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AとK  作者: 東久保 亜鈴
22/29

Aの巻(その八②)

同級生の男子から家に誘われ、喜びと期待に胸を膨らませ出かける葵。

遊びであり、目的は葵の体だけということも知らずに、その手の中へ。

一方、翔太の方は、葵を失い、ぽっかりと胸に穴が開いたような状態。

そこに、一人の女性が「私を買わない?」と声をかけてくる。

寂しさを紛らわすために、その誘いを受ける。

葵と翔太の中に修復不能なひび割れが。。。

翌日の日曜日の朝。

葵は翔太があまり見たことのない可愛らしい濃いグレーのデニム調のワンピースを着ていた。

しかし、その顔は複雑な表情をしている。

「今日は、バイトを休んで、友達と遊びに行くんだったな。

 その服装、可愛いね」

あーあ、彼氏とデートで頑張っちゃって、可愛いいこと。

でも、なんか残念だな。

まあ、仕方ないか。

やっぱり同世代がいいよな。

「ありがとうございます」

翔太は努めて普段通りに接するが、葵の顔は曇りがちだった。

夕方、お姉ちゃんが話に来てくれる。

そうしたら、ここを出て行く。

寂しいけど仕方ない。

加山君と付き合いながら翔太さんと一緒にいるなんて…できない。

だって、楽しい話、加山君の話はできないし、翔太さんがなんて思うか。

結局、翔太さんは私のことを女性とは、恋愛対象とは見てくれなかった。

歳が離れているせい?

私が子供過ぎた?

でも、もういい。

私には加山君という素敵な男の子がいる。

新しい世界に踏み出さないと。

「夕方、お姉ちゃんが来るんだったよな。

 また、酒でも買っておかないと」

「い、いえ。

 今日は翔太さんに話があって来るので、お酒はいりません」

「そうだったな」

前日の夜、葵は神妙な顔をして姉の茜が翔太に話があるからと都合を聞いていた。

まあ、あの顔を見れば、話の内容はわかるか。

今まで、葵ちゃんの世話を焼いてありがとう。

葵は好きな男の子ができたので、この家から出て行きます。

ってな話だろうに。

茜のことだから、包み隠さずではなく、単刀直入に言ってくるだろう。

まあ、俺としても楽しい1年だったから、駄々こねるつもりはないけどな。

なんて、お人好しなんだろう。

「夕方、何時ごろかな?」

「たぶん、5時か6時ごろと思います。

 その頃までには私も帰ってきます」

「そうか。

 わかった。」

「あ、私、そろそろ行ってきます」

時計は10時を少し過ぎていた。

加山との約束は11時に駅の改札口で待ち合わせの約束をしていた。

それから一駅、電車に乗って、加山の家に勉強を一緒にするという口実で遊びに行く予定だった。

「いってらっしゃい」

いつものように翔太は笑顔で葵を送り出す。

葵は、何か悪いことをしているような後ろめたさを感じながら翔太のマンションを出て行く。

お姉ちゃん、何て説明するんだろうか。

翔太さん、怒るかな。

今まで、良い生活をさせてくれて、部屋も何から何まで用意してくれて…。

美味しいものをいっぱい食べさせてくれて、いっぱい遊んでくれて、いっぱい笑わせてくれて…。

いいのかなぁ。

「さようなら」って言うだけで出て行って。

駅に向かう道中、葵は考えに(ふけ)っていたが、駅が近づくにつれて加山の顔が脳裏にちらつき始め気持ちは高ぶって来る。

でも、びっくりしたな。

いきなりキスされて、付き合ってくれって。

嬉しかったな。

男の人から告白されたの初めてだし…。

洋服、地味だったかな。

もう一着、お気に入りの白とベージュのロングワンピ持っているから、それにすれば良かったかな。

でも、男の子と逢うって、翔太さんにばれちゃうかもしれないし。

今日は、この格好で我慢しよう。

下着も可愛いのにしてきたし…。

楓花ちゃん、言っていたな。

男の子の家に行くと、迫って来るって。

だいたい、初めての時は男の子の部屋でって言っていたし。

もし、求めてきたら?

許しちゃう?

どうしよう…。

その時は、その時で、成り行きでいいかな。

加山君だったらいいし。

私のことを大事に、守ってくれるって言っていたしな。

うふふ。

頭の中は加山のことだけになり、茜が話に来ること、夕方までに帰らなければいけないことはどこかに飛んで行っていた。

このまま行くと、待ち合わせの改札口に30分前に着いちゃうな。

どうしよう。

駅の近くの本屋さんで時間を潰そうかな。

ううん。

もし、加山君が早く来て私が居なかったら、がっかりしちゃうな。

今日これから起こる楽しいことを想像しながら、待ち合わせに30分も前だというのに葵の歩みは自然と早くなり、駅の改札口にまっすぐ進んでいく。

え?

加山君?

もう着ていたの?

改札が見えるところまで来ると、改札口を出たところに立っている加山の姿が見えた。

加山君も私と会うのを楽しみにしていたんだ

葵は加山のもとに急ぎ足で近づいた。

「か、加山君。

 おはよう。

 ずいぶん早いね」

息を切りながら葵は笑顔で話しかける。

「お、おはよう。

 廣瀬を待たすわけにはいかないと思ってさ。

 ほら、廣瀬、可愛いから変な奴に声を掛けられて困るといけないと思って」

「加山君たら」

可愛いと言われ葵は舞い上がるように嬉しかった。

確かに、今日に廣瀬は一段と可愛いな。

あとで、たっぷり犯らせてもらわないと。

加山はすっかり葵が自分の手に落ちたことを確信し、心の中でほくそ笑む。

陽子先輩もそろそろ飽きてきたしな。

そう思いながら、昨日のことを思い出していた。

葵がバイトに精を出している頃、加山と陽子と知念はファッションホテルにいた。

「もう。

 3人目は追加料金とられるんだからね。」

ベッドの上にしゃがみ込んで座っている陽子は怒ったような口調だった。

「わかっているって。

 ここの払いは、全部、任せてくれればいいよ。

 それより始める前に、例の薬、持ってきてくれた?」

加山は陽子に、葵との時に使おうと思っていた緊急ピルを頼んでいた。

「ええ。

 ちゃんと持って来たわよ。

 ほら」

陽子はカバンの中から可愛らしい熊をあしらった小さなポーチを取り出し、加山に渡す。

「サンキュー。

 5000円だっけ?

 しっかし、高いよな」

「何言っているのよ。

 これでも知り合いに頼んで半額近くにしてもらっているのよ。

 普通のピルなら3000円くらいだけど、アフターピルは高いのよ。

 文句があるなら、次から一人で買いなさいよ」

「はいはい。

 ネットでもオンライン診療が必要だとは思わなかった。

 そんなの俺にできるわけないじゃん」

加山はポケットから千円札を五枚出すと、陽子に渡す。

「まだまだ、日本は厳しいのよ。

 古いっていうのかしら。

 アメリカじゃ普通に薬局で売っているって話なのにね」

「お!

 それ、明日の廣瀬に使うのか?」

知念が横から口を挟む。

「ふーん。

 その子とするのは明日なんだ。

 もう、落ちたの?」

「ああ、ばっちり」

「じゃあ、上手く言ったら俺の方もお願いな」

「わかっているって。

 知念は、綾瀬だろ?」

「ふーん。

 二人とも、お楽しみのこと。」

陽子はつまらなそうな声を出す。

「おや?

 陽子先輩、俺たちに焼きもち焼いてくれるの?」

「そ、そんなことないわよ」

加山と知念は目配せし、ベッドに上がると前後から陽子を挟むように近づく。

「大丈夫。

 陽子先輩が一番さ」

「今日は、二人掛かりでたっぷりいい気持させてやるよ」

陽子の後ろに回った知念は、陽子の脇に手を入れ、制服の上から陽子の胸をもむ。

「あれー?

