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第三話:邂逅

 大通りに出る前に俺は荷袋の中身を再び確認。

 封印がなされている箱が、ある。

 中はまだ見ていないが、何が入っているかは知っている。

 主人公・エンリはこの箱に入っている――神遺物の適合者を探しにこの国へやってきた。

 しかし街は襲撃され、エンリは人々を助けるために動き神遺物が反応し、彼は神遺物の力を得る……んだけど。

 箱の中身、見ちゃおっかな。

 封印がされているとはいえ主人公の立ち位置にいる俺ならば解放できるのでは?

 恐る恐る、箱に手を伸ばしてみる――


「お、触れた。開けれそうだ」


 両手でしっかりと持てている。

 上位第五魔法級は発動していない、よかった……正直、ほっとしている。

 吹っ飛ばされたらどうしようかと少しだけ、ああ、ほんの少しだけ不安だったよ。


「神遺物を解放なさるのですか?」

「しちゃおうかな?」


 一先ず箱を開いてみる。

 おっと、一応……脇道に入って、周りを確認。

 アリアもトコトコとついてきて、俺と一緒にきょろきょろと確認。

 人は……いないな、よし。


「見た目は、綺麗な石でございますね」

「近くで見ると更にすごいよ。ほら」

「まあ、本当です!」


 石の中心は色鮮やかな光が渦巻いていてまるで生きているかのよう。

 俺が触れている間は神遺物も呼応して微光を放っている。

 設定では、主人公はこの段階では気付いていないが神遺物は既に主人公を選んでいるのだ。


「結局自分に使うなら、今使っても構わないよね」

「英雄の力が我が神に……! これは素晴らしいものですね! 今日という日を記念日にしたいくらいです!」

「記念日って、大げさな」


 俺は神遺物を手に取り、ぎゅっと握り込んだ。

 後は力が取り込まれるのを待つだけだ。


「さあ、やってみようか!」

「やってみましょう!」


 神遺物が手の中へ入っていくのが伝わってくる。

 同時に何かが這うように右手から体全体へと侵食していく感覚。

 けど――溢れるこの活力、神経一つ一つが冴えわたり、今なら何でもできそうな自信、この感覚……わくわくしてくるね。

 俺は今、物語の主人公が得られる力を、手に入れているのだ。

 ――右手を見ると、手の甲から肘にかけて刺青が浮かび上がっていた。


「おおっ」

「英雄のお力、吸収したのですね!」


 左腕も同じ刺青が浮かび上がる。

 神遺物の力が完全に取り込まれたようだ、実感はあまりないけれど、今……この瞬間、俺は強大な力を手に入れた。


「悠斗様、一つお聞きしたいのですが」

「ん? なんだい?」

「数々の英雄の力が宿る刺青を持つ者――という言い伝えはもしや……」

「あーそれね? そう、これこれ!」


 エンリは強大な力を得ても、これといって喜んだりはしない性格だけど俺は違う。

 にやけて、無意味に拳を振ったり、浮かび上がった刺青を眺めたりしている、してしまっている。いやだって、嬉しいんだもん。

 客観的に見たら、こんな主人公がいるか、って感じだけど。

 身体能力もさぞかし向上しただろう、あとは敵が出てきてくれればこの力を試せるね、でもまだその機会は訪れない。

 うずうずする、正直。


「やはり! その刺青も大変お似合いでございますよ!」

「そ、そう?」

「はい、とてもかっこいいです! 最高です!」

「て、照れるなぁ……」


 ぱちぱちと拍手までしてくれて盛り上がっている中。

 ぐぅぅと情けない音――腹の虫が騒ぎ始めてきた。

 今が何時なのかも分からないが、街の賑わいから考えるに昼くらいの時間か?


