21話 モコモコのボス戦
「とおちゃ~く!」
私は頂上に辿りつくと一度止まり、明らかに大きすぎるもふもふのモコモコを睨みつける。だけど今からでもあのもふもふに飛び込んで……。
「ハル! 待て!」
「……いかないよ」
「本当? 突撃しようとしなかった?」
「だ、大丈夫だよ。うん。私は待てる女。目の前にニンジンがぶら下がっててもちゃんと待てるから。いや、イノシシならキノコかな」
「……。今はいいわ。後でゆっくり話しましょう? まずは周囲の確認からして頂戴。走れる範囲をしっかりと確認しておかないと」
「そうだったね」
私は周囲を確認しながら走る。
ボスがいるフィールドは、今までの中で最も広かった。どれくらいかと言うと、今までのフィールドの倍以上も広い。しかもここが高い場所ということで、景色も絶景と言って差し支えない。遠くを流れる川や、山々に囲まれた渓谷は是非とも走ってみたいと思う。
「トリになればこの景色を飛んで見ることが出来るのかな」
「そうね……。こんときだけは羨ましく感じられるわね……」
「寝る場所ないし腕を振るのが大変で景色見てる暇なんてないよー」
「「……」」
雰囲気がぶち壊された気がした。
「えーどうしたのー」
「何でもないよ」
「そうよ、下見はこれくらいでいいかしら?」
「うん。特に障害物になりそうな物はないし、大丈夫じゃないかなって思う」
「そうね。それならいっちょやっちゃいますか!」
「うん!」
「分かったー」
私たちは走りながら作戦を決める。
「それじゃあいいー?」
「うん!」
「やっちゃって!」
「『風の弾よ』!」
アキの魔法がモコモコに直撃して、モコモコの綿を削り取る。
良し! 戦闘開始だ! と勢い込んで幾ら待ってもモコモコは動かない。
「あれ? どうしたんだろ?」
「アキ、もう一回打ち込んでみて」
「いいよー。『風の弾よ』!」
アキの『風の弾よ』は間違いなくモコモコの綿を削り、周囲に散らばらせている。
「あれー?」
「どういうことかしら」
「もしかして敵じゃないとか?」
「そんなはずは……」
そのモコモコは全く動かずに、じっとしたままだ。周囲を走りながら暫く待つけど何も起きない。モコモコの周りにはアキが攻撃して千切れ飛んだ綿が散らばっているのが目立つ。
「アキ、もうちょっと攻撃してみる?」
「そうだねー。うん。同じ場所に攻撃したいから、気を付けて同じ場所を回ってくれるー?」
「わかった」
私は最初の方に攻撃した場所に向かって進路を変えた。
「もう少しだね」
「ありがとー。『風の弾よ』!」
アキの魔法がモコモコの綿を掘り進め、その奥に見える茶色い素肌の様な物が見えた。このまま攻撃を頼もうとした所で、
「べええええええええええええ!!!」
今まで戦ってきたよりもモンスターよりも鈍い鳴き声。重低音が私たちにのしかかった。
「めええええええええええ!!!」
「めええええええええええ!!!」
「めええええええええええ!!!」
「めええええええええええ!!!」
「めええええええええええ!!!」
鈍い鳴き声が聞えたと思ったら、さっきまでの甲高い声が聞えてくる。
「何これ!?」
「さっき切り裂いた綿が羊になってるのかなー?」
「そんなことって有り得るの!?」
「めええええええええええ!!!」
子羊たちが一斉に水魔法を飛ばしてくる。5体同時に、それも固まって飛ばして来るのでダメージもバカにならないかもしれない。
「うっそ! こんなに一気に!?」
私は速度をあげて攻撃を躱し、何とかその場から離脱する。
ビシャビシャビシャビシャ
「これどうするの!? 子羊をこまめに潰していく!?」
「それだとあたしのMPが足りなくなるかもー」
「どうして!? 私が突撃すれば大丈夫じゃない?」
「あれー」
アキがさす方を見ると、さっきまで丸まっていた大きなモコモコがのそりと起き上がっていた。そして、自身の周囲に子羊達を集めてまるで我が子の様に守っている。
モコモコの正体は巨大な羊で、今までの羊たちと比べても明らかに大きかった。そのモコモコから可愛らしい感じの頭が少しだけ出ていた。
「あそこに突っ込んだらまたモコモコに入っちゃうんじゃないー?」
「確かに!」
「あたしは入りたいからいいけどー」
「もう一回は流石に良くないよ!」
「またアイツから倒し直すのはやめたい所ね」
「なら魔法でやっていくしかないけどー。子羊も魔法で倒して行くって考えるとちょっと厳しいかもー」
私たちで魔法等の遠距離攻撃が出来るのがアキしかいない為、中々に厳しい。でも、アキに任せているだけには出来ないかな!