 陽子先輩、また、胸が大きくなった?」

「な、なに言っているのよ。

 制服の上からだから、そう思うだけでしょ…」

胸を揉まれ、陽子は目を細める。

「陽子先輩。

 手コキお願い」

いつの間にか下半身裸でシャツ一枚になった加山は、自分の一物を陽子に近づける。

陽子は何も言わずに手を伸ばすと、加山の一物を握り、上下に動かす。

「陽子先輩。

 いい感じ。

 今度は口ね」

加山は立ち上がると、一物を陽子の顔に近づける。

陽子はわかっているように、一物を銜えると口で上下に扱く。

その間も、知念は陽子の胸を片手で揉み、もう一方の手を陽子のスカートの中に忍ばせ、ショーツの上から秘部のあたりを優しくなぞる。

感じてきたのか、陽子は口で銜えながらも、腰を左右に振る。

「陽子先輩。

 いい、いく」

しばらくして加山はそう言うと、陽子の口の中に放出する。

陽子は一瞬目を見開いたが、すぐに口の中の液体を飲み込むと、すぐに加山の一物を銜え、吸い始める。

「陽子先輩、最高!!

 …

 さて」

加山のその一言が合図のように、二人は陽子の制服を脱がし、全裸にすると、二人掛かりで陽子の全身愛撫する。

加山と知念はホテルに来る前に、先攻後攻を決めるジャンケンをし順番を決めていた。

二人掛かりで愛撫され、陽子は気持ちの良さから体をくねらす。

「じゃあ、俺から」

ジャンケンで最初になった加山はコンドームを装着すると、陽子の中に挿入し、腰を激しく動かす。

知念は、興奮した顔で加山と陽子のセックスを見ていた。

加山が陽子の中で果て、体を離すと、待ってましたと言わんように知念がぐったりしている陽子に覆いかぶさる。

陽子は半分ぐったりしながらも知念を迎え入れる。

しばらく横のソファで休んでいた加山は体を起こし、ベッドの方を見ると、陽子をうつ伏せにして形のいい丸いお尻を持ち上げさせ陽子をまたぐように後背位で攻めている知念を見る。

おーお。頑張っていること。

陽子先輩もまんざらじゃないな。

少し声が漏れている。

最初は3人プレイを泣いて嫌がった癖に、最近では感じるようになって、自分から求めてくるようになりやがった。

廣瀬も絶対に処女だから、調教のし甲斐があるな。

いつの間にか正上位になり、陽子を包み込むようにして腰を激しく動かす知念。

「あ、ああ…

 知念君…いい…」

「陽子先輩。

 中に出すからね」

「だめよ~。

 中に出したら」

そう言いながら両脚で知念の下半身をしっから陽子は挟み込んでいた。

「せ、先輩

 い、いい。

 もう、いく」

「ち、知念くぅん…」

知念を迎え入れて体を痙攣させる陽子を冷めた目で加山は見ていた。

明日は、廣瀬だ。

楽しみだな。


「加山君?」

「え?」

「どうしたの?

 ぼんやりして」

陽子とのセックスと、これから葵とすることを考え、加山はぼーっとしていたところを葵に声かけられ、現実に戻される。

「ご、ごめん、ごめん。

 部屋のごみを片付けたかなって思い出していて。

 ほら、男の部屋って散らかっているだろう?

 廣瀬が来る前に片付けたつもりなんだけど、汚かったらごめんな」

「ううん。

 大丈夫」

「よかった。

 じゃあ、行こうか」

「うん」

葵と加山は改札口の中に吸い込まれていく。


翔太は葵を送り出した後、リビングのソファで呆けていた。

「…

 では、次の曲。

 懐かしいですね~。

 曲は”春よ、来い”です。

 どうぞ」

ラジオから曲が流れてくる。

なんだろう。

この何か大切なものを失ってしまったような喪失感は。

あの可愛い笑顔は、もう他の奴に取られちまったか。

アホだよな。

こんな思いをするなら、とっとと手を付けてバイバイすればよかった…か。

ちっ!

俺らしくない。

今までもこんなことは良くあったじゃないか。

さんざん手を出しておいて、少し会わなかったら他の男のものになっていたなんてことは。

やれやれ、気分悪りー。

茜と酒飲んで憂さ晴らしをしないと。

でも、ちょっと待て。

葵が出て行ったら、茜とも切れるな。

流石に人妻と我が家で酒飲んでいたら、不倫に思われるよな。

でも、茜もよく見ると美人だよな。

二人とも父親が違うから見た目、全然似ていないし。

茜は細目で凛としているから、関西、京都とかかな。

葵は南国系、鹿児島や沖縄あたりかな。

もっと綺麗になるだろうな。

ええい、くさくさしていても仕方がない。

そうだ、たまには電車の乗って旨い豆大福でも買って食おう。

翔太はジャケットを羽織るとマンションを出て駅に向かって歩き出す。

駅の改札付近には、葵たちの姿はすでになかった。

やべぇ。

チャージしないと金がはいってない。

翔太はチャージのできる券売機の方に向かって歩き出す。

ウォークマンからFMラジオ放送で“じれったい”が流れてくる。

少し心が荒んできている気がする。

「あの…、お兄さん」

いきなり若い女性に声を掛けられる。

「ん?

 俺?」

声を掛けた女性は頷く。

女性は茶が入った髪をポニーテールにし、二重瞼、マスクをしているがなかなかの美人だった。

マスクをしているから、よくわからんが、まあ、20歳前後か。

で、まさか自分を買ってくれとでもいうのかな。

「私、買いたいものがあるのだけど、お金が足りなくて。

 すこし援助してくれませんか?」

え、援助交際?

俺に?

そんな歳に見られてる?

いや、さっき“お兄さん”って言っただろうに。

援交なんて40、50の世界だろうよ。

しかも、真昼間だろ、何考えてんだか。

翔太は一瞬考えた後、口を開く。

「いくら」

「あっちもOKで、これで」

女性は指を3本立てる。

「高いな」

「せ、制服もあるよ。

 制服でプレイしてもOKなのよ」

女性は慌てて手に持っている紙袋の中を翔太に見せる。

中には濃紺の高校生の制服らしい服が入っているのが見えた。

ふーん、結構、(ばな)れしているのかな。

よく見ると美人ポイしな。

「マスク外して、顔見せてくれる?」

女性はマスクを外し、少し恥ずかしそうな顔を見せる。

お!

俺好みで美人さんじゃないか。

リップしか縫っていない唇が妙に濡れて光、色っぽいなぁ。

運が戻ってきたかな?

じゃあ。

「これなら、いいよ」

マスクをかけている女性に向かって翔太は左手で指を2本、右手でパーのように手を開いて見せる。

それを見て、今度は女性が一瞬考えるがすぐに頷く。

「いいわ。

 お兄さんカッコいいから、それで手を打つわ」

うひょー!

うひょ、ひょ!!

女の体なんて何年ぶりだ?

顔を緩める翔太を女性は可笑しそうに笑うと、まるでカップルのように翔太の腕に自分の腕を絡める。

女性からは石鹸のいい香りがする。

「お兄さん、可愛い~。

 ね、どこに行く?

