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AとK  作者: 東久保 亜鈴
11/29

Aの巻(その五①)

葵の初体験は不発に終わり、二人の関係は微妙な距離感を保つことになります。

葵は翔太への恋心が強くなり、翔太は戸惑うばかり。

そんな翔太も戸惑いながらも、心の奥底では葵にひかれていく。

「私は翔太さんと釣り合いのとれるほど綺麗になれるかな。

 ううん。

 絶対に綺麗になるんだ」

自分の容姿を鏡に映し、自問自答し、ため息をついたり、気合を入れたり、けなげな葵。

芋虫が綺麗な蝶になることを夢見て。

9月の中旬のある日曜日。

まだまだ、残暑が厳しい頃。

ジーパンに半袖のブラウス姿の葵とお揃いのようにジーパン姿の翔太の姿が水族館の中にあった。

「ふう、やっぱり暑いときはクーラーの利いた施設の中がいいな」

「もう、翔太さんたら。

 車で来て、暑いのは駐車場から建物の中までじゃないですか」

葵が笑う。

「でも、葵ちゃん。

 葵ちゃんの中学は、教室にクーラー付いていないんだろう?

 暑さに慣れているんじゃない?」

「残念でした。

 ちゃんと付いてます。

 特に教室は西日がさんさんと入って、暑いんですよ」

葵は怒ったような顔をしたが、しっかりと翔太の腕に自分の腕を絡めていた。


水族館は夏休みに来ようと約束したのだが、葵が夏休中アルバイトを始めたことで延期になっていた。

「え?

 明日から、バイトを始めるって?」

夏休に入って、直ぐに葵が翔太に打ち明ける。

「はい。

 夏休みなので、バイトしなくてはと思って」

(いつも翔太さんにご飯を食べさせてもらっているから、なにかお返しをしなくっちゃ。

 それに、高校に行くとなったら、お金もかかるから)

「でも、中学生のアルバイトって、確か禁止じゃなかったっけ?

 あっ、新聞配達?

 あれは確かオッケーだったはずだけど」

「はい。

 でも、新聞配達じゃありません。

 あくまでも夏休み限定で、お姉ちゃんの知り合いの工場で簡単な組み立てのお手伝い。

 お昼ごはん付きなんですって」

「へえ~、たいへんだね。

 でも、勉強が疎かにならないように気を付けなきゃね」

(やったー!

 夏休みは久々にフリーだ。

 会社の女の子誘って食事、たまにはダーツバーもいいな

 そうだ!

 夏休みを取って誰か女の子とバカンスを楽しもう!)


翔太は期待で目尻を下げる。

「はい。

 お姉ちゃんも勉強時間のことを考えてくれていて、朝9時から午後2時まで。

 お昼休みがあるので、1日4時間。

 土日がお休みなので、月曜日から金曜日の週5日間です。

 なので、土曜日以外はいつもと変わりません。」

「へ?

 今、なんと?」

「え?

 いつもと変わらないで、ここに来れる…。

 ううん、いつもより早くここに来れます。

 あの…食事代、バイトのお金が入ったらお払いしますので、いくらか言ってください。

 それとも…迷惑ですか…」

葵の声が消え入りそうになる。


葵自体は夏休みも毎日翔太に会える嬉しさから、翔太のきっと喜んでくれるに違いないと思っていたので、翔太の反応が不安だった。

(やっぱり、迷惑だったのかな…

 いつも優しくて、ご飯も食べさせてくれて。

 なんで、ご飯を食べさせてくれるんだろう?

 私のことが気になるから?

 気になるって、好きってことじゃないの?

 私は、毎日翔太さんに会えて嬉しいのに)

「め、め、迷惑なんてとんでもない。

 俺も葵ちゃんに会えて嬉しいよ。

 それに、いつも言うように一人で食事するのは寂しいから付き合ってもらうだけなので、お金はいらないって」

「本当?」

「ああ、本当だ」

(ああ、俺のバカンス計画が崩れて行く。

 それに、夏休をとっても、葵ちゃんを置いてどこかに旅行になんて行けないしな。

 はぁ…)

小躍りするように喜ぶ葵を見ながら、翔太は何とも言えないため息を心の中でつく。


夏休になると平日午後の2時半過ぎると真夏の太陽の熱気とともに葵が翔太のマンションにやって来る。

翔太にシャワーを勧められ、最初は躊躇った葵だったが、汗と機械油の匂いが気になりマンションに来るとまずはシャワーを浴びるようになった。

それからエアコンの利いた部屋で、冷たいジュースを飲みながら勉強。

塾の夏期講習に通う費用が無い葵のために、翔太は参考書を買い足し渡してあった。

葵は喜んで夏休みの宿題と翔太の参考書で受験に備えた勉強をする。

午後5時30分ごろ,翔太が仕事を終えリビングにやって来ると、勉強でわからないところの質問タイム。

1時間ほど翔太に教わった後、夕飯の支度を一緒にする。

料理の筋は葵の方が一枚上なのか、翔太が教えた料理をすぐに自分のものにして、翔太よりも手際よく美味しく作り、翔太を喜ばせる。


「葵ちゃん、料理上手だね。

 いいお嫁さんになれるな」

「え?!」

(翔太さんのお嫁さん?

