表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AとK  作者: 東久保 亜鈴
19/29

Kの巻(その七①)

薫の会社に新しいマネージャとして一人の女性が転職してくる。

女性の名は一美。

裕樹と同じ年位で、女優のように容姿端麗の美人だった。

仕事ができるキャリアウーマンな一美は、初対面で裕樹に好意を持つ。

一美とペアで仕事をしていく裕樹も大人の女性ということで、徐々に意識していく。

当然、薫に向いていた眼は少しずつ一美に向けられ、敏感な薫は気が気ではなかった。

治まりつつある病気も不穏な動きを見せ始める。

お互い好きと言えずに中途半端な関係を続けていく二人に、嵐の予感がしてきます。

6月。

年々、地球温暖化のせいか、夏のように暑い日が続く日々。

夜は、それ程暑くはないが蒸し暑い。

ただ裕樹の部屋はエアコンで快適だった。

「じゃあ、裕樹。

 おやすみ」

「ああ、おやすみ」

身づくろいが終わり上気した顔で薫は笑顔を見せ、裕樹に手を振って部屋を出て行く。

自宅の玄関まで送ると言ったが、すぐ近くだし離れるのが辛くなると笑顔で答え、その代わりLINEで家に戻ったことを連絡する約束をしていた

数分後、いつものように家に戻ったことと“おやすみなさい”のLINEが届く。

それを確認し、裕樹は冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、薫が綺麗に整えて行ったベッドに腰掛けるとベッドから先ほどまでの薫の温もりと残り香が裕樹を包み込む。

“プシュッ”

プルトップを開け、乾いた喉を缶チューハイで潤す。


薫ちゃんみたいに綺麗で素敵な子が、なんで俺なんかと一緒にいるんだろうか。

モデルとしても人気が出てきているし。

自分をいくら美化しても、いくらモテ期だからと言っても、なぁ…

一回りも年が離れているし、金持ちでもないし、風貌も普通なのに。


ため息をつきながら、缶チューハイを飲む。


やっぱりあの病気のせいかな。

ちょうど手ごろな相手と言うことだろうな。

そうそう、安全パイに見えたって言っていたしな。

病気が治ったらお払い箱かぁ。

そう言えば、最近薫ちゃんの方から“お願い”が来なくなったな。

まあ、薫ちゃんの仕草、潤んだ瞳、髪の毛の先を指でくるくる回す仕草、それが無意識なんだろうけど“お願い”のサインだもんな。

そのサインが無い時に“求め”たら、びっくりした顔をしたことがあったっけ。

それ以降、サインがある週に1,2回。

最初の頃は、ほぼ毎日だったから落ち着いてきたよな。

そうそう、無意識のサインといえば、“優しくして”というサインと“少し激しくして”というサインもわかりやすい。

最初の挿入時、顔を仰け反らせると“優しくして”で、顔を横に向け目をぎゅっと瞑ると“少し激しくして”だもんな。

まあ、圧倒的に“優しくして”がほとんどだけど…


缶チューハイを一缶飲み干すと裕樹は冷蔵庫からもう一本、缶チューハイを取り出す。


お払い箱か。

そうしたら家も仕事も“ぱぁ”かな。

まあ、今が夢のような、出来過ぎた物語さ。

仕方ない。

その内、この夢も醒めるだろう。

そうしたら前のような生活に戻るだけさ。

分相応な彼女を作って、慎ましやかな生活の方が僕には似合っている。

小説家の夢もそろそろ…


手にした缶チューハイを一気に飲み干す。


おっと。

明日は新しいマネージャーさんと顔合わせだ。

飲むのは止めて、シャワーを浴びて、とっとと寝よう。


裕樹は飲み終わった缶を片付けるとシャワーを浴び、パジャマに着替えてベッドに潜り込む。

布団から相変わらず薫の香りがする。

良い香りだ。

裕樹は薫と一緒にいるような気分になって、眠りに落ちていく。


一方、薫は部屋で鼻歌を歌ってご機嫌だった。


うふふ。

裕樹は優しいな。

私のこと、大事に扱ってくれる。

裕樹の腕の中にいると温かくていい匂いがして。

そして私を夢のようないい気持にさせてくれる。

男の人はもう嫌だと思っていたけど、裕樹だけは違う。

体だけじゃなく私のことをいつも見て、私のことを考えてくれる。

あの悪夢から救い出してくれたし、病気だって治してくれた。

一緒にいると楽しいし、裕樹は私のすべて!

