった。

そんな二人の間に吹いている隙間風に関係なく薫が演じるアカルイナ姫の人気はうなぎ登りに上がっていく。

特にお面を被っているので顔は見えないが、その一挙一動が台詞以上に女の子の感情を見事に表現し、見ている者はそのお面の下のスーツアクターの顔に否が応でも想像を掻き立てていた。

そして皆、その顔を年相応の美少女と想像し物語に引きずりこまれていく。

「薫ちゃん、すごいよ。

 ピカレンジャーの視聴率、この前なんかあと少しで30%行くところだったんだから。

 スポンサーは大喜びでもう大変な騒ぎよ」

一美が興奮した顔で薫に話しかける。

「え?

 ええ…」

「ん?

 嬉しくないの?」

「いえ、そんなことないです。

 私じゃなくて他の人たちの頑張りですよ」

「バカね。

 アカルイナ姫よ、アカルイナ姫。

 老若男女問わず今大人気なのよ」

「え、ええ」

「嬉しくないの?」

「だって、アカルイナ姫でしょ。

 私じゃないし、それに…」

言葉を濁す薫を見て一美は訝しがる。

「どうしたの?

 どこか具合でも悪いの?」

薫は首を横に振る。

「じゃあ…。

 ()()のこと?」

一美のいつの間にか裕樹のことを親しく名前で呼ばずに苗字で呼ぶようになっていた。

「…」

「私もマネージャーを代えた方がいいと思っている。

 今のあいつだったら薫ちゃんの足を引っ張るだけ。

 せっかく評判になっているのに皆使いたがらなくなっちゃったら仕事の幅が広がらないわ」

「…」

「ねえ、私に薫ちゃんのマネージャーを任せてくれない?

 薫ちゃんの希望に添えるようにマネージメントするから。

 信じて」

「一美さん…

 ありがとうございます。

 でも、少し待ってください」

「いいけど、お仕事大丈夫?」

「はい」

「ピカレンジャーもいよいよ佳境よ。

 ピカレッドとアカルイナ姫の間に溝が出来て、ピカレンジャーの基地を飛び出したアカルイナ姫に敵の魔の手が迫る一番の見せ場のクールよ」

「大丈夫です。

 子供たちの声援が聞こえるので頑張ります!」

通学途中で小学生がピカレンジャーのことを夢中になって話しているのを思い出し気持ちを奮い立たせるように笑顔を見せるが一美には、無理して笑っているようにしか見えなかった。


一美と話した翌日、裕樹と薫は加津江に呼び出される。

「え?

 俺が薫のマネージャーを外れる?」

「ええ、そうよ。

 高橋君は最近の自分の行動が周りにどれほど迷惑をかけているかわかっている?」

「お、お母さん」

「薫は口を挟まないで」

「俺が周りに迷惑をかけている?

 はぁ?!

 逆でしょ!

 いろいろ提案して感謝されるほうでしょ?

 あの戦隊ものだって俺がいろいろ意見をしてあそこまで視聴率が上がったんだから」

裕樹は口を尖らせ文句を言う。

「本当にそう思っているの?

 呆れた。

 やっぱり皆が言うようにクズ男になったわね」

「な、なにぃ!」

「裕樹、駄目よ。

 落ち着いて」

身を乗り出す裕樹を薫が押しとどめる。

「あなた、戦隊シリーズの視聴率が上がったのは薫をはじめスタッフさん皆が頑張ったからよ。

 自分の意見の何が取り入れられた?

 あなたが人気に一役買ったって?

 胸に手を当てて考えてごらんなさい。

 何もないはずよ。

 それに他の現場でも同じことよ」

「そ、そんなことない。

 薫?!

 薫が何か変なことを吹き込んでいるんだろう。

 この前冷たくしたんでその嫌がらせだろう」

「なっ?!

 そんなことする訳ないじゃない」

薫は怒りよりも悲しみの方が強かった。

「はい、ここまでね。

 何があったか知らないけど高橋君、君はしばらく仕事をしなくていいわ。

 自室で今一度自分を見直しなさい。」

「謹慎?

