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AとK  作者: 東久保 亜鈴
10/29

Kの巻(その四②)

薫は裕樹に加平を見られたくなかった。

こんな男に色々なことをされたと想像されただけで嫌われる、その想いから自分で解決、それは加平と刺し違えようとする悲痛な方法だった。

しかし、加平の方が一歩も二歩も上手で、逆に薫は加平の手に堕ちて行く。


薫の涙を見て、加平は舌舐めずりをする。

「くぅ~う。

 いいね、いいね、薫。

 その哀れな目。

 誰かに助けてもらおうとでも思っているのか?

 ええ?

 誰も助けに来ないよ。

 俺に散々玩ばれ、かつ、俺の弟分たちをも相手にした汚れたお前なんか、誰が助けに来るもんか。

 ひゃっはー!」

薫の上に馬乗りになって唾を飛ばし吠える加平。

(う、嘘よ。

 裕樹は私を…)

裕樹はきっと自分の事を嫌うだろう。

汚い娘と蔑むだろう。

薫は絶望感に苛まれる。


「くっくっく。

 やっと観念したって顔だな。

 さあ、前みたいに、可愛がってやるよ。

 薫は、荒っぽく、そうそう甚振(いたぶ)られるのが好きな超マゾッ子だもんな。

 そうだ。

 今までしなかったけど、今日は強制避妊薬を持ってきたんだ。

 生で中出ししてやるよ。

 気持ちいいもんな。

 きっとお前も気持ちいいって思って癖になるぞ。

 大好きな俺のザーメンでお前のここを満たしてやるよ」

そういうと薫のへその3cmほど下を指さす。

(い、嫌だ

 それだけは、絶対に嫌―!!)

泣きそうな顔をする薫をあざ笑うように加平は薫に馬乗りになったまま、自分のブラウスのボタンを外し始める。

 

トントントン!

トントントン!

その時、ドアを叩く音が部屋に響く。

「な、なんだぁ?」

シャツを脱ぎ始めていた加平はベッドから降りると不機嫌な顔でドアに近づく。

「なんか用か?」

楽しみを中断された加平はつっけんどんな言い方で答える。

「すみません。

 加平様。

 ちょっとよろしいでしょうか?」

丁寧な女性の声で加平は安心したのか、外の様子を窺おうとドアを少し開けた途端にドアを突き飛ばし数名の男が部屋になだれ込んでくる。

「な、なんだ、お前ら」

「加平永治だな?

 警察だ。

 児童ポルノ禁止法違反。

 未少年略取。

 暴行監禁などの罪で逮捕する」

「え?」

なにかを言おうとした加平だったが、ベッドの上で薬を飲まされ身動きの取れなくなっている学生服姿の薫を動かぬ証拠と見て観念したように項垂れる。


「さあ、来てもらおう」

女性の刑事が薫の様子を確認し、慌しく救急車の手配をする。

その喧騒の中、「この野郎!」と怒号を上げながら一人の男が加平にとびかかろうとして押さえつけられる。

男は裕樹だった。

「余計なことはしないでいただきたい」

刑事に諭され、それでもなお、裕樹は加平に突っかかろうとしていた。

(裕樹…)

ぼんやりする頭で、薫は視線の端で裕樹を見た。

「薫!!」

今度は、薫の両親と思われる男女が血相を変えて部屋に飛び込んできて、薫の視線は裕樹から遮られる。

(ああ、終わったんだ…)

