祭りの前日 夕焼け
キーンコーンカーンコーン
鐘の音が学校中に鳴り響く。
学生にとって鐘の音は区切りと何かの始まりでもある。
今のは授業の始まりの合図のようだ。
生徒たちが教室に戻り席につく。
雄一郎もまた教えられたクラスへ移動する。
はいるクラスは1−1であった。
雄一郎は教室の戸に手をかける。
そして、それをあけると同時に教室にいた生徒たちが雄一郎を見つめた。
雄一郎は若干それを気にしながら自分の席へ移動する。
椅子をひきリュックを机に置いて座る。
その後すぐに前に座っていた女の子が話しかけてきた。
「ねぇキミ名前なんていうの?私は島原明美」
雄一郎は島原と言った女の子を見る。
すると明美は若干その行動に驚いて頬を赤くする。
「ボクは白烏雄一郎。よろしく」
雄一郎はそう言って目をそらし、リュックのチャックをすべらせる。
すると明美は続けて雄一郎に質問をした。
「キミ好きなものとかは?趣味は?どんな部活に入る?」
雄一郎は若干困った顔をするがすべてに答えをだした。
「ボクはリンゴが好き。あと趣味はない。ボク、部活は入らない」
その質問に対して明美は両手を口元にやった。
「趣味なくて部活もはいらないなんて・・・何かあった?」
明美は雄一郎に優しく聞く。
すると雄一郎はどこかさびしそうに笑って言った。
「キミには・・・多分関係ないことだと思うよ」
明美はその一言におされ、そのまま引き下がる。
気づくと雄一郎はリュックに入っていたものを机の中にしまっていた。
そしてリュックを横にかけてリュックの小さめのポケットから本を取り出す。
雄一郎はふと目であたりを見回す。
すると皆雄一郎から目を離す。
雄一郎が本を開き読み始めるとまた周りはそれ珍しそうにじろじろと見る。
再び雄一郎があたりを見ると周りは目をそらす。
そんなことが先生が来るまで幾度となく続いていた。
そのせいか雄一郎の読んでいた本のページはまったく進んでいなかった。
雄一郎が困ったような顔をして目をつむり、鼻でため息をつく。
その光景を見て周りが若干ながらざわめく。
女子などはキャーカワイイなどとコソコソとつぶやく。
女子は雄一郎に目を光らせていた。
確かに雄一郎はカッコイイよりカワイイなのかもしれない。
目が大きくパッチリとしている。
女子の考えは大体想像がつくだろう。
雄一郎の笑った顔がどれほどの微笑みだろうか・・・程度か・・・・。
雄一郎への視線は授業中だろうと放課だろうと大差なかった。
男子は雄一郎に群れ、それを邪魔だ邪魔だと女子が怒る。
だが男子も抵抗する。
どちらにしても結局最後をしめるのは雄一郎だ。
「あのさ・・・」
雄一郎が少し弱々しい声で言う。
すると男子も女子も顔をそろえて雄一郎を見た。
「こういうケンカ・・・よくないんじゃないかな・・・」
雄一郎がそう言うと男子は雄一郎へ抱き飛ぶ。
女子は自分のやったことを反省し静まりかえる。
こんなことが何回やったか・・・。
雄一郎は若干の疲労を感じていた。
キーンコーンカーンコーン
全授業終了の合図が鳴り響く。
そろそろ周りも落ち着いたようで帰りの準備の際はさほど何事もなかった。
先生がぐだぐだと何かやたら長い話をしている。
雄一郎はその話を一言一言丁寧に記憶していた。
優等生というのはそういうものなのだろうか。
疑問が浮かぶがそんなことは気にしないでおこう。
先生の話を無視して雄一郎に明美が小声で話しかけた。
「雄一郎クンは『鬼隠し』のこと・・・知ってる?」