 お兄さんのこと気に入っちゃったから、時間制限はなしよ」

「へー。

 それは嬉しい」

やった。

好きなだけ体を堪能できるってわけか。

「お腹空いてる?」

「ううん、大丈夫。

 お兄さんの好きでいいからね。

 でも、できれば…お兄さんと二人っきりになれる場所がいいな…」

女性は恥ずかしそうに小声で言う。

もう、それで確定したものだった。

「わかった。

 じゃあ、行こうか。」

「はい」

二人はホテルのある地区に向かって歩き始める。


隣の駅の改札口をでた葵と加山は肩を並べて歩き始める。

「ここから少し遠いんだ。

 歩いて20分ちょいかな」

「大丈夫。

 家も…駅まで歩いて20分ぐらいだから」

“家まで”と言ったところで何かが引っかかり一瞬言葉が途切れた。

「そうだ。

 そこのお店でケーキ買って行かない?」

葵は目ざとく駅近くの洋菓子屋を見つけて加山に話しかける。

「ご馳走してあげる」

「いいのか?

 ラッキー!!」

「うふふ」

無邪気に喜ぶふりをする加山を見て、葵は本気で無邪気に喜んでいると思い笑顔になる。

ちょろいな、この女。

すっかり信じているぞ。

加山は心の中でほくそ笑む。

洋菓子屋でケーキを買って歩き出す二人。

風が葵の方から吹いてくる。

こいつ、いい匂いがする。

早く犯りてぇ。

加山は逸る気持ちを必死に抑えていた。

しかし、駅前の繁華街を抜け、住宅街に入ろうとしたところで、5人組のチンピラに取り囲まれる。

歳は葵と加山と同じくらいの高校生だが、喧嘩などの離れをしているか、5人ともそれらしい雰囲気をまとっていた。

一人が加山の肩を抱き、低い声で囁く。

「昼間っから、女といちゃついているのか?

 いい身分だな。

 ちょっと、そこのところまで来てくれるかな」

男が示した先には人通りのほとんどない路地があった。

「な、何を」

「逆らうんじゃねえよ」

男に凄まれ、加山は沈黙する。

「加山君…」

葵は心配そうな声を加山に向けるが、加山の脚は小刻みに震え、葵の声は聞こえていないようだった。

二人はチンピラたちに囲まれたまま、人影のない路地に連れていかれる。

「よお、結構、マブイ女連れているじゃねえか。

 なあ、俺たちも一緒に遊ばせてくれないか?」

「なあ、頼むよ」

男たちはニヤニヤ笑いながら、でも、鋭い眼光を加山に投げる。

その眼光に抵抗する勇気が木っ端みじんに吹き飛んでいた。

「何を、す、すれば」

加山は青白くなった顔で、怯えた声を出す。

「わかっているじゃないか。

 そこの女を置いて、どこかに行け」

加山の肩を抱いていた男が凄む。

「な、なに?」

「どこかへ行けと言っているんだよ」

ドスの利かせた声を出すと、加山の心を全て恐怖に塗りつぶす。

そして、恐る恐る葵の方をゆっくりと振り向く。

「加…」

葵の見た加山の顔は恐怖に歪み、泣いているようだった。

「加山…君?」

訝し気に加山を呼ぶと、加山は何も言わずに震える脚でよろめきながら、葵の横をすり抜けると、逃げるように路地から出て行く。

「あーあ、お前のナイトさん、見捨てて逃げたぜ」

え?

私、見捨てられた?

守ってくれるんじゃないの?

チンピラの声に葵は加山への熱がいっぺんに醒めたようだった。

「さあ、あんな奴のことなんか忘れて、俺たちと遊ぼうぜ」

「楽しい思い、たくさんさせてやるからよ」

「行こうぜ、行こうぜ」

チンピラたちに囲まれ、しかも頼りにしていた加山にも逃げられ、葵は絶望の中、男たちに促されるように歩き始める。

俺は悪くねえ。

あんな奴らにかかわったら、怪我何処の騒ぎじゃなくて命がいくつあっても足りやしねえ。

廣瀬も、あいつらに弄ばれ、きっと何も言えなくなるはずだ。

俺も知らん顔してればいいさ。

女は廣瀬だけじゃねえ。

そうだ、綾瀬だ。

今度は綾瀬を落とそう。

加山はチンピラたちが自分を追ってこないとわかると、少し離れたところで落ち着きを取り戻した。

そして、一呼吸置いた時、いきなり声を掛けられる。

「あんた、女を見捨てたね?」

「ひっ!」

加山が声の方を振り向くと、その視線の先にチンピラたちと同じ鋭い眼光を放っている茜がいた。

「な、なんだよ、お前は。

 お前なんかの知ったことじゃねえよ」

女だとわかると、加山はすこし度胸を取り戻したのか、口答えする。

しかし、自分の意思に反して膝が笑い始める。

「知ったこっちゃねえ、だと?

 知ったこっちゃあるんだよ。

 てめえが見捨てた女は、俺の可愛い妹なんだぜ。

 どうしてくれるんだ。

 えー?」

現役から退いていても、やんちゃで鳴らした茜は、チンピラたちよりも迫力があり、その茜に凄まれ、加山は腰を抜かしたようにその場にへたれこむ。

「ち、小便チビリやがったか」

道路に尻もちをついた加山のズボンを中心に水たまりが広がっていく。

魂を抜き取られ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で茜を見上げている加山を無視して、茜は遠く離れた道をチンピラに囲まれ歩いて行く葵を見ていた。

「あんた、あとはお願いね」

そう呟くと、じっと遠く離れていく葵の後姿を追っていた。

私、どうなっちゃうんだろう。

チンピラたちが遊びと言っていることに薄々感づいている葵は絶望的な気分でいた。

なんで加山君は私を置いて逃げたの?

ううん、もう、そんなことどうでもいい。

私、この人たちに…

嫌だ。

誰か助けて。

翔太さん、助けて。

心の中で振り絞るように翔太の名前を呼ぶ。

その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おい、お前たち。

 その子を離してもらえるかな?」

その声は、葵が一番求めていた翔太の声だった。

「翔太さん」

葵が振り向くと、そこには翔太が立っていた。

「おじさん、何か用か?」

「この子と遊びに行く途中なんだけど」

チンピラは人数的な優位もあって、翔太にひるまず言い返す。

しかし、その時、翔太の雰囲気ががらりと変わり、まるで血に飢えた猛獣を相手にしていると勘違いするほどの迫力がチンピラたちに迫る。

チンピラたちが怯んだのを見て、翔太が葵に自分の方に来るようにと目で合図し、それを察した葵は一目散に翔太のところに走り寄る。

翔太は、葵を優しく自分の背後に隠す。

「な、なんだ、てめえ」

チンピラたちは懸命に凄みを利かせた声を出そうとしてが、その声は上ずっていた。

「悪いな。

 俺はこの子の保護者だ」

「てめえ、じゃ、邪魔をするのか?」

チンピラの長と思われる男が凄む。

「保護者だって言ってるんだ。」

私の保護者?

やっぱり翔太さんは私をそういう風にしか見ていないのか…。

葵は翔太のいつもより数段大きく見える背中に安心したのか、恐怖が無くなり、冷静になって翔太の話を聞いていた。

そして自分の保護者だと言った翔太の言葉に、改めて悲しくなる。

「なんだ?

 保護者さまだって?

 親父さんか?

 嘘こくんじゃねえよ。

 おい、構うこっちゃねえ、殺っちまえ」

チンピラの長が号令を発するが、皆、足が出て行かなかった。

「わかんねえ奴らだなぁ」

翔太はいら立ちの声を出す。

面倒だが、()()手を出そうとどうなるか。

きっちりと体に染み込ませてやる。

翔太の人格は荒々しく変貌する。

「言い聞かせないとわからんみたいだな。

 この子は、俺の…」

俺の?

葵は必死になって翔太の言葉を聞き逃すまいと耳をそばだてる。

「俺の大事な女だ!

 手を出すとぶっ殺す!!」

“大事な女”、それは翔太の本心で、心に思っていることをつい口に出してしまった。

しかし、その翔太の一言で、葵の目から涙がこぼれ落ちる。

“女”?

