41:大襲撃の惨状
「「GUEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」」
やはり今の声でラプターを引き寄せてしまったようだ。
入口を見ると二匹のラプターが入ってきていた。
だがまだウッドスパイクの道は残っている。
俺は高鳴る鼓動を落ち着けようと呼吸を整え、ウッドスパイクにかかっているラプターに向けてウッドスピアを投げた。
ウッドスピアでモンスターを狩るのはゲームでよくやっていたので、コツは掴んでいる。だから狙ったところに当てるのは難しいことではなかった。
だがそれも、体がゲームシステムとリンクしているから成せる技だろう。元の世界にいた俺だったら間違いなくこんなことはできなかった。
体と頭が覚えているような感覚で、どうすれば当てられるかというのが分かるのだ。
俺が落ち着いていられるのも、これのお蔭が大きい。もしこのシステムのサポートがなければ、間違いなく今回の作戦は立てられなかった。
そうしてラプター二匹を投槍で倒した。
入口前はラプターの死骸で埋まってきているので片づけたいが、このウッドスパイクが並ぶ直線上から向こうへは行けない。
さっきの女兵士の言葉が気になるが、それは後回しだ。俺は入口前の用意した木の壁に移動し、三段目の壁を用意してから、二段目の壁を石斧で破壊した。
三段目の壁を用意することで、もしラプターがやってきてもこっちへ通れないようにしている。
破壊した壁の先には、先ほど倒したラプター達の死骸があり、骨のナイフに持ち替えて切りつけた。
「ただ斬っているようにしか見えないが、意味があるのか?」
黒いボサボサの髭をしたドワーフがやってきた。
「こう見えて肉と皮、骨と動物油を回収しているんですよ」
「……おれには斬ってるようにしか見えんなぁ」
髭を弄り眉をひそめている。
「なぁ、あんた、こいつの肉は食えるのか?」
今度は髪をボサボサに生やして顔が見えないドワーフがやってきた。
「ええ、食べられますよ。そうですね、あとで終わったら調理しましょうか」
「「「おぉ……!」」」
調理するという言葉でドワーフ達がざわつき始めた。
「肉が食えるのか……?」
「肉なんていつぶりだ……」
「あの肉、美味いのか?」
どうやらドワーフはまともに肉を食べることができていなかったようだ。確かにこんな環境で働かされていたら、肉も食わせてもらえないか……。
一体目の回収が終わり、死骸が粒子状になって消えた。
ふと隙間から見える外に違和感を覚えた。
声が、音が、しないのだ。
もう終わったのか? 時刻を確認すると、10日目 23:20を表示していた。最初の大襲撃は規模が小さいので早く終わるのだが、いくらなんでも早すぎる気がする。
大襲撃はキャラクターのレベルに応じて規模が変わるのだが――そう言えば俺のレベルはまだ低いことを思い出した。
マップアイコンの隣にあるフレンドアイコンに触れた。
これは同じサーバーにいるゲームプレイヤーを確認したり、フレンドやパーティーに誘うことができる機能なのだが、この世界では意味が無いと思い触れていなかった。
そしてそこに映っている表示に驚愕した。
一人一人名前が表示されているのだ。
この表示されている名前が誰なのかは分からないが、日本語文字のカタカナで表示されていた。一番上にある俺の名前は日本語でフルネーム表記になっている。
そしてゲームと同じように、フレンドやパーティーに誘うことができるアイコンもある。
もしこれでミリアム達をフレンド登録したら、どこにいるかマップですぐに把握できてしまうだろう。
この世界でこの技術は、計り知れない程効果を発揮するかもしれない。
だが今はまず俺のレベルの確認だ。……まだレベルは三だった。
チュートリアルをクリアしていない状態も関係していそうだが、そこまで詳細なことは分からない。なんせレベル三で大襲撃を受けるのは初めてのことだったからだ。
「ちょっと外の様子を見てくるので、ここで待っていてください」
「お、おい、大丈夫か?」
「なんとかする術はあるので、大丈夫です」
さっきは動けなかったが、今度は大丈夫だ。でも危なくなったら速攻で戻ろう。
俺は開けた隙間から外に出て周囲を確認した。
ラプターの姿は消え、息絶えた兵士達が転がっていた。