 うわぁー)

葵は喜びで顔を輝かす。

(え?

 葵ちゃんをお嫁さんに出来る男性は幸せ者だねっていう意味なのだけど、何か勘違いしている?)

翔太は照れて喜んでいる葵の顔を見て困惑する。

食事の時は、葵のおしゃべりが中心で翔太はどちらかというと楽しそうに聞いているほうだった。

後片付けが終わると、翔太は9時30分までに葵を車で送っていく。

土日は、午前中、だいたい10時頃に葵はやって来る。

そして、部屋の掃除など甲斐甲斐しく世話を焼く。


一度、翔太は葵にこの夏休み、いつも何時に起きているのかと尋ねたことがあった。

「え?

 朝ですか?

 平日は6時30分ごろですよ。

 起きて洗濯して、ご飯を食べて、片づけをして8時過ぎに家を出ます。

 土日も同じで、ただ、部屋の掃除をしてからここに来ます」

「へぇ~

 だから炊事、洗濯、片づけと家事は何でもこなせるんだ。

 本当に、良いお嫁さんになれるね」

「本当ですか?

 やったー!」

「え?」

(ちょっと違う気がするが、まあ、いいか)


元来、勉強が好きな葵は、土日でも参考書と睨めっこ。

教えるのが好きな翔太と相まって個人授業が始まることは多々あった。

たまに気晴らしに近くの公園でバトミントンやキャッチボールをしたり、あとはゲームや買い物。

たまに、バイト疲れか、勉強疲れか、はたまた夏の暑さ疲れか、昼ご飯を食べ終ると葵はうとうと転寝を始める。

翔太は、そっと抱き上げ、ソファの上に横に寝かし、タオルケットを掛けてやる。

抱き上げるたびに、華奢な体と葵の良い匂いに煩悩を擽られ、苦笑いする。

夏休は葵にとっては楽しく充実した日々で、一方の翔太にとってもまんざらではない日々だった。


そんな8月の最終日。

帰ろうと支度をする葵の手が止まる。

「何か忘れている…」

唐突に口にする。

「え?

 何か忘れている?

 夏休みの宿題で忘れているのがあるのか?

 絵日記、天気だとか、工作だとか、読書感想文とか?」

「ううん。

 そんなのじゃない。

 それに絵日記や毎日の天気なんて小学生です。

 そうじゃなくて…」

「じゃあ、アイス!

 食べたいアイスを買い忘れた」

「違います」

「勉強。

 やったところを全部忘れた」

「私、そんなにアホですか?」

「友達とどこかに行こうって約束していた」

「そんな友達…

 あ!

 思い出した!!

 水族館~」

葵は泣きそうな顔をする。


「連れて行ってくれるって約束したのに~!!」

「ご、ごめん。

 すっかり忘れていた!」

約束を思い出し、しどろもどろになる翔太。

「ひ、ひど~い!!」

目を涙で潤ます葵を見て、尚更、しどろもどろになる。

「で、で、でも、葵ちゃんだって忘れていたじゃないか!」

「あ…」

「だ、だろ?」

「ぶぅ。

 あの時、約束したのに…」

葵自身も忘れていたことで、翔太だけを責めることは止めたが不満がいっぱいだった。

「じゃあ、9月に入ったら連れて行ってください。

 月末になると中間テストが近づいて来るから。」

「わかった、わかった」

葵の怒りが収まって来たので安堵する翔太。

(葵ちゃんに泣かれたら、たまらんものな。

 水族館くらい、ちゃんと連れて行ってやろう)


「…」

「え?」

葵が何か言ったが聞き取れなかった。

「約束の…

 約束のキスをしてください。

 この前と同じように」

「…」

翔太は車の中で葵とキスをしたのを思い出し、頭を掻く。

「だ…」

「わかった!」

葵が「だめですか?」と尋ねる前に翔太は遮り、葵の近くに行って腕を広げる。

葵は嬉しそうに椅子から立ち上がると、翔太の腕の中へ。

そして、翔太は優しく葵の唇に自分の唇を重ねる。

胸いっぱいに葵の良い香りを吸い込み、思わず激しく押し倒したくなるのをぐっとこらえ、そっと唇を離す。

「約束した」

「うれしい」


喜んだ葵は両手を翔太の腰に回し、思いっきり抱き付く。

夏の薄着のせいか葵の体の線をいつもより良く感じる。

葵の体は成長途中で、つい1,2か月前に触れた時よりも女性らしさが増し、柔らかな気がした。

顔も良く見ると子供らしさから女らしさに変わってきているようだった。

(何て柔らかくて温かいのだろう。

 こんなに華奢なのに、出るところはしっかり成長して。

 いい匂いだな…

 やばい!

 下半身が限界だ)

「あ、葵ちゃん。」

「?」

顔を上げた葵の額に優しくキスをする。

「さあ、送って行こう」

「はい!」


「面白―い!