翔太さん、私のこと、一人の女性とみてくれている。

恋愛対象とみてくれているんだ。

そうだ。

あの時。

中学3年の時、痴漢に襲われた時も、翔太さんに助けてもらった。

その時、呆然としていて聞き取れなかったけど、あの時も翔太さんは私を自分の女と言っていたんだ。

う、嬉しい!!

後ろで感激の涙をこぼしている葵の前で、翔太の圧がさらに倍増する。

それを一気に浴びて、チンピラたちは絶対に歯が立たないと本能的に悟る。

実際、格闘技の有段者である翔太にかかれば、5人くらいのチンピラは赤子の手をひねるようなものだった。

それを敏感に察知したチンピラの長は言葉を選びながら撤退することを皆に伝える。

「ちっ、ほ、保護者か。

 仕方ねえ、み、みんな行くぜ」

「お、おう」

男たちは翔太の迫力に戦意を喪失し、長の一声で助かったと言わんばかりに後ずさりする。

それで、少し離れたこところで、翔太に背を向けると、それから振り返ることなく歩き去っていった。

「ふん」

チンピラたちに戦意がなく、逃げて行ったことを確信すると、翔太は鼻で笑った。

まあ、逃げて正解だろうな。

見たところ、骨のありそうな奴はいなかったし、簡単に外せそうな関節ばかりだったしな。

おっと、葵ちゃんは大丈夫かな。

「どぁー!!」

葵の方に振り向いた翔太は、思わず声を上げる。

葵は口をわなわな震えさせ、目には涙をいっぱい浮かべ、鼻水を流し、今にも大泣きするような顔をしていた。

「あ、葵ちゃん。

 もう大丈夫だから」

そう言うと葵は子供のように翔太の腕に飛び込んでくる。

翔太は両手を広げ、しっかりと葵を受け止め、抱きしめる。

翔太の腕の中で肩を震わせ、しゃくり上げている葵を感じながら、翔太の心は優しさで満ちてくる。。

そして、葵が落ち着くまでそのまま抱きしめ続ける。

しばらくして落ち着いてきたのか、肩の震えもしゃくり上げもなくな、もぞもぞと葵は顔を上げて翔太を見上げる。

その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

まったく、こういうところが子供なんだから。

翔太は心の中で苦笑いすると、ポケットからハンドタオルを取り出し、葵の顔を拭いてあげる。

「ごめんなさい…」

葵は恥ずかしそうな顔をし、ハンドタオルを翔太から受け取ると、自分で顔を拭う。

「怖かっただろ。

 もう大丈夫だから」

「うん」

葵はやっと笑顔を見せる。

もう、加山のことは頭の片隅にもなく、あるのは、翔太の優しい笑顔だけだった。

「でも…。

 どうして、翔太さんがここに?」

「葵ちゃんのS.O.Sが聞こえたから」

「え?」

「冗談だよ。

 たまたま、豆大福が食べたくなって、こっちに来たんだ。

 ほら、駅前の洋菓子屋の近くにある年季の入った和菓子屋があるんだけど、そこの豆大福が滅茶苦茶美味くて、買いに来たら葵ちゃんの姿が見えたんで、追っかけてきたのさ」

「豆大福?」

「ああ、これ」

翔太は店の包に入った大福を見せる。

「この包…。

 あ、初めて翔太さんの家で食べた豆大福?」

「当たり!!

 よく覚えていたね。

 美味かっただろ?」

「うん。

 とっても美味しかった」

「じゃあ、家に帰って食べような」

「うん、うん」

葵は嬉しくて仕方なかった。

その中で一番うれしかったのは“俺の大事な女”と自分のことを言った翔太の台詞だった。

翔太さん、私のこと、そう思ってくれていたんだ。

ちゃんと、女として見てくれている。

私、翔太さんの女なんだ!

よ~し!!

そう思うと、次々と嬉しさがこみあげてくる。

そして自然と翔太の腕に自分の腕を絡めて歩き出す。

翔太も葵と腕を組んで歩くのを嫌がることなく、逆に嬉しそうだった。

うーん。

今日は何て良い日だ。

女の子二人と腕を組んで。

葵ちゃんの胸は柔らかで気持ちいいし、いい匂いだ。

思わず鼻の下が伸びる。

あの子とは、あれでよかったな。

でなかったら、葵ちゃん、手遅れだったもんな。

しかし、ホテルに入って、急にお腹痛いって言いだしたら、月のお客さんが来ただもんな。

それがなかったら、こんないい思いをしていないだろう。

腕に触れる葵の胸の柔らかさを堪能していた。

援助交際の女性とは、交渉がまとまり、一度ホテルには行ったが、翔太は何となく葵のことが気になり、お金を置いて出て行こうとしたところ、女性が急にお腹が痛いと言い始め、トイレから出てきて生理が来たから今日は出来ないと言い始めた、

それもあって、翔太は穏便に女性と別れることができた。

ただ、お金を渡したので女性は悪がって返そうとしたが、翔太から「あまり無茶しないで。体を大事にしてね」と言われ、涙ぐみながら受け取り何度も頷いて見せた。

そう言えば、別れ際に

「今日はありがとう。

 お兄さんとならいつでもオッケーだから、連絡してね」

って言っていたっけ。

あれ?

あの子の連絡先、聞くの忘れていた。

ま、いいか。

こっちは、大事なものを取り返したんだから。

嬉しそうに翔太の腕を抱きしめて横を歩いている葵を見て翔太は心の中で笑っていた。

翔太の家に帰ると、葵は真っ先にシャワーを浴び、何度も歯磨きうがいを繰り返した。

一時でも加山に心を許した自分、一度だがキスをされたこと、すべてが許せず、ともかく綺麗にしたかった。

結局葵は一時間以上バスルームから出てこず、翔太を呆れさせた。

そして、髪をタオルで拭きながら出てきた葵はいつもの薄いピンク色のスェット上下で、顔はシャワーの熱気で上気していた。

ありゃ、風呂上がりの女の子って、やっぱりなんとも言えない色気がるな。

一瞬、葵の姿に見惚れたあと、咳払いする。

「髪の毛、乾かしてくればいいのに」

「うん。

 でも、洗面所、暑くて」

葵はいつも髪をタオルで拭いた後、熱気のこもっている洗面所ではなく自分の部屋で仕上げにドライヤーで髪を乾かしていた。

「ちょっと、部屋で乾かしてきます」

「オッケー。

 あと、お昼、遅くなったけど、うどんでいいかな?

 野菜たっぷり入れた味噌風味のやつ。

 豆大福は食後のおやつということで」

「うん!!

 あ、でも、私も手伝います。

 急いで乾かしてきますね」

そう言って葵は踊るような足取りで部屋に戻っていく。

つい今朝までは、重い足取りだったのに、それからすると180度の方向転換だった。

それから、二人はリビングで作ったうどんを頬張る。

葵にとってうどんの味も、部屋の中、何から何かで自分にとって優しいと感じた。

そしてその中心にいるのが翔太だった。

私、こんなにやさしく、居心地のいい場所を一時でも出て行こうとしたんだ。

何て馬鹿なんだろう。

翔太さん、許してくれるかな。

私が他の男の人を好きになって、ここを出て行こうとしたこと。

きちんと話さないと。

でも、怖い。

話した後、翔太さんが冷たくなったら。

でも、話さないと…。

自然と言葉少なくなっていく葵を翔太は優しく見つめていた。

遅めの昼食が終わり、いつの間にか午後の3時を回っている。

二人は片づけをした後、いつもゲームを楽しむソファのところにお茶と豆大福を並べ、くつろいでいた。

「うん、ここの豆大福は絶品だ。

 美味いね」

「本当。

 ここのを食べたら、他の店の豆大福は食べられないって感じ」

二人が豆大福に舌鼓を打ったあと、葵は決心する。

やっぱり話さなくっちゃ。

お姉ちゃん、お母さん、私に勇気をください。

「あの、翔太さん」

「ん?

