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2話 走ってるだけなのに

『それではこれ……』

「何でうり坊なのー! 私はあの大きな体に! 立派な牙! そう牙! それが欲しかったのに!」

『チュートリアル……』

「何で何で何でー! 私はイノシシが良かったのにー!」


 あの小説に出てきた2匹もちゃんと牙を持っていたのに……。どうしてこんなことに……。


 私は川に映る自分の姿を見て落胆する。うり坊……。うり坊か……。確かに周囲の草がちょっと高すぎないかな? とは思っていたのだ。だが、それは違っていて、周りが大きいのではなく、私が小さかったのだ。


 目の前に流れる川も流れは緩やかで小川といった感じなのだろう。でも、それは人間だったらの話で、今の私からすると太平洋の様に大きい。


「はぁ……。イノシシになれるって聞いて来たのに……。どうして……」


 うり坊はイノシシのあくまで子供。これではスピードを活かした巨体で敵を吹き飛ばしたり、牙で串刺しにしたり出来ないではないか。


 落ち込んでいたけど、ふと思いつく。


「あれ? うり坊って子供? なら大きくなればイノシシになれるんじゃ……」


 そうだ、そうなのだ。うり坊なのはレベルの低い今の内だけで、大きくなったのならきっとイノシシになれるはず……。


「そうじゃん。イノシシを選んだのにイノシシなれないとかある訳ないじゃん。なら、レベルをあげるのが優先だよね。よし」


 私は周囲を見回す。しかし、周囲にモンスターは存在しない。


「なら、走り回るしかないでしょ!」


 私は一番近くに見える森に向かって走り出す。


 四つ足で走るという行為は中々慣れなかったけど、30分も走っている内にこの体が本物かのように走ることが出来るようになっていた。


 元々陸上部で走ることは得意だし好きだったから、こういう走り方もいいなと思える。


「気持ちいいー!」


 私は風を切り、人間では出せない速度で走り続ける。これがゲーム?……と思ってしまうような感覚だ。肌……違った。毛皮に当たる風の感じや、蹄から伝わってくる感覚等どう考えてもゲームとは思えない、リアルな感覚だ。流石今一番流行っているゲームなだけある。


 私が走っていると、目の前にモンスターがポップする。そのモンスターは良く序盤の雑魚敵として使われるスライムだった。水色のプルルンとした見た目をしている。可愛らしい目が特徴だろうか。


 そんなモンスターがポップしたのだ。私の目の前に。


「あ」


 パン!


 私は目の前にポップしたのを理解する暇も無く、スライムを体当たりで消し飛ばしてしまった。


『ハル はレベルアップしました。Lv1→Lv2になりました。ステータスが上昇しました。スキルポイントを10取得しました』


「わーレベルまで上がっちゃった。ステータスみたいけど……あの森まで行こうかな」


 私は折角走り出したのだからと、足を止めるようなことなんてしない。折角なのだ、森まで行ってみよう。


 そう思って更に走り続ける。


 パン! パン! パン!


「うーん。ポップしたと思ったらひき殺しちゃうな……」


 私は走るのが気持ちよくなり、ずっと走り続ける。そして、最高速を維持したままのせいか、モンスターがポップする側から倒していく。


「ま、レベルが上がるんだしいっか」


 私は走り続けた。30分が経つ頃には、森の入り口が見えてくる。


「おーやっと見えてきた」


 私の目からは森が丁度開けている様に見える。まるで、ここに君の為の道があるから、早く入っておいで、いや、走り込んでおいで、といっているように見えた。


「うーん。折角だし行ける所まで行ってみようかな!」


 私は速度を維持したまま更に走る。そして、森の中に突っ込む!


「おー、木が高速で後ろに移動していくみたい。車に乗ってる時ってこんな感じなんだよね」


 草原を抜けて、森の土道を踏みしめる。今までは結構柔らかい場所を走っていたからかあんまり速度が出せなかったけど、ここは道として踏みしめられていて、草原よりも圧倒的に速度が出る感じだ。


「道ってやっぱりすごいね。こんなにも走りやすい。天然の道だから少し凸凹しているのが気になるけど」


 私は走っていると、またしてもモンスターがポップする。


「げひゃごあ!?」


 パン!


「わ!」


 私はモンスターを弾き飛ばした驚きで走る速度をあげる。


 何だろう。今のモンスター。人型で緑色っぽかったからゴブリンかな……? 何か変な笑い声を出していた気がするけど、聞き終わる前に倒しちゃった。


「ぎゃごば!」


 パン!


「ぎゅごば!」


 パン!


「なんか申し訳無くなるよ……」


 モンスターがポップする側からひき殺してしまっているので、戦闘をしている気分に全くならない。でも、こうやって走り回るのが楽しすぎて全然これでも楽しい。


 むしろ戦うよりこの方が楽しいかもしれない。こうやって走り回っているだけでレベルも上がるから一石二鳥だ。楽しくレベリングが出来る。


「あれは……」


 そう思って走っていると、森が2股に別れていた。


「どうしよう、あ、どっちでもいいや! 右!」


 私はスピードを落とさない様に何とか右に舵を切り、そちらの方に走っていく。それからもモンスターは湧いてはひき殺し、気が付いたらレベルも5まで上がっていた。


「どうしよう……。結構森も深くなってきたんだけど」


 通り過ぎる木々は最初の頃にあった明るい森ではなく、深い色をした暗い森に様変わりしていた。


 正直怖い。でも、ここで止まってしまったらもっと怖いのではないかと思って足を止められない。


「げひゃごぶ!」


 パン!


 私はまたしても何かモンスターを倒しながら進む。そうすると、少し進んだ先に、開けた場所が見えた。


 そして、そこには今まで見たこともないようなモンスターがいた。

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