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鬼隠し  作者: 七十たん
9/14

鬼隠し 2日目 闇の滅却

雄一郎は暗く闇に染まった廊下を走り続ける。

楓を助けたいという己の願望が雄一郎への恐怖をはねのけていた。

だは雄一郎はその願望だけで動いている。

何か方法があるわけでもない。

ただ自分にできることで楓を助けようとしているのだ。


 廊下に雄一郎の足音が響く。

やがて雄一郎はさきほど楓と分かれた場所にいた。

それがわかったのはそのあたりの壁だ。

雄一郎の近くの壁には何かが刺さった跡が一ヶ所だけ見られた。

この跡は楓が雄一郎を刺そうとして失敗したものだ。

雄一郎は自信気にうなづくとさらにそこから楓の走っていた方向へ走り出した。

たとえ鬼であろうと消えてほしくはない。

そんな思いが雄一郎の行動源となって雄一郎を動かした。

「うわぁぁぁぁ・・・!!」

突然雄一郎の耳に生徒の叫び声が聞こえてきた。

雄一郎はそれを聞いて驚いて立ち止まる。

その音が聞こえてきたのはなんと後ろだったのだ。

雄一郎はパッと後ろを振り向く。

沈黙の闇と暗黒が雄一郎の視界にうつった。

だが生徒と楓は雄一郎の視界にはいるほど近くにいないようだ。

雄一郎が息をのんで逆送を始めようとする。

「ああぁぁぁぁ!!」

さきほどとは違う生徒の叫び声だ。

雄一郎はまたそれに驚いて踏み出そうとしていた足をとめた。

今度の声はさきほど向かっていた方向からだ。

雄一郎はターンダッシュをしてもう一度方向を変える。

だが用心してかまた立ち止まった。

・・・・・。

今度は違う方向から生徒の叫び声は聞こえなかった。

だがこのとき雄一郎は背中に何か気配を感じていた。

右手の人差し指がピクリと動く。

雄一郎は息をのんだ。

冷や汗が少し垂れる。

そして勇気をふりしぼって後ろを向いた。

・・・・・・・。

暗闇に包まれてか、そこには誰もいなかった。

それにさきほど感じていた気配ももう感じなくなっているようだ。

雄一郎は安心してホッとすると一息ついた。

「ふぅ・・・」

だがそのときだった。

雄一郎は突然背後から口と鼻をハンカチのような布地のものでおさえられた。

片手は口鼻、もう片手は雄一郎の両手を後ろで拘束している。

拘束を振りほどこうとするがよっぽど力がないかぎりでは無理なようだ。

そして雄一郎の呼吸不可能維持が限度を迎えた。

雄一郎は次第に目が少しずつうつろになって閉じていって、気を失ってしまったようだ。

犯行は、気を失ったことを確認するために一度布地のものを雄一郎の口当たりから離す。

そのときだ。

雄一郎はパチッと目を開けると右足を勢いよく後ろに回す。

これが俗に言う「後ろ回し蹴り」なのだろうか。

あまり詳しくないが多分そんな感じ。

雄一郎のかました蹴りは犯行人の腰に当たった。

犯行人は痛みに一時的に手の拘束がゆらいだ。

雄一郎は少し失敗したように残念そうな顔をすると手の拘束をくぐり抜け脱出した。

少し進むとパッと雄一郎は振り返る。

犯行人は黒い耳にかかる程度の髪の男。

それなりの身長。180cmはある。

そして特徴的な茶色のコート。

少し紫がかった瞳、外人だろうか。

だが顔立ちはそれなり。

そしてあきらかに日本人顔だ。

犯行人の男は雄一郎に蹴られた腰の部分を両手でおさえて少し痛がっていた。

雄一郎は別にそういうことをやっていたわけではないのでそれほどの痛みは無い。

だが誰でも回し蹴りをすれば痛いものだ。

「いてて・・・」

雄一郎は軽く身構えた。

だが結構近距離で、その距離では無意味な構えをしている。

「あなた・・・何者ですか・・・?」

雄一郎が聞くと逆に男が雄一郎に質問をしてきた。

「君、この学校の鬼隠しの鬼かい?」

その質問を聞いて男に対しての怪しさが若干うすれ構えを解いた。

今この時間帯にこの学校にいて鬼隠しの鬼を知らないはずがないからだ。

「いえ、ボクは鬼じゃないですよ」

雄一郎がそう言うと男は安心したのか

「ふぅ」

と声にもなりそうなほど安心感のただよった息をはいた。

雄一郎もそれを見て怪しくはない、という安心感がわく。

男は苦笑いして雄一郎に言った。

「いやぁ、もし君が鬼だったら危ないからねぇ。でもさっきは本当にゴメンよ。

あっ!」

と男は何か思い出したようにコートの裏胸ポケットをいじる。

そして何か紙のようなものを取り出し、雄一郎に手渡した。

それほど大きくはない。

手のひらにおさまるほどの大きさだ。

暗くてよく見えないがおそらく名詞のようだ。

「実はわたし、服部雅義(はっとりまさよし)といって探偵やってましてね」

男の言葉から衝撃的な事実がはなたれた。

雄一郎も男の予想外の職業に唇から言葉を失った。

この男は服部という刑事だったのだ。

雄一郎はやっと状況を把握すると深くおじぎをした。

