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第二十三話.防壁の外へ

「どう?」

「大丈夫そうだね」


 バテスト牢獄自体、やや中心地から離れているためにいくつか馬車が連なって移動しても人目につかず問題はない。

 特に目立たずに例の、スウが穴を開けた場所まで移動する事が出来た。

 今はツェリヒさんが見張りの兵士達をその場から移動させている最中だ。

 交代の兵士と見せかけた部下も連れて行っているのもあってか、うまく騙せそうだ。


「合図が出ました!」

「よし、じゃあ穴の中に入るとしよう」

「……おい」

「ん、どうしたのスウたん」


 ロルス国の人達の足取りは速やかにとはいかず、やはりどこか警戒心が彼らの行動を阻害させていた。

 本当に大丈夫なのかと、そんな不安が皆の顔に書いてある。


「下手な真似はするなよ」

「しないしない、そもそも君達の脱獄を手伝ってるんだから俺達も共犯だしね」

「ふん、そうかよ」


 馬車を一台、穴の前に停めて死角が作られた。

 馬車からは修繕道具が出され、周りからすれば壁の修繕のために停車しているようにしか見えないよう擬装する。

 穴は板と防衛魔法が施されていたが、問題はない。


「アリア、解除できるよね?」

「勿論でございます、施した魔法も大した魔法士によるものではないですね。これなら五秒で解けます」


 自信満々に、そして有言実行する。

 おそらく。

 おそらくだが、防衛魔法は力ある魔法士によるもののはず。触れた時に浮かび上がる魔方陣も円が何重に、模様も複雑なものであったのだから。

 しかしアリアにとっては、本来の物語以上に鍛えてしまった今の彼女にとっては解くのは容易い。

 防衛魔法を数秒で解除した彼女を見たツェリヒさんも、兵士達も開いた口が塞がらない様子だった。

 解除に長い時間を見てたのかな?


「いやあお見事……」

「ありがとうございます、あら? 皆様どうかされました?」


 自分の力がどれほどのものか、自覚がないアリア。


「これがあれね……“また俺やっちゃいました系”ね?」

「やっちゃいました系て……確かにそうかもしれないけど」


 ぽよよんさんもそれ系を知ってるって事は結構読んだりしたのかな?

 しかし本来は主人公がこうして力を発揮して強大さの自覚もなく周りから注目を浴びるはずなんだが、この物語……色々とおかしくなってるねえ。


「アリアちゃんってぇ……どこか知らない国の大魔法士だったりするかい?」

「いえ、出身はオルランテですが」

「すごい逸材がいたもんだねえ……」


 聖騎士団団長をも唸らせるその実力。

 アリアならばジュヴィさんの後を継いで団長になってもおかしくないかもね。

 彼もどう勧誘しようか考えてたりして。


「じゃあ入りましょー」

「ちょ、ちょっと王女様っ」


 ぽよよんさんが率先して穴へと入っていった。

 流石にこれにはツェリヒさん達は大慌てだ。


「どうかした?」

「危険ですから先ずは我々がですねえ……」

「――いや、あたし達が先だ」


 そんな彼らを押しのけて、スウが穴へと入っていった。

 ここは、そうだな……彼女達を先に行かせたほうがいいな。


「シュンゼルさん、貴方は?」

「……俺は一番最後だ」


 腕を組んで城壁へと凭れる。

 仲間達が全員無事に出られるのを見届けるつもりなのだろう。


「脱獄映画を体験してるみたい」

「分かる」


 今のところは特に問題もなく、シュンゼルさんも最後に穴を通過し今度は俺達の番となった。

 やはり一人目は誰も行きたがろうとしない。

 壁の外である上に、ロルス国民もこの先にいるとなれば。


「れつごー」

 そんな空気が漂う中、先駆けたのはぽよよんさん。


「王女様っ、先に我々が行きますんでお待ちを!」

 流石にツェリヒさんが止めに入る。


「えー……」

「悠斗君、見ててもらっていいかなあ?」

「あ、はい」


 やんちゃな子のお守りみたいだな。

 先に何人かが穴へと入り、安全を確認していた。

 俺達は一番最後のようだ。


「王女様入ってもよろしいですよー」

「よしきた」


 奥から流れてくる空気はオルランテとは明らかに違う。

 森の香りもそうだが……少しひんやりとした空気が混じっている。


「まるで別世界へ移動するかのような雰囲気ですね」

「そうだねえ……」

「別世界にはもう移動しちゃったんだけどね私達」

「そういや別にトラックや電車に轢かれたわけでもなく、神様が出てくるわけでもなかったなあ」

「君はそういう物語を書いたりは?」

「考えた事はあるけど文に起こした事はないね」


 大体ネタ被りしてお蔵入り。

 それか転移ものは、これ転移要素必要ないかもってなっての繰り返しで、そうした後に皆と出会って、この世界の物語を書くまでにいたるわけだ。


「ふうん、折角だからこの世界で作家でも目指したら?」

「それもいいかもねえ」

「悠斗様が作家ですか! 一度は読んでみたいです!」

「読んでみるどころか体験しちゃってるんだよね今」

「体験、ですか?」

「あ、いや、なんでもない」


 俺の考えた物語が現在進行形で、君は登場人物だ――なんて説明してもきっと頭の上にクエスチョンマークを浮かべられるだけだろう。

 作り手という言葉を用いてはいても、その意味は理解していないのだから。


「おおっ……」


 穴を通り抜けた先は、あたり一面緑が生い茂っており、遠くからは魔物の鳴き声と思われるものも聞こえてきた。

 俺の想像以上に木深い、陽光も微かな木漏れ日でしかなく、十分な陽光が得られないために空気がひんやりとしていた。

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