 なに?」

思いつめた葵の顔に翔太は優しく答える。

「私、ここに居ていいですか?」

「え?

 いきなり、何を言っているんだ?

 いいに決まっているだろ」

葵、がんばれ。

葵は勇気を奮い立たせる。

「あの、私…」

「いいって、言っているだろう。

 今まで通り、ここに居て」

翔太が葵の言葉を遮るように言う。

「え?」

翔太の顔を見ると、翔太は優しい笑顔を浮かべていた。

もしかして、翔太さん、全部知っている?

私が翔太さんを裏切って、違う男の人を好きになったこと。

ここを出て行こうとまでしたことを。

それでも、翔太さんは優しく許してくれるの?

「本当に?」

「ああ、本当だ。

 今まで通り、ここに居ていいよ。

 …

 というより、ここに居てくれ、な」

「翔太さん!」

もう、言葉はいらなかった。

葵は翔太の腕の中に体を投げ出し、翔太はしっかりと葵の体を受け止める。

見上げた葵の目は潤んでいて、それがまた、翔太の心をくすぐる。

まあ、いいか。

葵ちゃんも、もう高校2年だし。

親の同意があれば結婚できる歳になったもんな。

それで、翔太の道徳心は途切れる。

二人はどちらからともなく顔を近づけると、そっと唇を重ねる。

そしていつしか、自然と舌を絡めあう。

葵ちゃん、なんて可愛くて柔らかくて、それに、しっかりと応えてくれる。

絡めれば、絡めてくるし、吸えば、同じようにしてくれる。

しかも、激しく…

こんなの初めてだ。

翔太の理性は思いっきり白旗を上げる。

葵も全身が火照り、夢中になっていた。

私、どうしちゃったんだろう…。

翔太さんを受け入れたくて、体が勝手に疼く。

この前の夢。

あの人じゃなくて、きっと翔太さんだったに違いない。

だって、中学3年の時、初めて翔太さんに抱かれた時と同じ夢だもん。

そうに違いない。

私は翔太さんが好き。

私は、翔太さんを求めている。

息を切らせながら必死に翔太にしがみ付く葵。

翔太の手が、葵の胸に触れる。

翔太さんが私を求めている。

嬉しい!!

翔太の手がスエットの中に入り込み、スポーツブラの上から葵の胸を弄ると、葵の体は熱く感じるほど火照って来る。

同時に葵の体の匂い、若い女性の、葵のいい匂いがスエットの襟から湧き上がってくるのを翔太は感じた。

いい匂いだ。

この子は、本当にいい匂いがする。

しかも、俺にとっては刺激的だ。

翔太は匂いが強くする首筋に顔を埋め、嗅ぐのと同時に白い華奢な首筋にむしゃぶりつく。

「翔太さん…、ここじゃ…嫌…」

葵は無意識に場所を変えてくれるように甘えたような声を出した。

「わかった。

 部屋に行こう」

そう言って、翔太は葵を抱き上げ立ち上がる。

「大丈夫?

 重くない?」

恥ずかしそうに小声で囁く。

「大丈夫だ。

 葵ちゃんは軽いから」

「うん」

葵は翔太の首にかじりつくように手を回すと、翔太の胸に顔を埋める。

翔太が葵を抱えたまま、一歩踏み出そうとしたその矢先に、来客を知らせるドアフォンが鳴った。

「え?」

「え?」

「あ!

 お姉ちゃんだ!!」

「茜か?」

二人は時計を見ると、すでに夕方の5時になっていた。

「た、たいへん。

 お姉ちゃんが来るのを忘れていた」

「わお!」

葵は翔太から離れると洗面所に駆け込み身支度を整える。

わわ、やっぱり髪の毛ぼさぼさ。

顔も赤い。

どうしよう。

髪の毛梳かして、顔は水で洗って。

それより、お姉ちゃんに連絡するの忘れていた。

ここにずっといるって。

どうしよう。

お姉ちゃん、翔太さんに私がここを出て行くって言いに来てくれたんだっけ。

そうだ、先に出て、お姉ちゃんに話さないと。

そう思って洗面所を出ようとした時、翔太が玄関ドアを開けている音が聞こえた。

だ、だめー!!

葵はすでにパニックになっていた。

洗面所のドアを開けると玄関先で話す茜と翔太の声が聞こえてくる。

「ご苦労様。

 今日は、一体何の話?」

「うん。

 葵を預かってもらって、Ⅰ年ちょっと経ったじゃない。

 その間、血のつながりもないのに、すごく大事にしてくれて、感謝している」

「まあな。

 で?」

「そこまでしてもらっていて、たいへん言い難いんだけど、…」

「お、お姉ちゃん、だめ~!!

 違うの~!!」

洗面所を飛び出し、廊下を玄関に向かって走りながら葵は声を張り上げる。

「まだまだ、お願いしますね」

「え?」

「気に入ったら、あげるからずっと置いておいて」

「ええ~?!」

葵はバランスを崩し、翔太の横で前屈みに倒れそうになったが、翔太に小脇に抱えられ、倒れずに済んだ。

「お姉ちゃん?」

その姿勢のまま、葵は茜の顔を見ると、茜は面白そうな顔をしてウィンクして見せた。

「おいおい。

 “あげる”って、葵ちゃんは物じゃないんだから。

 ともかくこんな所じゃなんだから、中に入った、入った」

翔太は葵を立たせて、苦笑いしながらリビングに行く。

「お、お姉ちゃん。

 どうして?」

翔太がリビングに行くのを見て葵は小声で尋ねる。

「ん?

 今日、たまたま見ちゃったんだ。

 葵が男に見捨てられ、チンピラの手にかかりそうだったのをあいつが助けたところを」

「え?

 そうだったんだ…」

「葵もとんだ災難だったね。

 変な男に引っかかって」

「ううん。

 そんなの、もう、どうでもいいの」

「まぁ」

へえ~。

ショックを受けたどころか、逆にいい顔してるねぇ。

チンピラたちに取り囲まれ、好きになった男に見捨てられ、さぞかししょげかえっているだろうと心配していた茜だったが、思いもよらない葵の態度は意外だった。

しかし、キラキラ輝くような瞳でリビングに戻っていった翔太の後姿を追う葵を見て、納得するのと同時に嬉しくなった。

この子、マジにあいつに惚れたな。

あとはあいつが今までのように、葵を過保護に扱わず、一発ドピュー!とやってくれれば、兄貴のようなあいつを失わずに済むんだけど。

「あいつか?」

茜は顎で翔太の方をしゃくって見せる。

「え?」

葵は茜に心の中を見透かされていると感じ、顔を赤らめる。

「う、うん」

「ふーん。

 変な熱は冷めたわけだ」

「うん。

 私、どうかしていた。

 翔太さん以外はもう…」

「ん?

 あいつと何かあったのか?」

「翔太さん、私のことを…」

もじもじと語尾が小さくなる葵に、茜はじれったくなる。

「なにさ」

「私のこと“大事な女”って言ってくれたの」

真っ赤な顔で恥ずかしそうに言う葵を、茜は可愛くてしかたなかった。

「で、あいつとやったの?」

「え?」

「ほら、服が乱れている」

茜は鎌をかけてみた。

「…

 キスして

 …

 抱きしめてくれた

 …」

「それだけ?」

「だってぇ。

 お姉ちゃんが…」

「ばか。

 なんで電話しないのよ。

 なら、ここに来なかったのに」

「ご、ごめんなさい」

これなら時間の問題ね。

茜は恥ずかしそうにする葵を見て笑う。

「おーい、ふたりとも。

 そんなところで話していないで、こっちにこいよ」

「はーい」

「ふふふ、今日は楽しい酒にありつけそうだわ」

茜も嬉しそうに葵と一緒に翔太が待っているリビングに入っていく。

「何を飲む?」

「そうね。

 明日は月曜日だから、焼酎のお湯割りウィズ梅干ちゃんってとこかしら」

「お姉ちゃん!!」

遠慮しない茜に葵ははらはらする。

「そう思って、焼酎と梅干、買っておいたよ」

「お、さすが!!

