9:仮屋の完成
現在の仮屋進行具合は、木材ブロックの床と四隅の柱、そして木材ブロックの天井までが完成している。
そしてここで一つの疑問が出てきた。木枠ブロックの回収だ。と言ってもここまでの経験で、どうすればいいか大体の想像はできている。
木枠ブロックを見つめる。ゲームではキーボタンで回収ができたが、勿論キーボードは無い。
木枠ブロックを見つめているが何も起きない。今度は右手で触れながら回収するイメージをした。
……だが何も起きない。次は左手だ。
――突然目の前の木枠ブロックが消えた。すぐさまインベントリを確認。そしてインベントリに木枠ブロックが収納されていることを確認できた。やはり回収は左手でできるようだ。
右手は破壊、左手は再生と強化と回収。把握した。
天井に登るために積み重ねた木枠ブロックの上に乗って、左で回収しながら下に降りていく。
「木の枠がどんどん消えていくにゃ……ソウセイはいったい何をしてるにゃ?」
「私にも分からん……」
後は壁とドアを設置すれば家としてとりあえずは使えるだろう。端側の木材ブロックに木枠ブロックを下の列から順に天井まで重ねていき、それを強化していく。これで一面の壁が完成した。
「す、すごいにゃ、もう壁ができてるにゃ……」
「……」
他の二面も同じように壁を作るが、窓を設置する場所として、真ん中部分に横に二マスほど適当に空間を開けておく。最後は扉を設置する面だ。
この面は縦に二マスだけブロックを置かず、その空いた空間にドアを設置していくことになる。位置は中央辺りでいいだろう。
ドアは木材十個でクラフト可能なのでパパッとクラフトしてしまう。ドアを作るついでに木の窓もクラフトしてしまおう。
この窓の素材は木材四個だけなのだが、なんとガラスがついているのだ。ゲームをプレイしている時にも不思議に思っていたが、まぁゲームだからとそこまで深く気にはしていなかった。
などと物思いにふけっている間に、木のドアと木の窓のクラフトが終わった。
それぞれ用意していた空間に設置していき、ドアの開閉を確かめ問題ないことを確認。これで仮屋の完成だ。
外に出て作った仮屋を見てみる。
何の装飾もデザイン性もないただの四角い建物がそこにはあった。クラフトゲームでは見た目が豆腐に似ていることから豆腐ハウスと呼ばれることが多い。
見事な豆腐ハウスだが、まぁ急場しのぎなのでこんなものだろう。
縦横八メートル、高さ五メートルの豆腐ハウス。
時間は……12:02を表示している。お昼時だ。太陽が天に登り良い天気だが、吹く風がやや肌寒い。
「できたのか……?」
ミリアムとリコが隣までやってきた。
「そうですね、見た目はあれですが、これで雨風を凌げる仮屋の完成です。中に入ってみましょう」
俺が先頭に立ち、二人を豆腐ハウスへと案内する。
まず木材で作った階段ブロックを登り、同じく木材で作った木のドアを開ける。
「ソウセイはこれほど精巧なドアを作れるのか」
ドアには元からちょっとした模様がついていた。今まで気にしたことがなかったが、こうして現実で見てみるとなかなか凝った作りになっていることが分かった。グラフィック担当の人は良い仕事をしている。
「クラフトシステムに感謝ですね。私自身はこういうの作れませんので」
そして中に入る。外の風が遮断され居心地が良い。そういえば密閉されたら空気とかどうなるんだ? 窒息するのだろうか……。ゲームではしなかったが果たして。
「あっという間にここまでの家を作ってしまうとはな……」
「見た目はアレですけど、ここなら比較的安全に暮らせると思います」
「すごいにゃー……」
風呂やトイレもクラフトすることはできるのだが、ゲームではただのオブジェクトで使用することはできなかった。ここでもそうなのか早めに確認したい。
他にも椅子やテーブル、ベッドや各種家具もクラフト可能なので、順次設置していこう。ということでさっそく木材を消費して木の椅子と木のテーブルをクラフトする。
「そういえば集落の人数はどれくらいなんですか?」
「あ、あぁ、大人子供合わせて十五人だ」
細かく集落の詳細を教えてもらった結果、とりあえず豆腐ハウスを三軒、集合豆腐ハウスを一件建てれば良さそうだ。
が、その前に体の汚れをどうにかしないといけないか。匂いもある。
確か風呂とは別に温泉ユニットがクラフトできるはずだが……あぁ、水バケツが必要になるな。鉄か粘土でバケツを作って水を入れた物が必要になるのだが、粘土はあるのだろうか。
「あの、粘土ってありますか?」
「粘土か、リコ確かあったはずだよな?」
「あ、あるにゃ!」
リコが凄い勢いで部屋から出ていった。粘土があるなら助かる。
「今度は何を作るつもりだ?」
「温泉ユニットです」
「おんせんゆにっと?」
ミリアムが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「お湯が湧き出る装置です。こっちも必要な素材を拾っていきます」
外に出て石を集める作業を始める。必要な素材は石二十個、キャンプファイヤー一個、水バケツ一個だ。
キャンプファイヤーには石を六個使うので、石は合計二十六個必要になる。既にいくつか持っているが、ストックもしたいのでさっさと集めてしまおう。
「お湯の出る装置か……一体何に使う気だ?」
ミリアムは一人仮屋の中で考えていた。
◆ ◆ ◆
よし、石はそこら辺に転がっている物で十分なので、五十個ほどストックできた。
「ソーーセーー!」
リコが駆けながら俺の名を呼んでいる。その後ろには他の猫人族達もいた。
「みんなにもお願いして粘土をいっぱい持ってきたにゃ!」
大人や子供達が布に粘土を載せて運んできてくれたようだ。非常にありがたい。
「どうぞこれを使ってください……」
「つかってー!」
痩せこけた猫人族の女性と女の子が布に包んだ粘土を渡してくれる。
「ありがとうございます。必ず生活の役に立つ物をクラフトします」
期待していてください、とは言えない。期待させてガッカリさせてしまうのは辛い。
受け取った粘土をインベントリに収納していくと少しざわついた。突然粘土が消えるのは初めて見る人には驚く光景だろう。さて、持ってきてもらった粘土は何個ストックできるのか。
……全ての粘土の収納が終わり、六十個の粘土のストックができた。さっそく粘土六個消費してバケツをクラフトする。
「リコさん、近くに水場はありますか?」
そういえば肝心の水場はあるのだろうか。ここに集落を作ったということは、少なくとも水源はあるはず、だと思いたい。
「こっちにゃ」
リコに腕を掴まれて移動する。
「どこへ行くんだ?」
ミリアムが仮屋から出てきた。
「水を汲みに行ってきます」
「分かった、私もついていこう」
こうして三人で水場まで行くことになった。
「水場までどれくらいの距離があるんですか?」
「少し離れてるけどすぐ着くにゃ!」
時間は12:35を表示している。なるべく近くにあればいいが……。やや億劫な気持ちになりながらも俺は二人について行った。