愛している♪

裕樹は私のことどう思っているのかしら。

好き?

愛してくれている?

裕樹の口から聞きたいな。

でも、恥ずかしい…。

ああ、もう!


薫は枕に顔を埋めたり、抱き締めたり、さんざんともじもじする。


でも、裕樹とは本当に以心伝心よね。

私が、裕樹とSEXしたいなと思うと、裕樹の方から求めてきてくれるし、優しくしてほしいなと思えば、優しくしてくれるし、激しいのがいいなと思うとその通りしてくれる。

私何も言わないのに、私の心の中が見えているみたい。

でも、何回か私が思ってもいない時に裕樹が求めてきてくれてビックリしたけどすぐにそういうことはなくなったなぁ。

それはそれで、私のことをいつも求めてくれると思って嬉しかったんだけど…。

私からの一方通行?

私のこと求めてくれないのかな、以心伝心と思っているのは私の勘違いなのかな。

やっぱり…こんな私じゃ駄目なのかな。

いろいろな男と経験しているし、汚いと思っている?

病気で同情しているだけ?

でも、気持ちよかったのは、嬉しいって感じたのは裕樹だけ。

こんなに裕樹が好きなのに…


悶々としながら眠りにつく。

窓の外にはいつの間にか巣を作って住み着いた梟がいる。

山の中と違い町中に梟と言うのは珍しく、どこかで飼われていたものが逃げて住み着いたと思われる。

その梟がじっと薫の部屋の窓の方を見ていた。


翌日。

昼前に大きな引っ越しのトラックが1台、裕樹の住む社宅の前に横付けされる。

それから1時間程前、薫が学校に行ったあと、裕樹は加津江に呼ばれ、1階の食堂に行くと加津江と有村架純似の美人な女性が立っていた。

「裕樹君…

 高橋君、紹介するわね。

 今度、我社うちのメンバーになった加藤一美ひとみさんよ」

加津江が紹介すると一美は裕樹を見てにこりと微笑む。

「加藤一美です。

 一美と書いて“ひとみ”と読みます。

 よろしくお願いします」

「あ、僕は高橋裕樹です。

 こちらこそよろしく」

「一美さんと高橋君と年は同じ位かしらね。

 でも、一美さんはこの業界じゃ結構ベテランさんよ。

 高橋君、いろいろ教えてもらうといいわ。

 一美さん、さっき話したように、高橋君はこの仕事を始めて数か月だからいろいろと教えてあげてね。」

「はい。

 よろしくね、高橋さん。

 ちょっと呼び辛いかな。

 裕樹さんでいい?

 私のことは一美でいいから」

(なんだ?

 いきなり名前で呼び合うなんて馴れ馴れしいんじゃないか?)

裕樹はいきなりのことで戸惑いを隠せなかった。

「もうすぐ引っ越し屋さんのトラックが来るから、裕樹君も手伝ってあげてね。

 今日の仕事は、午後からだから」

「すみません。

 本当は週末にと思ったのですが、引っ越し屋さんの都合で今日になっちゃって。

 ともかく部屋に運び込んだら、荷解きは空いている時間に順々にやっていきますから。

 裕樹さん、よろしくお願いします」

「はい、加藤さん」

「一美でいいってば」

「はい、一美さん」

すでに一美は自分のペースで裕樹を名前付けするが、身内以外の女性を名前で呼ぶのに薫以外慣れていない裕樹は戸惑いながら答えた。

一美の引っ越し荷物を載せたトラックを1階で待つ二人。

「ごめんなさい。

 初対面でいきなり引っ越しの手伝いをさせてしまって」

言葉とは裏腹に一美は笑顔を見せる。

その笑顔にも薫とは違い大人の色気を感じるほどだった。

山吹色の半そでのシャツにジーパン、セミロングでウェーブのかかったダークブラウンの髪をポニーテールで結わく。

薄化粧でラフな格好だが、体の線、ほのかに香水の香り漂い、嫌でも大人の女を感じさせる。

(薫ちゃんとは、全く違うな…

 大人の女性ってこういうことだよな。

 しかも同じ年で話しやすいし。

 胸なんて薫ちゃんよりも大きいし…)

思わず一美に見惚れ、動きが止まる。

「ん?

 どうしたの?

 ボーっとしているよ?」

「え?!

