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第十四話:避けられぬ展開

 土煙が上がり、奥から感じるのは多数の気配。


「本当に、ロルス国が防壁を突破して襲撃してくるようですね……」

「未然に防げなかったのは残念だね」


 崩れだした城壁の一部は人ほどの大きさで穴が開き始めている、すぐに塞ぐ事など不可能だ。

 ならば、待ち構えるしかない。


「刺青の力で何とかできればいいけど」

「私もお力添えいたします!」

「ありがとう、心強いよ」


 本当に、心強い。

 本来の彼女であれば頼りなかったかもしれないが、今や大魔導士級となっているのだから。


「来ます!」 


 とうとうぽっかりと穴が開いてしまい、奥はまるで洞のように、吸い込まれそうなくらいの闇。

 砂を踏む足音が聞こえてくる。

 数は少ない――というのも最初にやってくるのは少数、本隊はまだ待機中だ。

 足音はすぐ近く。

 月夜に照らされて、暗闇から徐々にその姿が露わになった。

 先頭を歩くは深々とフードを被った少女。


「……あ? 話が違ぇんだけど」


 彼女は苛立ち混じりで呟く。

 この声は、ああ、やはりこの声は……間違いない。

 ロルス人特有の褐色の肌、人によって髪の色は多少の変化はあるが彼女の場合は白髪。

 八重歯の似合う少女――スウだ。


「なぁんで待ち伏せされてるわけ? まさかあいつ裏切った? それともうちらとの繋がりがバレちまって拷問でもされたか? あーどうだっていいか、ああ、いいな」


 ……ん? あいつ?

 誰の事だ?


「作戦が漏れて待ち伏せされていたにしては、二人しかいないようだが」

「それも弱そうな奴だなあ」

「こいつらをすぐに黙らせれば作戦に支障はなかろう」

「そうだな、ああ、そうしよう」


 後ろ腰からナイフを二つ取り、彼女は構えるというより崩れた姿勢という独特な構えをした。

 しかし油断なかれ、彼女の柔らかい体によってムチのようにしなる動きをしてナイフを振るうのだ。


「初めまして、あの、俺は最上下悠斗って言います、彼女はアリアって――」

「聞いてねえよボケナスがぁ」

「ご、ごめんっ……」

「まあ! なんて失礼な方なんでしょう! 悠斗様への無礼は許しませんよ!」


 敵の中でもお気に入りの部類に入る子と遭遇できて浮ついていた自分がいる。

 こらこら俺よ、しっかりしろ。

 相手はたとえお気に入りであっても敵は敵だ。


「ふん、許さないってんなら何してくれるってんだ?」


 何人かが配置についていた。

 戦闘体勢に入っている――同時に、飛んでくる一本のナイフ。


「ちっ、よく取ったな」


 ……刺青の力って改めてすごいと思った。

 だって、飛んできてるナイフが遅く見えたんだもの。何かしてくるような、そんな予感すらこの力は教えてくれるのは便利だ。


「ふー……油断ならないね」

「あ、ありがとうございます悠斗様」


 もし止めてなかったら、今頃アリアの体に突き刺さっていたかもしれない。

 ここから先は命の取り合い、少しでも油断したら最後だ。


「防壁魔法、強化魔法、周辺結界魔法を展開します!」

「なっ……上位魔法も織り交ぜて同時発動だと……?」

「スウ、こいつら相当な手練だぞ、警戒しろ」

「おう、分かってる!」


 彼女は地面へ両手をつくや、俺達の周囲は揺れ始めた。

 彼女の得意とする魔法がこれだ。

 物体干渉魔法、触れたものを動かすという説明では単純な魔法のように思えるが、彼女の場合は高い魔力によって広範囲の干渉も可能であり、触れたものを振動させる事も可能だ。

