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第八話:オルランテ城へ。

 はあ……もう引き返せないところまで来ている気がする。

 このまま物語の流れに沿って動いていいものやら。

 元老院はきっと今頃――



 --------------------------------



「あの力をどう思う?」

 円卓に座する五名の者達は、昼間の出来事について話し合っていた。

「刺青、魔物を一撃で滅する力、言い伝えの通りではあるが……」

「言い伝えなど信じるのか? もしあの少年がロルス国や帝国と繋がりを持っていてこの国を崩そうと企んでいたらどうする!」

「少年が街に現れた途端に魔物が侵入というのもできすぎた話だ」

「やはり牢獄へ入れて様子を窺いましょうぞ」

「この国に置く事自体、危険ではないかね」

「――私は言い伝えを信じておる」

「工作員だったらこの国は大打撃を受けるのは間違いないのだぞ!」


 話し合いは激化を辿り、円卓に拳を振り下ろす者もちらほらと出始めていた。

 彼が本当に英雄の力を持っているのか、言い伝えでは戦い終わらせる者の象徴、ではこの戦争も終わらせてくれるのか。

 それとも他国の――ロルス国や帝国の工作員でこの国を滅ぼしに来たのか。

 どちらか定かではない今、どう判断すべきかが彼らを大いに悩ませていた。

 言い伝えを真に受けるのであればどんな不自然であれ有耶無耶になってしまい、言い伝えを抜きにすればこうして疑惑しか出てこない。


「刺青の者が最後に現れたのは五十年前、その時は幻魔種と天精霊種の戦争を終わらせたと聞く」


 アンデッド、ゾンビ、煙のような体、禍々しい外見、そういった人外の種族――幻魔種。

 他種族にも恐れられる種族であり、数年に一度は起こる戦争の火種が大抵幻魔種だ。

 天精霊種は人類種よりも高度な魔法と魔力を持ち、自然と共に生きる者達。

 自然を――恵まれた土地を求めてやってきた幻魔種と、領土を守るべく衝突を覚悟した天精霊種、両者の戦争は五十年後でも畏怖の念が伝えられるほどの大戦争だった。

 それを一人で、幻魔種の王を退かせ、天精霊種の王を説得して介入からたった二日で戦争を終わらせたのが刺青の者とされている。


「その話は知っておる、親から飽きるほど聞かされたわ。だが本当かどうかなど分からんだろう」

「旅の天精霊種も刺青の者の話をしていたんだ、我々の種族でも見たという者が多数いる、言い伝えは確かだ」

「百年以上前の刺青の者は女性だったようだが、力を受け継いでいっていると考えるとして……手に入れる手段がもしかしたらあるかもしれんな」

「それはまた後の話としよう。彼が我が国に来た目的は、我が国誇る絶対防壁をロルス国が破って襲撃してくる可能性があるために忠告しに来たらしいが、どう考える?」

「これからこの戦争が大きく動く事を予見しているのでは?」

「もしそうだとしたら……」


 刺青の者ならば戦争の予見もできるかもしれない。

 彼が本物か否か、もし本物だった場合……彼の言葉は聞き入れるべきである――しかし、でも、だが、と皆の思考は整わずにいた。


「どうであれ彼と話をしてみようではないか。言い伝えについて彼の口からも聞きたい」

「本物でなくてもロルス国という悩みの種を摘めればよいしな」

「今のうちに酒や料理、女を与えて我が国へ協力を求めるのは? あの力は戦力として欲しいところであろう」

「それは彼を見定めてからにしよう」

「国王様にも引き合わせようではないか」



 --------------------------------



 ――なんて話をしてるんじゃないかなあ。

 夕焼けに照らされた城が徐々に見えてきた、中世風の荘厳な城だ

 空を穿つほどに高いその城は街の中心部――元々は山であった場所に建てられている。

 あの城の地下にある一室で未だに彼らは話し合いをしている最中であろう。

 城門へ到着し敷地内に入るや前後には騎士や兵士達が俺達を囲むように配置についた。

 せめて招待をした――という雰囲気くらいは出してもらいたいのだが、警戒心がそれを削いでしまっている。


「庭広いなぁ~……」

「悠斗様! オルランテ城の敷地に入るのは私、初めてで興奮しております!」

「俺も、テンション上がってきた」


 どこか心は観光気分。

 二人で窓に張り付いて、庭を見ては我を忘れてはしゃいでしまった。


「一般市民はそうそう入る機会などないからな、よく見ておくといい」

「普段は貴族や軍関係者くらいしか入れないもんなあ。ほらアリア見てよ、あの噴水の銅像」

「前国王様ですね、精巧に作られております。金細工も施されていてさぞかし税金が注がれた事でしょう」


 ちょっとした皮肉も混ぜられている。

 言いたい事は分かるよ、でもね、根本は俺の考えた設定だから国に対する皮肉は俺にも効いてしまうぜ。

 舞台となる国は完璧より民が不安を抱えるような何かしらの要素が必要なのだ、とはいえ俺がそう思っているだけで他の書き手はどうなのかは分からんのだが。


「銅像は我々としても意欲向上に繋がるのでな」

「街の銅像はただの石造りなのにこちらは豪華ですね」

「貴族などの地位の高い者達が訪れる場だ、銅像も敬意の現れとして立派にしておかねばな」

「見栄ばかりに金をかけてないで国の経済を少しでもよくするようにしてもらいたいものですが」

「私はただの聖騎士団所属でしかないのでその辺の苦情は対・応・外!」


 そっぽを向いてしまった。

 ジュヴィさんは経済関係のお堅い話はちんぷんかんぷんだ、しかも街に出ると何人にも苦情の話は嫌というほど聞かされる彼女にとってはこの手の話は一番聞きたくないだろう。


「あ、逃げましたよ悠斗様。聖騎士団団長ともあろう方がこの体たらくです」

「まあまあ、そこらへんで」


 アリアは貧しい家の生まれで幼い頃から苦労をしている。

 明らかな無駄金の消費は許せない性質だ、とはいえそんな幼少期だったからこそ家族を助けつつ、暇な時は魔法書を読むくらいしかなく、それが魔法知識を高める彼女の成長へと繋がるのだが。

