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AとK  作者: 東久保 亜鈴
13/29

Kの巻(その五①)

過去の悪夢を裕樹の力添えもあって、完全に振り払うことができた薫。

ますます気持ちを裕樹に寄せていきます。

裕樹は可愛く綺麗な薫との時間が信じられないと思いつつ、薫を大切にしていく。

一見、相思相愛な二人だが、薫は裕樹に嫌われたくないという思いが強く、裕樹は自分とは釣り合わないのではと思いつつ、今の関係に満足している。

合っていそうだが微妙に食い違っている二人の関係。

微妙な二人だが、鎖が取れた薫は喜びを隠せません。


9月末の日曜日。

朝から雲一つない良い天気。

暦は秋に向かっていく時期だが、まだまだ、夏のような暑さだった。

そんな暑さの中、薫と裕樹は動物園にいた。

薫か赤い野球帽のようなつば付きの帽子を被り、長い黒髪を左右に三つ編みして、白い色の長袖のブラウスにジーパン、スニーカーという恰好。

裕樹は、色違いの紺の帽子に、明るいチェックの半袖のブラウスにジーパン、スニーカーという恰好。

二人は仲良さそうに手を握り、いろいろな動物の折の前で楽しそうに話していた。


「やっと、晴れたね」

「そうだね。

 2週続けて天気悪かったしな」

9月に入ったら動物園に行こうと約束をしていた二人だったが、毎週末、生憎と天気が悪く、ようやく約束を果たすことができたのだった。

「しかし、9月も終わりだっていうのに暑いよな」

「そう?

 私たち学生は、暑い中、いつも学校に行って勉強しているわよ」

「何言っているんだ。

 最近は教室もエアコンがついて涼しいんだろ?」

「てへ。

 でも、体育は暑いわよ」

「そりゃそうだ。

 でも、良く長袖で大丈夫だな」

「うん。

 いくら仕事が無くなったと言っても、ママから日焼けしないようにって言われているの。

 それに慣れちゃったみたい。

 でも、暑いことは暑いわ」

少し汗をかいているのか薫の首筋が光っていた。


「その暑さの中、良く動物園に行こうだなんて。」

「いいじゃない。

 動物園、好きなんだもの。

 それに入場の人数制限があるから、いつもより人が少なくて風が通るみたい。」

「そんなものかな。

 まあ、休園じゃなくてよかったよね」

「うん。」

「そうそう、さっきのホッキョクグマなんて暑さでぐったりしていたよな」

「ほんとう。

でも、あとできっとカキ氷を貰えるはずよ」

「お、いいね。

 宇治抹茶味か?」

「なぜ、抹茶?

 シロクマがお茶熊になっちゃうでしょ!」

「それって、お茶犬じゃないか?」

「そっかぁ」

薫は思わず笑いだす。

「夏の暑い中、冬の寒い中。

 いろいろな動物の姿が見えて楽しいじゃない。

 カバは暑いときは水の中、冬の寒いときは水から出て太陽の下で日向ぼっこしているのよ。

 可愛いでしょ?」

「そうですかぁ」

(カバのどこが一体全体可愛いんだ?)

「あー、今、カバのこと馬鹿にしたでしょ!」

「してない、してない」

「嘘ついてる!

 カワウソめぇ」

薫は裕樹の脇を鷲掴みにする。

「うわ!

 くすぐったいって。

 まいった、降参。

 たまらんゾウ」

「…

 裕樹、芸風変わった?」

「薫ちゃんに合わせただけだよ」

二人は笑いながら見つめ合う

「じゃあ、カバの檻に向かって出発!」

「はいはい」


暑い中、薫は裕樹の腕に自分の腕を絡める。

裕樹は組まれた薫の腕、サラサラのブラウスの生地の下に感じる柔らかさの感触が好きで、暑さも気にならなかった。

(いいよなぁ。

 こういうの。

 可愛い女の子と腕を組んで動物園デートだなんて。

 こんな日が来るとは思わなかった)

目尻を下げる裕樹。

(汗、大丈夫かな。

 汗臭いと思われて裕樹に嫌われたら大変。

 でも、ちゃんと対策してきたから大丈夫。

 でも、裕樹の匂い、汗をかいていても全然変わらないわ)

裕樹に腕組みをしながら、自分の汗が気になる薫。

二人はカバの檻にたどり着く。

カバは気持ちよさそうに水面から顔の上半分を出していた。


「あははは。

 見て見て、気持ち良さそう。

 ほら、耳がぴくぴくしている」

「そうだな。

 まるで、薫ちゃんの声を聴いているみたいだ」

「そうかなぁ。

 ねえ、カバの汗が赤いって知っている?」

「え?