 わかっていらっしゃる」

「葵ちゃん、手伝って」

「はーい」

翔太と葵は甲斐甲斐しく、晩酌の支度をする。

「ん?」

支度が終わりみんな席に着いた時、茜はいつもと違う違和感を感じた。

それは、いつもなら茜の隣に葵が座り、その前に翔太が座る構図だったが、今日は翔太の横にちょこんと葵が座っていたからだった。

ふーん

支度している時もそうだったけど、葵ったらあいつの傍をちょろょろと。

可愛いこと。

「カンパーイ」

微妙な話の場だったはずが、いつも以上に笑ってしゃべって楽しい宴会だった。

「さて、そろそろ帰るね」

2時間ほどたったところで茜は腰を上げる。

「なんだ?

 まだ、早いだろ」

翔太はいいご機嫌だった。

「旦那一人置いてきているから、寂しがっているわ。

 ウサギと一緒。

 寂しくて病気になっちゃうといけないからね」

「そうか」

そう言いながら自分のコップに焼酎を入れると、茜がそのコップを取り上げ、一気に飲み干す。

「へ?」

「ごちそうさま。

 そうだ、今度、うちの旦那連れてきていい?

 外でもいいんだけど、旦那、あんたに会いたいって言ってたから」

「ああ、それはいいけど」

茜に飲み干されて空になったコップに焼酎を足そうとする翔太を茜が制する。

「明日は仕事なんでしょ。

 さ、葵。

 後片付け、お願いね。」

そういうと茜は葵にウィンクして見せる。

葵は初めのうちは何のことかわからないときょとんとしていたが、すぐに何か気づいたように顔を赤らめる。

上手くやりなさいよ。

絶対に、離れちゃだめよ~だめ、だめってね。

帰り道、茜の足は軽やかだった。

それから二人は食事を済ませ、片付けし、ゲームを楽しんでお風呂。

いつものルーティーンが戻ったようだったが、お互いぎこちなさを感じる。

「じゃあ…

 おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

何か言いたそうにしながら、葵は部屋に戻る。

さて、どうするか。

なんか物足りないし、少し飲むかな。

いや、やめておこう。

翔太は葵の胸に触れた手のひらを見つめ、それから部屋に戻りベッドに腰掛ける。

まあ、機会はこれからもたくさんあるだろう。

がっつくことはないさ。

その時が来れば…

いいのか、それで。

いいさ、俺は大人の女がいい。

また、今回のことがあるかもしれないし、次は本当に離れて行ってしまうかもしれない。

逃がしていいのか?

葵を“俺の女”と言ったのは自分では気が付いていない翔太の本心で、信じられないことだが、言った本人はその覚えがなかった。

しかし、今、翔太の心の中に葵の存在は大きくなり、それが本心と同化する。

やっぱりだめだ。

あんなに可愛い子、他に取られてたまるか。

“当たって砕けろ”だ!

翔太は立ち上がり、部屋のドアを開けるとそこにはパジャマ姿の葵が立っていた。

「?!」

「え?

 あ、あの…

 ドライヤーを戻して来て

 その…

 きゃっ」

顔を赤らめもじもじ話す葵の手を握り、抱き寄せると、思いっきり抱きしめる。

「翔太さん…」

葵は抵抗することなく、翔太に抱きしめられる。

「体が冷えている」

どのくらい廊下で立っていたのか、葵の体は冷えていた。

少し前。

葵は部屋に戻るとドライヤーで髪の毛を乾かしながら、考えていた。

”おやすみ”って…。

今晩、このまま寝ちゃっていいの?

やっと、やっと、翔太さんが抱きしめてくれたのに。

このまま寝たら絶対に後悔する。

私は翔太さんが好き、大好き。

翔太さんが私のことをどう思っているか聞きたい。

それに…抱かれたい…。

はしたない女と思われたっていい。

行かなくっちゃ。

翔太の部屋のドアの前まで来たが、どうしてもノックする勇気がなく立ち尽くしていたところだった。

「おいで」

「うん」

翔太は葵の腰に手を回すと、そのまま、自分の部屋の中に連れて行き、ベッドに腰掛けさせ、自分も隣に腰掛ける。

そして、やさしく抱きしめると、唇を合わせる。

葵の唇は柔らかく、また、パジャマの胸の谷間から温かく葵のいい匂いがしてくる。

二人は情熱的に舌を絡め合い、翔太は葵をゆっくりとベッドの上に仰向けに寝かす。

唇を離し、翔太は葵の顔を見下ろすと、最初はトロンとした顔をしていたが、すぐに翔太の視線を感じたのか嬉しそうに微笑む。

やっと、私にその気になってくれたんだ。

嬉しいな。

葵は1年以上、翔太が自分に悶々としていたことなど知る由もなかった。

やばい、指が震える。

翔太は起き上がり、震える指で葵のパジャマのボタンを外していく。

パジャマの下は何も身に着けていない。

ボタンを外しパジャマの上を脱がすと、可愛らしい乳房があらわになり、翔太は思わず生唾を飲み込む。

葵は少し恥ずかしそうな顔をして顔を背け、胸を腕組みするように両腕で隠す。

次にパジャマのズボンに手を掛け、脱がすと、白地に花模様の可愛いショーツが現れる。

ショーツに手を掛け脱がしていくと、葵はぎゅっと目を閉じていた。

翔太もパジャマを脱ぎ、裸になる。

「見せて」

「え?」

翔太は葵の両手を掴み、指を絡めると、胸を隠していた腕を左右に開かせると、腕の下から形の良い乳房が現れる。

うおぉ!

綺麗だ!!

美乳っていうのは、こういうのを言うのだろうな。

Bカップ?

いや、Ⅽカップか。

見た目よりあるな。

肌も綺麗でしっとりしている。

華奢な体で、手足は細いけど、胸といい腰といい、女性らしい丸みがあるし、それに、葵ちゃんの匂い…

瑞々しく綺麗な水のように澄んでいて、ほのかに甘い良い匂い。

こんな女の子、今まで付き合った子の中にはいない。

初めてだ。

「!」

葵の体に夢中になっていた翔太は葵の視線に気が付く。

顔を上げ、葵を見ると、葵は自分の体のどこか変なのか、どこか不満があるのかと心配そうな顔をしていた。

おっと、いけない。

ちょっと夢中になって、葵ちゃんを不安にさせてしまった。

翔太は葵に覆い被さるようにして耳元で囁く。

「葵ちゃん。

 凄く綺麗だ。

 つい、見とれてしまったよ」

「本当?」

「ああ、本当。

 誰よりも綺麗だ」

「嬉しい。

 …

 私のこと、好き?

 一人の女性として…」

「ああ、もちろん」

やったぁ!

やっと翔太さんの私に対する気持ちが聞けた!!

どうしよう、嬉しくて変になりそう。

葵は翔太の首に手を回し、噛り付くように抱き着くと、翔太の唇を探し重ねてくる。

おー!!