 いや、ボーっとなんてしていない」

裕樹は慌てて否定する。

(うふふ。

 結構、可愛いところあるのね。

 それに、よく見るとどちらかと言うと私好みかしら)

「そう言えば、裕樹さんは社長の娘さん、薫さんが主担当なんですって?

 あの子、可愛いし、磨けば宝石になるわね。

 で、どういう方向にもっていこうと思っているの?」

「方向?」

「そうよ。

 このまま、モデルで通すか、女優で売り出すか、それともバラドル?」

「い、いや、そんなこと考えていなかった」

「えー?!

 なんで?

 マネージャーでしょ?!」

「そ、そうだけど…」

裕樹は薫をどう売り出していくかなど、考えたことがなかった。

(でも、薫ちゃん、女優になりたいっていっていたな…

 ?!)

一美の視線に気が付く。

「もしかして、裕樹さん。

 薫ちゃんに惚れている?」

「な、何を…」

「だめよ。

 商品に手を付けちゃってね。

 まあ、今どきは自由な時代だから」

「バ、バカな」

しどろもどろになる裕樹。

その時、引っ越し屋のトラックが家(社宅)の前に横付けされる。

「あ、来た来た!

 裕樹さん、お願いしまーす」

(面白いわ。

 この人、薫さんに興味があるのかしら。

 釣り合わないのsに。

 まあ、いいわ。

 ライバルがいた方が面白いかも)

一美は心の中で密かに思う。

引っ越しの手伝いと言っても大きな荷物は引っ越し業者が部屋まで運び込む。

裕樹は運び込まれた段ボールなどの荷物を一美と一緒に部屋の隅に運んだりすることだった。

その日は梅雨の中休みか、朝から良く晴れ、蒸し暑い日で、荷物を少し動かしただけでも、二人の額には汗がにじむ。

「嫌だわ。

 汗臭くなっちゃって。

 裕樹さん、ごめんなさい」

一美は汗に匂いを確認するように服の胸の辺りをつまみ、嗅いで確認する。

しかし、一美から漂ってくる匂いは香水のようないい香りだった。

額に汗を滲ませ、笑顔を見せる一美を思わず見惚れる。

一美の小さな仕草でも、大人の女性を感じる。

(大人の女性ってなんかいいな。

 薄化粧だけど、綺麗だよな。

 マネージャじゃなくて女優でもいける気がする…)

一美は笑顔を見せながらも裕樹を観察する。

(へぇー。

 この人、汗を掻いているのに何かいい匂いがするわね。

 男臭く無くて、いいわね)

「エアコン、あるよ」

「え?」

裕樹は備え付けのエアコンを指さす。

「そうね。

 引っ越し屋さんも引き上げたし、もう埃が舞うことはないわね。

 つけちゃおう」

一美はエアコンの風で埃が舞いのを気にしていたからだった。

それから涼しくなった部屋で片付けが一段落する。

「裕樹さん。

 もう大丈夫。

 後はゆっくり自分で片付けるから。

 助かったわ。

 ありがとう。」

あとは荷物を解いて自分の洋服や下着、それに私物を出すのに、さすがに一美は裕樹に遠慮する。

「了解!

 何か手助けが必要になったら、いつでも声をかけてくれればいいから」

数時間一緒に話をしただけで、二人は、打ち解けていた。

「ありがとう。

 そう言ってくれると助かるわ。

 じゃあ、またあとで事務所でね」

(ふーん。

 ちょっといい感じで居心地よさそうね。

 それに私好みだし。)

部屋から出て行く裕樹の後姿を見送りながら、一美は微笑む。

その夜、いつものように裕樹の部屋のベッドで寝ながら雑誌を読んでいた薫、雑誌を置いて裕樹に話しかける。

「そうだ。

 新しく入社した一美さん、美人よね。

 裕樹も会ったでしょ?」

「ああ。

 朝から引っ越しの手伝いをしたから」


一美は午後から出社し、事務手続きを行っていた。

「そうね。

 しばらくは、一美さんと裕樹君は一緒に動いてもらうわ。

 一美さんは仕事をよく知っているから、裕樹君にいろいろとノウハウを教えてあげて。

 裕樹君も一美さんからいろいろと教わってね」

「はい。

 裕樹さん、よろしくね」

「こちらこそ」

「二人には、高校生と大学生のこの子たちのマネージメントをお願いするわ」

加津江はそう言いながら、所属タレントの履歴等を記載した資料を二人に見せる。

「高校生は、学業優先にお願いね。

 どんなに評判になっても、基本、土日のお仕事に留めてちょうだい」

「本人や親が仕事優先でいいと言ってもですか?」

「その時は、ケース・バイ・ケースね。

 今のところ、我社うちにいる子は、皆、学業優先だから」

「そうなんですか…」

(社長の娘さん含め、素材がいい子が揃っているわね。

 やっぱり、見る目は確かね。

 ただ、売り出し方が今一なのかしら…

 勿体ないわね)