 汗が赤い?」

「えへへ、知らないんだぁ。

 カバは、暑さから身を守るために特殊な成分の入った汗をかくの。

 その成分が赤い色なのよ」

「なんか、おっかないな。

 真っ赤なカバがうろうろしたら」

「ばかね。

 赤いって言っても真っ赤っかじゃないわよ。

 ほんわり赤いのよ。

 人間だって、日焼け止めとかは、白い色がついているけど、塗っても気にならないでしょ?」

「なるほどね。

 さすがに詳しいね」

「えへ」

薫は嬉しそうに笑う。

「カバって、のんびりとしているように見えるでしょ。

 でも、走ると早いのよ。

 陸の上でも水の中でも。

 それに、怒ると凄く強いの。

 私もカバみたいにいつもはのんびりしていて、いざという時に強くなりたい。

 強ければ、あんなのにつけ込まれることはなかったのに…」

眉間に皺をよせ、悔しそうでも悲しそうでもどちらでも取れるような顔をする薫。

その薫の頭を軽くポンポンと裕樹が触れる。


「…」

「大丈夫。

 薫ちゃんは強くなれる。

 それに僕がいる。

 僕が守るし、薫ちゃんが強くなる手伝いをする」

「裕樹」

(裕樹はやっぱり優しい。

 私のことを助けてくれる。

 裕樹のことが大好き。

 …

 私、笑っていてもいいのかな。

 私、何も心配しなくていいのか)

「でも、カバは困る」

「え?」

「薫ちゃんが見た目カバになったら、めちゃ、引くぞ」

「も、もう!

 でも、カバみたいになったら、やっぱり嫌?」

「う…」

返事に困る裕樹を見て薫は笑い出す。

「嘘よ。

 強くなりたいけど、見た目、カバみたいにはならないわよ。

 私だって嫌だもの」

(裕樹に嫌われないように、もっと強く、もっと綺麗にならなくっちゃ)

「そうしておくれ」

(薫ちゃん、最近よく笑うようになったな。

 凄く可愛くなったな。

 僕は、幸せか)

二人は仲睦まじく腕を組んで、カバの檻を後にする。

織の中のカバは、水面から顔半分を出したまま、二人の後姿を見送っているようだった。


季節は流れ夏が過ぎ秋も終わりに近づく頃。

薫は学校帰りに毎日のように裕樹のアパートに来るようになっていた。

アパートの部屋は裕樹が小まめに片づけているため、掃除をしに来ているわけではない。

裕樹が仕事で不在の時は、預かった鍵で勝手に入り、部屋着に着替える。

部屋着は薫が持ち込んだ自分の服で、裕樹のタンスの1段を占有していた。

「え?

 整理ダンスの1段を貸してくれ?」

「うん。

 裕樹のタンスの中、結構、スカスカでしょ」

「あ!

 勝手に見たな?」

「てへ」

裕樹は苦笑いをするが、薫ならと別に気にも留めていなかった。

「賃料は、今までの貸しの利息ね」

「はい、はい」

当初の約束で、セックス1回に付き5000円だったが、薫は裕樹に支払いを要求することは一切なかったし、裕樹が払うと言っても絶対に受け取らなかった。

ただ、たまにいくら貯まったとふざけて真面目な裕樹を困らせる。

部屋着になると、眠くなると裕樹のベッドで仮眠をしたり、近くのコンビニで買ってきたスィーツを食べたり、勉強したり、まるで自分の部屋のように振る舞う。

裕樹が帰って来ると、裕樹の時間、小説を書いたりする時間を邪魔しないように長居をせずに引き上げる。

それでも、薫は楽しかったし、裕樹の顔を見れて嬉しかった。


水曜日。

裕樹の仕事が休みの日。

やはり学校帰りに寄る時があるが、やはり、裕樹の時間を邪魔しないように、二人でスィーツを食べ、帰っていく。

その代わり、日曜日は朝からべったりと裕樹にくっ付いて一日を満喫する。

夏休み、依存症がひどい時期は、水曜、土曜、日曜、それ以外でも裕樹を求めていたが、今では日曜日くらいになり、外に出かけたりするとその週は無かったりと精神的にも落ち着いてきていた。

回数が減った分、セックスをする時は燃えるように情熱的になっていた。

裕樹は落ち着きを取り戻した薫に安堵するのと、その反面、回数が減ったことに残念に思え少し複雑な気分だった。


日曜日。

特に出かける予定がなく、朝早くから薫はアパートにやって来る。

「何、その荷物は?」

薫は三つ編みのおさげ髪で、大きなボストンバッグを持っていた。

「えへへ。

 ちょっと待っていてね」

そういうと薫はバッグを持ったまま、洗面所に籠る。

(なんだろう?

