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第二十七話.英雄の声

「デュピオリラ、あの子狙ってあの子っ」


 ラトタタの指差す方向にはアリア。

 状況的には茜さんを狙われるのがこちらとしては不利になるのだが、彼女はあくまでも俺のお気に入りの登場人物を殺すのが目的で茜さんは眼中にはないようだ。

 おかげで茜さんはそれなりにすばやく木陰木陰へと移動して距離を取る事ができていた。

 俺は刺青の力を使い――駆ける。

 それに加えてアリアの補助魔法によって速度上昇もついている、デュピオリアが攻撃するよりも早くアリアの前へと移動し、俺はその拳に拳をぶつけた。

 過去の英雄の中には世界獣との戦闘経験がある者もいる、巨体に対しての戦闘知識を活用させてもらっている。

 体重移動は巨体にとって大きな影響を及ぼす、そのため攻撃に入る直前であったデュピオリアの上体は大きく揺れて不安定となった。


「攻撃魔法を頼む!」

「お任せを! 爆炎魔法を放ちます!」


 魔方陣が展開される。

 狙うならば――


「頭を狙って!」

「はい!」


 頭部へと爆炎魔法が放たれる。

 アリアの魔力量ならばその威力も高くなる、不安定ながら防がなければならない縛炎――世界獣は防御するもそのまま体が反り返った。


「あわ、わわぁ~!」


 そのまま頭にしがみついていたら世界獣に潰されてしまう。

 ラトタタは一度世界獣の頭上から離れて近くの木へ移った。


「追撃してくれ、俺はラトタタを!」

「防御力上昇、継続治癒をかけておきます!」

「助かるよ!」


 片手で付与魔法を発動しながら空いた手で縛炎魔法を放ってやがる。

 特に無理をしている素振りもなくだ。

 世界獣と十分にやりあえている、それどころか圧してるかもしれない。


「予想外な強さねえ、ああ~ぐっちゃぐちゃにしたい」

「そんな野蛮な言葉を口にするなよ……」

「綺麗な言葉で飾ればいいとでも? 違うでしょう?」


 それもそうだけど。

 彼女は木の枝に器用に座ってアリア達の戦闘を見つめていた。

 帝国軍がどうなっているのかも興味はなさそうだ。


「はぁ……貴方は私の作り手ではあるけど、最高の作り手ではなかったのが残念よ。というかこの物語も駄作よね、クソみたいな作り手よねえ」

「うっ……そ、そう言われると傷つくなあ……」

「そんな作り手様が私達を作り、お気に入りの登場人物以外はどうでもいいと自分勝手なんだもの。嫌がらせしたくなっちゃうわぁ」

「話し合いは……」

「できると思う~?」

「いや、できないよね」


 彼女はふわりと地面へ着地する。

 アリアの元へ向かうのであろう、俺には視線もくれない。


「行かせないよ」

「あはぁ……貴方は物語の最後を飾らないといけないのよぉ?」

「結末は俺が決めるよ、ラトタタ」

「困った作り手様ねぇ。仕方ない、四肢をもぎ取ってあの女をぶち殺す様子を眺めさせてあげるわぁ!」


 ようやく俺に視線を向けたと思いきや早速ナイフを振りかざしてくる。

 彼女の攻撃自体、避けるのは容易いが――


「くっ、は、速い!」

「でしょう?」


 思ったよりも、戦闘能力が高くないか?

