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第二十二話.彼らの行動、それに心情は――

「街の人達……みんな覚えてる?」

「いや……流石に。俺が作った覚えのない人もたくさんいるよ」

「その辺は、どうなってるのかしら」

「どうなってるんだろうね」


 俺達が作った世界なのに、分からない事はまだまだ多い。

 しかし現実世界と違ってこの世界は……自然が溢れていて、空気も美味しく肌を撫でる風も心地よく透き通る空も見ていて飽きない。

 居心地は、この世界のほうが、正直いい。

 彼女は――ぽよよんさんはどうなのだろう。

 王女専用の見るからに座り心地のよさそうな赤く豪華な椅子も用意されてまんざらでもない様子ではあるが。

 内心はどう思っているのか、聞いてみたいけど状況が状況なので後にしたほうがよさそうかも。

 バテスト牢獄塔から見える景色、視線を外して後方を見やるや兵士達が荷物を揃え、ロルス国民の人達は各々が多少困惑しがちながらも兵装を整えていた。

 外でも極秘裏に準備が進められている。

 王女の命令であれど脱獄幇助みたいなものだ、慎重に事を進めなければならない。

 ……のだけど。


「やる事、ないわね」

「うん」


 今は俺達がどうこうするってわけじゃない。

 だからこうして何気ない会話が繰り広げられているわけである。


「悠斗様、空気がピリついて入りたくないです~……」

「ここでじっとしてようか」


 アリアも兵士達と少し話をしていたようだがすぐさまに戻ってきた。

 両者一触即発――とまではいかずとも、やはり敵同士という意識が先行するために警戒心がぶつかり合っている。


「準備を済ませたら次はオルランテを出るのですよね? 城門から出るのです?」

「それだと気付かれる可能性があるから、スウが開けたあの穴から出る」

「おおっ、そちらからも出れますものね! これもまた悠斗様の深謀遠慮、感服でございます!」

「いやあ……物語の筋書きに沿ってるだけなんだけどね」


 逆に城門から出る手段を考えて出ていった場合はどうなるのか。

 あまり本来の筋書きと違う行動をするのは自分でも先が読めなくなるから避けるべきだが、自分の知らない展開が訪れるかもしれないというちょっとした好奇心もある。

 ……今はやらないけどね。


「警備は大丈夫?」

「大丈夫だと思う、外への警戒心は強くても内の警戒心は弱い。交代の時間だとか理由をつけておけば代わってくれるさ」

「そ――うわっぷ、な、何っ?」


 外から紙が飛んできてはぽよよんさんの顔へ被さった、漫画でたまに見る光景だが……まさか現実で拝める日が来るとは。

 この紙も勿論ただの紙ではないだろう、大体もう予想がつく。


「原稿?」

「……原稿ね」

「原稿ですか!」


 --------------------------------


 準備は着々と進められていた。

 それも順調に、周りにも悟られず。

 王女と刺青の者――悠斗は両国の蟠りを解消するために、そしてロルス国を救うために動き出してはいるが、言い方を変えれば脱獄幇助に国外逃亡の計画と同等。

 ツェリヒは未だに悩んでいた。

 このまま王女に加担して良いものかと、それもいつもとは明らかに様子が違う。

 もしかしたら悠斗は実は敵で、ロルス国民達を味方に付けて反乱を起こそうとしているのでは――?

 そんな疑惑までも脳裏を掠める。

 彼はひそかにその場を離れた。


 --------------------------------


「……ツェリヒは、どこに行ったのかしら?」

「そういえば、いないね」

「まずいわね……」

「待って、まだ続きがあるよ」


 国王の元へ向かった?

