43:ティーナの正体
「よし、仲間を待たせているので、ちょっと呼んできますね」
ティーナとの握手を終え、これからのことを説明していく。
「仲間だと?」
ティーナが眉間にシワを寄せ、しかめっ面で俺を見ている。
「はい。早めに移動したいので、皆さん移動する準備をしておいてください」
「なぁ、肉はいつ食えるんだ……?」
禿げたドワーフは眉間にシワを寄せ、困り顔で俺を見てくる。
「いつ敵の兵士がやってくるかも分かりません。早めにここを移動したいので、ここを離れてからですね。のんびりして外の人間にバレてしまっては元も子もないですから」
ここで早くドワーフ達に肉を食わせてやりたい気持ちはあるが、外からやってきた人間に事がバレてしまうのは非常に面倒くさい。一刻も早くここから脱出したいのが本音だ。
「そ、それもそうか……。おし! 全員ここから逃げる準備だ!」
禿げたドワーフが周りにそう告げるが、あまり反応は良くなかった。
ドワーフの足には足枷が付けられたままだ。確かにこのまま移動するのは足を壊す可能性があるな。
「ティーナさん、足枷の鍵をお願いします」
恐らくティーナなら足枷の鍵の場所を知っているはずだ。
「分かった」
ティーナは頷き、木造ブロックを乗り越えて小屋を出て行こうとする。
「それじゃドワーフの皆さん、少し待っていてください」
この世界に遠距離と連絡を取る手段があるのかは分からないが、何かおかしい動きをしないか不安なので、俺はティーナを追うことにした。
「あ、待ってくださいティーナさん」
ティーナが小屋の外に出たところで止めた。
「なんだ?」
「私も付いていきます。何か使える物がないか気になるので」
半分嘘で半分本当の理由だ。
「貴様は仲間を呼びに行くのではなかったのか?」
ティーナは怪訝そうな面持をしている。
「多分、ここから……」
小屋から出て反対側にある崖を見上げた。暗くてよく見えないが、恐らくそこにリコやゲイルがいるはずだ。
「おーーーーい! こっちにきて大丈夫でーーーーす!!」
俺は大声で二人に呼びかけ、両手を振って合図した。
後ろからやってきたティーナが目を細め、俺の視線の先を見た。
「あそこから見ていたのか……」
「これで降りてくるはずです。それでは行きましょう」
「あ、あぁ……」
戸惑うティーナに先導させ、ドアの壊れた厩舎へと入ろうとしたが、中は暗く、このまま先へ進むのは困難だ。
「あ、今灯りを用意します」
石斧から松明に持ち替え周囲を照らす。
「――っ!」
照らされたその光景に俺とティーナは絶句した。
厩舎の中は乱雑……一言で言えば散らかっていた。
それもそのはずで、この中で兵士とラプターがやりあった痕跡があちこちに残っていたのだ。
倒れたり破損した木の椅子や木のテーブル、床や壁には血痕が飛び散り付着している。
「くっ……」
「……足枷の鍵を」
拳を握り体を震わせるティーナを促した。
凄惨な光景と臭いで吐きそうになるが、なんとか耐える。
流石にこんな場所で使える物を探すほど俺は肝が強くない。一刻も早くここから脱出したかった。
「……」
ティーナは無言で足を進め、二階への階段へ歩き出した。
そのまま三階まで上り、廊下を歩いて木のドアの前で止まった。
ティーナはスカートのポケットに手を入れ、鍵を取り出しドアの鍵穴へと入れる。
「……」
俺もティーナも、ずっと無言のままだ。
大事な部下を失い、冷静でいられるはずもなく、それでも冷静に振る舞っているであろうティーナにかける言葉を、俺は持ち合わせていなかった。
ドアの鍵が解除され、ティーナはドアを開けて中に入った。
部屋の中は綺麗に整頓されており、ベッド、本棚、椅子、机と、質素な家具が配置されているだけだった。
貴族と思われるティーナの部屋がこんな質素なことに違和感を覚えたが、推測するにも判断材料が少なすぎるので、今は頭の片隅へと追いやった。
ティーナは机まで歩き出し、灯りを持っている俺もそれに続く。
「……ここがティーナさんの部屋ですか?」
無言の空気に耐えられなかった俺は我慢できずに口を開いてしまった。
「そうだ」
ティーナは表情一つ変えず、素っ気なく返答した。
経緯はどうあれ、女性の部屋に入ったという事実が俺をなんとも言えない気持ちにした。
こんな状況でなければ嬉しく思うところだが、それを相殺するどころかマイナスまでいっている状態なので、素直に喜べるほど馬鹿でもない。
「よし、鍵は回収した」
ティーナの手にはリングに付けられた鍵があった。
「それではドワーフ達のところに戻りましょう」
今ここで荷造りをさせたかったが、十中八九俺はこの部屋から追い出される可能性があったので、リコと合流してから荷造りをさせよう。
同性なら部屋から追い出される心配もないだろう。
厩舎で用事を済ませた俺とティーナは外に出て、リコとゲイル、外に出てきたドワーフ達の姿を確認した。
「ソーーーーセーーーーッ!!」
リコが駆けて飛びついてきた。
「ウッ……!」
リコの突撃がヒットして思わず声を漏らしてしまった。
「生きてて良かったにゃ! ずっと心配してたにゃ!!」
リコは俺の服を掴んで額を擦り付けている。
「はは……なんとか生きてます」
突撃された痛みに耐え、苦笑いで返す。リコは大泣きしているので、落ち着かせる意味もかねて頭を撫でた。
「ハンッ。くたばってねぇとはな」
ゲイルはつまらなさそうに俺を見ていた。
悪態をつかれているが、何故か安堵の気持ちになった。ゲイルの態度がいつもと変わらないからだろうか。
「しぶとさなら多分誰にも負けませんよ」
「ん……?」
ゲイルが眉間に皺を寄せ、目を細めてティーナを見つめていた。
「オイ、そっちの人間の女は……」
「あ、彼女はティーナです。亜人や獣人に対して友好的な存在なので、仲間になってもらいました」
「ちげぇ、そうじゃねぇ……あぁ、やっぱり間違いねぇな!」
ゲイルはティーナに弓を構えた。
「ゲイルさん!?」
「その女は……そいつは……」
ゲイルの声と弓が震えている。
俺はティーナの前に出て庇った。
「ちょ、ちょっと待ってください、どうしたんですか?」
このままティーナを殺されるのはまずい。なんとかゲイルを落ち着かせなければ。
「――どけっ!! そいつは帝国の皇女だっっ!!!!」
俺は、ゲイルのその言葉に驚愕した。
寝坊しました。急いで書きました。
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