加平から自由になれたこと。

加平に受けた恥辱の全てが露見されること。

裕樹に見られたこと。

薫はぼんやりと考えながら、眠りに落ちて行った。


次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。

加平に飲まされた薬のせいなのか、せん妄を発症し、訳も分からずに混乱し、暴れる薫。

強い鎮静剤を投与されぼんやりする。

その繰り返しが数日続いたが、何とか落ち着き、1週間くらいで退院することが出来た。

しかし、例のセックス依存症が激しく薫に襲い掛かる。

だが、以前の時と異なり、薫には理解ある母親と裕樹がいた。


夏休みに入った最初の日曜日。

朝から快晴で焼けつくような日差し。

その日差しを避けるように白いワンピースに白っぽい大きなつばの麦わら帽子を被った薫が長い黒髪を帽子の下からなびかせる様に早足で歩いている。

薫にとっては、退院後初めての外出。

行き先は裕樹のアパート。

昨夜、アパートに行くと裕樹にLINEし、久々に会える楽しみよりも、今の薫には別の理由があった。

一方、裕樹は薫が遊びに来るということで朝早くから部屋の掃除をする。

いつもきれい好きな裕樹の部屋は、掃除の必要がないくらいだったが、掃除、洗濯に力が入る。

そして、薫のためにエアコンで部屋を冷やしていると、ドアフォンが来客を知らせる。


「はーい」

ドアのところで外を窺うと、「私」と小さな声だが薫の声がして、裕樹は躊躇せずにドアを開ける。

ドアの内側からエアコンの涼しい風とともに薫の好きな裕樹の匂いが流れてくる。

それが薫に火をつける。

「ひ、裕樹ぃ~」

サンダルを脱ぎ棄てるように薫は裕樹の腕の中に飛び込んでいく。

「わっ!!」

しっかりと薫を受け止める裕樹。

外から入って来た薫の体は熱く、まるで太陽が飛び込んできたようだった。

ただ、尋常ではない薫の雰囲気に裕樹はハッと思い当たった。

「薫ちゃん。

 まさか、あの症状か?」

裕樹の腕の中で薫は体を震わせるようにして、大きく頷く。

「お、お願い…

 助けて…」

泣きそうな薫の声を聞き、裕樹は薫を横抱きに抱き上げ、ベッドに連れて行き、そっと下すが、薫は両手を裕樹の首に巻き付け、自分の方に引っ張り、裕樹は薫に覆い被さっていく。


事が終わり布団の中で微睡(まどろ)んでいる裕樹と薫。

「落ちついた?」

「うん」

夏掛けふとんの中で、薫は裕樹の腕を抱きしめ、気持ちよさそうな顔をしていた。

「ごめんなさい。

 私、外から入って来て、汗かいていたでしょ?」

「大丈夫だよ。

 それに薫ちゃんだったら、全然嫌じゃないよ」

「本当?」

「ああ、本当だ」

「うれしい。

 …

 ねえ、裕樹」

「ん?」

「ありがとう…

 私を自由にしてくれて」

「ああ。

 LINEの文面、あれは奴のをそのままコピーしたんだろ」

「うん。

 悩んだんだけど、諦めようと思ったんだけど…

 でも、裕樹のことが…」

「僕のことが?」

「ううん。

 でも、ママが驚いていた。

 いきなり裕樹から電話がかかって来て、私のことを真剣に話してくれたって。

 それと同時に警察に動いてもらわないと、ビデオを消せないって警察に掛け合ってくれたって。

 …

 あとで警察の人から説明があったんだけど、あの時並行して、家宅捜索して、ビデオや写真、一切合切押収出来たそうよ。

 それに、ネットに流れたものもないんだって」

「そっかぁ。

 良かったね」

裕樹は自分のことのようにほっとした顔をした。

「すごかったって。」

「え?」

「裕樹、手際が良くて機転も利いて、しかも交渉力に長けていたって。

 警察もあいつのことをマークしていたようなんだけど、裕樹が交渉して、あんなに早く動いてくれたって。

 ママ、凄く感心していたし、感謝していたわ。

 今度、是非会ってお礼をしたいって言ってたわ」

「それは、それは」

「…」

「どうした?」


いきなり黙り、薫は夏掛け布団に顔を埋める。

「…

 見た…でしょ?」

「え?」

「あいつを…」

「ああ」

「あんな奴に私、抱かれていたの…

 玩具にされていたの…

 裕樹には見られたくなかった。

 あんな奴に抱かれていた私を嫌いになったんじゃない?」

話しながら薫は肩を震わせていた。

薫は今までは話はしたが相手が見えず裕樹にとって空想の世界だったのが、実際の男を見て実感が沸くのと、それによってリアルにその場面を想像することで、自分の事が汚らしく見え、嫌いになったのではないかと恐れていた。

