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19:欲しい物

 本日2話投稿です。こちらが1話目です。1時間後にもう1話投稿予定です。

 

 日時は1日目 15:10を表示している。


 川での資材集めも終わり、俺達は集落へ戻ってきた。


「これはお前達のだ……ああ、そっちは違う、こっちがお前のだ」


 切り分けられたモーファーの肉はゲイルが仕切って分け合い、皆それぞれの家に戻っていった。戻っていく子供の顔には笑顔があり、俺の存在がみんなの役に立てているような気がした。


「新しい皮が手に入ったけど、グレイヴウルフと同じやり方でいいのかしら」


「やっぱり服にしたほうがいいわね」


「この皮、また手に入るのかねぇ」

 

 皮は衣服などに使うようで、猫人族の女性陣が持っていった。女性達はどうやって加工するか話し合っていたが、俺にはよく分からない。餅は餅屋だ。

 

 ミリアムやリコは子供達と一緒に洗濯物を干していた。川辺で洗濯していたのだろう。見たところ集落全員分かと思うような量だ。もう日が暮れようとしているのだが、それでも干すようだ。


「はい、これとこれとはそっちに干すにゃ」


「はーい」

 

 リコが子供達に指示して、子供達はテキパキ動いている。微笑ましい光景だ。が……。

 

 それにしても、やはりというか、集落の臭いは酷いな……。

 

 俺は川に出発前に建築した木造拠点の前に戻ってきた。

 

 ここは集落の外れにあるのだが、それでも臭いが漂ってくる。なんだかここに初めてきたときより臭うような……。川で鼻が浄化でもされたのだろうか。

 

 動物を洗っていないような臭いや、物が腐ったような汚物などの臭いが充満している。

 涙目になりながら吐きそうになるのを我慢した。鼻が慣れるまでの我慢だ。

 

 どうして獣人のリコやゲイル達は平気なんだ? 人間の俺より鼻が利きそうだが、それとももうダメになってるのか?

 

 ふと納豆が苦手なヒーローを思い出したので口で息をする。臭いが辛いなら鼻で息をしなければいい。

 

 ともあれこんな状態ではいくら食べ物が手に入っても、衛生的に良くないし、食中毒で死ぬ可能性も高そうで、非常に良くないように思える。

 

 何より不快感とストレスで俺の寿命がマッハで削れてしまう。ここにいるみんなはよく耐えられていると思う。

 

 だが……恐らくゲイル同様この臭いがあるお蔭で、外敵であるグレイヴウルフに襲われずに済んでいるのかもしれない。

 

 そうなるとこの臭いをなんとかする前に、まず外敵からの脅威を排除しなければいけない。

 

 簡単に木材ブロックで壁を作ってしまうのが一番手っ取り早いが、石斧で必要個数分の資材を集めるのは文字通り骨が折れそうだ。

 

 焦らず少しずつ徐々に改善していくしかないか……。

 

 高さは四メートルくらいで、一メートル四方の木材の壁、その周りにウッドスパイクを敷き詰めるくらいが、今簡単にできる内容だろう。

 

 有刺鉄線柵は鉄素材が足りなさすぎる。それにできることなら木材の壁を更に強化して、鉄製の壁にしたい。

 

 とりあえず食料の保存場所やみんなの身だしなみくらいはすぐにでも改善したい。そのために川まで行って水バケツを入手したのだから。

 

 クラフトウィンドウを開き、さっそく温泉ユニットのクラフトを開始する。

 

 必要な素材は石二十個とキャンプファイヤー一個、そして水バケツだ。

 

 まずキャンプファイヤーをクラフトする。これで必要素材は揃ったので、左のクラフト一覧から温泉ユニットを選択したいが……。

 

 他のアイテムも白文字になってしまい、温泉ユニットを探す手間がある。

 

 これを省くためにクラフト一覧の上に検索ウィンドウがあるのだが――

 

 そうだ、マップのときと同じようにように音声認識で入力できるかもしれない。

 

 さっそく検索ウィンドウに触れ、カーソルが点滅を始めた。

 

「温泉ユニット」


 その言葉とともに温泉ユニットの文字が検索ウィンドウに現れる。

 

 そういえば最近のスマートフォンも音声認識で検索ができるらしいが、俺は試したことがない。便利な時代になったもんだ。

 

 検索ウィンドウに表示されたことで、クラフト一覧には温泉ユニットだけが表示されていた。

 

 クラフト一覧から温泉ユニットを選択して、必要素材が足りていることを確認後、クラフトを開始する。

 

 できるまで三分ほどかかりそうだ。完成するまでの間、近くの木でも伐採していよう。

 

 石斧を構えて木造拠点の後ろにある枯れた木を叩きはじめた。

 

 石斧の品質が上がっているので石のときと同様に耐久値の減りが増えている。

 

 叩いた木には85/100の文字が浮かび上がっている。灰色品質のときよりも5ダメージ増えているので、十回叩いていたのが七回まで減らせるようになったのが地味に嬉しい。

 

 木を叩きながら周囲を見渡した。

 

 まだまだ周囲には枯れた木が生えており、枯草も所々に生えている。

 

 草はクラフトして糸にすることができるので、釣り糸や服のためにも集めておきたい素材だ。

 

 ……服で思い出した。そういえばまだチュートリアルを進めていなかったな。

 

 メキメキメキメキメキ……

 

 耐久値の減った木が音を立てて倒れた。

 

 枯草の前まで移動して、右手を素手にして殴り始める。殴るだけで草を回収できるのは楽だが、やはり効率が悪いし面倒なので、早く芝刈り機が欲しくなる。

 

 芝刈り機があれば倍の数の草が入手できるので、糸の大量生産も可能だろう。

 

 だが芝刈り機をクラフトするのにはエンジンが必要になる。エンジンをクラフトするには工芸スキルを上げる必要があり、クラフトできるレベルも遠いのでまだまだ先だ。

 

 エンジンがクラフトできれば乗り物パーツもクラフトできるようになるので、早くレベルを上げていきたいが、その前に道路整備などもしておかないと移動するのも一苦労だな。

 

 一番最初にクラフトできる乗り物は自転車なのだが、どうやってタイヤ素材のゴムを入手するか。ゴムの木があれば抽出して素材が手に入るのだが、ここから川辺までの間にそれらしき木は無かった。

 

 やはりもっとこの世界を探索をしなければいけないな。圧倒的に資材不足だ。

 

 早く電気も使えるようにしたいと思いつつ、俺は草を殴り続けた。

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