「す、すみません・・・蹴っちゃって・・・」

すると服部は苦笑いしながら雄一郎に言う。

「まぁ・・・しょうがないさ。正当防衛なんだろうし」

雄一郎に安心の表情があらわれた。


 雄一郎は服部から服部の知っている鬼隠しについてのことをたずねた。

そして服部がこの鬼隠しについてどれくらい知っているか。

どれぐらい捜査しているかなど様々な情報を服部思考で得ることができた。

立ったままの会話だったが2人はさほど苦痛は感じてはいなかった。

やっぱり自分にとって興味のあることというのは時間を忘れるものだ。

そうこの2人を見ていて思った。

服部は突然右手を心臓のあたりの高さまであげるとそでをめくった。

すると服部の右手首のあたりから円の光があたりを照らした。

よく見るとそれは腕時計の光のようだ。

暗めの緑色。

「おっと・・・8時か・・・・」

服部がつぶやいた。

そう。

もう鬼隠しが始まってから気づくと2時間も経過していたのだ。

「もう帰るんですか?」

雄一郎が少しさびしそうにたずねる。

「わたしもあまりここに長居はできないのでね」

服部は少しまじめそうな顔をして言った。

雄一郎は再び服部におじぎをする。

「色々話してくれてありがとうございました」

服部は少しうれしそうな笑みをうかべる。

「こんな情報でも満足してくれればこちらもうれしいよ」

そして雄一郎は顔を上げようとした。

だがその瞬間一瞬めまいがした。

それがめまいというかは分からなかったが視界が真っ暗になる。

見えている真っ暗ではなく気を失う感じの真っ暗。

少し雄一郎の体が硬直する。

だがそれも長くは続かなかった。

4秒程度でその拘束からは開放された。

気づくと雄一郎は横になっている。

何が起こったのかわからずとりあえず立ち上がった。

目の前に何かの気配も、服部さえもいない。

さきほどまで服部はここに存在していた。

だが今その存在が打ち消されたかのようだ。

雄一郎はあたりを見回す。

そしてさきほどまで服部がいたところに立とうと足を動かした。

グシャ・・・

雄一郎が足を下ろした瞬間にその音はなった。

なんだか気味の悪い音だ。

何かわからぬまま雄一郎は下を向く。

だが暗くて何が落ちているのか分からない。

雄一郎がそんな風に途方にくれているときだった。

突然窓から弱い光が入り込んできた。

雄一郎は驚いて窓のほうを振り向いた。

なんと窓から入り込んできているのは陽の光だったのだ。

おかしい、さきほど服部は8時と言っていた。

当然、午後だ。

なのになぜ日の出が起こっている?

雄一郎の頭の中が疑問でいっぱいだった。

そしてそれを少し恐れて右足を後ろにすべらせる。

グチュゥゥ・・・

突然の音に驚いて右足元を見た。

それを見た雄一郎は言葉を失った。

目は大きくひらき、驚きと恐怖に満ちた表情をしていた。

床一面に広がる赤き液体。

そしてそこにあった物体。

それは・・・人の肉片だった。

誰のものかはわからない。

だがあきらかにこれは故意に行われたことだ。

衣服もどこかに捨てられたようで見当たらない。

手も、足も、顔や胴体までグチャグチャに引き裂かれている。

引き裂かれた肉片は細かく、個人を特定することさえ不可能な状態だった。

だが雄一郎にはこれが誰か人目で分かった。

「・・・・・服部・・・・・さん・・・?」

そして雄一郎は自分の右手に何かがにぎられていることに気づく。

雄一郎はビクビクする腕をゆっくりと慎重にあげた。

それを見てさらに驚きパッとそれを放した。

するとそれは重力にひかれ下に落ちていく。

カーン・・・

高い金属音が響く。

手に握られていたのはナイフだった。

血に染まり、なおかつ若干だが刃先に肉片がこびりついている。

雄一郎は恐怖でいっぱいになりそくざにその場から逃げ出した。

息がきれ、それでも走り続ける姿はもう何かから逃げているようだった。

雄一郎は混乱し驚きをいまだ隠せず起こった状況さえ理解できていなかった。

体力が完全に切れ少し歩くと休憩するように壁にもたれかかる。

今になって雄一郎はほんの少し落ち着きを取り戻した。

背中と壁を密着させ振るえている両手をゆっくりとあげる。

雄一郎の両手の手のひらにはなんと大量の真っ赤な血がついていた。

その血は手のひらの肌色の量を大幅に埋め尽くしている。

動揺し、もう理性を保っていることはできなかった。

「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そして驚きと恐怖がふたたびあらわれそれをかかえこんだせいか手で顔をおさえている。

そのせいで血が顔に少しついている。

雄一郎の叫びが廊下中を走り回るように響きわたった。

――――――鬼隠し二日目 終了

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