 つまりは、地震を起こせたりする、今俺達がこうして立つのが難しいほどに。

 加えて、物体を弾く事もできる――次なる魔法は足元の爆散。


「アリア! 地面に防壁魔法!」

「はい!」


 即座に対応し、地面の爆散よりも早く防壁が張られた。

 流石だ、瞬時にして対応できる上に魔法の発動速度は素晴らしい。


「まだこっちの攻撃は終わってねえぜ!」


 続く攻撃はおそらくナイフだな。

 足元の攻撃を意識させてたのならば、次は視界の外――いくつものナイフを上に投げて物体干渉で地面へ急降下させるつもりだ。


「次は上に防壁、俺に強化で!」

「おまかせを!」

「こ、こいつら……あたしの攻撃を読んでる!?」


 読んでるというより知ってる。

 予想通りナイフは急降下、防壁魔法に阻まれる。

 爆散によって土煙が多少舞い上がった周辺、闇夜に溶け込んでいる人影も大体位置は把握している。

 左右の男達は……名前は、分からないな、つまりモブに違いない。

 戦闘能力も然程無いだろう。


「うりゃ!」


 力を加減して一人試しに殴ってみる。

 男は防御するも、刺青の力を受けきれずに吹き飛ばされた。

 ……予想以上に。


「わぁー! ごめんなさい!」

「やりやがったなぁ!」

「わわっ!」


 地面に触れて爆散、土煙を上げて視界を遮り、となれば次はナイフ攻撃。

 彼女の行動パターンは読めている分、非常に戦いやすい。


「くそっ! 気持ち悪いくらいに読みやがってぇ!」

「君の戦い方は君以上に知ってるからね」

「気持ち悪い!」

「き、傷つくなぁ……」


 穴からは増援もやってきた。

 隠密作戦は失敗に終わったものの、防壁の穴は開いている――ならば侵入して邪魔者を排除と決めたようだ。


「おいお前ら、やっちまえ!」


 また攻撃を読まれると思ったのか、スウは他の人達に攻撃を譲り、後方へと下がった。

 なるほど、数で圧していこうっていうわけね。

 こういう時は……そうだ、刺青の力はもっと様々な戦い方ができる。

 うまく使っていかなくちゃ。

 数々の英雄の持つ力と技術が宿っているんだから、使わなきゃ損だね。

 広範囲攻撃……主人公は後にコツを掴んで使えるんだったよな。


「悠斗様!」

「おおっと……助かったよ」


 彼らは俺の攻撃を待ってやくれないよなそりゃあ。

 威力は低いが炎系魔法を使えるのが数人ってとこか、アリアの防壁魔法を突破できるほどの魔法士はいるのやら。


「思考を巡らせていたようですが、何かなさるおつもりで?」

「少し試したい事があってね」


 実戦で試すのも何だが。


「では悠斗様をお守りいたします! その間に!」

「おい、こいつらにありったけの魔法をぶちこんでやれ!」


 もはや隠密行動も諦めたようだ。

 周りも割り切って頷き、一斉に魔法を詠唱する。

 奥からの援軍もやってきたな、ここでいきなり総攻撃か?