「あのさぁ。

 前にも言ったけど、僕は相手に対して処女性を求めたり、潔癖を求めたりはしない。

 過去のことは気にしない。」

「裕樹?」

薫は布団から顔を出し、裕樹を見つめる。

その眼は、泣いていたのか真っ赤だった。

「今を一緒にいてくれる子がいい。

 可愛い笑顔が絶えない子。

 一緒にいて、何でも話してくれて、素直にそして頼ってくれる子がいい」

「…」

薫はまた泣き出しそうな顔になる。

「薫ちゃんだって言っていただろ。

 ほら、最初に会った時。

 こんな可愛い子と一緒にいられるなんて、一生のうち一度あるかないかだって。

 僕もそう思っている。

 目の前に薫ちゃんという滅茶苦茶可愛い、そして素直な子がいる。

 なんて幸運なんだろうって。

 この子のことを大好きだし、守ってあげないとってね」

「ひ、裕樹ぃ~」


泣き出し始めた薫の唇を裕樹は自分の唇で塞ぐ。

いきなりのことで、びっくりして薫は泣くのをやめる。

「薫ちゃん…

 もう一回、いい?」

「…」

薫は照れくさそうな顔をして小さく頷く。

正直、裕樹は面白くなかった。

あんな男に薫は性技を仕込まれたのかと思うと裕樹は心中穏やかで済むわけではなかった。

中学生の女の子、薫のように可愛い女の子にそこまでの仕打ちをし、泣き叫ぶのを容赦なく玩ぶことなど許すことなど出来ず、怒りが湧き上がって来る。

だが、薫が望んでいたわけではなく、嫉妬して乱暴に扱ったり、嫌になったりする気はなく、優しく、ただ自分の腕の中で心の傷を癒し、体を癒し、自分だけに喜びを見つけられる女の子になって欲しいという願望だった。

薫は裕樹の優しさを肌で感じ取り、温かく、夢の中にいるようにいい気持になっていた。


それからしばらくは、薫は不安定な状態が続き、二日に一度は裕樹のアパートに裕樹を求めにやって来る。

症状が出ると最初は被虐的でも、途中から落ち着いて来て我に返る、その繰り返しだった。

そんな自分に落ち込む薫を裕樹は優しく励ます。

薫にとっての救いは、以前と違い男であれば誰でもいいわけではなく、裕樹でなければだめだという点だった。

裕樹の存在があってか、一か月近く経つと、薫は落ち着きを取り戻してくる。

症状が出ている時は家にいるか裕樹のアパートに直行するしか出歩けなかったが、症状が治まって来ると、毎日、午後から裕樹が務めている図書館に夏休みのテキストや勉強、読書にやって来て、裕樹が終わると一緒に帰る。

スタバやドトールに寄って帰ったり、裕樹のアパートで寄って帰ったり。

日曜日は朝から裕樹のアパートでゆっくりと過ごす。

そして、日に日に薫は明るく朗らかになっていった。


8月も終わりに近づいた日曜日。

いつものように薫は裕樹のアパートにいた。

シャワーを浴びた後、淡い水色のワンピースを着て身支度を整えながら、薫はしきりに髪を気にしていた。

「どうしたの?」

「うーん。

 折角髪を縦ロールにしてきたんだけど、シャワーを浴びたら伸びちゃった」

その日、薫は可愛らしい人形のように髪を縦ロールにしてやってきた。

それはそれで、可愛らしく裕樹は大喜びで、薫も満足していたが、シャワーを浴びるとロールがほどけ、ウェーブのようになっていた。

「でも、それもまた雰囲気が変わっていいよ」

「本当?」

裕樹の一言で薫の機嫌は良くなって行く。


「薫ちゃん、何飲む?」

先にシャワーを浴びて着替えていた裕樹が薫に声をかける。

「カルピスがいい!」

薫が明るく答える。

「今日は、薫ちゃんが買って来てくれたシュークリームとエクレアがあるから、それを食べよう」

「いつも来る時間が早いのか、ケーキ屋さんが開いていないの。

 だから、昨日、ママに買っておいてもらったのを持ってきたの。

 美味しいお店のだから、食べてね」

「ああ、本当に美味そう。

 でも、薫ちゃんのパパとママは怒ったり、心配していない?」

「え?