 クビということですか?」

「そうね。

 君が何も思いつかなければそうなるかもね」

「わかったよ」

悪びれもせず裕樹は加津江がいいと言う前に部屋から出て行く。

それを見て加津江はため息をつく。

「あれじゃ駄目ね。

 何があったのかしら。

 薫…」

目線の先の薫は俯き、肩を震わせ泣いていた。


寮の玄関に入ると裕樹は立ち止まる。

遠回しに言っていたが解雇だな。

まあ、転職先は困らないか。

いざとなったら美由紀のところでも転がり込むか。

あいつ、俺のことが好きみたいだからきっと喜んで迎えてくれるだろうから。

美人だし可愛いし、俺にはぴったりだな。

さて、取り合えず何をしていようか。

そう言えば麻里とは最近全然だったな。

あの子の俺のことが好きみたいだし、また勉強でも見てやってちょっとつまみ食いしてやるか。

「あら、謹慎の身で楽しそうじゃない?」

部屋から出てきた一美が裕樹を見つけて声をかける。

「なんだ、もう知っていたのか」

「当たり前でしょ。

 少しは頭を冷やしなさいよ」

こいつも俺のことを好きだったな。

一緒にラブホにまで入って、あの時やっておけばよかったか。

邪険にした恨みか。

裕樹は一美が自分に焼きもちを焼いているのだと勝手に思う。

「そんなことより麻里はどうした?

 最近見かけないし、たまには勉強でもみてやろうかと思うんだけど」

「あら、知らなかったの?

 両親が予定より早く帰国したから一昨日ここを出て両親の家に帰って行ったわよ。」

「え?

 そうなんだ。

 一言くらいあってもいいのに」

「何言っているのよ。

 あの子、あなたのことを嫌っていたわよ。

 だから元の家に帰るの前倒しにしてとっととここを引き払ったのよ」

「な、なに?」

裕樹の態度が変わってきたのを敏感に察した麻里は急激に裕樹に対する思いが冷えていて、最近では避けていたのを裕樹は気づいていなかった。

「あ、そうそう。

 ついでだから言っておくわね。

 美由紀、籍を入れたんですって。

 赤ちゃんプレイが好きなクライアントと」

「な、なんだって?!」

裕樹にとって美由紀が結婚したということは青天の霹靂(せいてんのへきれき)で転職先、あわよくば美由紀と結婚という夢のプランが足元から崩れ出す。

「で、美由紀言っていたわよ。

 裕樹さん、私のこと好きみたいだから気を落とさないでねって」

「…」

「それから最近のあなたの様子を心配していたわよ。」

「心配?!」

「ちょっと(おだ)てて揶揄(からか)ったらその気になっちゃったって。

 面白かったし他社の人間だから放っておいたって。

 美由紀って性格が悪い所があって揶揄えると思うととことん揶揄ってくるのよ。

 過去、何人もそれで潰されたっけ。

 まさかあなたもその口だったとは思わなかったわ」

「揶揄われていた?

 俺が?

 この()が…」

裕樹は足元の地面ががらがらと崩れていくようだった。

じゃあ、僕は、僕の言っていたことは?

確かに出過ぎた真似して、結局、皆にそっぽを向かれて。

しかも薫ちゃんにも酷いことを…

僕は、僕は最低だ。

最低な人間だ。

裕樹はいつの間にか身に着けていた不快でどす黒い鎧がはがれ軽くなった半面、すべてを失った寒さと空慮感からよろよろと部屋に向かって歩き始める。

「…」

ようやく目が覚めたかしら。

失ったものは大きいけど、裕樹さんならきっと取り返してくれるでしょう。

皆がそっぽを向いても私が傍にいてあげるわよ。

肩を落として歩く裕樹の後姿を見る一美の目は温かだった。

昔、「モテ期」というような映画があったのを思い出しました。

男女とも30代前後でしょうか。

脂がのって艶っぽくなる時。

その頃、異様に異性にモテたという話を聞きますし、見ていて確かにと思う時があります。

魚で例えると鰤の手前あたりでしょうか。

私は鰤の照り焼きが好きです。

さて、次回はすべてを失ってしまった裕樹。

このまま薫と離れて行ってしまうのでしょうか。

では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