18:地図
地図アイコンに触れると目の前にマップウィンドウが展開された。
左端にマーキングした場所が登録される空欄があり、その右側にマップが表示されている。
ワールドクラフトのマップは歩いた場所が自動で記録されていくので、自分で記録する必要が無いのが楽だ。
ここでもゲームと同じ仕様で歩いた場所の付近が記録されていた。
マップでは自分の居る場所に矢印があり、どこを向いているか分かる。今は北側を向いていた。
気候や立地などバイオームとしても表示されるので、そこがどんな場所なのか一目で分かるが、ゲームでは地図を見なくても立地だけでどんなバイオームか分かっていたのであまり意味は無かったが、この世界では非常に役に立ちそうだ。
川沿いのここから西に集落の表示があり、集落から下に向かってマップが埋められている。
集落から南に少しいったところでマップの記録が切れているが、そこで俺はスポーン……現れたのだろう。
さて……ゲームではマウス右クリックでポイントにマーカーを付けることが可能で、マーカーで記録されたポイントは左側の欄に表示される。しかし今この手にはマウスが無い。
おもむろに現在いる地点に触れてみた。
すると文字を入力する空白のウィンドウと、マーカーアイコンが現れる。このウィンドウにキーボードで文字を入力するのだが、キーボードも手元には無い。
「さっきからソウセイは何をしてるにゃ?」
マップウィンドウから突然リコの頭が出てきた。
「うわっ!?」
「にゃ!?」
ビックリした……ん?
さっき現れた空白のウィンドウに『うわっ』という文字が表示されていた。まさか……。
『うわっ』と表示されているウィンドウの右に〇と×のタブがあり、〇を選ぶと記録され、×を選ぶと破棄されるので、×に触れた。
×に触れると『うわっ』と表示されたウィンドウは消え、マップにはまだ何もマーカーは設置されていない。
「びっくりしたにゃ……」
リコが胸に手を当てて息を整えている。俺もまだ心臓がバクバク鼓動を打っていた。原因は驚いただけではなく、マップに名前を付けてマーカーが設置できるかもしれないからだ。
「あぁ、ごめんなさい。今地図を見ていたところでした」
「……地図? どこにもそんなの無いにゃ」
「これは私にしか見えないみたいですね」
「その地図は一体どういうものなんだ?」
ミリアムがやってきてリコの頭を撫でている。
「私が歩いた場所を自動で記録して、村や町があれば大まかな立地が表示されて、マーカー……マークを付けてすぐに場所が分かるようになります」
「……その地図は正確な地図なのか?」
「多分、正確だと思います」
「……私とソウセイが出会った場所には……何か表示されていたか?」
マップウィンドウを見るが特に何も表示は無い。
「いえ、特には何も」
「そうか……」
ミリアムはどこか寂しそうな、今にも泣きそうな表情をしているように見えた。察するに、あの場所に何かあったのだろう。
「ソウセイソウセイ」
リコにジャージの裾を引っ張られる。
「なんですか?」
「一度行ったことがある場所なら迷わず行けるにゃ?」
「そうですね、ちゃんと地図を確認しながら進めば最短ルートで行くことができます」
俺の度重なる経験から、ちゃんと確認しないとあらぬ方向に向かっていることも多々あるので、地図の小まめな確認は大事だ。
「凄いにゃ、それなら迷子にならずに済むにゃ!」
「……そうですね」
地図があっても迷子になる人はなるので、俺は苦笑いで返した。
そして再びマップウィンドウに視線を向けた。
さっき起きたことを思い返すと、どうやら音声認識で入力できるようだが……。
もう一度現在地点に触れ、空白のウィンドウを表示させた。
「川辺」
表示されてから川辺と発言してみると、空白だったウィンドウに川辺の文字が表示された。そして右の〇に触れる。
触れたことで左側の空欄に『川辺』が登録された。マーカーアイコンは未設定だったので×表示のままだ。まぁいいだろう。
「よし、お待たせしました。この地点を地図にマークしたので、今度は一人でも来られます」
「……そうか。だがソウセイ一人での行動は危険だ。移動するときは誰か護衛を付けたほうがいいだろう」
ごもっとも。確かに今の俺一人でグレイヴウルフ一匹に遭遇したら死ぬ確率が非常に高い。
……ふとワールドクラフトでの戦闘を思い出した。暫くその戦闘方法で戦っていなかったので失念していたが、今度試してみるのもいいな。
「オイッ!! いつまでも何してんだ!! 行くぞ!!」
遠くでゲイルが叫んでいた。確かに少し時間をかけ過ぎてしまったかもしれない。
「すみません、では行きましょうか」
付きあわせてしまった二人に謝り、みんなが待っている場所へ足を進めた。
「向こうに戻ったら何するにゃ?」
「ソウセイはオンセンユニットを作ると言っていたな」
「おんせんってなんにゃ?」
「それは戻ってからのお楽しみです。喜んで貰えるといいんですけどね」
温泉ユニット。お湯が出るユニットをクラフトするために川に素材を集めにきたが、その成果は大成功と言って良いだろう。
中世のヨーロッパなど、お湯の風呂に入る文化が無いと聞いたことがあるが、果たしてミリアムやリコ達にはどう評価されるのか、少し不安だ。
まぁ駄目だったとしても俺自身が使えるので……うん、問題ないな。
こうして俺達は川辺から集落へと帰りはじめた。
今回はいつもより少し短めにしましたがどうだったでしょうか。
丁度よかったり短すぎたり思う所があれば感想などで書いてもらえると今後の参考になりますので、よろしくお願いします。