 こんなに動ける登場人物には設定してないんだが。

 しかも、持っているのはナイフだけではない。


「ほら、ほぉら!」


 鋸に槌と、拷問器具を意識させるものが懐から続々と出てはそれらが頬を掠める。

 ジャラリと鎖の音がするかと思いきや、彼女はいつの間にか投げていた鎖を近くの木を支点にして死角からの攻撃も放たれていた。

 先端には分銅――暗器も持っていたか。

 辛うじて防御したもののこれは……キツい。


「うぐぅ……!」

「あはぁ。そう、それそれ、その苦痛に歪める表情、いいわあ!」


 骨に響く、重い攻撃だ。

 アリアの付与魔法がなければ腕は確実に折れていたであろう。


「動けなくしてぇ、貴方の目の前でアリアの解体ショーをするの、きっと楽しいわよぉ」

「させない、それだけはさせないよ!」


 女性に拳を振るうのは少々抵抗があるものの、そんな事言っていられる状況ではない。

 彼女は懐から更に武器を出してくる。


「今度は針か!」

「色々取り揃えたのよぉ!」


 少し大きめのコートを着ていたのは気になったが、どうやら様々な武器が収められているようだ。

 刺青の力に頼るだけでは足元を掬われる、それに思った以上の彼女の身体能力は中々隙を与えてくれない。

 ストームを使うや木陰へと瞬時に移動して避け、死角から針を投げてくる。

 掴むのは容易い、だが長期戦にはしたくないな。

 ツェリヒさん達もどうなっているか分からないしアリアのほうも、対抗できているとはいえ心配だ。

 帝国軍が俺達のほうにやってきて茜さんを襲う可能性もある。

 奴らもデュピオリアがついているとあれば士気も上がっているはずだ、頼りになるロルス人の地の利を活かしてもらえれば……それでも、どう転がるやら。


「みんなが心配~?」


 そんな俺の思考を読み取っては、悪戯に針をいくつも飛ばしてくる。

 針を避けた先は――


「くっ!」


 鎖分銅が頬を掠めてくる。

 森の中での戦闘は彼女のほうが有利だ。

 ではどうする? 広い場所といえばアリアがいたあたり、行くわけにはいくまい。


「そこそこ、そのあたりよぉ」

「んなっ!?」


 次はどう仕掛けてくるかと思いきや、怒声と共に上から降ってきたのはギガルガントスの群れだった。

 俺と戦いつつ、ギガルガントスをけしかけて誘導していたのかこいつ……。

 しかもいくつか負傷してやがる、軽傷で済ませてギガルガントスを興奮状態にさせているな。

 群れの数は八体、それに加えてラトタタを相手にしなきゃならないとなれば……不安だねえこれ。

 すぐにストームを使い、先行してきた四体を吹き飛ばす。

 各個撃破に回りたいが――ラトタタが今の攻撃と同時に物陰へ隠れてしまった。

 攻撃を誘って身を隠す機会を窺っていたようだ。

 ギガルガントスはこっちの事情も汲んでくれるわけもなく、容赦なく飛び込んでくる。

 一体ずつ、ああ、向かってくる奴だけ倒しつつ距離を取る。


「あぶなっ!」


 少しでも無理に踏み込もうとすれば鎖分銅と針、ナイフも飛んでくる。

 どこからともなく笑い声が聞こえてくる。

 必死に避ける俺を見て楽しんでやがるなあいつ……。


「悪趣味だぞこの野郎……」


 ギガルガントスとの戦闘を嫌って後退すればアリアの元へと近づいてしまう、ラトタタの狙いの一つだろう。

 後退は最小限で、木々の間に入る。

 ギガルガントスがその間に入ってきたところを狙って一撃――後続は倒れたやつが邪魔ですぐ来れず、倒した魔物を障害物として利用する。

 刺青の力が教えてくれる、本当にこの力はすごい。


「かしこいですわあ! 刺青の者、流石ですねえ!」


 鎖分銅が飛んでくるが、その支点がどこかを見定めればラトタタの位置も分かる。

 迂回しつつ、ギガルガントスを再び五体目、六体目と処理していき彼女のいるであろう位置まで距離を詰めていった。

 ある程度近づいたと感じたら――放てばいい。


「ストーム!」

「うぎゃ!」

「当たったか!」


 声は聞こえた。

 手ごたえもあった。

 しかしまだ姿は捉えられない。

 他の技が必要だ、刺青の力なら俺の想像するその力は――ある。

 体力の消耗が激しいために何度も使えるってわけじゃない。

 空振りは出来ないから、慎重に立ち回らなくては。


「俺なら……」


 物語を作る上で、俺ならこの後のタオカカの展開はどう書く?

