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第七話:刺青の者

「――失礼する」


 フードをかぶった者達は俺へとまっすぐやってくる。

 刺青の力を知ってすぐさまに行動に移すあたりは物語の筋書き通り、これから城へと招待されてロルス国との戦闘へ本格的に入るわけだ。


「我々は元老院の使者である」

「知ってます」

「よければ――」

「拒否権はないんですよね? 外には馬車、それに万が一のために兵士と魔法士を数十人、港にも同じ数を配置して国から出ようにも出れないようにしてる。そうでしょう?」

「ぬっ……」


 俺の考えた物語通りのようで。

 元老院の手早さ、慎重さには関心してしまうよ。


「えっ、そんな措置をとっているのですか!? 横暴ですよ横暴!」

「よければ、じゃなくて強制か。元老院も随分と強引なものだね。悠斗君、何か言ってやったらどうだい?」

「といってもこの方々は命令で動いてるだけなので……」

「悠斗様は本当にお優しい方ですね、そこの使者、悠斗様に感謝しなさい」

「こらこら……」


 俺に関する事であれば周りへの当たりが強くなるね君。

 使いの方は一瞬表情を崩すも、こほんっと咳をして誤魔化し、言葉を続けた。


「よ、よければ! 招待に応じてくれないだろうか!」

「拒否権はないようですけど」

「拒否権ないのに今更何だい」

「ぐぬっ……!」

「まあそう言わずに。アリア、行こう」


 本来なら剣呑さ抱く招待だが、ついていっても物語通りなのだから問題はない。

 意味もなく変にごねたり粘ったりしても印象が悪くなるだけで意味もない。

 ここは相手の招待に素直に応じたというていで済ませよう、この使者の面子も立てなくちゃね。


「第四聖騎士団は我々と同行との指令も出ております」

「人使いが荒いねえ……皆、行くよ」


 店を出ると人払いがされており、馬車にはジュヴィさんと共に乗り込む事になった。

 護衛と監視を兼ねて、とったところだろうね。


「悠斗君、礼をまだ言っていなかったな。私や部下、それに民を助けてくれて感謝する」

「何も俺一人の成果じゃないですよ。アリアや、ジュヴィさんの部隊の的確な動きで被害が少なく済んだと思います」


 謙遜は大事だ。

 俺の考えた主人公も謙遜から入る――彼に倣おう。


「お褒めのお言葉をお聞きできて、この上なく幸せでございます!」

「謙虚な奴だねえ、益々気に入ったよ」

「はは、どうも……」


 隣に座るアリアはどこか不服そうに俺を見つめていた。

 謙遜しすぎだって? いいじゃないか、しすぎたって損はない。


「元老院も目ざといものだね、使者を送ってすぐに護送とは」

「強引すぎます。悠斗様はこの国に到着してまだ間もない上に魔物との戦闘後なのですよ?」

「私に文句を言われてもな。君達の不満は、私の日頃の不満と共に元老院へお届けしよう」

「悠斗様にお詫びの品を送るのもお忘れなく」

「了解了解」


 別に俺はお詫びの品なんていいんだけどなあ。

 しかしここは黙っておこう、俺よりもアリアが納得しないようだし。


「それにしてもこうも動きが早いのは何か理由があるのか……? 刺青、いや、まさか」

「ふふっ、そのまさかでございますよ! そう、彼こそが言い伝えにあった刺青の者でございます!」


 それはもう鼻高々に宣言してみせるアリア。

 その調子で広められるとちょっと困る。


「あんなの、民に勇気を与えるための作り話だったんじゃ……」


 一応は、作り話とも言える。

 元は俺がただ夜中に考えた程度の妄想から始まったのだから。


「いや待てよ。もし本当なのだとすれば、元老院の動きにも納得できる。すまないがその刺青、もう一度見せてくれ」

「どうぞどうぞ」


 減るもんでもないし、気が済むまで見せるとする。

 見せるどころか彼女は興味深く俺の腕を触っていき、刺青を指でなぞっていった。


「のわっ!」

「悪い、くすぐったかったか?」

「ええ、少し。いやあ、まいったなあ」


 照れ笑いを浮かべつつ、どうしようかねこれといった感じでアリアに視線を送ると、どこか面白くなさそうにジト目で俺を見つめる彼女に気付いた。

 ちょっと、自重したほうがいいのかなこれは。


「うむ、ありがとう。魔力も感じない変わった模様の刺青にしか見えんのだが、あんな力を生み出すとは……不思議なものだな」

「過去に英雄と呼ばれし者達の何人かも同じような刺青をしておりました、言い伝えは本物だったのです!」


 つってもこのあたりの設定は他の実のところ、他の人達と話し合ったりしたのもあって知識が曖昧だ。

 かつての英雄の名前すら出てこないが、後々記憶を拾っていくとしよう。


「ですので、悠斗様を崇めましょう」

「それはやめて」

「興味深い、実に興味深いよ悠斗君。突拍子もない理由でこの国に来て英雄の力で魔物を退治、これだけでも面白い上に刺青の者? そそられる」


 と、言われましてもね。


「ただ、不審な点も多いのは否めない。君はこの国へやってきた理由について問われた時、言っていたな? ロルス国が防壁を突破するかもしれない、と。わざわざ忠告しにこの国に来るはずもあるまい」


 いつか突っ込まれるかとは思っていたものの、意外とそれは早く。

 物語では刺青の者を選ぶためにエンリが旅をしていたけど、その目的も自分で果たしてしまったし、どう答えるべきか。


「もしや……刺青の者となると何か起こりそうなところには引き付けられるのかな?」

「そう! そんな感じ! ざわざわって、ざわざわってするんです!」


 彼女のその言葉に、乗っかろう。

 ただ、唐突であったために語彙力が欠如してしまった。


「うむ、うむうむ! ざわざわなのだな!」

「そう! ざわざわ!」

「ざわざわですね!」


 腕を組んで満足そうに微笑むジュヴィさん。

 何故か、納得してくれたようだ。


「私は君がオルランテを救ってくれるのを期待している!」

「オルランテどころか、世界を救ってくれます!」

「あまり期待されても困るなあ……」

「だがしかし! 勝手に期待させてもらおう! 何より裏メニューも教えてくれて私に幸福を与えてくれたしな!」


 幸福の規模が小さい。

 裏メニューは結構どうでもいい気がするんだけど。


「あの戦闘も素晴らしかった、私も君に戦いの手ほどきを受けたいものだ。和の国の者は皆強いのだな」

「そ、そのうち機会があったら」

「うんうん、期待しているぞ!」


 時間の経過でうやむやにしておきたい。

 人に教えるほど俺は戦闘技術なんて持ってない、魔物との戦闘だって技術なんてなかった。

 圧倒的な力によって相手を理不尽に叩き潰しているだけにすぎない。

 それなりに。

 それなりに、身体能力は向上しているから、動けているだけであって。

 とはいえ俺の考えた力だ、たとえ使い手が子供であってもこの力は最強を与えてしまう。

 ……そういう設定だから。

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