 なんで?」

「だって、平日は図書館に来て、それで家に帰るのが遅いじゃないか。

 それに日曜日は朝から僕のところに来て」

「裕樹が一緒だもん。

 いつも裕樹が家の前まで送ってくれるから安心でしょ。

 それに、ママは裕樹に絶大な信頼を置いているから大丈夫よ」

裕樹はあの一件があってから、必ず家の前まで薫を送っていくことにしていた。


「パパは?」

「パパはママに逆らえないから、ママがいいって言ったらそれでおしまい」

「そんなものなんだ」

裕樹がカルピスを入れたコップをテーブルに置き、薫がケーキの箱を冷蔵庫から取り出し、テーブルに並べる。

「そう言えば、薫ちゃんのママ、若いよね」

「うん。

 31よ。

 16歳の時に私を産んだって言っていたから」

「ひょえ。

 僕は、薫ちゃんとよりもママの方が、年が近いんだ」

「あー、だからと言ってママに惚れたらだめだからね。

 ママには、ちゃんとパパがいるんだから」

「ばか。

 薫ちゃんがいいに決まっているだろ」

「えへ」

その一言で薫は上機嫌になった。

「喫茶店でアルバイトしていた時に、お客さんで来ていたパパに一目ぼれして、中学卒業してすぐにママの方から猛アタックをしたんだって。

 パパったら、イチコロだったそうよ。

 それで、直ぐに私が生まれたんだって」

「そうなんだ」

「だからね。

 ママったら裕樹のこと気に入って、私に『早く結婚しろ』だって言うのよ」

「ちょ、ちょっと待てって

 結婚?」

「あら、私とじゃ嫌なの?」

薫の顔が曇る。

「嫌じゃないさ。

 でも、まだ、僕は生活が安定していないから、結婚は安定してから」


“ぷっ!”

薫が吹き出すように笑う

「わかっていますよーだ。

 真面目な裕樹は私が困らないようにちゃんと考えてくれているんでしょ。

 それに私も、裕樹の邪魔はしたくないもの。

 この前みたいに、作家の道をあきらめて急に会社員になるなんて駄目よ、絶対に。

 私も、折角だから大学までは出ておきたいし。」

「うんうん」

「でも、大学に入ったからって、結婚とは別だから。

 結婚しても子供がいても、大学は通えるんだから」

「うっ」

「…」

「…」

「もう、真剣な顔をして」

薫は笑いだした。

(でも、知っているの。

 裕樹はいつでも真剣に私のことを考えてくれるって。

 裕樹と出会って4か月位なのに、私の心はどんどん晴れわたって行く。

 今日も明日も楽しく思えてくる。

 それに、たいへんだったけど、夏休み裕樹と一緒にいて、いろいろな話しをして、私には貴重な時間だったなぁ)

薫の目は夢見る少女の様だった。


「そう言えば、最近仕事は?

そろそろ復帰できるのでは?」

裕樹の問いに薫は寂しそうに笑うと首を横に振る。

「あの事件、凄くセンセーショナルだったでしょ。

 被害者が私や他の子も皆、未成年だから名前とか一切公表されていないのだけれど、『誰が被害者なんだ』って捜したり、噂をしているの。

 当然、スポンサーはそんなスキャンダルのある子を使われて企業イメージが壊れるのを恐れているわ。

 この業界は狭いし、皆まるで犯人捜し。」

「犯人だって?