一美は短大卒業後、この業界に飛び込み、美貌と人当たりのよさ、それにタレントを育てる上手さからめきめきと頭角を現していた。

しかし、少し強引なところや、男をその気にさせてしまいトラブルに発展するなど少し問題も抱えていた。

今回は若手タレントの売り出し方針で前の会社と意見が合わず、困っていたところを加津江に声を掛けられ転職してきた。

そして所属タレントの一覧を見て、やる気に火がついていた。。


「裕樹、どうしたの?

 押し黙っちゃって」

「あ?

 いや、何でもない。

 確かに大人で、美人だし」

「もう。

 悪かったわね、私が子供っぽくて」

薫が拗ねたように口を尖らす。

「まあまあ」

(やっぱり一美さんの方が雰囲気も大人だな。

 香水もきつくないし、大人の香り?

 体も柔らかそうだし…)

「裕樹ったら、ボーっとしちゃって。

 でも…

 ねぇ」

明らかに薫のお誘いの声だった。

「うーん。

 少し、疲れているかな」

「そう…」

いつもは雰囲気を察したり、薫の誘いを断ったことはなかった裕樹だったが、初めて難色を示したので、薫はショックを受けた。

(でも、環境が変わって裕樹もいろいろと疲れているんだろうな。

 仕方がないわ。

 今日は我慢しよっと)

気落ちしたが健気に理由を考え気を取り直す薫。

「疲れているみたいね。

 あまり仕事に根を詰め過ぎなんでね。

 じゃあ、今日は戻るから、ゆっくり休んでね」

薫は起き上がるとベッドから降り、裕樹の頬にキスをする。

「あ」

裕樹は薫を改めて眺める。

白い肌、可愛らしい顔、そして艶めかしく思える白い首筋。

そして、香水の香りではない薫の香り。

「じゃあね…?

 きゃ」

薫が立ち上がり部屋から出て行こうとするその手を握り、裕樹はそのまま薫をベッドに押し倒すと、薫に覆い被さる。

薫は抵抗することなく、裕樹に身をゆだねるが、心配そうな顔をする。

「大丈夫?

 疲れているんじゃないの?」

「ごめん。

 大丈夫」

裕樹はそう言うと唇合わせる。

薫は嬉しそうな顔をして、裕樹の背に手を回す。

そして、二人は舌を絡め、興奮状態に入って行く。

裕樹は空いている片手で薫のブラウスのボタンを上から外していき、すべて外すと、薫の柔らかそうな乳房を覆い隠す白いブラが現れ、その上から乳房に触れる。

薫は大人しく目を閉じ、裕樹の手の感触を感じているようだった。

そして裕樹の手が薫の背中に回るとブラのホックを探すと、薫は少し背中を浮き上がらせ、裕樹の手はホックを外す。

緩んだブラを下から持ち上げるようにして裕樹の手は薫の小ぶりだが形のいい乳房をあらわにさせる。

その乳房の感触は柔らかで弾力があり、よく言われるマシュマロのような感触だった。

その頂上にある可愛い乳首はすでに固くなっていて、裕樹は、乳房を優しくもみながら、その固くなっている乳首に口を寄せていく。


身支度を整えながら、薫はご機嫌だった。

「じゃあね、裕樹。

 今日はゆっくり休んでね。

 おやすみなさい」

今にも鼻歌を歌いだしそうなほど機嫌のよい薫が部屋から出て行くその後姿を追いながら裕樹は小さく手を振る。

(一美さんのことを考えながら、自分の性欲に負けて薫ちゃんを抱いて…。

 俺って最低な奴だ)

裕樹は後悔の念に駆られていた。

「そうそう。

 あとでいつものようにLINEするけど、疲れていたら無視して寝てていいからね」

薫は振り向きざま、ウィンクをする。

「ああ」

いきなり薫に振り向かれ複雑な顔をしている裕樹を薫は心配になる。

「ねえ、裕樹。

 本当に大丈夫?