「空腹でございますか?」

「うん、お腹減ったなあ。飯、食べに行こうか」

「行きましょう! 大通りはこちらです!」


 服を買ってもまだまだ所持金はある。

 エンリは長旅を想定して結構な額を持ってきているんだったよな、今は俺の金だから遠慮なく使わせてもらおう。

 俺の考えた設定がちゃんと再現されているのならば――と、大通りを出て広場まで足を運んだ。

 多くの人が露店で買い物し、円形の広場は飲食店や装飾店、武器屋に魔法系の店がずらりと並んでいる。


「飯屋は……ああ、あれか」

「美味しいですよあそこは!」


 看板にナイフとフォークがついたぱっと見で飲食店だと分かるその店。

 店の名前は、パルクーレ。


「うん?」

「どうかなさいました?」

「あっ……文字がね?」

「文字?」

「いや、なんでもない、行こうかっ!」


 この国に来てから、混乱もあって意識していなかったが。

 ……文字が読める。

 英字に似た独特の文字、この世界で最も使われているリエノリア文字――それが、見るだけですっと意味が伝わってくる。

 自動で翻訳されているかのような、感覚。

 主人公的な、特権かねこれは。

 何はともあれ、メニューを見て読めずに困るという展開は無いようだ。


「賑わってるなあ」

「左様で」


 店内はほぼ満席だった。

 昼間から酒を喉へ流し込む人もいれば、午後の仕事に備えて美味そうな肉を頬張る人もいる。

 兵士さんと一般客は半々といったところだ。

 髪や肌の色の違いから、やはり視線を集めてしまうな。


「空いているのはあそこくらいでしょうか……」

「よし、座ろうか」


 隅っこの席へと腰を下ろすとした。

 ――けれど、ちとタイミングが悪かったか。

 隣のテーブルには兵士達が座っており、ロルス国への愚痴や悪態が始まっていた。


「はわわっ……や、やはり席を変えますか?」

「別にいいさ」


 ロルス国は王都オルランテと領土を巡って何かと衝突している。

 この国の防壁によって互いに直接的な武力衝突はまだおきていないが、それは時間の問題――なんだけど、それを知るのは俺のみ。


「ったく、ロルス国には困ったものだ。我々が領土を支配しようとしているなどと妄言を吐いてきやがって……」

「天精霊種や人獣種が領土拡大して、それに対抗して我が国がペテルエル山付近を侵略してくると思い込んでいるのでは?」


 天精霊種ってのは、簡単に表現するとエルフ。

 どうしてエルフ種っていう名称にしなかったかって? そりゃあ作者の単なる気まぐれさ。

 ぽよよんさん達も横文字より漢字を並べたほうがなんか雰囲気出るしいいよって同意してくれたのもある。


「勢力差からして彼らは苦戦を強いられる。王都を手に入れて領土を拡大し、多種族に対抗しようという考えなのでは?」

「オルランテ付近での問題も多く報告されているものなあ」

「だが壁は破られん、心配しすぎじゃあないか?」


 おお、中々興味がそそられるお話をされてらっしゃる。

 ちょいと聞き耳を立ててみよう。


「そうだがな。我々も魔法面の強化くらいはしておくべきではないか?」

「まあ……壁を突破は考えられないが、壁の外での活動に支障をきたすのはよくないしな」

「最近は大魔法士に匹敵するほどの冒険者がギルドで多くの依頼をこなしたらしいな、その者に協力は求めてみては?」

「どうも顔を隠して正体が分からんのだ、声からして女らしいのだが」


 うん? 大魔法士に匹敵するほどの冒険者?

 それは初耳だ、作った記憶はないが……。

 俺が忘れてるだけか? 


「注文は何になさいます?」


 そうだ、注文しなくちゃ。

 しかしながらメイド服とこの国の服を融合させた服は実に素晴らしい。それを着こなす彼女もまた素晴らしいものだねえ、眼福眼福。


「特性スパイスステーキとパジルニ茸のクリームスープで」

「あらっ、うちの裏メニューをご存じなの?」

「美味いって噂を聞きまして」

「そのようなメニューがあったのですか! このアリア、初耳でございます!」


 裏メニューという言葉に、何人かがこちらを一瞥していた。

 こいつを知ってるのは常連と店長の知り合いくらいで一日に出せる量は少ない。皆が注文したところで飯時の今からじゃあ食べれるのは、あと二人くらいかな。


「アリアも裏メニューいただきます!」

「――なら私もその裏メニューいただこう」


 おっと別卓からもご注文だ。

 これはまた、思わぬ出会い。

 注文した主は丁度席にやってきた女性の兵士、いや団長――ジュヴィ・ニルバレス。

 若くして第四聖騎士団団長まで上り詰めた実力者、数年に一人の逸材で貴族出身の団長格ばかりの中で唯一の平民出身。

 だからこうして食事は街で摂るし国民となるべく接するようにして国民の気持ちを理解してくれる方だ、敬意の念をたっぷりと抱いちゃうよ。


「はい、ご注文ありがとうございますっ」

「俺もくれっ」

「俺もだ!」

「俺も! って、今日スリにやられたんだった……」


 怒涛の裏メニュー注文ラッシュときた。


「すみません、残り三人分だったものでこれで終わりです」

「ギリギリセーフですね悠斗様!」

「ああ、運がよかったね」


 なんて。

 食べれると確信しての事だったんですけどね。

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