 しかし魔法知識と技術は思ったより高い、大魔法師レベル。

 俺の考えた設定とは少々違うがこの差はどうして生じたのだろう。落ち着いたら話を聞いてみるべきかもしれない。

 揺られる事数分、ようやく馬車は停車する。


「本日はようこそおこしいただきました、私はハルベ・グリアルスと申します」


 この人も知っている。

 執事でもありながら外交に長けて広い顔を持つ人物でもある、もてなしとなると彼が担当する決まりだ。


「あ、どうも。俺は最上下悠斗です」

「私は悠斗様の下僕、アリア・ラキアッソでございます」

「いや、下僕はやめとかない?」


 最初は付き人的な立ち位置だった気がしたんだが。

 そんなに自分を卑下しないでもらいたいものだなあ。


「ささ、どうぞこちらへ」

「悠斗、私は一度本部に戻る。また会おう」

「うん、また後で」


 城の左側に立つ施設が聖騎士団本部、右側が役所本部だ。

 国と迅速な連絡と連携をとるために本部は城のすぐ近くに置いている。

 後で中を見てみたいとこだなあ、どうなってるんだろ?


「この国へ来るには海を渡るしかございません故、長旅でしたでしょう? お部屋もご用意いたしております、ごゆっくりお寛ぎください」

「助かります」

「悠斗様を全力でおもてなし致してくださいまし」

「あ、彼女の言う事は気にしないで」


 宿の心配はしなくてもよさそうだ。

 しかし気を許してはいけない。先ずは俺を手厚く接待に入ったようだが、少しここで探りを入れてみるか?


「けど、これほどの厚遇……理由を聞いてもいいですか?」


 大体の理由は分かってるけど、あえて聞いておく。

 何も聞かずにずかずかと上がり込んだら怪しまれそうなのもあるし、こうしたほうが俺にとって物語の再確認ができる。


「今日の魔物騒動の一件にて、貴方の働きぶりに国王や貴族方々が是非貴方とお話をしたいと申しておりまして」

「確かに魔物退治はしたけど、それだけで城に招待だなんてなあ」

「貴方のお力はそれほどまでに皆の心を動かしたのですよ。兵士達から話をお聞きしました、強大な力の持ち主だと。そしてその刺青、言い伝えにある刺青の者と間違いないと判断して招待に至ったわけです。少々強引な招待で申し訳ございません」


 流れるようにまくしたてられるとこちらとしては何と返していいのか困ってしまう。

 はあ、なるほど、そうですか~といって語彙力の無い言葉を連ねるのもな。


「どうかお気を悪くなさらぬようお願い申し上げます」

「あ、いえ」

「まったくです! 強引な招待は印象悪いですよ!」

「返す言葉もございません」

「はい悠斗様! がつんと一言!」


 おおっと、いきなり話を振られると困るぞ?

 なんて言おう、がつんと? がつんとっていってもなあ……。


「えっと……く、苦しゅう、ない?」

「ほへぇ!?」


 え? 違った?

 もっとなんか、野蛮な言葉でいくべきだったかな? てかそもそも言葉選びを間違えたかこれ。


「緊張しておいでですか?」

「ち、ちょっと……」

「我々は何も手出ししようなどとは思ってもおりません、ただただ貴方様をもてなしたい、それだけでございますのでどうか肩の力を抜いてくだされば光栄です」


 手出しはせずとも裏でこそこそやってるでしょうに。


「失礼します」


 そこへやってきたのは数人のメイド達、俺の前でスカートをつまんで会釈をして、


「お荷物をお預かり致しましょう」

「手ぬぐいをどうぞ」

「服に汚れがついております、お拭きいたしましょう」


 身だしなみが一瞬で整えられてしまった、流石はメイドの中でもより優れた人材のみを集めただけある。

 そのうちの一人が、


「ミネリルル・ルシャーナと申します、よろしければ悠斗様の専属メイドとして就かせていただきたいのですが」

「私は専属下僕ですが!」

「張り合わないで」

「いつでもお近くにおりますので何かお困りがありましたら私にお申し付けください」


 金髪ポニーテール、すらりとした体躯は完全俺好みで構築されたメイド。

 この目で拝める日がくるとは思いもよらなかった。

 けどこの子だけはメイドという文字に“監視役”ってルビを振らないとね。

 この先利用させてもらえるようなら是非とも利用したい、設定のみで腐らせたくない。


「敷地内には来客用の宿がございます、最上階の部屋を用意いたしております」

「最上階? 嬉しいなあ、この町を高いとこから眺めて見たかったんだ」

「お部屋で一度お休みになられますか?」

「そうですねえ、ちょっと休もうかな」


 今日は長い夜になりそうだ。

 今のうちに体を休めておくとしよう。

 ギガルガントス程度であれば特に疲労もないんだけど、あるとすれば気疲れのほう。


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