雄一郎ははっとなって明美を見る。
「鬼隠し?」
首をかしげた。
「鬼隠しっていうのはね・・・お祭りなんだけど・・・簡単に言うと学校鬼ごっこなの」
「・・・お祭り・・・?」
「そう。この町に伝わる伝統的なお祭り」
「別に鬼ごっこぐらいならお祭りにしなくてもいいんじゃないの?」
雄一郎がそう言うと明美が顔をさげた。
「うん・・・確かにお祭りにしなくてもよかったかも・・・」
明美が少し黙り込む。
「でもある事件をさかいにこれは祭りとなってしまったの・・・」
「その事件って・・・」
雄一郎が明美に聞こうとしたとき先生が明美を注意した。
明美は若干にこにこしながら前を向く。
雄一郎はその事件が気になってしまっていた。
そんなことが伝わったのか先生が突然鬼隠しの話を始める。
「そういえば明日は鬼隠しの日だな。
あ、そうそう白烏。お前もこの話は聞いておいたほうがいい」
少しボゥーっとしていたボクを見て先生が言った。
本当に少し雄一郎はボゥーっとしていたらしく先生の言葉ではっとなった。
「あっ・・・はい」
雄一郎がそう言うと先生がうんとうなづいて鬼隠しについて話し始めた。
「ゴホン。明日からは伝統行事「鬼隠し」が行われる。
誰でも知っているとは思うが鬼隠しの鬼は1人だ。
鬼はたった1人で生徒全員をつかまえなくてはならない。
わかっているだろうが・・・」
先生は少しだまりこんだ。
雄一郎はそれを見て少し気がかりになる。
すると突然先生が少しまじめな顔をして話し始めた。
「この学校では毎年、鬼隠しが行われるごとに鬼と生徒。
捕まった生徒がいなくなるということが起こっている。
だかこれもすべて鬼神様の祟りなのだ
だから私たちはそれを理解したうえでこの祭りを行っている」
すると突然雄一郎の表情が一変した。
雄一郎の頭の中でさまざまな単語が記憶されていく。
鬼神様。それを理解。生徒が犠牲になるようなことをするのか!?
雄一郎の頭の中でふと1つの疑問が浮かんだ。
そうか・・・祟りが起こることで町の平和が保たれているとでも思っているのか・・・。
雄一郎は自問自答により自ら1つの答えをあみだした。
そして先生が衝撃の事実をあげる。
「ゴホン。そして今年の鬼隠しの鬼はうちのクラスの生徒となった」
その言葉を聞いてクラスの皆に混沌が渦巻く。
「えーおそらく選ぶというのは困難だろうと思ったのでこちらで選ばせてもらった」
先生が言う。
再びクラスに不穏な空気がうずまく。
そして皆の視線が向かったのは雄一郎だった。
転校生である雄一郎が選ばれるという確立は高い。
「えー今年の鬼隠しの鬼はー・・・」
雄一郎を含め数人の生徒が息をのんだ。
「白烏 雄い・・・」
先生が言い終わる前に1人の男子が手を上げた。
「先生」
雄一郎はその男子を見た。
落ち着いたなりで優等生そうな感じの青年だった。
その男子は立ち上がった。
「ボクが今年の鬼・・・やっちゃいけませんか?」
先生は少し悩んで雄一郎を見た。
「白烏、お前はどうなんだ」
「いや・・・別にやってくれるならそれでもいいですけど・・・」
先生が少しため息をついてその男子の名前を言う。
「えー今年の鬼は白羽楓、これで決定だ」
楓?なんだか妙に女っぽい名前だな・・・。
そんな疑問が雄一郎の頭をとんだ。
すると突然明美が雄一郎に話しかける。
「女の子っぽい名前だけどれっきとした男の子だから」
雄一郎は一瞬ビクリとなる。
「ボクの考えを読んだの・・・?」
すると明美はにこにこと笑って答えた。