葵ちゃん、ずいぶん積極的なこと。

夢中になっている葵に刺激され、翔太も今までにないほど興奮してくる。

唇を離すと葵の首筋に顔を埋め、綺麗な首筋を甘噛みしたり、吸ったり愛撫をしながら、手では葵の胸を弄るする。

いや。

くすぐったい。

でも、気持ちいいような変な気持ち。

体が熱くなる。

力が抜けていくみたい。

翔太は葵の胸を弄りながら、乳首にそっと触れる。

葵の乳首は興奮してか固くなっていた。

体をずらし、その固くなった乳首を口に含む。

う、うーん

だめ。

声が出ちゃう。

百戦錬磨の翔太の愛撫はひとつひとつが葵の防御壁を簡単に突破し、葵を夢の世界に(いざな)う。

そして、胸を愛撫しながら、片手を葵の太ももの内側に滑り込ませ、葵の大事なところを探す。

指が触れると、すでに熱く、濡れていた。

「いや…

 恥ずかしい…」

大事なところを触れられて、葵は息を切らせながら、恥ずかしがる。

「恥ずかしいことないさ。

 葵ちゃんが、俺を受け入れる準備をしてくれているんだ」

「やだ…

 恥ずかしいよぅ…

 あっ

 ううう…」

翔太の指が優しく葵の大事なところをなぞるように愛撫すると、葵は声を漏らし、無意識に腰をもじもじさせ、声を漏らさないように、手で口を押える。

なんて可愛いことするんだろう。

本当は、もっといろんなところを愛撫して開拓したいところなんだけど、こっちが我慢できなくなってきた。

それに、あまりやり過ぎると逆効果になるかな。

では。

頭の中は冷静さを装っていたが、体は葵を欲し、爆発しそうだった。

翔太は、葵の脚の間に体を入れると、葵もそれに合わせ自ら脚を左右に開く。

い、いよいよね。

翔太さんが私を抱いてくれる。

葵は少し緊張する。

そして覆いかぶさるように無防備になった葵の大事なところに、猛り狂ったものを押し当て、そのまま挿入していく。

「うっ、うう…」

とば口は狭く、そこを翔太のものは押し広げて入って来る。

葵は両手を握り苦悶の声を漏らす

それでも、翔太は止めずに奥まで、根元まで挿入し、感触を味わうように、また、葵の状態を探るように動きを止める。。

翔太さんが、私の中に…

嬉しい。

独りぼっちじゃなくなったんだ。

私と翔太さんは繋がった!

初めての時ほど痛みはなく、多少痛みはあったが、それよりも翔太と一つになれたことの喜びが勝ったいた。

葵が目に涙を浮かべていたので、翔太は心配になって耳元で囁く。

「大丈夫?

 痛くない?」

「うん。

 大丈夫…」

微笑んで答える。

それを確認すると、翔太は腰を動かし始める。

葵の中は温かで柔らかく、適度に締め付けがあり、たまらなくいい気持ちだった。

葵は翔太のものに少し異物感を感じたが、それよりも自分の中に入って来ることの嬉しさが勝り、夢中で訳が分からなくなっていた。

葵は目を閉じ、翔太に体を任せていた。

そして、その両手は、いつしか翔太の腕を探し、しっかり握りしめる。

や、やば!

久しぶりだから、もうやばい。

いや、それもあるけど、この子はやばい。

気持ち良過ぎる。

それに応じ方も今までのどの女性よりも俺好みだ。

本当は、ここで体位を入れ替えたりするんだが、まだ、この子には無理だ。

俺も、もう無理だ!!

「葵ちゃん…

 俺、もういく」

「うん。

 …

 来て、来て」

二人はとぎれとぎれの言葉を交わした後、翔太は葵の中で経験したことのないような気持ちよさで果て、そのまま葵に覆いかぶさる。

葵も、下から腕と脚で翔太にしがみ付く。

それが、その態度、仕草が翔太にはたまらなく愛しく思えた。

もういい。

この子でいい!

そうじゃない。

この子がいい!!

翔太は葵のいい香りに包まれ、温かで柔らかな肌に触れ、可愛い葵の笑顔すべてにぞっこんだった。

葵も逞しい翔太の腕に抱かれ、夢心地だった。

温かで逞しい腕。

凄く安心できる。

翔太さんと一つに慣れて、私は今、幸せだー!

うへへへ!!

少しして、翔太は葵にキスしてゆっくりと体を離す。

葵の腕は名残惜しそうに、少しの間宙に浮いていた。

「大丈夫?」

「うん」

翔太は処理を済ませ、ベッドに仰向けで横になると、葵がニコニコしながらにじり寄って来る。

「翔太さん」

「ん?」

「翔太さぁん」

「なに?」

「翔太さん、大好き。

 うへへへ」

「変な笑い」

翔太も笑いながら体を捻じって、葵にキスをする。

「そろそろ、部屋に戻って寝なくっちゃ。

 翔太さんも明日お仕事だし」

「あ、ああ」

葵は寂しげな背中を見せながら起き上がり、パジャマを探す。

葵の背中も綺麗だった。

ウェストラインは細く、ヒップラインは丸みを帯びて、翔太は見ているだけでむずむずしてくる。

「葵ちゃん。

 今晩は、一緒に寝ないか?」

「え?」

「もし、嫌じゃなかったら、ここで一緒に寝ないか?」

「本当?」

驚いた顔から一瞬にして泣き笑い鵜の顔になって来る。

「私、今日何回涙を流したんだろう。

 涙腺がおかしくなっちゃった」

「で?」

「いいに決まってるよ~!」

葵は喜んで翔太の胸に抱き着いてくる。

そして、胸の上に頭を乗せ、翔太を見上げる。

「その代わり」

「その代わり?」

「…

 私に背中を向けて寝ないでね」

「わかった」

翔太は葵の髪を撫でながら優しく言う。

しばらくじゃれ合って満足した二人は、眠りにつく準備をする。

「そろそろ寝るか」

「きゃあ、もう0時過ぎてる。

 たいへん。

 …

 このまま、寝ちゃっていい?」

「6月だと言っても、まだ夜中は涼しいからな。

 上だけ羽織ったら?」

「うん。

 そうする」

葵はボタンをはめず、パジャマの上だけ羽織っただけで、あとは何もつけていなかった。

翔太は当然全裸で、二人は布団を被って抱き合う。

布団の中は葵の香りで満たされ、翔太は幸せだった。

そのうえ、腕を絡めてくる葵の柔らかな胸が翔太の腕に触れ何とも言えないいい気分だった。

本当は、もう一回と言いたいところだが、さすがにやめておこう。

しっかりと抱いたのは2回目なので、葵の体を気遣って翔太は我慢して寝ることにしていた。

温かいな。

葵ちゃんは。

いつしか眠気がやって来る。

温かい…。

葵は翔太の腕に自分の腕を絡め、足も絡めていた。

その翔太の体温の温かさが気持ちよく、心も蕩けるようだった。

こんなに安心できるなんていつ以来だろう…。

よかったぁ。

私のファーストキスも、初めての人も全部、翔太さんで。

うふふ。

もう葵の中から加山のことは、すっかり消え、翔太のことだけで満たされていた。

翔太と繋がった嬉しさ、自分のことを守ってくれる有言実行の翔太の逞しさ、優しさ、久しぶりに身も心もリラックスでき、気持ちよく眠りについて行く。

“背中を向けて寝ないで”

その葵の心配はまったく取り越し苦労で、実際二人は離れるどころか、抱き合い、手や足を絡め合って寝ていた。

翌朝、二人は珍しく大寝坊。

ばたばたとシャワーを浴び、制服に着替えたところで葵の心はブレーキがかかる。

なんか、今日は学校に行きたくないなぁ。

翔太さんと、ずっと一緒に居たいな。

でも、翔太さんはお仕事だし、邪魔しちゃだめよね。

やっぱり、学校に行かないとだめよね。

葵は仕方なく翔太に声を掛けて玄関に向かおうとする。

その手を翔太は掴み、抱き寄せる。

「え?