 具合が悪いんじゃないの?」

「大丈夫」

「もし何あるんだったら、遠慮なくいってね。

 仕事が辛かったら、ママに話すから」

「大丈夫だって。

 ありがとう」

苦笑いを浮かべ手を振る裕樹に薫はまだ何か言いたそうだったが、諦めたように笑顔で答え部屋から出て行った。

薫が裕樹の部屋から出ると、ちょうど自分の部屋に戻ろうとしていた一美と鉢合わせする。

「あら?

 薫ちゃん、こんな遅くに。

 裕樹さんと打ち合わせ?」

「え?

 ええ、そんなところです。

 おやすみなさい」

「ちゃ、ちょっと」

“夜遅くに男と同じ部屋にいるなんて”と注意しようとして言葉を飲み込む。

(そう言えば、薫ちゃんは裕樹さんを兄のように慕っていて、しょっちゅう、裕樹さんの部屋に入り浸っているって加津江さんが言っていたっけ。

 こんな遅い時間まで、若い女の子が男の部屋にいるなんて。

 でも、加津江さんがそう言って許しているみたいだから、そうなんだろうな)

「おやすみ」

薫の背中を見送りながら、何か釈然としない思いをする一美だった。


それから、裕樹と一美は馬が合うのか二人で組んだ仕事は順調に進んでいく。

裕樹は大人の雰囲気と気さくで明るい美人の一美と常に一緒で仕事も覚え、初めて仕事が楽しくなっていた。

一美も裕樹の傍で居心地の良さを感じ久々に仕事で心を躍らせていた。

当然、仕事の打ち合わせで夜遅くまで話し合ったりして、薫は裕樹の部屋で一人っきりの時間が増えていく。

しかし、以前のようなSEX依存症の症状はだいぶ改善されつつあり、また、まじめに仕事に励んでいる裕樹の姿を見て寂しい気持ちを押さえつけていた。

(裕樹、最近仕事ばかり。

 そう言えば、小説を書いている姿もあまり見ないな。

 仕事が面白くなったのかな。

 それは、それでいいのだけれど。

 だけど、私よりも一美さんと一緒にいる時間も多いし、それに何よりも楽しそう)

仕事だとりかいしつつ、裕樹が一美と話している時、楽しそうな顔をしているのが気になって仕方がなかった。

「小春ちゃん、歌手デビューするの?」

小春とは薫の1つ上の高校2年生で、薫と同じ雑誌のモデルをしていたが、本人の希望があって歌手に転身するように一美の提案でボイストレーニングと歌のレッスンを始めていた。

「ああ。

 もともと歌が上手で、それに本人が希望しているので、一美さんの意見で、やってみようということになったんだ。

 でも、今、ボイストレーニングを含めたレッスンを始めたばかりなのですぐには無理だね。

 半年くらいかけてレッスンして、それから各音楽事務所に売り込みだよ。

 一美さん、音楽事務所の人ともコネがあるみたいだし」

「そうなんだ。

 すぐにデビューって言うわけにはいかないんだ」

「うん。

 楽曲提供を受けてデビューまで、まだまだ時間がかかると思うよ」

「でも、小春ちゃんなら華があるから上手くいくよ」

「そうだな。

 それと、くるみちゃん、テレビのプロデューサーから声がかかって、今度、バラエティー番組のオーディションを受けるんだ。

 明日、その打ち合わせでテレビ局に行かないといけないんだ」

「裕樹、最近忙しそうね」

「そうだね。

 一美さんの売り込みが凄いから、ついて行くのが大変だよ。

 でも、一美さん、本人たちの希望をちゃんと聞いて、それをもとに売り込みをするから、本人たちも励みになるんじゃないかな」

「そうなんだ」

「くるみちゃんなんて、これからオーディションだっていうのに、もう、出演する気で今から緊張しているんだよ」

裕樹は思い出したように笑う。

「くるみちゃん、楽しい人だし、おしゃべりも上手だから上手くいくよ。

 私も、一美さんにモデル以外に何がやりたいかって聞かれたっけ」

「へぇ。

 で、なんて答えたの?」

「え?

