5:木枠ブロックを強化しよう
木を叩いて木材を集めることができた。そしてその木材を使って木枠ブロックを作ることもできた。だが問題が発生した。
強化の仕方が分からない。
ゲームの場合ならマウスの右クリックで強化できたが、現実では右手に石斧を持っているだけだ。
試しにフレームの部分を叩いてみる。
すると木枠の耐久値が表示され、45/50と数字が減っていた。
修理、強化を意識して叩いてみる。
更に耐久値が減って40/50と表示された。
反対側で叩いてみるか?
35/50。
……このままではマズイ。木枠ブロックを見て考える。
木枠ブロックはブロックだが、見た目は細い木材で作られた木枠のフレームだ。中身はなくスカスカで向こう側が見える。
「どうした?」
そこへミリアムがやってきた。
「向こうはもういいんですか?」
「あぁ、他の者が肉を捌いてくれている。それで、これはなんだ?」
ミリアムが中腰になりながら不思議そうに木枠ブロックを眺めていた。
「それを使って家を作ろうと思ったのですが、ちょっとトラブルが発生していまして……」
何か違う方向からの意見が貰えるかもしれないとミリアムにゲームの仕様を説明した。まぁミリアムからすれば何を言ってるのか分からないかもしれないが。
「ソウセイが何を言ってるのかほとんど理解できなかったが、ゲームと反対のことはできないのか?」
「というと?」
「右手ではなく、左手で持って叩くのはどうだろう?」
なるほど。ゲームでは常に右手持ちで、持ち替えや二刀流というシステムはなかった。だがここは現実で、持ち替えることは――できた。
「やってみます」
左手に持った石斧で木枠ブロックを叩いみた。
すると木枠ブロックの耐久値が40/50と回復した。更に叩き続けてみると耐久値は50/50と完全回復した。これなら強化もできそうだ。
「……どうだ?」
「ええ、大丈夫そうです、お蔭様で作業が進められそうですよ」
「そうか、それは良かった。だがちょっと待て、家を作ると言ったか?」
ミリアムの鋭い眼光が俺に向けられた。
「え、ええ、何か問題がありましたか?」
「最初に出会った時も言っていたが、本当に家が作れるのか?」
「家、というとおこがましいかもしれませんが、人が住むのに問題ない建物を作ることができると思います」
「……それは、ここに住む者達にも作ってくれるのか?」
「一時的に住むには多分問題ないと思いますが、最終的にはこの世界の建築士とか技術者に作ってもらったほうがいいでしょうね」
全てを俺の作った物で最後まで賄おうとするのはリスクが高い。だから最終的にはこの世界の住人達自身に作らせたほうが良い。
「それでも構わない。頼む、どうかみんなのために作ってはもらえないだろうか?」
「最善は尽しますが、あまり期待しないでくださいね」
「あぁ、待っている」
……そう言ってミリアムは立ち去ると思ったが、まだここに残るようだ。いや、まだ何かあるのか?
「何か他にも?」
「……いや、作業をここで見ていてもいいか?」
「構いませんよ」
ミリアムのお蔭で修理と強化の方法が判明したので、さっそく修理した木枠ブロックを強化してみる。
修理した木枠ブロックを叩くメーターが現れた。四分の一が埋まっている。そのまま叩き続ける。メーターが四分の二まで進んだ。更に二回叩くとメーターが全て埋まり木枠の強化が完了した。視界の右下には木枠の強化に使用した木材の消費ログが流れていた。
フレームだけのスカスカだった木枠ブロックの表面に木の板が張られ、木材ブロックへと変化した。
「おぉ、凄いな! いきなり木枠に板が張られたぞ!」
ミリアムが隣で驚いている。俺もちょっとビックリしたのは内緒にしておこう。
「こういう感じで木枠ブロックを重ねて床や壁、天井を作って家を作っていきますので、大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないだろう」
「そういえばここ、人間の領地だったりしませんか? そういう権利的なものとかも大丈夫ですか?」
「そこは問題ない。ここは過去の大戦で消えた国の領地だった場所だ。今はどこの管理下にも置かれていないはずだ」
果たして本当にそうだろうかという疑問はあったが、口には出さず留めた。
「もう一つ聞きたいのですが、さっき猫の――ていうかここにいるのは猫の獣人で合っていますか?」
まだハッキリとして答えを知らないのでこの機に聞いておこう。
「そうだな、さっきのリコもそうだが、猫人族が多い」
「さっき明らかに猫人族っぽくない黒い毛の獣姿をした男性に話しかけられましたが、彼は?」
「……奴は狼人族で、この国唯一の狼人族だ」
あらまあ。この国唯一ということは、超絶滅危惧種なのだろうか? それとも他の国に行けばいるのだろうか。だがそれよりも、ミリアムはどこか申し訳なさそうに話していたのが気になった。
