22:チュートリアルの続き
本日2話投稿で、こちらは2話目になっています。
本日1話目をまだ見ていない方はご注意ください。
「ということでお風呂場が用意できました」
ミリアムとリコに風呂の説明をして中を見てもらっている。
「なんかすごいことになってるにゃ……」
「ソウセイはこんなことまでできるのか……」
反応は悪くなさそうだ。
「この上から流れてるお湯を使って体を洗ってもらって、それから湯船に浸かってもらうのが、このお風呂の使い方です」
「先にお湯に入っちゃダメなのにゃ?」
「ええ、まずは身を清めてから入るのが作法です」
「さほう?」
リコにはまだ難しい言葉だったか。
「そういう決まりということだ。ソウセイ、さっそくここを使わせてもらってもいいか?」
ミリアムの顔がニヤけているように見えた。余程嬉しいのだろうか?
「はい、構いませんよ。それじゃあ私は外に出ていますので」
そう言って俺は脱衣所を出た。
よし、とりあえずこれで一段落したな。
「おおおおおおおおお凄いにゃーーーーーーーー!!」
リコの叫びが聞こえる。あの温水シャワーにでもあたっているのだろう。
一段落したことで落ち着いたので、後回しにしていたチュートリアルを進めていくことにした。
内容は草の服をクラフトなのだが、そこで俺は寝袋の再設置をしていなかったことを思い出した。服をクラフトする前にまずは寝袋だ。
寝袋の設置場所は……木造拠点の中だな。辺りを見渡すまでもなく、この建物の中に設置するのが一番安全だろう。
……よし。寝袋をクラフトして木造拠点の中の端っこに設置した。これでオーケー。
木造拠点――仮屋の中を見渡すが、何も無い寂しい空間だった。とりあえず中央に、木の椅子と木の丸テーブルをクラフトして設置してみる。
少しはマシになっただろうか。殺風景なのは変わらないが、少しだけ生活感が出てきたような気がした。
俺は椅子に座り、チュートリアルの続きを始める。
草の服の頭、胴、手、脚、足のそれぞれ部位のクラフトを開始した。
クラフトが全て完了するまで少しだけ暇だ。
今は落ち着いたのか、ミリアムやリコ達の声は聞こえない。この閉鎖された誰もいない静かな空間、今日は本当に色々あったな……。俺は背もたれに寄りかかりながら今日の出来事を思い返した。
この世界に飛ばされて、ミリアムと出会い、ラプターに襲われ、集落で猫人族の人達やリコ、狼人族のゲイルとの出会い。
川辺でモーファーを発見したり、グレイヴウルフに襲われたり。
そして今、風呂場を作り終わった。
現代世界の文明が恋しくなるが、ここはここで楽しいから問題ない。それにクラフトアイテムが増えれば現代世界よりも優れた道具なども用意できるので、それも楽しみだ。
だが……今はまだ良い。食料の確保も、水の確保もできる。集落のみんなも満足とは言えないが、前よりは豊かに安全に暮らせていると思う。
しかし俺が現れたことによる弊害もある。この世界にいなかったモンスターの登場だ。
しかも十日後にはそのモンスターの襲撃が発生してしまう可能性が非常に高い。つまりみんなを危険に晒すことになってしまう。
襲撃日までどこか離れた場所に迎撃拠点を作ってやり過ごさないとだな……。
安全面やまだまだ生活水準を上げるための準備が全くできていない。問題が山積み過ぎて頭を抱え、大きなため息をついてしまった。
「はぁーーーーーー……あ」
右端の草の服をクラフトするチュートリアルがいつの間にか終わっていた。次は草の服を装備する内容に変わっている。
ステータスウィンドウを開き、インベントリにある草の服を装備スロットに移動した。特に考えずにやってみたが、問題なく装備はできた。何故なら突然体に草の服が現れたのだ。
装備スロットからセットした草の服を移動すると、体に現れた草の服が消えた。装備の付け替えはこれで良さそうだが……。
上着部分のスロットにジャージのアイコンがあるのが気になる。このジャージは俺が今着ているものだ。草の服と同じように移動させてみたところ、ジャージも体から消えてなくなってしまった。
慌ててスロットに戻すとジャージは元通り俺の体に装着されたが、少し驚いた。
試しに普通に脱げるのか試したところ、問題なく脱ぐことができるようだ。
とりあえず各部位のスロットに草の服を装備して、チュートリアルをクリアしていく。因みに足の部分は既に装備済みだったので、最初からクリア状態になっていた。
次の内容は木枠ブロックを設置、強化の流れだ。
どこに設置するか……。部屋の隅にでも設置しておくか。邪魔になれば破壊すればいい。
ドアのある壁沿い、南西の隅に木枠ブロックを一個設置して、石斧でトントントントンと強化。木材ブロックに強化してチュートリアルをクリア。
次はキャンプファイヤーをクラフトして、肉と缶の水を調理する必要があるのだが……肉はともかく、缶がネックだ。
缶は旋盤でクラフトできるが、そこまでの道のりはあまりにも長い。
ドワーフを救出して作ってもらうほうが早いが――
と考え居たら、ドアが勢いよく開けられた。
「ソーーセーーイ!!」
髪を濡らしたリコが勢いよく入ってきた。
「すごいにゃすごいにゃ、すごかったにゃ!!」
リコが俺の体を掴んでガクガクと揺らす。
「どどどどうしましたか」
「綺麗なお湯がずっと上から流れ続けてあったかかったにゃ!!」
かなり気に入って貰えたようだ。特に問題もなく使用できたのなら、他の人達にも使ってもらっても大丈夫そうだな。
「リコ、頭をちゃんと拭かないか。風邪を引くぞ」
ミリアムがタオルらしき布を持って入ってきた。らしきというのは、タオル……というにはあまりにもボロボロで茶色く変色しているように見えるからだ。タオルの用意も急務だな……。
ミリアムの髪はしっとりとしており、見た目が美人なこともあってどこか色気があり、ドキリとしてしまった。
「大丈夫にゃ!」
その言葉ともにリコが頭を振り始め、凄い勢いで水しぶきが俺にかかった。
「ほら!」
「リコ! ソウセイが水びたしになってるぞ!」
俺の一瞬火照った顔をリコが見事に沈めてくれたので、顔が赤くなったことは気づかれていないだろう。
ミリアムは顔面蒼白になりながら、持っていた布で顔を拭いてくれた。
「あ……ごめんにゃ……」
顔を拭かれて前が見えないが、リコのしょんぼりした顔は容易に想像できた。
「す、すまないソウセイ、大丈夫か?」
顔を拭き終わり、二人の困り顔が目に映った。
「大丈夫ですよ、なんだか懐かしい気分になりましたし」
昔飼っていた愛犬をお風呂に入れて、乾かすときに体を振って水滴が散乱する、動物を飼っている者なら誰しも経験することだろう。
「怒ってないにゃ……?」
「いえいえ。それよりもお風呂を喜んでもらえて嬉しいです」
「そ、そうかにゃ……」
リコが照れたように顔を赤らめている。残念ながら石鹸が無いので良い匂いなどはしなかったが、喜んでもらえたことが何より一番嬉しかった。
「本当に他の者達にも使わせてもらって大丈夫なのか?」
「ええ、どうぞ。ちゃんと使い方は教えてあげてくださいね」
「分かった。感謝する」
「ありがとにゃ!」
そう言ってミリアムとリコは仮屋を出て行った。
よし、少し休憩したら木材を集めて集落を囲うか。
そうして俺は少しだけ瞼を閉じて休息をとった。