 裕樹、覚えていないの?」

薫は顔を曇らす。

「え?」

裕樹は始め戸惑った顔をしたがすぐに思い出したように口にする。

「女、女優。

 忘れていないって」

(嘘。

 忘れていたって顔をしている)

薫は面白く無くて仕方なかった。

「私、今日はもう戻るね」

「え?!

 あ、ああ、わかった」

てっきりセックスするのかと思っていたので拍子抜けの観があったが裕樹の頭には一美のことが浮かんでいたので、特に引き留める気はしなかったし、薫も疲れているのだろうと勝手に思っていた。

(引き留めてもくれないんだ。)

「ばか!」

悔しそうに薫は小さな声で呟くと裕樹の方に見向きもせずに部屋から出ていった。

「え?」

裕樹は薫が怒ったように部屋から出て行ったのを、何が起こったのかわからないというように見送っていた。

「あら?」

薫が部屋を出ると、丁度、それを見計らったように一美がドアを開けて出てくる。

今一番会いたくなかったのに。

そう思いながらも「こんばんは」と愛想笑いをして見せる。

「打ち合わせ、今、終わったの?」

裕樹と薫の仲を薄々感づいていながら知っていながら何食わぬ顔で尋ねる。

(この人、どこまで知っているんだろうか)

そう思いながら薫は頷いて見せる。

「裕樹君、まだ起きているわよね。

 明日の打ち合わせの件で確認したいことがあるから」

「あっ。

 疲れたから、今日はもう寝るって言ってたわ。」

「あら、そう。

 だから追い出されたのね」

(お、追い出されたですって?!

 自分から出てきたんですよーダ。

 一美さん、私のことをからかっているのかしら。

 それに、あんなに胸を張って見せて)

一美はもともと姿勢がいい上に、薫と格付けが違うと言わんばかりになんだかわざと胸を張って見せる。

「さ、さあ…。

 私も、眠くなったので戻ります」

「そうそう。

 いくらマネージャーで信用しているからって、女の子が男の部屋に長居をしちゃだめよ。

 真面目な裕樹君だって、いつ、魔が差すかわからないんだからね」

(これだけ言えば、少しは遠慮するかしら)

とどめを刺しに行く一美。

「え?

 ええ、でも、裕樹さんはそんなことは…」

(もしかして裕樹は、私よりもこの人の方がいいのかしら)

一美を見ながら怒りと悲しみの感情が交互に湧き上がる。

それと同時に今まで忘れていたどす黒いものが薫の心を急速に染めていく。

「じゃあ…」

(あれが…

 あの嫌な感情がなんで目を覚ますの?

 もう治まったとばかり思っていたのに。

 ともかくここを出なくっちゃ)

薫はもはや一美のことが眼中に一美の横をする李抜け、足早に出口に向かう。

「あっ!

 ちょっと」

(薬が効きすぎたのかしら)

今度は一美が驚く番だった。

何か嫌な予感がして薫の肩を掴もうとしたが、その手はむなしく宙をさまよう。

(もう少し優しくしないとね。

 10代の女の子は、何かにきっかけで壊れたりするから…

 明日、落ち着いて話をしてみよう)


玄関ドアを開けて外に出ると、雨が降っていた。

体の芯が…

あそこが熱い…

セックスがしたい…

こんなに気分が悪いのに。

こんなに一人でいられないなんて。

嫌だ、戻りたくない。

あんなの嫌だ

ひ、裕樹。

助けて、裕樹


薫は降りしきる雨の中、濡れるのもお構いなしに立ち止まり、裕樹の部屋の方を見つめる。

裕樹の部屋はカーテンが閉まっていているが薄明かりが漏れていた。

部屋の中では裕樹がベッドの腰掛毛、考え事をしていた。


何か薫ちゃん怒っていたよな。

怒らすようなことをしたかな。

ベッドから薫の温もりを感じ、薫の残り香が鼻をくすぐる。

僕は何をしていたんだろう。。。


裕樹は最近一美とよく話、もしかしたら一美が自分に気があるのではないか、大人っぽい一美と付き合えたならと思っていたことが急に醒めてきたような気がした。

(薫ちゃん…

 そう言えば、あれから結構経っているのにLINEがないな。

 どうしたかな)

その内、いつものようにLINEが来るだろうと思っていたが、ふと立ち上がると窓際に歩みを進め、そして、何も考えずにカーテンを開ける。

「うわっ!!

