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16/48

16:丸い岩

 

 日時は1日目 13:54。

 

 空は太陽が眩しく照らしているが、空気がやや肌寒い。

 

 周囲には木材で作った壁があるので横からの風は防げるが、天井は未設置だ。


 あれからミリアムが集落のみんなを連れてきて、今はモーファーの解体作業をしている。


「ここ、どうやってバラせばいいんだ?」


「初めて見るモンスターだからなぁ。勝手が分からんぞ」

 

 初めて見るモーファーに猫人族の大人達は苦戦していた。生の解体では俺は力になれそうにないな。


「このお肉、落とさないようにしっかり運ぶにゃ」


「わかったー!」


 リコが切り分けられるところの肉を切り分け、子供達が渡された肉を運んでいく。


「わーい!」


 微笑ましいな。


 運ばれた肉は串焼きとして料理され、集落みんなの腹を満たしていく。モーファーに手を合わせて感謝した。


 こうしてモーファーの解体に勤しむ人や、他の雑用作業などをしている人達を見ると、初めて集落で見たときとはまるで別人のように生き生きしていた。


 目に光が宿り、声に力が入っている。活気が出てきたような気がする。


 最初はみんなモーファーと迎撃拠点に驚いていたが、リコが説明して納得してくれたようだ。

 

 そして――やはりというか、生で動物の解体を見るのは……正直辛い。

 

「ソウセイ、顔色悪いにゃ?」


 リコが血まみれになりながらモーファーを解体している。スプラッタ。

 

 クラフトシステムなら生々しい解体や臓物を見ることはないのだが……。

 

「ちょっと外に出てますね……」

 

「分かったにゃ」

 

 俺は足早にモーファーの解体現場から逃げ出した。

 

「お、ソウセイ、顔色が悪いが大丈夫か?」


 ミリアムが右手に持っている串焼肉を食べながらやってくる。串焼き以外レパートリーはないのだろうか?

 

「えぇ、まぁ……」


「ほら、これでも食べて気を落ち着けるといい」


 そう言って左手に持っていた串焼きを俺に寄越した。

 

「ありがとうございます……」


 今は肉を食べる気分ではないんだが、せっかくミリアムがくれた肉だ。断るのは気が引けたので受け取って口に運んだ。

 

「……美味い」


 見た目はラプターの肉と変わらないように見えるのだが、ラプターの肉よりもやわらかく食べやすい。

 

「あぁ。モーファーと言ったな、あの肉は絶品だ」


 そう言ってミリアムは串に残っていた肉を全て口に頬張った。

 

「それにしても、みんなをここまで連れてくるのは道中大変じゃなかったですか?」


 ミリアムは凄い勢いで咀嚼(そしゃく)している。なんだか口の動きがハムスターみたいだ。

 

「……んく。いや、問題ない。私以外にも戦える者はいるし、今までもグレイヴウルフは狩ってきたからな」


「もしかして今まで食料にしてたモノは、グレイヴウルフですか?」


 俺がこの世界で出会った動物は、ワールドクラフトにいたラプターとモーファー、そしてこの世界特有と思われるグレイヴウルフだけだ。

 

 しかしグレイヴウルフにはそこまで肉があるように見えない。

 

 今回の三匹の肉だけでは、あの集落の獣人達を満たすには全く足りないだろう。

 

「そうだ。私達はグレイヴウルフを狩って食いつないでいた。だがもうグレイヴウルフの数も減って限界だった」


「そこへ私が現れたと……」


「そうだ。ところでラプターとモーファーだが、あれらは今までに見たことがない生き物だ。ソウセイが現れてからラプターとモーファーも現れたように思えるのだが、知っていたということは何か心当たりがあるのか?」


 ゲームのポップシステムを思い出した。

 

 ポップシステムとは敵の出現するシステムのことだ。

 

 ワールドクラフトのポップシステムは、自分の周囲二百五十六マス以内にモンスターが湧き、二百五十七マスから先はモンスターが湧かない仕様になっている。これはゲーム動作を軽くするための仕様だったと思う。

 

 それがこの世界でも同じように作用しているのであれば、利用することができるかもしれないが、それはまだまだ先の話になるだろう。


 そして今回のモーファーはその範囲内でポップしたモンスターな訳だ。


 だが当然モーファーだけがポップするわけではなく、他のモンスターも多数ポップする。あのラプターもまたいるかもしれない。


「信じられない話かもしれませんが、私の周囲には私の知っているモンスターが突然現れることがあります」


「……ふむ」


「ラプターやモーファーがそうですね。それ以外にも他にも沢山のモンスターが存在するので、ラプター以上の脅威を持つモンスターもいたりします」


「オイオイ、とんだ疫病神じゃねーか」


 ゲイルがやってきた。両手の指の間に串焼肉を挟んで八本装備している。

 

