8:家の基礎作り
1日目10:21。
俺は周囲の枯れ木を切って木材を数千個以上ストックしていた。同時に建築の基礎となる木枠ブロックのクラフトも並行していたので、木枠ブロックも三百個ほどストックされている。
スキルを取得していけば木枠ブロックから作るのではなく、既に壁として設置できる建材のクラフトができるのだが、まだそのアイテムをクラフトするためのスキルポイントが足りない。
スキルポイントはレベルアップと最初のチュートリアルで獲られるのだが、まだチュートリアルもクリアしておらず、レベルも上がっていないのでポイントはゼロのままだ。先にチュートリアルを済ませておきたかったが、後ろでミリアムとリコが建築の様子を見たいと見学しているので、とりあえず豆腐を作っていこう。
「どうやって家ができるのか楽しみだな」
「ここにある木をあんな石斧で倒せるなんて、ソウセイは凄いにゃ」
ミリアムとリコは丸太に座り興味津々にこっちを見ている。
これから失望させてしまうと思うと非常に申し訳ない気持ちになるが、ハードルは低くしていきたい。
「それじゃあこれから仮屋を作っていきますね」
木枠ブロックをツールベルトにセットして仮屋の建築を始めた。
まず床に横八マス、奥行き八マスで設置していく。システム補正なのか、ズレることなく綺麗に一直線に置けた。
「あっという間にあんな数の木の枠を設置したにゃ……」
「一体どこからあの数の木枠を出しているんだ……?」
インベントリのシステムは説明しても難しいだろう。俺自身もどこまでこのインベントリが使えるのかは分かっていない。
石斧を左手に持ち変えて木枠ブロックを強化していく。石斧の場合、四回叩けば強化が完了する。ハンマーがあれば二回で済むので、早めにクラフトしておきたいところさんだ。
「えっ、いきなり木の板がっ、木枠にっ、板がっ!」
「落ち着けリコ、あれはああいうものなのだ」
「もしかしてソウセイは魔法使いなのかにゃ?」
石斧で木枠を四回叩くだけで木の板が張り付けられていく。確かに魔法みたいに見えるかもしれないな……。
一面だけではなく六面全体全てに一瞬で木の板が張り付けられてるのだが、消費してる資材は木材四個だけだ。ゲームの仕様ということで細かいことは気にしないでおこう。
「よし……」
そうして縦横八マスの合計六十四マス分の木枠ブロックの強化が終わった。
時間は11:15を表示している。後ろでは二人がまだ見学していたが――
「あっという間に木の床ができたのか……」
「す、凄いにゃ……」
二人とも目を見開いて驚いていた。確かに一メートル四方のブロックが八マス分、八メートル綺麗に設置されてる様子はちょっとした見物である。
流石に高さも一メートルあるので、これを毎回乗り降りするのはしんどい。木材で階段ブロックをクラフトして中央に設置する。
「二人とも上に上がってみますか?」
「いいのか?」
「はい、少しでも楽しんでもらえればこちらも作り甲斐がありますから」
「よしリコ、行こう」
こうして俺とミリアム、リコの三人は強化した木材ブロックに上がった。
リコが膝を付いて木材ブロックの床を確認している。
「これ、壊れたりしないのかにゃ?」
「良い質問です。勿論壊れます」
モンスターの攻撃とかを受ければ耐久が減って壊れてしまう。だから基本的に拠点周りにはモンスターを寄せ付けないトラップが必要になる。多少攻撃されても石斧と木材で簡単に修理できるので問題ないが、群れで襲われてしまったら修理も間に合わずあっという間に破壊されてしまうので、早めに対策はしておきたい。
「攻撃とか受ければ耐久が減って壊れてしまいますが、普通に使っている分には老朽化もしないと思うので、大丈夫だと思います」
ゲームの仕様では老朽化はなかったが、この現実世界でもないとは言い切れない。
「朽ちることがない建造物か……」
ミリアムも木材ブロックの床に手で触れて感触を確かめていた。
「まだそうとは決まった訳じゃないないので、過信はできませんけどね」
今一度考える。俺の中の基準は基本的にワールドクラフトのゲームからきている。木枠や強化して作った木材ブロック、石斧で簡単に伐採できる木のことを考えても、ゲームベースで考えても問題ないと思う。だがそれ以外の、この世界独自のシステムまでもゲーム基準で考えてしまうのは間違いだろう。あくまで俺自身がクラフトしたアイテムのみ、ゲームベースで考えていく。
