17:レベルアップしてスキルを取得
「これでラストっと……」
石斧で叩き続けた丸石が、音を立てて真っ二つに割れた。
丸石一個で石三百個、鉄鉱石二十個の入手だ。
そしてどこからともなくファンファーレが聞こえた。どうやらレベルが上がったようだ。
『スキルポイントを1入手しました』というメッセージが視界に現れる。
これでスキルを入手して活動を楽にしていけるが、そう言えばまだチュートリアルも終わっていない状況だ。集落に戻ったら続きを進めていこう。
ん?
真っ二つに割れた丸石が目の前から消えた。これはゲームシステムの仕様で、破壊したオブジェクトは跡形もなく消えるのだ。
「岩が、消えた……?」
ミリアムが驚いている。俺もビックリだ。現実でゲームの非現実的な挙動を見てしまうと、驚くのも無理はないだろう。
「こういうものです……」
そう言うしかない。
「そうなのか……」
さて。この鉄鉱石だが、クラフトでスクラップすると鉄くずにすることができる。鉄くずという名前ではあるが、しっかりアイテムをクラフトしたり、木材ブロックを強化したりできるアイテムだ。
その鉄くずを使ってクラフトできるのは、有刺鉄線や有刺鉄線柵、鉄の棍棒や防具、その他にも使い道はあるが、序盤にクラフトするアイテムは有刺鉄線柵と鉄の棍棒くらいだろう。
防具やその他アイテムは必要個数が多かったり他にも素材が必要になるので、クラフトすることが難しい。本格的に作れるようになるのはつるはしを入手してからになる。
鉄鉱石を一個スクラップすると鉄くず五個になるのだが、フォージで溶かすと鉄くずが十個になる。だからそのまま鉄くずにするよりも、一度フォージを通したほうが効率は良い。が、今フォージは無い。
鉄の棍棒も木の棍棒と同じく耐久値は減るので修理しないといけないのだが、鉄の棍棒の修理には鉄くずを消費するので、クラフト用とは別に修理用の鉄くずも必要になる。
ということでまた丸石を叩いて鉄鉱石を集めたいが、その前にレベルアップで入手したスキルポイントを消費して、品質上昇のスキルを取得する。
視界に映るスキルアイコンにタッチすると、目の前にスキルウィンドウが展開された。
「何をしているのだ?」
「ああ、品質のスキルレベルを上げようかと」
「おお、以前話していたスキルか! 武器が強化されるのだな!」
「武器だけに限らないですけどね」
スキルには様々なものがあり、クラフトアイテムの品質を上げるスキル、戦闘技能を上げるスキル、病気や気温のデバフを軽減するスキル、その他にも農業や畜産や料理、新しいアイテムをクラフトするためのスキルが存在する。
個人のプレイスタイルやその時の考え方によって取得するスキルが変わってくる。故に何度最初からやり直しても新しいスキルの取得パターンなどを試せるので、毎回違う遊び方ができるのがこういうゲームの面白いところだ。
スキル一覧から品質向上のスキルを選び、スキルポイントを消費してスキルを一上げた。
これで今後クラフトするアイテムの品質が一段階上がり、今の灰色品質から黄色品質へとアップグレードされる。
「だがどれくらい強化されるのだ?」
「うーん、確か一段階目だと二倍はいかなかったと思います」
「一段階目で二倍近く……だと?」
「最高で五段階まで品質を上げられますが、まともに使えるようになるのは二段階目以降ですね」
「ええと、つまり……十倍近く強化されるということか!」
ミリアムが指を二本ずつ折って計算して驚いていた。
「いえ、倍率も上がっていったと思うので、確か五段階目だと二十倍以上だったと思いますが、私もハッキリとは覚えてないんですよね」
「……それは一体どれだけ強力な武器になるんだ」
ミリアムは放心したような顔でこっちを見ている。
「ま、まぁ五段階目まで上げられるのはまだまだ先に話なので……」
品質が上がればアイテムの性能も上がるので、積極的に上げていきたいスキルなのだが、当然他にも上げたほうが良いスキルは山ほどあるので、品質向上だけを上げる訳にはいかない。
俺の場合、幾度にも重なる経験で決まったスキルの取得パターンがある――のだが、それはあくまでゲームでプレイしていたときの話だ。現実の今、ゲームとは違うスキルの取得順番にしていく必要があるかもしれない。