 そうなるとこれからの行動が大きく変わってくるが、先ずは続きを読もう。

 他の原稿よりも長く書かれてる上に、


「ぬわっぷ」

 もう一枚飛んできてはまたぽよよんさんの顔へと被さってきた。


 --------------------------------


 彼の向かった先は酒場だった。

 聖騎士団の鎧をつけたままでは目立ちすぎるために、裏手に回ってすばやく着替えて入り口へ。

 慣れた行動から常習的であるのが見受けられる。

「やはりこういう時は酒に限るねえ」

 その足取りは先ほどまでの重々しさはなく、軽快に店内へ。

 店内には数十人ほど、今日は休みの者や依頼を終えた冒険者など割りと昼間からでも賑わいを見せていた。

 カウンターへと座り、酒を一杯注文。

 氷の入ったグラスに酒が注がれていくのを眺めながら、小さく呟く。

「魔力石のおかげで氷も簡単に作れるようになってから酒が前より美味しくなったよねえ」

「そうですなあ、しかしこうやってこっそり飲む酒よりちゃんと仕事を終えてから飲んだほうがもっと美味しくなるんじゃないですかねえ旦那」

「ちゃんと仕事を終えたらまた飲むからいいのいいの。今は休憩中の一杯って事で」

「サボって飲んでるのそのうちバレますよ絶対」

「大丈夫さ、今日だって皆忙し~くしてるしね。ああ、そうそう……ジュヴィちゃんの話、聞いた?」

「聞きましたよ、残念でしたね……」

「魂送の儀場に堂々とここの酒を持ち出すわけにもいかないし、端の席にでも彼女のための酒を置いてくれよ。俺から、彼女に一杯」

 酒一杯分の硬貨と。

「後はこれ、俺がサボってる事に対する口止め料ねえ」

「おおっと、こりゃどうも」

 店主にも少しばかりのチップを送る。

 刺青の者が来てからというものの多くの出来事が起きすぎた。

 彼は信用できるのか、一夜にしてこの国の英雄ほどに称えられたができすぎやしないかと、考えすぎかもしれないがそんな小さな疑問も彼の中で生じて燻っていた。

 王女の様子もいつもと違い妙だった、しかも何故か悠斗と前々から仲が良かったかのような様子。

 困惑、正直……ツェリヒは今までにないほど困惑していた。

 まるで夢の中にでもいるかのような気分でもあり、このまま酒を飲み続けて夢の中へと飛び込むのも悪くはないかもしれないと、天井を仰いだ。

 このまま進めていいのかどうか。

 王女が悠斗に操られていたら……なんて思うものの、あの王女に限ってそれはないだろうと一度浮上した疑惑を取り下げた。

「岐路に立たされている感じだねえ……」

 店を出たら道は二つに分かれている。

 城に戻って報告するか。

 バテスト牢獄へ戻って彼らに協力するか。

「おかわりちょーだいな」

「はいよ、でもいいのかい? 仕事中だろう?」

「酒臭さ消すハーブも噛んで出るから大丈夫さあ」

 二杯目を飲み終えるまでには考えを固めておかなくてはならない。

 できればゆっくり考え、ゆっくり酒を味わいたい彼だが、あの場を離れたと皆に知られれば不安を与えかねない、これほどの重要な決断であるにもかかわらず、悠長にはしていられないのだ。

 しかしさほど悩む必要もないのかもしれない。

 オルランテの汚い部分を何度か見てきたツェリヒだ――もし国が正しき道へと歩むきっかけが今なのだとしたら、どうすべきか。

 ここから先は、むしろ好奇心も絡んできている。

 今この場で決めるのはどうするべきかより、どうしたいかなのだ。

「……さあて」

 酒を一気に喉へと流し込み、彼は店を出る。

 薄らと笑みを浮かべ、彼の足取りは――


 --------------------------------


 文章はそこで途絶えている。

 ツェリヒ視点で書かれていたな、おそらくこれも現実に起こっているのだろう。

 事実、彼の姿はこの場にない。

 今は酒を飲んでいるのかそれとも店を出たのか。

 どうであれ、彼の足取りの行方がこちらに向かっているのを願うしかない。


「何が書かれているのですか?」

「ツェリヒさんが上に報告するかそれとも俺達の元に戻ってくるか悩んでいるとこが書かれてたよ」

「報告されても悠斗様やぽよよん様は正しい事をしているので問題ないのでは?」

「国王はともかく、元老院はそうは思わないからなあ……」

「なるほど……ではここは一度、元老院を悠斗様のお力で掌握するのはどうでしょう」

「駄目駄目、波風立つような事は増やしたくないのっ」

「逆に面白そうだと思うし私は見てみたいわ」

「そんな事言わないでよぽよよんさん」


 物語に沿って話を進める気はあるのかね君は。

 しかしツェリヒさんが気になるな。


「それより外に行かない?」

「そうね、ここじゃあ居心地もちょっと悪いし」

「君は良さそうに見えたけどなあ」


 あんな椅子まで用意されてたんだし。

 外に出て街のほうへと視線を向ける。

 ツェリヒさんが来るならその方向からだ。


「戻ってこられるでしょうか……?」

「どうだろうね、戻ってこなかったら……」

「来なかったら?」

「急いでオルランテを出る事になるね」


 杞憂で終わればいいが。

 責任が重いものには関わりたくないツェリヒさんの性格からすれば国に報告してしまいそうな気もするけど……。

 すると物陰からこそこそと。

 ああ、こそこそと。

 ツェリヒさんがひょっこり現れては、何食わぬ顔でやってきた。


「あっ、来ましたね!」

「よかった、一安心だ」


 ただ……まるで周囲を今まで警戒していたかのような雰囲気さえ出している、戻ってきてくれたのは嬉しいのだけど脛あたりを蹴ってやりたくなってくるな。


「お、おやお三方、外に出てるとは。誰かに見られたら注目を浴びてしまいますぜ、ほら準備ができるまで中に入りましょう。外は俺に任せてねえ」

「ツェリヒ」

「はい、なんでしょう王女様」


 くるりとぽよよんさんはツェリヒさんのほうを向いて、


「お酒、飲んでたでしょ」

「え、い、いやあ? なんのことですかねえ?」


 とぼけたって俺達はもう原稿で知っているわけで。


「お酒臭さはその噛んでるもので消してるようだけど、襟に溢したお酒の跡がついてるわ」

「うぉっと!? いや、その、これはですねえっ」

「嘘よ」

「あらぁ……」


 苦笑いを浮かべて申し訳なさそうに顎を擦りながら、軽く縮こまる。

 怒られる準備はできているといったように。


「城に報告しに行ったのかと思ったけど、気のせいだったようね」

「そんな事したら皆さんのやろうとしてる事が台無しになるじゃないですかぁ。やだなあ、疑ってたんですかい?」

「正直、そうね」


 あの文章を読む限りでは半々ってとこだったが戻ってきてくれて何よりだ。

 彼なりの覚悟も、決めてきただろう。


「こりゃあ傷つきますなあ、なんて」

「ありがとう、戻ってきてくれて」

「お、王女様が、感謝の言葉を……?」

「貴方の見たい未来、私達が見せてあげるぜ」


 びしっと親指を立ててポーズを決めるぽよよんさん。

 台詞はいいのだけど、その、もう少し王女らしさをだな……。


「王女様、とてもかっこいいです!」

「いつもの王女様と違って調子が狂うけどこれもなんだかいいものだねえ~。ついていきましょう」


 他の兵士達にも、どこか魅了するものがあったのか見ていた者の心を鷲掴みにしたと思う。

 しかし不思議なもんだなあ。

 俺はてっきりツェリヒさんの事だから報告しに行くと思ったんだけど予想が外れちゃった。

 展開どころか、登場人物の行動や心情も変わっていくもんだから俺の予想は案外当てにならないかも。

 ……作者なのに。

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