 でも、たまにしてくるあの三つ編みのおさげ髪。

 あれはあれで可愛いんだよね)

しばらくして出て来た薫の恰好を見て、思わず裕樹は凍り付いたように言葉がでず、視線は薫に釘付けとなる。

薫はどこかの学校の制服なのか、白いスカーフをした濃紺のセーラー服だった。

「…」

「どうしたの?

 私の恰好、どこかおかしい?

全く似合わないかしら?」


薫の学校の制服はブレザーで有名女子校ということもあり品が良く可愛らしいデザインで、下にはベスト、白のブラウスに中等部を表す臙脂色のリボンと薫の可愛さを良く引き出していた。

それに比べて目の前の濃紺のセーラー服、黒タイツを穿いた薫は、全く違った大人びた雰囲気だった。

裕樹は声も出さず、出さないわけではなく声が出なかったのが正しく、ただ、首を横に振るだけだった。

「じゃあ、似合う?」

今度は首を縦に振る。

「な、なによ。

 似合うとか、似合わないとか口で言いなさいよ」

「い、いや…

 あまりのことで、声が出なかった」

「あまりのこと?」

「可愛いということ。」

「いつもの制服と、どっちがいい?」

「え?

 え…えっと…」

「どっちよ」

薫は裕樹に近づき、覗き込むように見つめる。

近付いた薫の顔はいつもと同じはずなのだが、唇や目元に妙な色気を感じ、裕樹は思わず薫を抱き寄せ胸に顔を埋める。

「きゃ。

 こ、こらー!

 これ撮影用のセーラー服なんだから、くしゃくしゃにしないでね。」

「え?

 コスプレ?」

「撮影用の…

 コスプレって言うのかなぁ」

「いいから、いいから」

「もう」

薫は裕樹にベッドに寝かされる。

というか、半分は裕樹の首に手を回して、引っ張るように自分から横になる。


裕樹は薫のお腹の方からセーラー服の内側に手を入れ、薫の胸に触れる。

撮影用のセーラー服であるが綺麗にクリーニングされ、何度か薫が袖を通したのか、薫の匂いがしていた。

それが余計に裕樹を刺激するのと、いつもと違った雰囲気で薫も興奮していた

「あ、だめ。

 そこからじゃないの」

「え?」

セーラー服の上着をセーターと同じように頭から脱がそうとして薫に止められる。

「それじゃ、破けちゃうし、皺くちゃになっちゃう。」

「ご、ごめん」

「まず、脇のファスナーを開けて。

 下から上にね。」

「こうか」

「そうそう。

 次は襟のボタンを外すの。

 そうそう。

 そうしたら襟を広げて、そうしたら、脱がしてね」

(こ、こんなこと…

 やったことないし、よもや、やれるなんて…)

裕樹は薫に言われるとおりにセーラー服を興奮しながら脱がしていく。

セーラー服の上下をくしゃくしゃにしないように脱がすと黒タイツ姿の薫が胸を腕で隠すようにして恥ずかしそうに顔を染め、裕樹を見ている。


裕樹も服を脱ぎ用意をしようとした時、薫が声を掛ける。

「裕樹…。

 今日、私、安全日なの」

なんとなく薫の言う意味を理解した裕樹だが、オウム返しのように尋ねる。

「安全日?」

「うん。

 だから、今日は…その…

 自然に裕樹を…感じたいの。

 裕樹が…初めてなのよ…

 いい?」

「う、うん」

(中学生とセックスするだけでも、たいへんなことなのに、自然にだって?!

 いいのか?

 犯罪じゃないのか?

 それも、僕が初めて?

 も、もう、罠だろうが犯罪だろうが構わない)

裕樹は興奮する手で薫の下着を脱がし、全裸にすると覆い被さっていく。

(裕樹ったら、興奮している…

 男の人って、やっぱり『自然に』ということに興奮するのね。

 ママから、あれをちゃんと貰ってきたし、後で飲めば…。

何だか私も興奮してきちゃった)


数日前。

薫と母親の加津江は自宅の薫の部屋で声を潜めて話をしていた

「アフターピル?」

「そうよ。

 緊急ピルといって、パートナーが…裕樹君が避妊に失敗したときに飲む避妊薬よ」

「失敗?