 薫ちゃん?!」

外は雨で真っ暗だったが、部屋明かりが外を照らすと、窓際に泣きそうな顔をして、ずぶ濡れの薫が立っていた。

「なにやっているだ!」

裕樹は周りに聞こえないように押し殺した声を出すと、窓を開け、薫に向かって手を伸ばす。

「裕樹…」

自分に伸ばされた手がまるで地獄から救い上げてくれる神々しい光を帯びた手に見えて、思わずその方向にのろのろと手を伸ばす。

その手を裕樹の手が掴み、そのまま部屋に引っ張り込む。

薫は抵抗することなく、サンダルを脱ぎ捨て、そのまま裕樹の腕に飛び込んでいった。

「ばか。

 いったいどうしたんだ?

 こんなにびしょびしょになって」

そう言いながら裕樹は大きなタオルで水がしたたり落ちるほど濡れた薫の髪を拭いてあげる。

(なんだ、こんなにびしょびしょになって。

 この土砂降りの中、どのくらい窓の外に立っていたのか)

窓を開けた時、雨音が激しく土砂降りだったのを思い出す。

エアコンはついているが、髪を拭きながら女性のむせかえるような匂いが薫から湧き上がってくるようだった。

「裕樹、裕樹…」

薫は裕樹に抱き着くと譫言のように裕樹の名を呼びながら。両手を裕樹の背中に回して抱き着く。

その仕草を見て、裕樹は以前のSEX依存症が酷かった時の薫を思い出した。

「薫ちゃん、もしかして?」

ただならない薫の気配に裕樹は薫の病気が再発したことを知る。

薫はただ頷くだけ。

濡れて寒いのか、それとも依存症と戦っているのか小刻みに体を震わす。

裕樹はびしょ濡れの薫をお構いなしにベッドに寝かせると淡いピンクのブラウスを、そしてジーパンも脱がせて下着姿にさせ、タオルケットをかぶせると、急いで自分も服を脱ぐ。

そして裸になるとタオルケットを剥ぎ、タオルケットごと薫に覆いかぶさる。

「薫ちゃん、寒くないか?」

震えている薫を気遣って上から声を掛けるが、薫は泣きそうな顔をしてじっと裕樹を見つめ、裕樹の首に手を回すと裕樹の唇にしゃぶりつく。

それが合図のように裕樹は薫の下着を剥いでいく。

薫はすでに十分興奮していて裕樹を待っているようだった。

愛撫もそこそこに裕樹は薫の脚を広げさせ腰を寄せる。

裕樹も十分に興奮していた。

(裕樹。

 こんな悪い子の私。

 荒々しく、無茶苦茶にして)

薫は裕樹が待ち遠しくて仕方なかった。

それを感じてか、裕樹は一気に薫の中に挿入していく。

「うっ、うぅ…」

小さく声を漏らす。

(来た!

 裕樹の熱い大きなものが私の中に入ってきた。

 嬉しい。

 裕樹が私を抱いてくれる。

 お願い。

 こんな悪い子の私を滅茶苦茶にして。)

体の奥深くまで入って来る裕樹を感じながら薫は身も心も激しく悶える。

(なんて気持ちいいんだ。

 こんなに可愛い子が、こんなに美人な子が僕を迎え入れて喜んでいる。

 病気のせいなのか、そんなことはどうでもいい。

 今はともかく、薫ちゃんが望むように攻めないと)

薫は仰け反りながらベッドの頭の方にずり上がっていき、ベッドの柵に頭が当たりそうになる。

それを見て、裕樹は体を密着させたまま薫をずり下げ、今度はずり上がらないように薫の肩を押さえるようにして突き上げていく。

「あ、ああぁ…」

防音加工が施されて入り部屋で、大きな声を出してもめったに隣の一美には聞こえることはないのだが、夢中になった薫の声が外に聞こえないようにと以前のアパートの時の癖で、薫の口から声が漏れるとその口を自分の口で覆う。

(裕樹。

 大好き。

 荒々しくって言っても痛くしない。

 やっぱり裕樹じゃなくちゃ、こんなに気持ち良くなれない。

 裕樹の匂いも大好き。

 裕樹の熱いのも大好き!)

薫が夢心地で夢中になっている時に、裕樹が声を掛ける。

「薫ちゃん…

 いい?」

それは終わっていいかの合図だった。

薫は幸せに満たされながら頷くと、裕樹のものが痙攣し、微かに違う温かさのものを中で感じ、裕樹がすべてを薫の中に放出したことを感じ取った。

(ああっ!