「いや最初はみんなそう思ったから雄一郎クンもかなと」
雄一郎はなるほど・・といわんばかりの感じでうなづいた。
ふと雄一郎は楓を見る。
すると偶然にも楓と目があった。
赤い瞳、美しいがそこからはなぜか恐怖感がただよった。
ルックス的には上のあたりだろうか・・・。
楓はニヤッと笑って椅子に座る。
雄一郎はそれを見て一瞬まゆをひそめた。
そして先生のながったるい話が続いた。
明美はリュックに顔をうずめ完全に先生の話を聞いていなかった。
雄一郎はすべてを暗記するかのように先生の話に集中していた。
楓は少し笑いながら雄一郎を見ている。
雄一郎は気づいていなかった。
「あの子・・・確実に歯向かってくるだろうな。とりあえず今年つぶしておくか・・・」
楓はそうつぶやくと前を向いた。
雄一郎は少し首を曲げて楓を見る。
「あいつ・・・ボクを殺す気か・・・?」
雄一郎がつぶやく。
だが雄一郎は自分は何をつぶやいたんだと疑問に思い、再び前を向いた。
先生の話が終り、雄一郎は鬼隠しについて分かったことをメモしていた。
メモに書いてあることはそこまで複雑ではなかった。
鬼隠し、鬼神様、鬼隠しは3日間、鬼、捕者共に死亡、または行方不明
などということがらだった。
雄一郎は明美に事件について聞くことを思い出す。
「明美。この鬼隠しが祭りとなった事件を教えてくれないかな?」
突然の発言に明美は驚いて振り向く。
「あっ・・・うん。実はもともと鬼隠しはこの学校の行事だったんだよね。
それでやってたら他校もマネだしちゃって・・・
それである日鬼隠しを行った学校で事件が起こったの」
明美が顔を下げた。
雄一郎は息をのむ。
「その事件は・・・」
雄一郎は明美をせかす。
「その事件っていうのはね・・・?」
と、明美が話し始めようとしたときだった。
「鬼と職員全員死亡、生徒全員行方不明っていう事件だね」
雄一郎と明美は驚いて雄一郎の後ろを向いた。
そこにたっていたのは楓だった。
楓が話を続ける。
「最初はそれを事件としてとっている警察が多かったんだけど・・・。
その捜査した警察全員行方不明になっているんだよ・・・」
楓がニヤリと笑って言う。
雄一郎は息をのんだ。
「それは・・・見つかったの・・・?」
雄一郎が恐る恐る楓にたずねる。
楓は悲しそうに首を振った。
「いや・・・その警察たちは今も見つかってないよ」
雄一郎と明美は顔を下げた。
「そんな過去があったら祭り事にでもしないとまた同じことが起こる。
そう思ったのがこの町の町長さ」
雄一郎は顔を上げ楓を見る。
「町の長?」
楓はうなづいた。
「そう。町長。町の長がその事件を未然にふせぐためにこの祭りを提案した。
ということ」
雄一郎は納得したようにうなづく。
「確かにその町の長は・・・正しい選択かもね・・・」
だが楓はそっぽを向きながら言った。
「でも町の長はとんでもないものを忘れていた」
雄一郎は眉間にしわをよせた。
「とんでもないもの・・・?」
楓は雄一郎に顔を向きなおして軽くうなづく。
「鬼神の子・・・」
雄一郎はその言葉に目を丸めた。
「鬼神の子・・・!?」
楓は再び軽くうなづく。
「そう。そして毎年この中学校で生徒と鬼が被害にあうのも」
「鬼神の子のたたりだって?」
雄一郎が楓より先に続きを言った。
「たたりというより・・・遊びかもね」
楓が不吉そうに微笑む。
「遊び・・・」
雄一郎は考え込んでしまった。
そして雄一郎に1つの疑問が浮かぶ。
