31:黒い実
4日目 06:00。
草でクラフトした寝袋で睡眠をとっていた俺は、川のせせらぎ音で目が覚めた。
起き上がり、反対側で寝ているはずのリコを確認したが、その姿は無かった。室内を見渡しても見つからないので、外に出ているのだろう。
草の寝袋のせいか寝つきが悪く、あまりよく眠れなかった気がする。
顔を洗うために起き上がり、おぼつかない足取りで外に出た。
早朝のため、まだ外は薄暗く、空気も冷えている。
だがその冷えた空気と川の水の匂いが、気分をリフレッシュさせてくれた。
川の水で顔を洗うのは抵抗があるので、空になっている粘土バケツに水を汲み、キャンプファイヤーで火にかけた。
外に出てもリコの姿が見当たらないが、一体どこにいるのだろうか?
そんな遠くに離れてはいないだろうし、見回りにでも行ってるのかもしれない。
行方不明のリコも気になるが、今自分達がどこにいるかも気になる。
マップウィンドウを展開して位置の確認した。
昨日は川を南西に進んでいたが、今は西へ進んでいた状態だ。
周囲の状況を改めて確認するために、一旦外へ出た。
イカダ拠点の外壁に木枠ブロックを階段状に並べ、それを使って屋上へ上がる。
川の先の西側に大きな山々が見えるので、あの辺りに目的に鉄鉱山があるのかもしれない。
川の流れの勢いからして、山にあたって行き止まりだとは思えないが、一体どこに繋がっているのか気にはなる。
海に繋がっていれば海の魚が獲れるかもしれないが、ワールドクラフトのモンスターに加え、更にこの世界独自のモンスターもいるとなると、その危険性は計り知れない。
「ソウセイ、起きたのかにゃ!」
リコの声が下から聞こえた。
「あ、おはようございますリコさん。どこへ行っていたんですか?」
「おはようにゃ! 敵がいないか見回りに行ってたにゃ」
敵か。昨日は何の襲撃も受けなかったが、川辺だと敵との遭遇率は低いのだろうか。
「なるほど、ありがとうございます」
リコが階段状になってる木枠ブロックを軽快に登ってきた。流石は猫を冠するだけあって身軽な動きだ。
「そういえばこんな実を見つけたにゃ!」
リコの手には黒い実が一個あった。
「こ、これは……!」
リコの手にあったのはワールドクラフトで見慣れたアイテム。
「知ってるにゃ?」
リコの手にある黒い実。それはナルコの実だった。
「これをどこで?」
リコから受け取り、手のひらに載せて観察した。
ナルコの実は丸い形で黒く、サイズは大きなブドウくらいあった。
「向こうに生えてたにゃ」
リコの指さす方向は、枯れた木がまばらに生えているほうの土地だった。
「なるほど……まだ他にもありましたか?」
「いっぱい生えてるところもあったけど、これって食べられるにゃ?」
手のひらに乗せたナルコの実を、リコが指でツンツンしている。
「食べられないこともないですが、食べると眠くなってしまうのでオススメできません」
「なるほどにゃ……。あ、でも寝るときに食べればぐっすり眠れるんじゃないかにゃ?」
「天才の発想か……!」
などと他愛無い話をしながら、リコにその場所まで案内してもらった。
「それにしてもよく食べませんでしたね」
「初めて見る実だったから食べなかったにゃ。あ、あそこにゃ!」
リコの視線の先には、ゴツゴツとした大きな茶色い岩があった。俺よりも高く、木枠ブロック四個分くらいの横幅だろうか。
「この岩の裏にいっぱいあったにゃ!」
リコがトテトテと走っていき、俺もそれに付いて行く。
すると岩場の裏一面に大量のナルコの実が自生していた。
「緑の葉っぱなんて久しぶりに見たにゃ」
俺としてはこの世界で初めての緑の葉を見た気がする。
ナルコの実は地面に自生し、大きな葉が何枚も外側に広がっており、その中心に実が生えている。実は一つの草花から、一個から三個回収できる。
「でもこの実って何に使うにゃ?」
「良い質問です。これを使って矢を作れば、モンスターを眠らせることができるので、そのまま倒せますし、手なずけて仲間にすることもできるんですよ」
「仲間!? そんなことができるにゃ!?」
リコが目を輝かせて興奮していた。
「ええ、なのでナルコの実は凄い重要なアイテム――いや、道具ですね」
これがあればラプターやドードーを手懐ける、ゲームでいうところのテイムをすることができるようになるので、俺はさっそくナルコの実の回収を始めた。
「ではリコさん、私がこれを回収している間、周囲の警戒をお願いします」
「わかったにゃ!」
――こうして俺は四十七個のナルコの実を入手した!
……ゲームでは時間経過とともに再び回収できるようになるが、果たしてここでもできるのだろうか?
マップウィンドウを展開して、とりあえずこの場所を記録した。
それから俺とリコはイカダ拠点に戻り、食事などを済ませて再び出発した。
気がかりなのは、全くモンスターと遭遇、発見していないことだ。
土地柄的な問題なのかもしれないが、ここまでいないものなのか……。
それに俺がいなくなったことで、集落側にモンスターが湧かなくなり、食料の問題が発生している可能性もある。帰りは遅くなりそうで心配なのだが、今まで大丈夫だったなら、多分俺が戻るまでの間も大丈夫だろう。
あるいは、まだモンスターがデスポーン、消滅していないため、新しく出現していないという可能性もある。これなら集落側にモンスターが残ったままになっているので、食料の問題はないはずだが――今度は俺の周りに出現しなくなる問題が出てくる。
ワールドクラフトのモンスターは時間経過でデスポーンして、文字通り死体も残らず消滅するので、モンスターで溢れるということはなかった。
だがいつデスポーンするのか詳しくは知らない。もし時間でデスポーンする仕様がこの世界でなくなっていたら、一度発生したモンスターをどうにかしないと詰まることもあるかもしれないな。
一体どういう仕様になっているかは不明だが、注意して進んでいくことに越したことはない。
「ソウセイ! 橋が見えたにゃ!」
そんなことを考えながら進んでいくと、リコから橋が見えたと知らせを受けた。