「私のドライブテクを見てて!」
「やっぱりエンジンでもついているのー?」
私は足を羊達に向けた。
「ちょっと! どうするの!?」
「ナツキ、シールド張っておいて! もしもの時はそれで遮って!」
「なるほど、そういうこと。『胞子シールド』!」
「めええええええええええ!!!」
さっきよりも近い位置で子羊達が魔法を使う。その狙いは私たちで、なるべく回避し、どうしても当たるという所ではナツキのシールドに頼る。
「どうするのー? 当たっちゃうかもよー!?」
「大丈夫だよ!『突進』!」
「めええええええええええ!!!???」
私子羊達を弾き飛ばし、子羊達を3体まとめて倒す。
「ぶつかるよー!?」
「ナツキ!」
「ここでしょ!」
ガン! ガリガリガリガリ!!!!
私は自身の体をナツキのシールドで強引に向きを変えてもらう。
ナツキは私の体がモコモコに当たらないギリギリのラインと、私の速度が落ちないようなラインを絶妙に見極めてシールドを配置してくれていた。
シールドの枚数を増やし、それぞれの角度を変えることもやっている。
「べえええええええええ!!!」
まるで「おいで?」とでも言わんばかりに誘っているモコモコを回避して、何とか駆け抜けることに成功する。
「ああ、ベッドが……。楽園が……」
駆け抜けた所でアキに頼む。
「アキ! こうやって子羊を削って行くからあのモコモコを削るのに集中して!」
「天国……」
「アキ! 自分で空を飛びたいのかしら!?」
「! 分かったよー! 『風の弾よ』!」
「べええええええええええええ!!!」
モコモコが削れて、またしても子羊が増える。一回の攻撃で増える数は1,2体だけど、チリも積もればなんとやら。気が付くとあっと言う間に10体もの子羊が溜まっていた。
「そろそろ突っ込む!?」
「そうね! 数が多い所に行きましょう!」
「分かった! 『突進』!」
「『胞子シールド』!」
私の前にはキノコの胞子が張られ、私は躊躇いなく突っ込む。
「めえええええええええええ!!!???」
今回は纏めて5体子羊を弾き飛ばして倒す。
ガリガリガリガリ!
私の体がシールドにぶつかり、強引に進路を変える。しかし、
「べえええええええええええええ!!!」
「ちょっと! やばい!」
「変えられないよ!」
私たちの進路上にモコモコが出てきたのだ。モコモコは進路を全て塞ぐようで、バラバラになっているシールドの隙間を縫ってこちらに近づいてくる。
「『風よ吹け』!」
「!」
アキが魔法で少しだけモコモコの動きを止めてくれた! この隙に!
「『ぶちかまし』!」
私は何とか近くにいた子羊に狙いを定めてスキルを使う。
「ぐぅ!」
スキルを使ったことで強引に体が引っ張られるけど、このままあのベッドにダイブするよりはマシだ!
「きゃあああああ!」
「これは!」
「何回もやってればねー?」
「めえええええええ!!!???」
子羊を消し飛ばしながら私達も反動で吹き飛ぶ。このスキルは例えどんな相手でも、当たった時に吹き飛んでしまうらしい。
何回かバウンドした後、すぐさま起き上がる。
「皆! 大丈夫!?」
「伊達に掴まりなれてないわよ!」
「こんな最高のベッド離さないよねー」
「行くよ!」
私はすぐさま駆け出して、その場を離れる。
「めええええええええええ!!!」
ビシャビシャビシャビシャ
すぐ後ろでは子羊の水が飛んできていた。
だけど、モコモコ自体は攻撃して来る事が無かったので、何とかなったようだ。
私は必死に走り、何とか危険地帯を駆け抜ける。
「ここまで来れば一安心かな?」
「『癒せ』」
「あ、ありがとう」
「いいのよ。体力管理は大事になさい」
「ねぇ、あたしにはないのー?」
「クールタイムがあんのよ。それに、ハルがやられるのが一番きついでしょ?」
「そうだねー」
「という訳で『癒せ』」
「ありがとー」
「いいのよ。さ、それよりもどうしようかしら。あんまり放っておくとアイツらの水魔法の威力も上がりそうだし、あんまり時間はかけたくないんだけど」
「近づかずに、遠くから一匹ずつ削っていく?」
正直、それくらいしか出来ることがない気がするけど。




