3:モンスターと遭遇
とりあえずクラフト面においてはゲームと同じ感覚でやっていっても大丈夫そうだ。
突然異世界に飛ばされて、ゲームシステムの能力を持っていて、人間ではなさそうな少女と出会ってと色々あるが、こういうことには昔から憧れていたので、どんとこい異世界ワールド。……頭痛が痛いみたいだな。
俺は、いい。だが異世界の少女、ミリアムはどうだ?
突然現れた得体の知れない人間の男を自分の集落へ連れて行こうとしている。
ミリアムは何を考えている? 俺を物理的な意味で食うのだろうか?
ミリアムの恰好は、動物の毛皮で作った上着の下にボロボロな布切れを着ているようで、動物の狩りとかはやっているのだろうが、あまりにも体の線が細すぎる。というか痩せすぎている。
改めて見るとやはり髪はボサボサだし頬もこけている。栄養失調だったりまともな健康状態ではなさそうだ。
そんな彼女の住む集落となると、あまりよくないことが想像できてしまう。
……そんな状態だからこそ、藁にもすがる思いで俺を同行させているのかもしれない。
◆ ◆ ◆
枯れた雑木林を進んでどれくらい経っただろうか。視界に映る時間を見る。
1日目 8:23を表示していた。この世界にきてそこそこの時間が経過していた。
衣類に関しては部屋で着ていた物そのままなので、青いデニムのジーパンに青いゲームロゴの入ったジャージ、下に黒い半そでのシャツを着ている。
靴は寝袋を作る時に余った草を使い、草の靴をクラフトしたので移動面では問題ないが、早めに皮のブーツとか作りたい。
ミリアムの足も草で編んだようなサンダルだ。防御面で不安があるし、ミリアムにもブーツを装備させたい。
ゲーム脳的な考えだが、当然超えてはならないラインは弁えている。
だが俺自身にゲームシステムが宿ってしまっている限り、どうあがいてもゲームの仕様を外して考えることはできない。ゲームの仕様と現実との齟齬を上手く合わせていくのがこれからの課題になりそうだ。
◆ ◆ ◆
歩きながら落ちている木を拾ったり、若木のような木を殴り木材を回収し、石なども回収して資材を集め、木の棍棒をクラフトした。樹木を切り倒さずとも木材を入手できるのはありがたい。
木の棍棒をクラフトするには木材が五個必要だ。最低品質の灰色で、威力は10。耐久は三十回殴ったら使えなくなる代物だ。が、この数字がこの世界とどう関係してくるかは分からない。あまりアテにしないほうがいいだろう。
余談だがワールドクラフトには武器や防具、道具などのアイテムに品質という仕様があり、最低品質の灰色から順に、黄色、緑色、青色、紫色、最高品質の虹色と分かれている。品質が高いほど性能の良いアイテムになるので、レベルを上げて入手したスキルポイントを使って品質スキルを上げていくことが重要になってくる。
木の棍棒を装備するために、クラフトウィンドウのインベントリにある木の棍棒を、ツールベルト一番目のスロットに指でホールドして移動させる。寝袋の時と同じやり方だ。
そして俺の右手には木の棍棒が装備された。
意識を二番目のスロットに向ける。すると右手にあった武器は消え、素手になった。
よし、ツールベルトも問題なさそうだ。
ツールベルトにセットしたアイテムなら瞬時に持ち替えることができるので、戦闘や建築のときに非常に役に立つのだ。
確認後、一番目のスロットに意識を集中する。そして俺の右手に再び木の棍棒が装備された。
時刻は1日目 8:42を表示している。特に何事もなく進んでいる。このまま最後まで何も無ければいいが――と考えてしまった時点でフラグというものは成立してしまうものだ。
「くるぞ、備えろ!!」
ミリアムが声をあげて戦闘態勢に入った。俺も木の棍棒を構えて周囲を警戒する。
ガシャガシャガシャッ、バキバキバキッ、ザザザザザザザザッ!!