……が、今は現実。パソコンでプレイしているゲームではない。全てをゲームベースで考えてしまうのも危険かもしれない。くどいようだが過信せず慎重に取り組んでいこう。
「……ソウセイ?」
「あ、どうしましたか?」
「いや、難しい顔をしていたからな、何か問題でもあったのか?」
「いえ、自分のこの能力とこの世界の法則について考えていました」
「ほうそく?」
リコが首を傾げている。
「私の能力は別世界なら絶対的なモノでしたが、この世界においてそれがどこまで通用するのか未知数なので、慎重に取り組んでいくべきだなと」
「なるほど。ソウセイは慎重派なのだな」
「この世界はゲームじゃないですからね、取り返しのつかないことになってしまったら大変ですから」
「げえむ?」
リコの首が更に傾く。
「そうか。よく分からない部分もあるが、私達もあまり過信しすぎないほうが良いということか」
「期待に応えられるように最善は尽していくので、悲観はしないでください。私もさせないようにしますから」
ここまできてやっぱりできませんでしたは格好がつかない。ミリアムやリコ、ここの住人達を助けるためにもやれることは全てやっていく。
「それじゃあ続きの作業をしますので、向こうで待っていてください」
「ああ、期待して待っているよ。行くぞリコ」
「あ、待ってにゃ!」
二人が階段を使って降りて行った。
よし、ここからが建築の本番と言っても差し支えないだろう。残りは壁と天井の建築だ。
まずは四隅の角に柱を建てていく。建てると言っても使うのは木枠ブロックで、今床に設置されているのと同じ物だ。これを積み重ねていく。
角に立ち一呼吸してからジャンプする。頂点まで飛んだ辺りで下に木枠ブロックを設置。これを繰り返す。
そして高さ四マス分のブロックを設置し終わった。高い。四メートルは伊達じゃないな……。
ゲームではこの高さならまだ落下しても大丈夫なのだが、果たして無事に降りられるのだろうか。
男は度胸。やってみなきゃ分からない。いざゆかん!
「よっ!」
意を決して飛び降りた。
「っと……」
結果、問題なく着地できた。足首を挫くこともなく痛みも無い。
……もしかしなくても、この体もゲーム仕様に変わってしまっているのかもしれない。流石に四メートルの高さから降りて足に何の違和感もないのはおかしい。となると視界に見えるスタミナゲージよろしく、体が完全にゲーム仕様になってしまっていると考えるのが自然だろう。もしかしたらこの世界の重力の問題の可能性もあるが。
「ソウセイ、大丈夫か?」
ミリアムが心配してくれているのか、声をかけてくれた。
「はい、不思議なことに問題ありません。大丈夫です」
「そうか、無茶はするなよ」
「はい」
高さ四マスから降りても大丈夫と分かれば作業も捗る。残りの角にも柱を設置していく。
問題なく柱の設置が終わったので次は柱と柱を繋げるブロックを設置していく。
ゲームでも重力の概念はしっかりあるので、支えが無くなればブロックは崩落を始める。そうならないようにしっかり支柱を用意したり、梁を設置して強度を高めていく必要がある。
今回は木材ブロックで中の距離も六マス分ほどなので、積載や荷重の問題は大丈夫だろう。天井や屋根に何か重い物を置く場合は話は別だが。
まずは柱の四マス目に一個木枠ブロックを設置する。すると木枠ブロックは落ちることなく柱にくっついた。次はそのくっついた木枠ブロックに木枠ブロックを繋げていく。
問題なく繋がる。そしてこれを繰り返し反対側の柱まで繋げた。
六メートル支柱無しで木枠ブロックが空中で連結されている。問題はないとは言え、ちょっと不安になる。ブロックも強化していけば強度が上がっていくが、その分重量も上がっていくので強化する場合はよく考えてから行わないと、簡単に崩落してしまうので注意が必要だ。鉄ブロックまで強化できれば強度も上がるのだが。
そうこうして四隅の柱を木枠ブロックで繋げ終わった。次は天井部分を設置していく。
今繋げた上の木枠に端から順番に、隙間を埋めていくように設置していくだけで天井は設置が終わった。後はこれを強化していくだけだ。一旦外に出て木枠を積み重ね、屋根に登った。
「なんであんなスカスカにゃのに足を踏み外さないのかにゃ?」
「私にも何の足場の無い場所に立っているようにも見えるのだが……」
屋根に登った俺は床の時と同じように木枠ブロックを強化していく。とんとんとんとんと繰り返し、あっという間に天井が完成した。
そして天井から降りるために登ってきた木枠ブロックを見て思う。
そういえばどうやって木枠ブロック回収するんだ?