 被害者なのに?」

「まあ、スポンサーの顔色伺いのところだから、自分達が当事者でなければ被害者も加害者も同じなんでしょうね。

 で、どこからか噂が経つと、その真意なんてお構いなし。

 危ないものは使わないってね」

「薫ちゃん」

「そんな顔しないで。

 私、そんなに好きでやっていた仕事じゃなかったから。

 マネージャーさんも、どこかに行っちゃったし。

 そうそう、今までのマネージャーさん、あいつに何か握られていたみたい。

 それでこっそりと私を売ったらしいの。

 もう、人は信じられない…」

「薫ちゃん」

「あ、でも、パパとママと裕樹は別よ」

「当たり前だ。

 僕が守るって言っているだろう」

「本当?」

「本当だ」

言い切ることに躊躇なかった。


「嬉しいな。

 本当に嬉しい。

 だから、お仕事には何の未練もないわ。

 ママはちょっと残念みたいだけど」

「ママ?」

「うん。

 言っていなかったっけ?

 ママ、小さいけど芸能プロダクションの社長をやっているのよ。

 私をはじめ、他の女の子10人くらい抱えているの。

 私なんかより、よっぽど可愛くて良い子たちばかり。

 ママの会社、小さいけど結構名が知れているのよ」

「へぇー、そうなんだ」

「あー、可愛い子たちって言ったら、変な顔して。

 手を出したら駄目よ。」

「出すわけないだろ。」

裕樹は食って掛かるように否定する。

「わかっているわ」

薫はくすくすと笑いながら立ち上がると裕樹の傍に来る。


「ねえ、お膝の上、いい?」

「どうぞ、どうぞ」

裕樹が椅子を引くと、薫は裕樹の膝の上に横向きに腰掛け、寄りかかる。

薫の髪が顔にかかりいい匂いだったが少しむず痒かった。

「でもね。

 何年かしたらモデルじゃなくて女優をやってみたいの」

「女優?」

「うん。

 前にも言ったでしょ。

 裕樹の書いた小説が大ヒットしてドラマや映画化する時、私、主演やりたいの。

 それが、私の今一番の夢かしら」

裕樹は薫を抱きしめる。

薫の腰は細く、華奢だった。

「だから、これから女優になるためにはどうしたらいいかお勉強…。

 あ!

 思い出した!!」

「え?

 なに?」

「期末テストが終わったら、動物園に連れて行ってもらうって約束!」

「あ!」

裕樹は思い出したように声を上げる。

「裕樹、忘れていたでしょ?

 ひどーい!!」

薫はわざと泣くまねをする。

「わ、わ、わ。

 忘れてなんかいないさ。

 もう、大丈夫だろから、今度行こう」

薫は裕樹の方に座り直し、抱き着く。

「絶対よ。

 忘れないでね」

「ああ、絶対だ」

薫は嬉しそうに裕樹の胸に顔を埋めるように寄りかかる。


その夜、薫は自分のベッドの上で鼻歌を歌っていた。

(そうだ。

 私と裕樹の関係をママには()()()()()って、裕樹に言うのを忘れていた。

 でも、いいか。

 別にママに話しても問題ないものね)

薫は入院中、母親に自分は加平のためにセックス依存症になったことを打ち合分けた。

母親は驚き、涙を流して薫を抱きしめ、専門の病院に行こうと提案する。


「行かない?

 なんで?」

「恥ずかしいし、ばれたらどんな噂が立つかわからないじゃない。

 ママの会社に影響が出るのも嫌だし」

「何言っているの。

 ママは、薫のママよ」

「でも、モデルは私だけじゃないのよ。

 それに社員さんもいるじゃない」

「そんなのどうにでもなるわ。

 それよりも、嫌よ。

 薫が知らない男となんて考えただけでも絶対に許さないわよ」

「大丈夫よ。

 私には裕樹がいるから」

「そうそう、薫。

 あなたと裕樹さんの関係は?」

「うん、実はね」

薫は裕樹との出会いから、関係まで全て母親に話した。

母親は初め驚いた顔で聴いていたが、段々と納得したような顔になった。

「じゃあ、裕樹さんといれば大丈夫なのね?