 このお魚、砂の中からニョキニョキ出て来てる。

 可愛いー!」

「それチンアナゴっていうんだよ」

「チン…、変な名前!

このとげとげした魚は?」

「え?

 ああ、オニカサゴ。

 背びれに毒があるけど、美味しいんだって」

「へー。

 あ!

あれは?」

「ちょっと、葵ちゃん。

 待ちなって」

水族館に入ると、葵はまるで幼稚園児のように燥いで、展示されている魚たちを見て回る。

翔太ははぐれないように必死にあとをついていく。


「葵ちゃん?」

葵は大きな水槽の前で立ち尽していた。

見ると薄暗い部屋でライトに当たり、綺麗な発色をしている小さなクラゲが沢山入っていて、ゆらゆらと幻想的な眺めだった。

葵が一番楽しみにしていた展示物で、葵は心を奪われたように飽きもせずに無言でじっと眺めている。

(ゆ~ら、ゆ~ら。

 気持ち良さそう。

 小さくて、可愛くて、綺麗。

 小さな私でも、綺麗になるかしら…)

「綺麗だ…」

その横顔は、翔太にとって穢れの知らない少女のように美しく見え、声をかけるのも躊躇い、じっと葵の方を眺めていた。

それからイルカショーやペンギンを見たり、最後にイルカのぬいぐるみを買って葵に渡すと、葵はいつも以上に可愛い笑顔を見せた気がして、翔太は胸が高鳴った。


(やべー、最近、俺、おかしいと。)

葵を家まで送っていき、キンキンに冷やした日本酒を飲みながら、防犯カメラに映っている葵をみながら翔太はつぶやく。

(中学生で、まだ、下の毛だって生えそろっていないガキに、なに欲情しているんだ。

 髪の毛だって茶色がかっているし、くせっ毛で結構ごわごわしているし。

 顔だって愛らしい顔はしているが決して美人じゃないし。

 普通過ぎるほど、普通の子じゃないか。

 何より胸なんて、片手の中にすっぽりと入るだろうに)


翔太は片手を広げ、そして、握ってみて、それからガラスのお猪口に入った日本酒を飲み干す。

(俺は、たわわに実った胸がいい。

 胸に挟まれる感触がたまらないんだ。

 尻だって、ボンと突き出して、柔らかいのがいい。

 髪も長くしなやかな黒髪。

 顔だってエロチックな美人顔がいい。

 なのに、何であんな子供にときめく?

 おかしいだろうに。

 絶対異常だ!)


お猪口に日本酒を注ぎ、また、一口に飲み込む。

(やっぱり、綺麗な化粧をして、色気のある大人の女がいい。

 高級な香水の匂い。

 色気のあるラグジュエリー。

 熊の顔が縫い付けてあるような幼稚園児のパンツみたいのじゃない。

 そして、一緒にふろに入って、酒を飲んで、それで~!!)

また、お猪口に日本酒を注ぎ、一口に飲み込む。

(な、なにを興奮しているんだ、俺)


頭の中が急降下していく気がした。

(はぁ…

 確かに葵ちゃんは可愛い。

 穢れも知らない天使ちゃんだ。

 でも、中学生だろ?

 俺、いくつ?

 干支で丁度一回りしちゃっているじゃないか

 葵ちゃんが生まれた時、俺はすでに中学生で、女の子の尻を追いかけまわしていたじゃないか。

 そんな子相手に…。

 でも、可愛いな。

 最近ますます可愛くなったな。

 それにいい匂いがするし、体つきだって女性らしくなって。

 そりゃー、大人の女の方がいいよな~…

 でも、葵ちゃん可愛いしなぁ~)

すでにアルコールの性で翔太の頭の思考回路は永久ループに陥っていた。


葵は、きつい目つきは翔太と一緒にいるときは穏やかになってきたとはいえ、ごく普通の中学生。

美少女でもスタイルがいいわけでもない普通の容姿の女の子。

中学2年の時、栄養失調の影響もあり、肌は荒れ、ニキビも目に付くような女の子。

それに引き換え翔太は、どちらかというと女性にもてる容姿の持ち主

綺麗でスタイルの良い大人の女性が好み。

そんな翔太が葵に何を見て、そばに置いておくのか。

次回は、「まさか、なんでお前を」と言う翔太の絶叫が聞こえます。


パソコンがとうとういうことを聞かなくなり、先週、新しいのを買いに行きました。

それまで使っていたのが、キーボードを外すとタブレットとしても使えるパソコンで、それが気に入っていたので、その後継機(バージョンアップ版)を買いました。

前のパソコンは、最後には画面右上に3か所サークルができ、その中にポインターが入り込み、マウスを動かしても何をしても、出たと思うとすぐに戻るという、なにかウィルスに感染したのではと思うような動きをしていました。

ポインターをすぐに持っていかれるので、何もできずでした。

パソコンの中身のお引っ越しもほぼ終わり、今は新しい子と仲良くしようとしている最中です。


次回は、Aの巻(その五②)です。

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