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第四話:手綱を引くべきか、首輪をかけるべきか。

「ふふっ、私は運が良かった。少年、感謝する」

「あっ、いえいえ」


 たとえ俺の考えた登場人物であっても話をするのは、少し緊張するね。

 アリアは雰囲気的に話しやすいし俺の事を作り手と認識してくれている分、気が楽だけど他の登場人物は違う。


「少年、名は?」


 彼女は椅子を俺のほうへと寄せて興味を示していた。


「最上下悠斗です」

「その悠斗様を支えるは私、アリア・ラキアッソです! 感謝しなさい、悠斗様とお話もごごご!」

「大人しくしてね!」


 油断できないなこの子は。

 隙あらば俺という存在を周知させんとしてくる。

 手綱をしっかりと握っていなければ暴走してしまうかもしれない。

 ……彼女の雰囲気的に、手綱より首輪のほうが的確か?


「モガミシタユウト? 変わった名だな」

「変わった名とはなん――」

「こ、このあたりの地域では聞かない名前ですよね~!」

「私はジュヴィ・ニルバレス、この国の聖騎士団団長を勤めている」


 うん、知ってる知ってる。

 君を考えたのはこの俺だからね。


「その髪の色や瞳に肌、和の国の者か?」

「んー……ええ、和の国です」


 ――和の国、昔の日本をモデルにした国だ。

 オルランテからは東の海を渡るか、大陸を伝っていけばたどり着けるが、どちらを選んでも数日は掛かり気軽には足を運べない。

 俺の見た目は和の国の人間そのものだ、ここは和の国出身としておいたほうがいいだろう。

 主人公は和の国と大国ヴェズエルのハーフという設定だ、ちなみにこれらの国は物語の序盤では出てこない。


「そうか、和の国は実にいい。ほら、これを見ろ」


 彼女は腰に下げていた刀を取り出して俺に意気揚々と見せてきた。

 この武器はちゃんぽんさんがデザインしたものだ、鍔のあたりはやや太く剣のような形状になっている。いいセンスだぜちゃんぽんさん。

 兵士さんが刀を見て「また始まった……」と呟いていた。

 ……嫌な予感しかしない。


「二年前に異国調査で和の国へと赴いたのだがそこには危険な魔物が多く生息していてな――」


 ……ああ、そうだ。

 彼女の自慢話が始まるんだったな。

 それも結構長いという設定故に、料理がくるまで俺達は彼女が刀を手に入れるまでの武勇伝を聞かされる羽目になった。

 濁流の如く彼女の口から放たれる武勇伝はほぼ聞き流していたので大体は頭の外に抜けていく。

 別にこれといって特に考えたわけでもないし、物語に関係するわけでもない。

 憶えていてもしゃーない。


「ただ長くてどうでもいいお話ですね」

「こら! アリア!」

「ん、何か言ったか?」

「いえいえいえ! 料理がきましたよ、食べましょう!」


 並べられた料理は見た目からして食欲をそそらせる。

 世界が違えどステーキというものはなんとも言えぬこの肉肉しさたるや……食べる前から美味いってのがもう分かる。

 熱々の鉄板によって肉の焼ける音もまたいい、音のスパイスだね。

 そしてやはり鼻腔をくすぐってくるこの香ばしさ、うーん……たまらない。

 

「いただきます!」

「いただきましょう!」

「これが裏メニューか……! くくっ、皆よ、悪いな」


 ナイフとフォークで、最初の一口はやや厚めに。

 早速ぱくりと、口の中に広がる旨味を堪能した。


「「「んま~い!」」」


 三人で同時に舌鼓を打った。

 スープも最高だ、俺達は揃って満面の笑みを浮かべた。

 周りも羨ましそうに見つめてくるのはちょっとした優越感を得られた、これもまた雰囲気的に美味しくさせる一種のスパイスだ。


「して悠斗よ、この街には何用で? 彼女は付き添いか? それとも案内役?」

「私は悠斗様のなんでも言う事を聞く付き人でございます、ワンと言えというのならば、その通りに」

「じゃあ言ってみて」

「はい! ワン!」

「本当に言わんでも……」


 命令したのは自分だけども……。

 従順すぎるというのもどうかと思うぞ。


「妙な関係だな君達は……いや、もしや和の国では貴族級なのか?」

「神級です!」

「神級!?」

「なんでもないです!」


 くっ、アリアが一々変な方向に持っていってしまう。

 方向修正がとてつもなく大変だ。


「用が済んだら長居はしないほうがいいぞここは」

「用といっても……これといった用もあんまりないんですよねえ」


 実際用件は済んでいる。

 神遺物を誰かに授けるっていう役目も俺が自分自身に使っちゃったからもう他にやる事はない。

 序盤の筋書きを大いに短縮してしまった。

 しかし……イベントはまだ残されている。


「ただ……あるとすれば、ロルス国が防壁を突破してこの街を攻め入るかもしれないから、警戒するよう伝えに来た、かな」

「ロルス国が?」


 皆の手が止まった。

 そして――


「だはははっ! んな事できっかよ!」

「あんな分厚い防壁に守られてるんだ、攻め入る事などできねえさ!」

「可能性はあると思いますよ?」

「ないない」


 駄目だ、完全に防壁が破られないと信じ切っている。

 お隣さんから妙な気配がするなと一瞥すると、アリアは頬を膨らませてご立腹。


「アリア、余計な事は言わないでね」

「いいのですか? 悠斗様が仰るのならば、そうなるのでは?」

「言ったところで信じてもらえないよ」


 このままだと今夜、ロルス国の襲撃を受けて――彼女、ジュヴィは死ぬ。

 しかしそれによって物語は動いていくし、ヒロインと交流するきっかけになるのだけど……登場人物が死ぬと分かって見殺しなんて、できない。

 たとえ俺の考えた物語であっても、なんかすっごく嫌だ。


「悠斗、心配しなくてもいい。この国の防壁はいとも容易く破られたりはせんよ。見張りも毎日いるし何かあればすぐに報告がくる」

「心配するだけ骨折り損だぜ少年」

「ははっ、そう……ですかね」


 でも絶対それは起きる。

 俺だけがその事実を知っているんだ。

 だったら……どうする?

 どうするべき?

 猶予は半日、俺にだけ与えられた選択肢――物語通りにするか、それとも筋書きを変えるか。

 ……ってなると。


「ん? どうした悠斗。不安なのか? 心配しないで食べなさい、何ならこれをやろう。君のおかげでこんな美味い料理を頂けた礼だ」


 彼女は小さなケーキを渡してきた。

 甘い物好きのジュヴィ、そんな設定も付けたなそういえば。


「あ、どうも――」

「魔物が出たぞ!」


 俺の言葉を遮る大声、思わず皿を落としそうになったがなんとか持ちこたえた。

 ケーキの上に乗っていた小さな果物は転がり落ちるも、瞬時にジュヴィが宙でそれを捉えて口へと運ぶ、器用な人だ。


「珍しいな魔物だなんて、それもこんな昼間に。飯時くらいゆっくりさせてもらいたいものだ」

「それは魔物達も同じだろう? 今から奴らの食事を邪魔しにいくのだからね」


 本来はエンリが街をまだふらついていて、ようやくアリアと遭遇した後に街角で魔物にばったりと遭遇するはずだったんだけど――

 アリアとは着いて早々合流するし、服屋に行ったりここで料理を頂いていたからか、タイミングが変わってしまっているな。


「行くぞ!」

 ジュヴィさんは立ち上がり、兵士達が続いた。


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