帰り道二人
夏休みも半分過ぎましたね…(H20 8/18)
夏休み前日の学校というのは、妙に生徒の苛立ちを買う。生徒集会や夏休みの宿題、成績を渡されるなどからである。成績が悪ければ親に叱られるのは当たり前で、下手をすれば夏休みは勉強ばかりに染まる可能性もある。
田舎という言葉の意味に合うような道。田圃が並び、一本しかない舗装された道路。電柱が規則正しく並び、家など皆無に等しいほど見当たらない。代わってあるのは、山か青空である。それはより一層、田舎だということをアピールする原因にしかならない。
朝から焼き付ける陽射で、アスファルトは熱を籠らせている。そこを自転車を引いて歩く少年と、その先を行く少女。
少女は身軽そうに華奢な体を舞わせ、明日からの夏休みを満喫しようと鼻歌を奏でる。
少年は自転車に担がせた大量の荷物と、体中にかいた汗でしんどさをにじみ出していた。夏休みが楽しみなのは同じだったが、少年は成績表を親に見せるのが嫌で嫌で仕方なかった。理由は、やはり酷い結果だったからであろう。
「ねぇ、あんたはどっか行く?」
軽快に少女が言う。しかし少年は答える素振りを見せない。遊ぶ予定などないし、部活もたまにしかない。嘘をつくのは後ろ暗いので、ただ無言でいるしかなかった。
「お前は?」
「あんたに聞いてんの」
質問を質問で返した少年だが、あっけなく跳ね返される。
少年は答える以外に選択肢がないことを悟った。アスファルトの道はまだ続く。それに少女とは近所だ。家に着くまで誤魔化すことができるのは、少年が知る人間の中にはいなかった。
「俺は………ないよ」
「あっそう」
矜持を捨ててまでして言った、暇だということ。少年は、馬鹿にされることを想定して多くの言い訳を即席で用意したが、少女が放った一言で無駄骨だったことを悲痛に感じた。
自転車のサドルに手を触れると、かなり熱くなっていた。灼熱の中、ただ歩いて自宅へ向かうのは拷問に等しい。
少年の額の汗が地面に落ちる。それを横目で見た少女は、何か提案したのか自転車の前に立ちはだかって宣言するように立った。
「今度、海に行こう!」
「…は?」
「だーかーらー、今度海にでも行こう!?」
こいつ馬鹿だろう、と全身から表現しているように見えた少年に、二度も同じことを言った少女。二度目は可愛らしく、声のトーンを上げたのだが無駄骨のようで、少年は真面目に考えていた。
「大体、海って山越えなきゃ駄目じゃねーか」
山。それは人間にとって越えるべき隔りとして、よく喩えに使われる自然の構造物である。夏になれば虫ハウスになり、冬になれば雪が積もる。そんな過酷で、あまり人も虫と触れ合いたくなく、雪だってスキー場に行く時代の現世では山など亀はめ波で破壊したくなる物。そう少年は思っていたので、山越えを嫌がった。
だが非常に少女は山越えをしてまでして、水平線の彼方まで広がる海で遊びたいのだ。
「山の一つや二つでへこたれてるんじゃないよ!」
「暑いので、家でアイスと水着姿の愛すべきアイドルをおかずにしてます…」
「いやー変態!ド変態!あんたまさか、私の体まで…」
「ドラム缶相手に何しろってんだ」
服の上から体の恥部(?)を手や腕で隠す少女に、暑苦しいので止めてと言わんばかりの冷静な態度で接した少年。自転車のサドルは、溶けてもおかしくない程度に熱を籠らせていた。
あまりの冷静な態度に、さすがに反省したのか少女は黙って少年の前をトボトボと歩いていく。その後ろからは、相変わらず重い荷物を自転車ごと引きずってる少年が続く。
少女は顔を俯かせ、ションボリとしていた。後ろからも、ションボリとした少女の姿は見えた。少年は海の誘いをふざけて断ったことに罰が悪すぎたのだろうと思い、軽く頬の横を掻いてうなだれるようにして口を開いた。
「……………いよ」
「え?」
「海に行ってもいいって言った」
「本当?」
途端にテンションが跳ね上がり、小さなガッツポーズを少年に見せつけるようにしてすると、いきなり猛スピードで一本道を走り出した。
その姿が、手の小指あたりまで小さくなった辺りまで少女は走り、自転車を連れて追いつこうとする少年に向かって、口の周りにメガホンのような形にした手をつけた。
「私の水着姿に惚れないでよーー!」
おそらく、メガホンの形にしなくても十分に届いたその声は、少年には隣りで言われたかのような声に聞こえた。
「…誰が惚れるかよ」
自転車を一瞬止め、苦笑いしながら少年はそう呟いた。だが、少女が再度走り出したのを目で確認した途端、自然と足は駆け出していた。その目が、その足が、少女の姿を見失わないように。
夏の太陽は走り続ける二人を押し潰すかのように、徐々に空から降りてくる。そして太陽は沈み、夜が来て今日という日が終わる。だが、夏休みはまだ始まったばかりだった。




