15話 友達
『ハルはログインしました』
「よっと。ナツキはいるかなー」
私は時間通りにWCOに入り、ナツキの姿を探す。周囲には多くの人がいて、以前はこんなにいなかったように思う。
やっぱり9時は皆ゲームをする時間だからか。
「やっと来たわね」
「ナツキ」
後ろから声をかけられ、振り返る。そこには最初に出会った時よりも少し大きくなったエリンギが生えていた。
「どう? 私の艶に見惚れた?」
「うん。特に意味はないけど網焼きが食べたくなった」
「どういうことよ!?」
「昨日の夜は美味しかったよ」
「食べたの!? 1時とかだったわよね!?」
「キノコはヘルシーだから問題ないって聞いたよ」
「貴方リアルではどんな生活してるのよ……」
「ふつーだよ。ふつー。それよりもゲームしよ! 走りたい!」
今日は部活で10キロしか走れなかったから、せめてゲームではもっと走りたい。
「それじゃあ乗るから頭下げて」
「うん」
かぷ
「え?」
ポイッ
「またあああああ!!!???」
「ほいっと」
私はいつもの頭の上に彼女を乗せる。
「毎回食べられるんじゃないかとヒヤヒヤするのよね……」
「流石に友達は食べないよ」
「そ、そう。そうね。私たち友達だもんね」
「そうそう。それで、今日はどうする?」
「思ってたんだけど、もう東の街に行っちゃわない?」
「いいね! 行こう行こう!」
「安全運転で行ってねー!」
「はーい!」
私は全速力で走り出した。
最初の街を出て、東の街に向けて走っていく。風が私の毛皮を撫でて気持ちいい。草原を駆けるのがこんなにも気持ちがいいなんて、家の近くにもあればいいのに。
「これくらいの速度だと気持ちいいわねー。バイクに乗るとこんな感じなのかしら?」
「どうなんだろう。乗ったことないからなぁ」
「教習所も行かないといけないしね」
「私の年だといけないからねー。行けるようになったら行ってもいいかも」
「結構若いのね。何歳なの?」
んー。どうしよう。……ま、ナツキならいっか。
「私は高校1年生だよー」
「ほんと? 私と同い年じゃない」
「え? ほんと?」
「そうよ。ちょっと前に入学したばっかりじゃない?」
「うん。そう」
「こんな奇遇なことがあるなんてね」
「本当。びっくりしたよ。次の街かどこかで仲間になる人もそうだったら面白いね」
「あー。それはどうかしら」
「どういうこと?」
「その……人が少ないと思わなかった?」
「人……? 街でってこと?」
「そう」
「確かに……普通にNPCは歩いていた気がするけど、プレイヤーとは全然出会わなかったような気がする」
「私が設定で会わないようにしてたからね。それで一緒にパーティーを組んでるハルにもその設定が適応されたんだと思う」
「どうしてそんな設定にしてるの?」
「その……笑わない?」
「? 笑わないよ?」
ナツキはかなり躊躇っている。もしかして結構重たい話になったりするんだろうか。
「……。私、食べられないかが心配だったの」
「そう……ん?」
今なんて言った?
「ごめん。ちょっと聞こえなかったみたい。もう一回言ってくれない?」
「私、食べられたくなかったの」
「ナツキ。その心配は要らないよ」
ナツキを食べようとする奴なんて流石に誰もいないだろう。
「私も最初はそうも思ってた。でも、貴方に食べられかけてから他の人にもされるんじゃないのかって心配になってしまって……」
「……」
どうしよう。私は冷たい汗が流れるのを感じる。というか確かに最初の出会いはそうだった気がする。
「それで、他の人にも食べられるのかもって考えたらもう怖くて怖くて……」
「ナツキ……ごめん」
私は謝る。
「もういいわよ。終わった話を蒸し返すほど私は調理されてないから」
「だけど……やっぱり怖かったよね」
「ハル……いいって言ってるでしょ? その話は終わった話。それに、私の美しいエリンギだというのが罪だっただけ。そうでしょう?」
ナツキが勝ち誇った様な声音をしていた。その顔は本当に仕方ないと言っているような気がする。
「ソウデスネ」
「ちょっと、何で片言なのよ」
「イエ、ソンナコトハアリマセン」
「絶対そうでしょうよ! もういいわ。話は変わるけど、どんな仲間が欲しい?」
「イノシシ!」
「正気!?」
「後キツネ!」
「何でそのチョイスなの!?」
「私の好きな作品のメンバーがそんな感じだから」
私はその片方になるんだ……。ウフフ。
「ああ、あの作品ね……。結構続いているのよね」
「うん。未だに買ってる」
「貴方高校生って言ってなかった?」
「うん? そうだよ? でも面白いし好きだから」
好きなものは好き。友達とかにも子供っぽいと言われるけど仕方ないじゃないか。好きなんだから。
「……そうなのね。それなら私も欲しい仲間がいるわ」
「誰がいいの?」
「エノキとシイタケとシメジとマイタケ!」
「鍋でもするつもり!?」
「イノシシ鍋でもいいわよ」
「私まで具にされてる……。というか全員キノコってどうなの? 私の背中菌類に浸食されてるみたいでちょっと嫌なんだけど」
「大丈夫よ。〇スっていう前例がいるし」
「やだやだ! それ調べたけど全然可愛くない!」
「イノシシはいいのに?」
「イノシシはいいの! でも豚は嫌なの!」
全然違うじゃない!
「そ、そう。そうよね。でも、貴方の言った編成だとこの先大丈夫なの?」
「この先って?」
好きな編成で突き進めばいいと思うんだけど何か問題でもあるんだろうか。
私は目の前の道を右に進む。
「この先はこの先よ。これから先には一杯ギミックがあるに決まってるでしょ? 昨日戦ったナマズとかいい例で、多分魔法とか、探知魔法とかそういったものが必要になってくる。だから、私たちもスキルをどっかでリセットしなきゃいけないかも……」
「えー! それは嫌だ! っていうか変える気なんかないのに!」
私は選んだ道は引き返さない! だって、イノシシは前にしか進まないから!
「あ、道は右じゃなくて左よ」
「あ、ごめん」
私は来た道を引き返し、左側の道を行く。
少し進むと、今までの草原から景色は変わってきて、ごつごつとした岩肌が見えてくる。
私の背よりもかなり高い山がいくつもそびえ立っているのだ。かと思うと、一度落ちれば二度と戻ってこれないような深い谷があった。
「私も変えたくないわよ。だから、それに特化した仲間とかを集めないといけないの」
「そっか、結構大変なんだね」
「そうね。でも、そこはまぁ、魔法が使いたい人に絞って集めようとすれば集まるかもしれないし。いいんじゃないのかな?」
「流石ナツキ! 私たちのブレーンだね!」
「2人でそんなこと言われても嬉しくないわよ」
「あれが次の街かな?」
「ん? そうね。確かにあれっぽいわ」
私たちの視界に、大きな岩をくり貫かれたような街があった。




