私が世界を嫌いな理由
私はこの世界が嫌いだ。
街を歩く人々は張り付けたような顔をして街を歩き、集団のために個を否定し、多様性を切り捨てたこの世がとても嫌いだ。
どこにいてもどこかで聞いたことのあるような音楽があふれ、どこかで聞いたことのあるタイトルの書籍ばかりが鎮座する。
皆自分が正解かの如く脳死で流行に縋りつく。
おいていかれたものなど顧みず、むしろはみ出した異端分子だと排除しようとする世間が嫌いだ。
見るかどうか、聞くかどうか、食べるかどうか、触れるかどうかは自分が決めることだ。他人が干渉していいことじゃない。
確かにそんな風に生きられたらどんなに楽だろうか。
世間が見ている映像を見て感想を語り合い、世間が聞いている音楽を合唱し、世間が高く評価している食べ物を外れなく食べて同じような感想を呟く。
くそくらえだ。私は世間のロボットなんかじゃない。
自分の見たい映像を、自分の聴きたい音楽を、自分の食べたい食べ物を取り入れるんだ。
この体は私だけのものだ。何を血肉とするかは私の勝手だ。入ってくるな。この身体はお前たちのモノじゃない。
世間からどう見られようが自分の芯を貫き通せ。鉄道も、特撮も、アイドルも、プラモデルも、ミリタリーも、すべて自分たちのモノだ。
趣味は交流の道具なんかじゃない。自分が自分であることを確立する要素だ。エゴの確立をやめ、集団に帰した愚者にわかるはずもないだろうな。
世間は平等であるべきだ?そのために差異が許されない?趣向も、才能もフラットがいいと?
才能が嫌いだ。だが、才能のすべてを否定しようとするこの世はもっと嫌いだ。
努力は才能に勝てるだの、努力できる才能が一番素晴らしいだの、頑張っていればいつか報われるだの掃き溜めに捨てられたような言葉をさも正論のように振りかざすのが嫌いだ。
才能に生きることの何が悪い。才能の上に胡坐をかくことの何が悪い。
それは強者の特権だろう。妬むな。僻むな。ないものねだりしたところで手に入るわけではないことは一番わかっているはずだ。
私は万物において才能がない。故に才能を何度も妬んだ。数えきれないほど憎んだ。
特別な努力もなく試験で高得点を叩き出す友人、練習量は変わらないはずなのにセンスだけで県選抜にまで選ばれたチームメイト、自分と同年代なのにとてつもなく正確な演奏をするピアニスト、etc…
世の中を恨んだ。友人を、チームメイトを、某ピアニストを、…、そして自分を恨んだ。
どうして自分にだけないのか。自分はなぜ生まれてきたのか。
まったく同じでないにしろ同じようなことは誰にでもあるだろう。
「才能を超える努力をしろ」
周りの人間はそんなことをいつも言う。
…うるせえ。うるせえうるせえ。才能を超える努力など存在するものか。努力が及ばないからこそ才能なんだ。
その本質に気づかぬままがんばれだの、本気で努力しろだの、戯言を抜かしやがって。
認めろ。人は平等なんかじゃない事を。
認めろ。人は誰より優れた存在でいたい事を。
認めろ。人は他者を完全に認められない事を。
人間は美しいものが好きだ。美しい彫刻、美しい絵画、美しい音楽、美しい風景、…、ここまではわかる。問題はここからだ。
努力が美しい?違うだろ。そんなもの弱者が強者に敵うはずもないのに、その場でじたばたしている哀れな姿に過ぎない。
協調が美しい?違うだろ。一人じゃかなわないから寄り添いあって傷を舐めあっているだけだ。
平等が美しい?違うだろ。刺激のない生活など一番つまらないと想像すらつかないのか。
これまでの歴史を顧みればわかるだろう。他者に自分の進行を押し付けたところで得るものは破滅だけだ。
世界にどんな神がどれだけいたっていいじゃないか。世界にどんな肌の色の人間がいたっていいじゃないか。
そうやって自分と違うから、自分のちっぽけな視界に入っただけの小さな世間の基準からずれているから、いままでの短い人生の経験からずれているから、
淘汰するな。”痛い”だの”変人”だのレッテルを張るな。
ヒットしたアニメだけ、ヒットした音楽だけ、確実においしいものだけ、摂取しているお前たちのほうがよっぽど”痛い”し”変人”だ。
そんなものばかりだけを求めて外出するお前たちより、部屋に引きこもりながらも何かに挑戦している人や、樹海に行って首をくくっている人間の数倍は立派だ。
確かに、自分を主張するのは疲れるし面倒だ。
世間の空気に身をゆだねて社会を漂っているほうがよっぽど気楽だ。話題を合わせたほうが楽だ。平均に合わせたほうが安定だ。
そんな人生、これまで何十万いや何十億の人間が歩んだ?同じような人生など星の数ほどあるだろう。
自分は自分しかいないことを自覚しろ。運命なんて存在しない。神様なんて存在しない。
あるのは結果だけだ。
美談に騙されるな。目を奪われるな。例え隣の芝が真っ青だったとしても自分の芝だけを見つめろ。
服装も趣味も趣向も自由でいい。着たい物を着て、やりたいことをして、好きなもの思いっ切り好け。
もし隣人からクレームが来ても弱者の戯言だと無視しろ。そうすればきっと誰も見たことがない自分だけの景色が広がっているはずだ。
皆、一人一人違う空のもとで暮らしているのだから。