 翔太さん?」

「葵ちゃん、今日は学校休めないか?」

翔太はいつもらしくなく、葵の制服姿に欲情していた。

いつもと違って、お尻のラインが丸くて可愛い。

それに胸も膨らんで、何よりも制服姿が今日はやけに色っぽい。

いつもなら自制心が働き、変なことを考えるなと言い聞かせ、葵を送り出していたのだが、昨日の今日のせいか、つい葵を抱きしめてしまう。

制服姿の葵は、少し制服が埃っぽかったが、それ以上にいい匂いがした。

「翔太さん…

 会社は?」

葵は恐る恐る尋ねる。

もし、許しても、急に仕事だとほっぽり出されたら寂しいと思ったから。

「今日は休暇を出している」

「え?!」

翔太は昨日、本当だったら茜から葵が家を出ると言われたはずで、そのため、ゆっくりと気持ちを整理しようと事前に休暇願のメールを会社の上司宛に送っていた。

「本当?」

「ああ。

 だから、今日は一緒にいないか?」

「うん。

 だけど、今日だけですよ。

 学校ずる休みなんだから」

葵は自分も学校に行きたくなく、翔太の傍に居たかったなんておくびにも出さなかったが、内心、舞い上がるくらい嬉しかった。

「あ、でもお姉ちゃんに電話して学校に連絡してもらわなくっちゃ。

 ちょっと待っててくださいね」

そう言うと慌ててスマフォを取り出し茜に電話する。

茜は電話を待っていたかのようにすぐに出る。

「もしもし、お姉ちゃん?」

「葵?

 どうした?」

「うん。

 実は、ちょっと調子が悪くて、学校休みたないって…」

ずる休みの罪悪感から語尾が小さくなる。

「学校ね?

 いいよ、連絡しておくわ。

 それより、昨日の夜は上手くいった?」

茜は葵の体調を心配するよりも、昨夜、二人がどうなったか、そっちの方が気になっていた。

「へ?」

「もう、気を利かせてあいつから酒取り上げたんだから」

「そ、そうだったんだ」

帰り際、焼酎のお代わりを作っていた翔太のコップを取り上げ飲み干していたことを思い出す。

「じゃあ、お姉ちゃん、わざと翔太さんに飲ませないように?」

葵は慌てて翔太に聞こえないように小さな声で話す。

「当たり前よ。

 酔っぱらって役に立たなかったら困るでしょ。

 で、どうだった?」

「お姉ちゃん…。

 その…

 うへへへ

 どうも、ありがとう」

恥ずかしそうな声を出す葵。

「お?!

 その笑いは、マジで嬉しい時のやつだね。

 よしよし。

 良かった、よかった。

 今日は一日、あいつに甘えちゃいな。

 どうせ、あいつも休みを取っただろうから」

お姉ちゃん、何でもお見通しだ。

葵は感心する。

「じゃあ、学校には適当な理由を付けて連絡しておくからね。

 あいつによろしくー!」

明るい声で電話を切る茜

私のずる休みまで、ばれてた…。

茜の洞察力に感心する。

「電話、終わった?」

「へ?」

いきなり後ろから翔太に声を掛けられ、葵は驚いて飛び上がる。

「ままま…」

狼狽する葵を翔太は軽々とお姫様だっこで抱き上げる。

ふわっと葵のいい匂いが鼻をくすぐる。

「翔太さん?」

「茜と何をたくらんだ~?」

「え?」

見上げて無防備になった葵の首筋に翔太はしゃぶりつく。

「きゃっ!

 しょ、翔太さん、くすぐったい」

葵は自分の手をぎゅっっと握りしめる。

ふふん。

葵ちゃんが感じる場所、一つ見つけた!

次はどこかな。

翔太は宝探しをして宝物を見つけた子供のようにワクワクする。

「よし。

 しゃべらないなら、パコパコするからな」

「パコパコ?」

葵は最初なんのことだかわからなかったが、翔太を見て“パコパコ”がセックスの比喩表現であることに気が付く。

「パコパコ?!

 やだ~」

その比喩の面白さに笑いだす。

「さあ、じゃあ、パコパコだ」

翔太は葵を抱き上げたまま、自分の部屋のドアを開け、葵を中に連れて行く。

私、ひょっとしたら、とんでもない人を好きになったのかしら。

でも、いいわ。

大好きだもん。

部屋のドアが閉まると、中からじゃれ合う二人の楽しそうな声が廊下に漏れていた。


葵との電話を切った後、茜は小さく息を吐く。

ふぅ。

あの子の“うへへ”を聞いたのは、本当に何年ぶりだろう。

あの子が小学校低学年の時以来かな。

いつも私の傍を離れないで、大してかまってやらなかったのにいつも楽しそうに“お姉ちゃん、お姉ちゃん、うへへへ”って、笑い方変だから止めなって言っても直らなかった。

私が家に帰らなくなって、母さんも留守がちになって、さぞ、寂しかっただろうに、心細かっただろうに。

いつしか、本心から笑わなくなったと思ったら、あの笑い声も聞かなくなった。

気が付いたら、寂しさを必死に隠し、作り笑いで誤魔化して。

それでも、あの子ったら、“お姉ちゃん、お姉ちゃん”って。。。

ごめんよ、寂しい思いばかりさせて。

()()()()()にさせちゃって。

私はわかっている。

あんたが、なぜ体を売りに、あそこに立っていたのか。

可愛い妹。

私の世界一可愛い妹。

ごめんな…さい…

茜の視界が涙で歪んでくる。

たまらず、掌で口を塞ぎ、しゃがみ込み嗚咽を漏らす。

しばらくして嗚咽も治まり茜は立ち上がる。

私の目に狂いはなかった。

葵の直感も正しかった。

あいつは、葵を大事にしてくれる。

守ってくれる。

その証拠に、葵にあの笑いが戻って来た。

そして、葵の本当の心が戻ってきている。

言わなくっちゃ。

いや、まだ駄目。

もっと、二人の絆が強くならないと。

今はダメ。

でも、急がないと。

あいつなら大丈夫。

伝えても、葵を愛してくれるに違いない。

あいつには、葵を押し付けたみたいですまないと思う。

でも、葵はいい女だろ?

もう少し、ううん、すぐに葵の虜になるだろうから、そうしたら。

葵…。

茜の顔は安堵と不安が混じっていた。




じれったい二人が、やっと結びつきました。

いつも話を書く時、登場人物をイメージ化しています。

しかし、葵については、なかなかイメージが固まらず、苦労していましたが、ここにきて、やっとイメージが出来上がりました。

なので、あのシーンも書けるようになりました。

今がイメージの完成度が100%だとすると、第一話は60%くらいでしょうか。

そのせいか、第八話はキーボードが進みます。

ちなみに、薫は第一話から100%です(笑)。


さて、次回ですが、Aの巻が続きます。

同級生の男子に捨てられ、不良どもに絡まれていたところを翔太に救われた葵。

その現場を同じ学校の生徒に目撃され、曲解された噂が学校中に流れ、中学3年の時と同じように、葵は学校の中で唯一の友人が楓花を除き孤立していきます。

そんな状態で夏休みに入り、ある日のこと。

テニス部のマネージャーをしている楓花から食事を手伝ってほしいと電話があります、

テニス部恒例の夏休みの合宿。

連絡を受けたのを忘れ合宿所に向かった一行は、朝昼晩、3度の食事を作ることはできないとのこと。

葵は楓花の頼みなので断らず、翔太と主に、食材を買い込んで、合宿所に合流します。

部活の担当教員、コーチに混じり、女性教師が帯同しており、何かと翔太に話しかけ、葵は不愉快でたまりません。

そしてとうとう、葵の病が。

葵の過去、病とは何か。

Aの巻(その八③)お楽しみに。

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