 裕樹が私の中に。

 嬉しい!!)

薫は喘ぎながら両脚で裕樹の腰を挟むように、そして腕を裕樹の背中に回し、離れないと言わんばかりにしがみ付き、裕樹のすべてを受け入れていた。

裕樹が体を離そうとしても、名残惜しいのか薫は少しだけ抱擁を緩めなかった。


全裸に裕樹のワイシャツを羽織っただけの姿で薫はトイレから出てくると、躊躇いがちにベッドに横になっている裕樹に近づいていく。

訳も分からなくなって裕樹の部屋の窓の外に立ち尽くしていた自分。

夢中になって裕樹を求めた自分。

少し冷静になった今、顔から火が出るほど恥ずかしく感じていた。

それと同時に、こんなにはしたない真似、まるで雑誌で読んだ淫乱女のような真似をした自分を裕樹が軽蔑するのではないか。

そんな女と見られていないか。

裕樹のとって単なる性のはけ口としてあしらわれているのではないか。

いろいろな思いが交差し、気持ちは複雑だった。

それでも、自分は裕樹が好き。

セックス以外でも裕樹の優しい顔、優しい物腰、面白い話をたくさんしてくれる、すべてが好きでたまらない。

裕樹抜きでは生きていても仕方がないというほど、強い恋心を抱いていた。

「裕樹ぃ

 私…」

(私のこと呆れていない?)

薫が裕樹を上から覗き込みながら話しかけると、裕樹はかけていたタオルケットを剥ぎ、薫の手を掴むと抱き寄せる。

「きゃっ」

突然のことで薫は小さな悲鳴を上げたが、自分から裕樹の胸に飛び込んでいく。

薫が裕樹に覆いかぶさると、ふわっとタオルケットが薫の上からかかり、二人だけの空間を作った。

(いい匂い)

薫は裕樹の、裕樹は薫の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

(裕樹の匂い。落ち着くし、なんだか優しい気分になれる)

裕樹の温もりを感じながら満足する薫とは対照的に裕樹は違っていた。

(うう…

 薫ちゃんの匂い、たまらないなぁ。

 さっきは病気で無我夢中だったけど、ゆっくり(セックスを)やりたい。

 嫌がるかな…

 ええい、出たとこ勝負。

 嫌がったら後は手コキで我慢すればいい)

不埒なことを考えていた。

「薫ちゃん」

「え?

 あ、ごめんなさい。

 急に…」

急に淫らなことをしてと言おうとしている薫の口を自分の口で塞ぐ。

(わっ、キスしてくれる)

再び体の芯が熱くなるのを感じる薫。

「裕樹…」

「落ち着いた?」

優しく声を掛けるとキスをされトロンとしている薫は小さく頷く。

「あのさ。

 なんて言ったらいいのかな…」

「え?」

「うん。

 落ち着いたところで、もう一度…

 駄目かな?」

もう一度?

もう一度って、何を?

あっ!

最初、裕樹が何を言っているかぼやっとした頭でわからなかったが、もう一度セックスをしたがっていることがようやく飲み込めた。

薫としても断る理由はなく、病気のせいではなく自分の意志で裕樹に抱かれたかったので、すぐに大きく頷いて見せる。

この先、嫌われたって良い。

今、この時間が一番大切。

奇しくも二人とも同じ思いが頭をめぐる。

じゃあ、優しく。

ゆっくりと薫ちゃんのからだの隅々まで…

裕樹の手は、先ほどと打って変わりソフトで薫をすぐに夢心地にしていった。


9月に体調を崩し、手術、そして入院していました。

幸い回復も早く退院できたのですが、本業の仕事が溜まっていて、続編がおそくなりました。

病院では夜9時に消灯、朝6時に起床というとんでもない健全な生活。

まあ、9時に電気を消さされ眠りにつくのですが、そんなに早く寝れるの?というのと術後の痛みで結局、夜中にちょくちょく起きる始末。

夜の病院って怖いですよ~。

まあ、その話はまた今度にして、ペースはゆっくりになりますが、これからも投稿していきますのでよろしくお願いします。


次回もKの巻。

一美と裕樹がとうとう…。

それを知った薫は、一人街に出て行ってしまいます。


皆様も体にお気を付けください、ね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