スキルポイントはレベルが上がるごとに入手できるので、実質無限であり、レベル制限もないので最終的には全てのスキルをマックスまで上げることができる。
他にも拾ったクエスト用紙のクエストをクリアしていけば入手できるのだが……現実のこの世界でクエスト用紙を拾えるとは思えない。こっちの入手方法は期待できないな。
さっそくアイテムを新調するためにクラフトウィンドウを開いて、石斧を一個、木の棍棒を二個クラフトする。
カコン。
インベントリにクラフトされた石斧が表示され、石斧のアイテム下側に黄色い耐久値バーが表示されている。品質が上がればこの耐久値バーの色も変わるのだ。
耐久値は三十から四十五に上がり、ブロックに与えるダメージも上昇している。
今まで使っていた石斧はスクラップして石一個へと変化させた。
そしてクラフトした新しい石斧をツールベルトにセットして装備。見た目は特に変わっておらず、今まで使っていた石斧と同じ物だ。
「それが品質の上がった石斧なのか? 何も変わっていないように見えるが……」
「見た目の変化はありませんね。性能だけが上がっています」
この石斧でさっそく丸石を叩く。
293/300と表示された。石に対するダメージが五から七へと上がっている。
続けて叩いていくと、右下のアイテム獲得ログに今まで石一個だけだったのが二個のログも表示されるようになった。
「どうだ?」
「ええ、獲得できる資源の量も増えているので問題ありません」
「……一体どういう仕組みなんだ?」
新しくなった石斧で丸石を叩き続けた。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
丸石と石斧のぶつかり合う音と川の流れる音、そして向こう側から聞こえる喧騒が俺を楽しませてくれた。
ただの石を叩く作業だが、捗る環境で資源が手に入るというのはとても楽しいことだ。
中には資源をひたすら集めることに喜びを感じる人達もいるくらい、資源集めは奥が深い。
そして丸石の耐久をゼロにして、丸石が真っ二つに割れて消える。
獲得した資源を確認するためにインベントリを確認すると、木の棍棒のクラフトが完了していた。
資源のほうは石が五百個近く、鉄鉱石は四十七個溜まっていた。
インベントリには重量制限が無いので、いくらアイテムをストックしても問題ないのが助かる。
クラフトした木の棍棒だが、すぐに鉄の棍棒に乗り換えてもらうことになると思うが、今できる最高の準備をさせておきたい。
「ミリアムさん、こっちの棍棒と取り換えましょう」
手渡しができないので木の棍棒を二個地面に置いた。
「分かった。これは何回使用可能だ?」
ミリアムが木の棍棒を拾い上げ、振って感触を確かめている。
「四十五回まで使用可能になっていますね」
「十五回増えたという訳か……分かった、ありがたく使わせてもらおう」
「ミリアムーー! ソーーセーー!」
リコが駆け寄ってきた。スプラッタだった姿は洗い流されたようだが、シミになってる部分も見える。新しい服を用意してあげたいが……。
「なんとかモーファーの解体ができたから、帰る準備もできたにゃ」
モーファーの肉は解体しつつ串焼肉になっていたが、どれくらいの量が残っているのだろうか。毛皮の使用用途も気になるところだ。それによってはクラフトで出すタイミングも考えないといけないな……。
「分かった。ソウセイ、まだ石を割り続けるのか?」
まだここで資源を集めていたいが、道が分からない。ミリアムにずっと護衛させるのも気が引けるしここは一緒に戻ったほうがいいだろう。
「いえ、私も一旦帰りま――」
ふと、道というワードでマップ機能があったのを思い出した。
「どうした?」
「すみません、ちょっとだけ待っててもらえますか?」
「構わないが……」
「なんにゃ?」
「さぁ?」
了承を得た俺は、視界に映る地図アイコンに触れた。
スキルの数値や仕様は今後変更されることがあるかもしれません。
2019/07/15 投稿6日目でユニークユーザー1万人を突破しました。ありがとございます。