「じゃあ何で白羽クンは鬼をしたいと思ったの?」
楓はそれをまってましたかのように笑って答えた。
「鬼に勝てる生徒なんていない。その考えをボクは打ち壊したいんだ」
楓の言葉は雄一郎の心に響いた。
「新しい発想か・・・うん。白羽クンなら負けないかもね」
雄一郎はにっこりと笑う。
今ここに少し絆が生まれたのであった。
「そんなの無理」
突然顔を下げて黙り込んでいた明美が言った。
2人とも驚いて明美を見る。
「なぜそう言えると?」
雄一郎が秀才のような聞き方をした。
「あんな化け物に・・・勝てるわけない・・・」
突然明美は両手で頭をおさえる。
楓が軽くため息をついた。
そして雄一郎に話しかける。
「明美は・・・鬼神の子に・・・あったことがあるそうだ・・・」
雄一郎はそれを聞いて一瞬呼吸をすることを忘れた。
「会った・・・?鬼神の子に・・・?」
楓が悲しそうにうなづく。
少しの沈黙の後楓が口をひらいた。
「明美は鬼に捕まった生徒のなかでたった1人行方不明にならなかったんだ」
雄一郎は目をまるめて明美を見た。
「あれは子供の遊びじゃない・・・あれは殺戮よ・・・」
雄一郎は明美にたずねる。
「殺戮って・・・?」
明美はおびえながら話し始めた。
「鬼になった生徒を殺し、捕まえた生徒を惨殺しそれをなかったかのように消す。
それは鬼神の子だからこそできることなのよ・・・!
小さな姿で日本刀片手に何度も何度も死体さえ斬るの!!
もうあんな光景見たくない・・・」
明美は泣き出しそうな声で言う。
雄一郎は明美のあたまをなでた。
雄一郎には今の自分にはこれくらいしかできないことを分かっていたからだ。
楓も顔を下げて黙り込む。
雄一郎はこの状況で楓をはげますことがきでなかった。
ただ黙り込んで重い空気がながれていた。
ガララ
突然教室の戸がひらく。
驚いて雄一郎と楓はそちらを向く。
「おいお前ら、そろそろ帰れよ〜」
教室の戸をあけたのは先生だった。
雄一郎は窓を見る。
まどの向こうでは太陽が半分飲まれ闇が現れ始めていた。
雄一郎はあわてて立ち上がる。
ガンッ
それと同時に後ろにいた楓に椅子があたる。
「いて」
「あっゴメン」
雄一郎は軽くあやまってリュックを持ち上げた。
「そろそろ帰る時間だね。この話はまた今度にしよう」
楓はコクリとうなづく。
明美は鼻をすすって少しながら泣いていた。
雄一郎は再び明美の頭をなでた。
そしてやさしく微笑んで明美に言った。
「逃げきれば・・・いいんだよ・・・『楓』から」
明美が顔を上げて雄一郎を見た。
楓は若干不満そうな顔をしている。
「一言言うけど、オレは容赦しないよ?」
楓がニヤリと笑う。
「絶対捕まらないからな!ね!」
雄一郎が明美に言うと明美は少しおもしろそうにうなづいた。
雄一郎もそれをうれしく思って微笑む。
すると楓がわざとらしくため息をついた。
「あぁ〜絶対捕まえてやる・・・!」
楓はギュッと手を握っていた。
雄一郎は立ち上がった。
「これは勝負かな?」
「当然!!」
楓が右手をさしだした。
それに反応するように雄一郎も右手をだしてお互い握手をする。
「道連れにするか」
「道連れにされるか」
2人がふざけあって言って笑う。
明美はまた顔を下げ少しつらそうな顔をしていた。
先生がいることに気づきあわてて教室を抜け出し校門で別れを告げた。
「絶対ボクは負けたりしない。それに楓だって助けたい・・・」
それが鬼隠しをしたことがない雄一郎の考えだった。
太陽が沈み、空は暗黒、闇に沈んだ。