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第十九話:由来はいかに

 扉が開かれ、外には既に馬車が待機しており、護衛の兵士達も整列していた。

 一々こんな荘厳さを築かなくともいいものを。

 彼女の小さな溜息につられて俺もするとこだったが何とか止められた。


「ユフィ!」


 いざ外へ一歩目――は、初っ端から呼び止められてすんなり外出とはいかず。

 一度踵を返し、声の主に対応するとした。


「あら、えっと、ち、父上?」


 ぽよよんさん、この世界ではあの人は父親だから頑張って慣れてくれ。

 ……といっても無理か、無理だよな。

 赤の他人が、それも国王がいきなり父親として接してきたら誰でも戸惑う。


「外出すると聞いての、体はもう大丈夫なのかい?」

「え、ええ……大丈夫です。これから、その――」


 ぽよよんさんは俺に一瞥をくれてきた。

 ああ、分かったよ。ここは俺も会話に入ったほうがいいね。


「バテスト牢獄に行ってロルス国の人達と少し話をしたいと思っておりまして、彼女にその話をしたらついていくと仰ったので同行する形となりました」

「そ、そう! そういう事なのです!」

「交流会には出ないのかい?」

「交流会は……き、気分ではないので遠慮します、ジュヴィの事もありますので。魂送の儀にも参加しようと思います」

「お、おお……そうかそうか」


 ツェリヒさんと同様に国王も王女ユフィとぽよよんさんとの違いに困惑しているな。


「……ユフィ」

「ど、どうしました……?」


 溢れ出るよそよそしさ。

 国王が一歩踏み込めばぽよよんさんは大げさに警戒して妙な構えをしてしまっていた。


「今日はどこか……大人しいね」

「そ、そうですか?」

「口調も、いつもと違って敬語だが」

「ち、父上へ敬意を込めたい気分でしたのでっ!」


 ぽよよんさん、落ち着いてくれ。

 返しが何を言いたいのかよく分からない感じになってしまってるよ。


「む、よう分からんが娘にそう言われるととても気分が良いな。しかし早速彼と共に行動するとは、二人とも気が合うのではないか?」

「そ、そうかもしれません」


 気が合うというか、前々から気の合う仲だったしね。

 国王も俺達が一緒に行動するのは一つの期待をしているために止めないであろう。

 ……一つの期待、ってのは。

 まあ所謂、刺青の者と王女が仲睦まじくなってもらって後に結婚という流れにこぎつけたいのだ。


「危険な事はするでないぞ?」

「はい、刺青の者もおりますし大丈夫です」

「聖騎士団団長の俺もいるのも忘れないでくれよなあ~」

「うむ、彼らがついておるのならば安心だ。昨日襲撃があったばかりだ、遠出や長時間の外出は控えるようにな」

「承知しております、では行ってきます父上」


 少しずつ慣れてきたのか、ぽよよんさんはどこか王女らしい気品を醸し出してきた。

 馬車へそそくさといった足取りで入っていったが。


「娘には交流会にも参加してもらいたかったのだが、致し方あるまい。悠斗よ、娘を頼むぞ」

「はい、任せてください」

「俺も命を賭けて娘さんをお守りいたしまさあ!」


 外野がちょっとうるさいな。

 王女の外出と聞いてやってきたようだが、俺と一緒に行動すると知るや国王は温かく見送ってくれたものの、その温かい視線の理由を知っているが故に少し気まずかった。

 ツェリヒ(外野)さんが馬に乗って先行し、馬車は緩やかな速度で後をついていく。


「先ずはジュヴィの魂送の儀場に行って頂戴」


 懐から出してきた扇子を、ぽよよんさんは慣れない手つきで広げようとするも、中々思うように開かず。

 王女らしさを出したいようだが、少々練習が必要のようだ。


「くっ……難しい!」

「ぽよよん様、開こうとせずとも持っているだけでも王女らしさが溢れ出ておりますよ!」

「そ、そう?」

「うんうん、持ってるだけで王女感が出てる」

「はぁ……でも、まだ慣れない。鏡を見ても、まだ自分の姿に驚くの」

「前とは格好は全然違う?」

「違うわ」


 どんな容姿だったのだろう。

 そもそも男子高校生を想像していたから今更ぽよよんさんが女性であると認識を改めた上で想像しても、うまく湧いてこない。


「背も低くなったし、すごく華奢になった。それと……む」

「む?」


 彼女の視線が落ちる。

 その先は、胸。


「……変わってない、あ、いえ、なんでもないわ」


 王女は……貧乳だ。

 変わってないというのは、つまりは……そういう事なんだね。


「ごめん」

「謝るな」

「あ、うん……」


 羨ましそうにアリアの胸を見ては、扇子で突き始めるぽよよんさん。


「はぅあっ!? ぽ、ぽよよん様!?」

「女性の登場人物の胸はは彼女くらいのサイズが普通――にしておくべきだったのよ」

「貧乳はステータスだと、誰かが言ってたじゃん?」

「あ?」

「ごめん」


 胸の話に関しては深くは話し合わないほうがよさそうだ。

 しかし物語に登場する王女は胸が小さいパターンもあるのでは? 的な話をしてみんなもありよりのあり! って賛成してたのになあ。


「あ、ぽよよんの名前の由来って――」

「死ぬ前に言い残す言葉は、慎重に選ぶべきよね」

「なんでもございません」

「悠斗様、ぽよよん様はどうして不機嫌に?」

「異世界転移しても胸のサイズは変わらないもんだから……」

「今の私は王女なのよね、処刑命令も出せるのよね?」

「職権乱用だぞう」


 いくら王女が悪役令嬢キャラだからって自分から進んでその道を歩まないで欲しいな。

 不敵な笑みが実に恐ろしい。


「殿下、行き先はバテスト牢獄でよろしいでしょうか?」


 丁度彼女の後ろの小窓から御者が声をかけるや、ぽよよんさんはびくんっと軽く驚いていた。


「そ、その前に、魂送の儀場へっ」

「畏まりました」


 外へまともに出てきたのもつい先ほどの話。

 となれば他人との接触はまだ抵抗が大いにあるようで、今の些細なやり取りでも(小さな)胸を撫で下ろしていた。

 魂送の儀には俺達は既に参加したので馬車の中から彼女を観察するとして。

 儀場に到着するや兵士達が左右に整列してその間を歩くぽよよんさんは非常に居心地が悪そうだった。

 何度か俺達に視線を送っていた、一緒に来て欲しそうな目で。


「ついていってもよかったのでは?」

「ここは彼女に慣れさせないとな」

「大丈夫でしょうかぽよよん様……」


 別に罠でも設置されているわけではないのだが、恐る恐るの足取り。

 だがその道中、引き返してきた。


「どうしたんだろう?」

「何か探してますね」

「……ああ! 魂送の儀用の花を忘れたのか」

「そのようですね」


 顔を赤らめながら仕切りなおして再びジュヴィさんの眠る棺へと歩き出すぽよよんさん。

 雛の巣立ちを見守っている気分だ。

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