 その依存症は」

「うん。

 絶対に大丈夫」

「その代わり、ダメだったらちゃんと言いなさい。

 いい病院捜して一緒に行くから」

「はーい」

「でも、裕樹さんていい人ね」

「うん」

「30代でお婆ちゃんかぁ。

 頑張んなさいよ」

「うん!!」

そんなポジティブな会話を思い出していた。


薫を送った後、裕樹はアパートの近くで酎ハイの缶を買って戻って来る。

アパートの裕樹の部屋の中は、まだ、薫の香りが残っていたが、薫の声も笑顔も温もりも残っていなかった。

裕樹は部屋に入るとエアコンのスイッチを入れ、部屋を冷やす。

薫が片付けて行った、コップを取り出し、そこに酎ハイを注ごうと思ったが、思いとどまり、コップを元の薫のコップにすぐ横に戻す。

コップは2つで1セットのように、しっくり見えた。

裕樹は缶のまま酎ハイを持って椅子に座る。

ベッドやテーブルの上など、帰りがけに薫が片付けて行ったので、綺麗に整頓されていた。

「ん?」

見るといつの間にか枕元に裕樹の拳位の小さな子猫のようなぬいぐるみが置かれていた。

(薫ちゃんが置いて行ったのか)

裕樹はにやりと笑うと椅子に腰かけ、缶を開け、中の酎ハイを一口飲む。

コンビニからアパートまで持ってきたわりには冷えていて、喉が気持ち良かった。


(8月も終わりか。

 しかし、薫ちゃんはまだ中学生なんだよな。

 顔も幼さが残っているし、躰だって。

 こんなことやっていていいんだろうか。

 あっ、今月、先月で10万円以上行っているよな。

 本当に出世払いになるのだろうか)

裕樹は指折り数えてみた。

(でも、可愛いよなぁ。

 あんな子に出会えるなんて)

裕樹は酎ハイをまた二口ほど飲む。

少し酔いが回ってきたようだった。


(結婚かぁ。

 あんな子と結婚したら、毎日が楽しいだろうな。

 いや、悪い虫が付かないか心配になるかな。

 どっちにしても、どこかで踏ん切りをつけて安定収入の口を見つけなきゃダメかな。

 まあ、もう少ししたら考えよう。)

酎ハイを3分の2ほど飲む。

(お母さんにはなんて言ってあるんだろう。

 依存症のことは、確か()()()()()()って言ってたよな。

 家に来て僕とセックスしているなんてばれたら激怒もんだろうな。

 中学生相手に不謹慎だって訴えられるかな…)

エアコンの冷気が当たったのか、裕樹は背筋に冷たいものが触れたような気がして、慌てて布団に入る。

布団に残った薫の残り香に包まれ、あっという間に眠りの落ちて行った。


相変らず誤字(特に名前)が多くて、折角読んでくださっているのに申し訳ないです。

前回は、あろうことか翔太を翔平と書き間違えたままリリースしてしまい、翌日、慌てて訂正しました。

今年、一番ファンになったのは、MLBの大谷選手。

彼がホームランを打つと必ず午前中に動画がアップされるので、いつも見ていました。

そして、ホームランを打った日は、なぜかこちらまでハッピーになりました。

彼の良いところは、野球も物凄く、かつ、人間性も優れていて、特にいつも楽しそうな笑顔。

いいですよね。

前回はいろいろな賞を取っていてショウタイムだとか、MVPを取れるかでいろいろなところで取り上げられていて、つい間違えてしまいました(と、言い訳です)

もっと慎重に、もっと気を付けなければ。


薫も危ないところを脱し、もともとは笑顔を絶やさない優しい子だった自分を取り戻しつつあります。

裕樹は、腕力で勝負ではなく、どちらかと言うと策士というところでしょうか。

それを言うと翔太は腕力のある武将でしょうか。

ここに来てやっと四人の素性(?)が固まりつつあります。

さて、次回は落ち着きを取り戻した薫。

しかし、今度は裕樹にトラブルが発生します。


その前に、次回は「Aの巻(その五)」をお送りします。

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