右側の枯れた雑木林から枝や木を凄い勢いで踏み折る音が聞こえた。何かが素早く動いている。
「グェエエエエエエッ!!」
「なんだアイツは、見たことないぞ!?」
どうやらミリアムは初めて見る敵らしいが――
「ら、ラプターです! 頭が弱点です!」
ラプター。ワールドクラフトに登場するモンスターだ。全長二メートル、体高一・五メートルほど。体表は緑色の鱗に覆われている。二足歩行で足が速く、その長い首から繰り出される噛み付き攻撃が厄介な相手だ。序盤に遭遇すると初心者なら間違いなく死ぬ、序盤の洗礼者だ。
俺はアイツを知っていた。が、威嚇の叫び声に怯んでしまい、足がすくんで動かせない。もし俺のほうにきたら――
――ラプターはミリアムめがけて走り出した。内心ほっとした自分がいたが、他人が狙われてほっとしている自分に嫌気がさして舌打ちした。
あのラプターを俺は知っているが、ラプターがゲームと同じ動きをするかは未知数だ。しかしこのままではミリアムが危ない。イチかバチか、賭ける。
「アイツは獲物の前で止まって三連続の噛み付きをしてきます!」
後ろに下がると奴の首が伸びてくるので攻撃を避けきれないことが多い。
ミリアムの前まであっという間に詰め寄ったラプターは足を止め、首を振り上げた。
「横に避けて!!」
「グァッアッアッアッ!!」
その鳴き声と共に首が振り下され、鋭い歯がミリアムを狙う――が、既にそこにミリアムはいない。
横に避けていたミリアムは持っていた鈍器を振りかぶり、攻撃が止まった瞬間にラプターの頭めがけて振り下した。
「ハアアアアァァァァァァ!!!!」
ゴンッッッ!!!!
ミリアムの振り下した攻撃は鈍い音とともにラプターの脳天をかち割り、一撃で絶命させた。
ミリアムはあの見た目によらず力は強いらしい。もしくはあの鈍器が良いのか……。あんなガリガリな体でよく一撃で倒せたもんだ。
「はぁ……はぁ……なんなんだコイツは……?」
ミリアムはラプターを知らない。ということは今まで存在していなかった可能性がある。そして俺はラプターを知っている。
つまりラプターが現れたのは俺がこの世界に現れたからと考えるのが筋だろう。だがそうなると少しマズイかもしれない。
もし他のモンスターも現れたとするなら、十日後に俺をめがけて襲撃が発生する。
十日目までになんとかして備えなければいけないな……。
「ええと、コイツはラプター。肉食で襲ってくる危険なモンスターですね」
「こんなモンスターみたことないぞ……まるでドラゴンみたいではないか」
この世界のモンスターも気になるところだが、早めに移動した方が良さそうだ。
「……なぁソウセイ、このモンスターの肉は食えるのか?」
「ええ、まぁ、普通に焼いて良し茹でて良し、普通に食べられま――」
「よし持ち帰るぞ!」
ミリアムはウッキウキでラプターをその辺で拾ってきた木の棒にテキパキとくくり付けた。
「ソウセイはそっちを持て!」
こうしてミリアムが仕留めたラプターを二人で集落まで持ち帰ることとなった。
「あの、ミリアムさん、コイツらは普段は集団で群れてる奴らなので、もしかしたら近くにその集団がいるかもしれません」
「む、それは厄介だな。あのスピードで複数一気に襲いかかられたら太刀打ちできないな」
ていうか怖い。さっきミリアムは咆哮をあげながら攻撃してたし、それを聞いてモンスター達が集まってくる可能性がある。
「なので急ぎましょう。集落まではあとどれくらいですか?」
「もう少しだ。走るぞ」
そう言ってミリアムは走り出した。やせ細って筋肉も無さそうなのに、軽々とラプターを持ち運んでる様は流石異世界だろうか。ていうか足が速い。合わせるのも難しいほどのスピードで走っている。
こうしてあっという間にミリアムの住む集落へとたどり着いた。
そこで見た光景に俺は絶句した。予想はしていたが実際目の当たりにすると正直キツイ。
「……こ、ここに住んでいるんですか?」
細い木の壁と皮の屋根で作られたような粗末な家、小屋?らしきものがぽつぽつと建っており、顔が歪むほどの異臭が漂ってくる。
「そうだ。ここで私達は暮らしている」
まず最初に思い浮かんだ言葉がスラムだった。
こんな衛生もへったくれもない所で暮らしていたら病気で死んでしまうだろう。
「あ、ミリアム、おかえりにゃー!」
少し離れた所にある小屋から一人の少女が出てきた。
「喜べリコ、今日は新鮮な肉が食べられるぞ!」
「本当かにゃ!?」
この語尾に「にゃ」がついている猫耳猫尻尾を携えた少女、リコというらしい。
多分猫の獣人、なのだろうか、体は人間よりで猫耳と猫尻尾が生えてるので、コスプレに見えてしまう。
赤いショートヘアーからは何か虫が跳ねたように見えるのだが、ノミだろうか……。
リコを観察していると、猫のような瞳と目が合った。
「…………」
「あ、どうも」
挨拶は大事。古事記にも書いてある。らしい。
「…………に」
に?
「に、に、人間にゃああああああああああああああああああ!!!!」
リコは大声をあげてミリアムの陰に隠れた。
そしてその声を聞いて次々に住人達が顔を出してきた。
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2019/07/08 主人公の衣類について加筆しました。