 避妊薬?」

薫は怪訝そうな顔をする。

「そうよ。

 薫は保健の授業で習わなかった?」

「…」

薫は曖昧な顔をする。

「日本の性教育はまだまだかしらね。

 今、避妊は裕樹君任せなんでしょ?」

「う、うん。

 それって、普通の事じゃ」

「そうだけど、それって完璧じゃないのよ。」

「え?」

「裕樹君、ちゃんとコンドーム付けてくれているんでしょ?」

「…。」

薫は恥ずかしそうに頷く。

「でもね、気を付けなくちゃいけないの。

 コンドームってゴム製品なのよ。

 装着の仕方が悪いと、横から漏れたり、破けたりするときがあるのよ」

「そうなの?」

「そうよ。

 お父さんもコンドーム付けているんだけど、何度か、セックスの最中に“パーン”て破裂音がして、私の中でコンドームが破けたことがあるの。

 まあ、夫婦だから、万が一妊娠しても、薫ちゃんの弟か妹が出来るだけだからいいんだけど、薫ちゃんは予期せぬ妊娠はしたくないでしょ

 ましては、まだ中学生なんだから」

「まあ、そうだけど」

「それに裕樹君だって困るでしょ」

「でも、裕樹、赤ちゃん出来たら結婚するって言ってくれている」

「まあ!

 ラブラブじゃない」

「ママったら」

「でも、今はアルバイトの身なんでしょ?

 薫ちゃんと子供の面倒を見るのは厳しいわよ」

「そうよね…」

薫は以前自分の夢を捨て、定職に就こうとしていた裕樹のことを思い出していた。

(そうよね。

 裕樹の夢をいきなり奪いたくないわ。

 それに私だって、まだ中学生だし)

「だからね、破けたり、何かおかしいなって感じたら飲むのよ」

「でも、わかるかしら」

「責任感の強いパートナーなら、言ってくれるはずよ。

 だから裕樹君なら、ちゃんと言ってくれると思うわ。

 本当は低用量ピルを常用するのもいいのだけれども、薫ちゃん、まだ中学生だから、もう少し大人になってからね」

そう言って薫は加津江からアルターピルを渡されていた。

「すぐに飲まないとだめなの?」

「ううん。

 72時間以内よ。

 でも、早ければ早いほど効果的だからね」

「ふーん」


薫と裕樹はいつも以上に燃え上がった後、薫はトイレに行き、洗面所でこっそりとピルを飲み、何くわぬ顔をしてベッドに戻ると猫が寄り添って眠るように抱き合ってベッドの上で微睡む。

「ねえ、どう…」

薫は『どうだったか』と聞きたかったが、恥ずかしくなって言葉を濁す。

それを裕樹は察知したか、薫に笑顔を見せる。

「すごく温かで、柔らかくて、気持ちよかったよ。

 薫ちゃんは大丈夫だった?」

「私も…

 裕樹、大好き」

目を潤ませ顔を赤くして甘えた声を出す薫を、裕樹は可愛くて仕方なかった。

(いろいろあったけど、考えてみたら恋愛に歳は関係ないか。

 薫ちゃんは、もう15歳だし恋愛が早いってことはないよな。

 これから二人でいろいろと楽しめばいい。

 薫ちゃんがずっと僕の方を見ていてくれればいいな)

(裕樹は、セックスした後冷たくならないな。

 今までの人って、皆、終わると冷めたような感じになるのに。

 『賢者タイム』だっけ。

 裕樹も終わった後抱きしめてくれるけど、少しぼーっとしているかな。

 でも、直ぐにいつものやさしい裕樹に戻ってくれる。

 これって、私のことを好きでいてくれるってことかな。

 裕樹が好きなことをたくさんしてあげて、わたしのことをずっと好きでいてくれるように頑張らなくっちゃ。

 今度はどんな制服にしようかな。

 ナースもあったな。

 巫女さんも。

 裕樹ならきっと巫女さんね

 えへへのへ)

三者三様(この場合二人だが)のことを考えている裕樹と薫だった。


もはや、バカップル化したしたような薫と裕樹。

悪夢が去ったあと、薫にはフォローウィンドが吹いてきます。

少しずつだが、二人の時間に制約が出てきます。

不満に思う薫。

そんな二人にあることが…。

次回は、Kの巻その五の後半。

「裕樹、どこ?」


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