「えーっと……右手と両足に力が流れるのを意識して……」

「悠斗様、流石にこの人数だと私も防げる自信がございませんっ」

「ま、待っててねっ。今、その、アレやるから!」

「アレとやらに期待してよろしいのでしょうか!?」

「大いに期待してくれ!」


 人数は二十、三十くらいか。

 ロルス国の精鋭部隊、その先頭を切る隠密部隊とあれば強者揃いであろう。

 逆にこの部隊を無力化できればロルス国にとっての大打撃に繋がり、ジュヴィさんが死ぬ展開も無くなるであろう。

 勝負どころだ。

 彼ら一人一人にも集中して、と。


「放て!」

「ゆ、悠斗様!」

「よっこらしょぉぉぉぉお!」


 掛け声に関してはどうか気にしないでほしい。

 地面を思い切り叩く、刺青の力も呼応し腕から地面へと伝わる力の流れ。

 それらは衝撃波の如く波状に拡散され、無数の光の矢となり悉くを吹き飛ばした。

 敵と認識した者のみへの同時攻撃、これもかつての英雄が使っていた技の一つ――ストーム。

 ……って、俺の考えた設定なだけなんだけどね。


「ふわー! すごいです悠斗様! 敵が、みんな吹っ飛んじゃいましたよ!」

「まだ立てそうな奴は一人、いるかな」


 スウくらいであろう。

 咄嗟に物体干渉を地面に放って光の矢を逸らしたようだが、あれは衝撃波だけでも相当なものだ。

 立てるのがやっとといったとこであろう。


「スウ!」


 彼は今回の襲撃で総指揮を執っている人だ。

 精鋭部隊が無力化されたこの状態を見て、どう判断するか。


「シュンゼル……わりぃ、失敗だ」


 俺達の戦闘を聞きつけて兵士も集まってきている、動けない者全員を回収して逃げるのは不可能であろう。

 ならば――


「素直に降伏してください、できれば抵抗もせずに」

「ロルス国精鋭部隊を、まさか二人で……?」

「主に悠斗様のお力でございます! 刺青の者である悠斗様の!」


 ここぞとばかりに自慢げにアリアは声を上げた。


「刺青の者……だと?」


 彼に続き、武装した兵士達がやってくる。

 兵士達は精鋭部隊が皆倒れている光景に戸惑いを見せるもシュンゼルさんは視線を俺から外さず。

 腰に下げている剣をゆっくりと抜き、俺の腕へと視線を移した。


「本当に、いたのか……?」

「彼こそ生きる伝説でございます、さあ、降伏してください!」


 息巻くアリアに鼻で笑う程度の反応を見せ、ゆっくりと距離を詰めてくる。

 漂う威圧感、アリアも続く言葉は一旦喉の奥へと引っ込んだようで、唾を飲んで俺の後ろへと隠れてしまった。

 どこか小者感があるぞアリア。


「襲撃は失敗、か。しかし、ただで退くわけにはいかぬ」

「どうしても、やるつもりですか?」

「貴様を倒せれば、少なくとも失敗であれど成果は得られる」


 ロルス国の中でも一、二を争う武人のシュンゼルさん。

 強者の雰囲気を纏うその鍛えられた体躯、一目見て分かる強さっていうのはこういうものなんだねえ。


「あの、よかったら話し合いを、しませんか?」

「それは別の機会にしようじゃないか」


 後ろの兵士に耳打ちで指示をしていた。

 こんな時に話す内容は「私が戦っている間に控えている部隊の撤退をしろ」ってとこかな?

 彼自身が囮になるつもりだ。


「アリア、下がってて」

「援護は必要ですか?」

「必要ないよ」


 彼は兵士達が下がったのを確認し、大きく一歩、踏み込んだ。

 空を切り込む勢い、刺青の力が無ければ見切れずに首と胴体がおさらばしていただろう。

 今だと避けるのは容易い、一閃をかわして手首に一撃。

 剣を持つ両手が不安定になったのを見て、そのまま薙ぐ。


「むう……」


 剣は落ち、次の攻撃に転ずる姿勢をすぐに彼へ見せた。

 下手に動けばどうなるか、という警告も兼ねて。


「一対一では到底敵わぬか、見た目によらぬものだな」

「どうかこのまま大人しくしてくれるとありがたいんですけど」

「悠斗様、よろしいのですか? あの穴の奥には部隊がいると思われますが」

「襲撃の阻止はできた、それでいいじゃない」

「……悠斗様がよろしいのであれば、私もそれに従いましょう」


 もっと成果を上げてほしそうなようだったが、ここは欲張らなくていいだろう。

 シュンゼルさんも潔く座り込み、好きにしろと言わんばかりに腕を組んでいた。

 暫くしてガベルさん率いる聖騎士団が到着した。


「君の言った通りとなったな。本当に防壁を突破してくるとは……」

「しかしながら敵は悠斗様が全て倒しましたのでご安心を!」

「アリアの援護あってこそだよ」

「お褒めの言葉、心から嬉しゅうございますぅ!」


 取り囲まれるロルス国の襲撃者達。

 シュンゼルさんが皆を制してしたために、暴れる様子もなく彼らは大人しく拘束されていった。

 ただ一人を除いて。


「いだだだっ! か、噛まないで!」

「うぎぎぎぎぎぎ!」


 スウは連行されるその途中、すれ違い際に俺の腕へと噛み付いてきた。

 忘れていた、ただは転ばないような性質だこの子は。


「やめろスウ」

「こいつは、許せん! 邪魔しやがって! このっ、このっ!」

「的確な脛蹴りやめて!」

「無礼ですよ、おやめなさい!」

「うるせえ腰ぎんちゃく!」


 今度はアリアと揉み合う始末。

 なんとか兵士の力も借りて剥ぎ取るように離せはしたがいやはや、自分の考えた登場人物に邪険にされるのはそこそこショックだ。

 どうにか仲良くしていきたいけど流石に敵は無理か。


「私が首謀者だ、この者達は私に従ったまで」

「部下をかばうか、嫌いではないぞ貴様のような者は。話は後にゆっくり聞かせてもらおうか」


 彼らを見送った後に俺達は防壁の穴へと向かった。


「綺麗に開けられたものだな、しかしこれだけの厚さを開けるには相当な時間を要しただろうが、何故警備は気付かなかったんだ……?」

「多分昼間からずっとこのあたりは誰もいなかったんですよ」

「誰もいなかった? そんな馬鹿な。食事会の途中で私は兵士を何人か送って防壁の警護を強化したんだが……」

「誰かが意図的にそういう状況を作り出したのかも」

「……であれば、内通者がいる可能性もある、か」


 内通者は本来いないはずなんだがなあ。

 話が変わっている部分に関しては作者の俺ですら分からない。


「奴らからじっくり聞き出すとしよう、ジュヴィ殺害の件も含めてな」


「……え? 今、なんて?」


 何か。

 妙な言葉を聞いた、ような。


「その……だな、実は君達の戦闘に気付いて駆けつける数分前に……彼女の遺体を発見した」


 ……馬鹿な。

 ジュヴィさんはこの襲撃によって亡くなるはずだ。

 襲撃は失敗に終わった、彼女が死ぬ展開は訪れないのが確定したのに、何故……?

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