 彼女は攻撃を受け、ギガルガントスも残り少ない――彼女とて長期戦は望まないはずだ、世界獣も回収してアリアを襲わなくてはならない。

 俺と戦う素振りを見せつつも、本命のアリアを殺すために動く――攻撃を受けて焦りが生じている今ならば、そんな展開になるかも。

 ギガルガントスはもう残り少ない、ここは一気にストームで動けなくした。

 こいつらに時間を割いている間が、やはり彼女の望む機会。


「ラトタタ!」


 声のしたほうへと行ってみるも、地面にはいくつか武器が落ちている程度。

 焦りが見られるな。

 彼女の心境を書くなら、今は……アリアを殺しにいって俺を精神的に追い込もうといった魂胆で頭がいっぱいのはず。


「落ち着け、集中しろ」


 森の中は方向が曖昧になる、ラトタタによっておそらく誘導されて俺の後方はアリアのいた場所とは少しずれているだろう。

 その方向も考えて、ラトタタがどういった移動をするか。


『そうだ、静かに、ゆっくりと呼吸して耳を澄ませ』

「んん!? この声は! 刺青の力の中に宿る英雄のタウェリテ・ガルファントさん!?」

『私の名を知っているのか、坊主』


 姿は無い、刺青の力から直接伝わるものだ。

 ユーリも英雄の声を聞くまでには少々時間を要したものだが、こっちは刺青の力の使い方は大体分かってる。

 おそらくそのおかげでもう英雄の声が聞けるのだ。


「ええ、そりゃあもう! 今からやる大技のコツでも教えにやってきたって感じですか!?」

『……そうだが。物分りがよすぎてお前、少し怖いな。今までの継承者は大体戸惑うのに』

「まあまあ! じゃあ早速お願いします! 敵はラトタタっていう少女一人で仲間のもとに向かってるんですよね! 彼女に一閃を食らわせたいんですけど!」

『では最初に言った通りにしろ』

「はい! ご教授お願いします!」


 うわー、タウェリテさんの声は俺好み。

 女性の中でもこう、凛として少し男らしさもあるような口調がよく似合う、俺の想像した通りの声だ――って喜んでる場合じゃなくて。


『刺青の力を発動していれば敵と認識した者の位置も把握できるだろう、感じ取るのだ』

「感じ取ります!」

『どうだ、いるか?』


 右手を突き出して周囲に向けてみる。

 ――いた、走っているのが分かる。


「いました!」

『そこに丁度いいのがある、そのナイフを手に取れ。媒体として使う』

「取りました!」

『雑音は耳に入れるな、雑念は払え。ナイフの先端に拳から力を移動させる感覚を得るんだ』


 言われたとおりにやってみる。

 自分でもやり方は分かるのだが、説明を聞いていると意識しやすい。


『後は、薙ぐ。それだけよ、さあやりな』

「はい!」


 ラトタタの方向へ。

 刺青の力を集中させて――薙ぐ。

 敵を確実に捉え、その方向へ神速の如く閃撃を放つ、その名も閃神撃。


「――っぁあ!」


 彼女の声が聞こえた。

 閃神撃が当たったか。

 この力は強力だ、一応抑えはした。

 ああ、抑えはしたのだが……目の前には焼け焦げて抉れた大地によって道ができてしまっている。


「はぁ、はぁ……! 抑えたのにこれほど、疲労感が、出るかぁ……」

『自身の身体能力をもう少し鍛えるんだね』

「そう、しますよ、タウェリテさん」


 後方も、閃神撃を放った時の衝撃で吹き飛んでしまっている。

 軽く自然破壊をしてしまったな。


『すぐに使いこなして威力も調整できるとはね。面白い男だ、また何かあれば、私は出よう』

「またお話しましょう! ではでは!」


 英雄とのお話はなんか電話しているような感覚だな。

 一先ずタウェリテさんのおかげで閃神撃もうまくいった、ラトタタがどうなったのか確認するとしよう。

 しかしこんなナイフを媒体にして、力も抑えてこの威力……剣であればどれほどの威力を発揮していたのやら。


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