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第六話:好奇

 場所は変わり、再びパルクーレへ。

 あの原稿の事もあって、こっそり戻って置き忘れた荷袋を回収してすぐに店から離れるつもりだった。

 出ようとするや戻ってきた兵士達と鉢合わせときた。

 ……原稿の書いてある通りになってしまったな、結局。

 苦笑いする俺とは裏腹に、アリアはどこか嬉しそうに、表情は緩んでいた。

 ああなるほど、俺が注目を浴びるのが目に見えているからかい?


「遠くから見てたぞ! その力、刺青に秘密か!?」

「どこで手に入れたんだ!?」

「まさか君があの言い伝えにある“刺青の者”か?」


 ……原稿通りに。

 詰め寄られて食事をしていた席に戻されてしまった。

 兵士達から質問攻めに、先ほど自分のした行動に些か後悔をしている。

 エンリがこの質問攻めを受けるのはロルス国の襲撃後なのだが、順序が色々と変わってしまった。


「はいはい皆さん一斉に喋らないでください。質問は順番にお願いします」


 収集がつかなくなってきたこの場をアリアが収めはじめた。

 記者会見の司会みたいだね君。


「和の国ではあのような力を? ただの打撃攻撃で少なくとも上位魔法に匹敵する力だったぞ」

「あのギガルガントスが一撃で屠られるなんて考えられん」

「いやこれは、なんというか、事情がありまして」


 別に責められているわけではないのだが、どうしても縮こまってしまう。


「聞いてもいいのかな? その事情とやらを」


 いきさつは……話さないでおこう。

 だってさ――俺の考えた主人公が持つべき力を手にしたかったのでやっちゃいました! とか言ってみなよ。

 あいたたたたたな空気が広がっちゃうよ。


「英雄の力が込められた神遺物という石があって、俺はその神遺物を体に取り込んだわけで、この刺青はその証というか」

「え、英雄の力だと……!?」

「んな馬鹿な……」

「しかしあの力は……」


 英雄なんて単語を無暗に出すべきではなかったか。

 周りの客が聞いていないのが幸いだ、聞かれてたら一瞬で街中に広がってただろう。

 とはいえ彼らからじわりじわりと広がっていくのだがね、物語的に。

 エンリもそうして少しずつ知られていったのだから。


「面白い、面白いな悠斗君!」


 ジュヴィさんは彼らとは違う反応を見せた。


「しかし何故ギガルガントスが現れたんですかね団長。侵入経路は海側、森に住む奴らがあのような行動に至るとは……」

「それなんだが、ギガルガントスの好物が詰め込まれた箱がいくつか見つかった。何者かが意図的に魔物を誘導していたんじゃないか、やるとすればロルス人くらいだ」

「以前にも似た事がありましたなあ、その時捕まったのもロルス人でしたね」

「また港から仕掛けてくるかもしれないな、警備を固めよう」


 北は防壁に、西と東はトラップと物理・魔法防壁が敷かれて強固な守り、残る南は人類種が常に行き来し兵士も多くいる海のため安心――という一つの安全に亀裂が生じたが、しかしだ。


「あの、いいですか?」

「なんだい?」

「それもロルス国の思惑の一つじゃ? 防壁から意識を逸らすためかもしれないですよ?」


 かもしれないというより――まさにそうなのだが、あえて断言しないでおく。

 ずばずば言い当てたら逆に気味悪がられそうだ。


「防壁か、破られる心配などないはずだが」

「皆防壁から頭が離れています。しかも侵入された海側の防衛強化にあたっているのでは? もしそれで防壁の守りが手薄になれば、今夜にでもまた仕掛けてくる……かも?」

「であれば、部隊の再配置を検討すべきか、いやしかし……」


 俺の忠告は半ば懐疑的に受け取ってはいるものの、揺らいでくれているだけまだマシといったところであろうか。


「悠斗様の忠告は素直に聞き入れるべきでですよ」

「今日この国にやってきた者の忠告を聞いて容易く方針を変えるような国でもないのでな」


 そりゃそうだよね。

 たとえ強大な力の持ち主でも、部外者には変わりない。


「そもそも最初にロルス国が防壁を突破してこの街を攻め入るかも――という君の話、情報源はどこからなんだい?」

「それは……」

「勘や噂話程度であるならば、悪いが一つ一つ聞き入れて対応などできんのだよ」

「しかし悠斗様は――」

「アリア、いいから」

「でも!」


 設定が正しければ、今夜は食事会もあり城への警護は高まる。

 加えて今日のギガルガントスの件もあって港側の警護にも人が周って防壁付近の警護は手薄になるはずだ。

 防壁なら破られやしないだろうという過信が命取りだ。

 説明したとしても信じてはもらえないだろう。

 この襲撃によって彼女は亡くなってしまう。

 襲撃が阻止できずとも、彼女だけでも救えないだろうか。

 自分で決めた彼女の結末――変えられるのなら是非にでも変えてみたい。


「だが……君は魔物から民を救ってくれた恩人だ、無碍にも出来ん。君についてももっと知りたくなったな。この後時間はあるかい? 是非どこかでゆっくり話をしたい」

「お誘いはありがたいのですが、元老院なんかはもう動いてるかと。さっきの戦闘もおそらく視ていただろうし、俺の予想ではそろそろ――」


 噂をすればというやつで、店内に数人ほど入ってきた。

 食事をしに来た、という雰囲気ではないな。

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