「そうだったんですか……」
「悪い奴ではないが一番人間を憎んでいる。何もされなかったか?」
「特には。あ、ついでにもう一ついいですか?」
「なんだ?」
「ミリアムさんは猫人族でも狼人族も、獣人という種族には見えませんが……」
「そうだな、別段隠しておくことでもないか、私は魔族だ」
まぁそうだろうという予想はしていた。魔族といえば、人間に仇なす存在というイメージだが、まぁある意味この世界でも間違ってはいなさそうだが……。
「なるほど、ありがとうございます」
「……それだけか?」
「あまり聞かれたくないこともあると思いますし、今はこれだけで十分です」
「そうか、助かる」
俺は作業に戻り木材ブロックの上にジャンプした。いやできたと言うべきか。
装備をツールベルトにセットしてある木枠に切り替え、下を向いて縦にジャンプする。そして最高度まで達したところで木枠ブロックを足元に設置した。
これの面白いところが、フレームだけ面の部分はスカスカなのだが、そこに乗ることができるのだ。飛び道具などを通すことも可能だが、それ以外の物理的な攻撃や物を通すことはできない不思議な仕様はここでも健在のようだ。
「よしよしって、高いな……」
現在俺は一メートル四方のブロックを縦に二つ積み重ねた上に居る。
「お、おい、大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
そして装備を石斧に持ち替えた。さっきは左手に持っていたが、再び装備すると右手に持っていた。デフォルトでは右手装備みたいだな。修理や強化する度に持ち替えるのはやや面倒だが仕方ない。
そして足元の木枠ブロックを強化して木材ブロックへと変化させる。
で――俺はそこから飛び降りた。
二メートルの高さから飛び降りて、足を痛めることなく問題なく着地できた。予想はしていたが、この部分もゲームと同じようだ。ゲームだと高さ五マス分くらいなら飛び降りても問題ないが、六マスから足を捻ったデバフが付き、十一マスからだと骨折のデバフが付く。骨折は添え木をクラフトして使えば時間経過で治せるが、どちらも落下時にダメージを受けるので、高所からの落下で死亡することも少なくはないから気を付けたい。
「とまぁこんな感じでブロックを重ねて壁が作れるので、ちょっと分厚いかもしれませんが、悪くはないと思いますがどうでしょう?」
「す、素晴らしいな……」
そこまで褒められること……か、現実なら。
「ところで資材はどこで調達したのだ?」
「その辺に生えてる木を伐採したのですが、ダメでしたか?」
枯れた雑木林を指さした。
「……は?」
ミリアムは間の抜けたような顔をしている。
「この木を、切ったのか?」
「え、ええ……」
「……この木は普通の鉄斧じゃ切れないほど硬く頑丈な木なのだが、それをその、石の斧で切ったと、ソウセイは言うのだな?」
俺なんかやっちゃいました? というのは冗談で、鉄斧でも切れない木をこの石斧で伐ったと言われたら、にわかには信じ難いだろう。実演して見せていこう。
「こんな感じでトントン叩いて、木の耐久値を減らして伐採していくのが私のやり方です」
十回叩いたところで木は反対側に倒れて消失した。
ふとツールベルトを見ると石斧の耐久値ゲージがほとんど無くなっていた。さっき伐採した木と今伐採した木で二十回、木枠を強化しようとして叩いてしまっていた数回で石斧の耐久値を消費していた。強化や修理だけなら耐久値を減らすことはないので、耐久値が低いツールでもできるのが便利な仕様だ。
パパっとインベントリを開いてツールベルトの石斧を選択し、右上の説明欄に表示されている修理を選んだ。ツールベルトからクラフト中の枠へ移されて手元から消えた。石斧の修理に石を一個消費した。
「……なるほど、信じられないことだがこの目で見てしまった以上は信じるしかあるまい。その石斧は何か業物だったりするのか?」
石斧の修理が完了し、ツールベルトに戻ったことで、再び手元に戻る。
「いえ、これは最低品質の道具です。あ、使ってみます?」
そういえばこの世界の人が俺のクラフトしたアイテムを使えるのか、ここで確認しておこう。石斧をミリアムに手渡そうとした。
「む? どうした?」
石斧が俺の手から離れない。ゲームではトレードシステムなんてなかったからな、そのせいだろうか?
「すみません、手渡すことができないようなので、一度地面に置きますね」
ゲームではキーボタンでドロップすることができたがここは現実。持っていた石斧を地面に置いて手を離した。
ツールベルトにあった石斧のアイコンは消え、空の表示なっている。
果たしてこの世界の人は使うことができるのだろうか。
2019/07/09 石斧の耐久値表現を加筆修正しました。