無残な姿から咄嗟に目を逸らし、吐きそうになるのを抑える。
これが俺のやったことだ。自分がやったこのことを、決して忘れてはいけない。
直接ではないにせよ、間接的に人間を殺した。
そしてこれからも殺すことになるだろう。
その報いはいつか必ず受けることになるだろうな。
俺は目を瞑り、改めて覚悟を決める。
……さて、目を開いて辺りを見渡すが、生き残っている者の姿は見えない。予定通り全滅してくれたようだ。
人間が獣人や亜人にしてきたことを考えれば、これもまた当然の報いだろう。
今回の件を正当化するつもりはないが、俺がしなくてもいつか反逆されて同じ目に遭っていた可能性もある。遅いか早いかの違いだ。
あと残りは、小屋にいる女兵士だけだ。
俺はもう一度周囲を見渡し、何も動くモノがないことを確認してから小屋へ戻った。
▼
「戻りました」
「ど、どうだった?」
禿げたドワーフがやってきた。
「はい、兵士は全滅。モンスターも消滅していました」
「そっ、それは本当なのか!?」
鬼気迫る顔で女兵士が詰め寄ってきた。
「本当です。嘘だと思うなら外に出て確認してみますか?」
「ワシも行くぞ」
禿げたドワーフも行く気満々のようだ。
「お、おれも行くぞ」
「ワシもじゃ」
次々に他のドワーフ達が口を開き、結局全員で外に出ることになった。
「凄惨な死体とかもあるので、気をつけてくださいね」
俺はなるべくそういう死体を見ないように、ドワーフ達に忠告した。
「そんな……帝国の兵士達が、全滅だと……?」
女兵士は膝から崩れ落ち、茫然としていた。
「だがどうすんだ? ワシらがいなくなれば間違いなく奴らは探しだそうとするだろうよ」
禿げたドワーフが女兵士に視線を向けながら話す。
「そうでしょうかね? まぁ厄介なグレイヴウルフに加えて、新たに発生した未知のモンスターが跋扈する場所を探索するのは、そう簡単なことじゃないと思います」
俺は死屍累々の採掘場を見渡す。
採掘はされていたが、野ざらしにされて保管もされていない鉄鉱石や岩の山を見つける。
使う訳でもない資源を掘らせ、こんな非生産的なことをしている場所が重要な拠点とは思えない。それ故に、ドワーフ達が消えてもそこまで深く捜索される可能性は低いと見ている。
「こんな惨状です。捜索よりもまずは調査を優先するでしょう。仮に面子や威信があったとしても、兵士を無駄死にさせる将はそうそういないはずです」
ドワーフの反乱なら話は別だろうが、その辺に倒れてるラプター、この世界には存在しなかったモンスターに襲われたというなら、捜索よりも対策を優先するはずだ。
「いや、帝国の威信にかけて必ず探し出すだろう」
女兵士は俯いたまま口を開いた。その絞り出されたような声には、怒りが込められているように聞こえた。
俺には理解できなかった。こんな場所で意味の無いことをさせているドワーフを探し出して、その帝国とやらに一体何の利益があるのか。
だが、要人がいなくなったとなれば話は変わってくる。
「だから私は貴女を連れていきます」
俺は俯いている女兵士を見据えて言った。女兵士は亜人や獣人に対して理解のある、恐らくこの世界では非常に貴重な人間だと思われる。
だからこそここで連れて帰り、人間と亜人獣人の隔たりを無くす役割を担ってもらうつもりでいる。最初はそう簡単にはいかないだろうが、何事もやらなければ、何も始まらない。
当然ここで捜索、追われるリスクが発生するが、大多数との戦闘はゲームで慣れている。
ラプターに全滅する程度の兵士なら、捌くのも難しくないだろう。迷いは捨てたつもりだ。
まぁ、当然上の騎士や近衛兵といったような、練度の高い兵士も出てくるだろうが、それでも俺には勝算があった。
「……貴様はバカか? 私が素直についていくと思っているのか? この件は父上に全て報告させてもらう」
「クックックッ……」
俺は笑いを堪えるのに必死だった。傍から見たら、まるで悪役みたいな笑い方をしてるだろうな。
「な、何がおかしい?!」
「貴女こそ、無事にここから帰れると思っているんですか?」
俺は今、最高に酷い笑顔をしているかもしれない。
「な、何をするつもりだ……!?」
女兵士は顔を青ざめて後ずさった。
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