「おい……!」


 ミリアムがゲイルを止めようとした。

 

「いえ、確かにその通りですね……」


 今はまだ俺のレベルが低いからモンスターも楽に倒せる部類ものばかりだが、俺のレベルが上がっていったり、危険地帯に行けば凶悪なモンスターがポップするだろう。


 それに襲撃イベントもある。早く拠点を構築しないとな……。

 

「だがこうして私達は食にありつけた。ソウセイがこなければ皆餓死していたかもしれない。だからむしろ私は感謝している」


 ミリアムは胸を張って言ってくれたが、その手には串焼肉があって締まらない感じだ。


「ソウセイがいることで全員モンスターにやられちまった、なんてこともあるかもしれないぜ?」


「そうならないように私がみんなを守ります」


「ハンッ、グレイヴウルフに食われそうになっていたやつが誰を守るって? 笑わせてくれるぜ」


 ゲイルの言う通り、あのとき俺はリコを危険に晒してしまった。言い返す言葉も出ない。だが――

 

「あの木の壁を見てください」


 倒したモーファーを囲った木の壁を指した。


「あぁん?」


「私にはアレを作る能力があります。だからアレで、作る能力でみんなを守り切ってみせます」


「……フン」


 ゲイルは串に刺さった肉をまとめて口に頬張り、興味なさそうにその場から去っていった。

 

「すまない、アイツはああいうやつなんだ。根は悪いやつじゃないんだがな……」


 ゲイルが警戒のするのは最もな話だ。当然の行為であり致し方ない。危険を持ちこむやつを歓迎する人は少ないだろう。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」


「モーファーの解体が終わるまでまだ時間がかかりそうだが、ソウセイは大丈夫か?」


「はい、川辺の探索をして、特に何も無ければ適当にその辺の木を伐採して今の内に資材を集めていますので」


 だいぶ木材や木枠ブロックを消費してしまった。今の内に補充しておきたい。

 

 だがそれよりもまずは川辺の探索を優先する。

 

 川辺だし何か資材が見つかるかもしれないな。

 

 未知なる環境に胸を躍らせて、川辺の探索を始める。

 

 ……ミリアムがついてくる。

 

「……何かありましたか?」


「いや。さっきラプター以上の脅威を持つモンスターが出ると言っていただろう。だから私がソウセイを護衛する」


 みんなの目に付く場所で資材集めをするつもりだったから、何かあってもすぐ分かるから大丈夫だろうと思っていたが……ミリアムが護衛してくれるならありがたい。

 

 そう言えば俺を守ると言っていたゲイルは?

 

 さっきゲイルが向かった方向を見ると、ゲイルがこっちを見ていた。

 

 視線が合い、ゲイルがめっちゃ睨んでいる。

 

 ゲイルは弓を手に持ち、いつでも打てる準備をしているようだ。

 

 姿の見えないリコは、まだモーファーの解体の手伝いをしているのだろう。

 

 こうして俺はミリアムとゲイルに見守れながら川辺の探索をしていく。

 

 少し歩いたところでさっそくアレを発見した。

 

 卵のように丸くつやのある中型の石……! 


 想像している物だったらと興奮し、急ぎ駆け寄った。

 

「お、おい、どうした!?」


「おぉぉぉぉぉ……!」


 やはり、恐らくこれは間違いないだろう。


 見つけた興奮と走った影響で胸の鼓動が高速ビートを刻む。


「これは……今までこんな大きな石は川辺にはなかったぞ?」


 ミリアムがコンコンと手の甲で叩いている。

 

「こ、これは丸石です……!」


「まるいし?」


 大きさは大体高さ五十センチくらいだろうか、そこそこ大きい。


「はぁ……はぁ……」


 俺ははやる気持ちを抑えられず、石斧を構えて丸石を叩いた。


「お、おい、ソウセイ、様子が変だぞ……?」

 

 295/300と耐久値が丸石から浮かび上がってきた。

 

 視界右下には石を一個入手したログが流れている。


「よしよしっ……!」


「ソウセイをここまで興奮させるこの丸い岩には、一体何があるというのだ……?」

 

 石斧は木材系には効果を発揮するのだが、石や岩、鉱石に対しては効果が低いので、つるはしがあると採掘が捗る。

 

 今はつるはしを作る素材も無いので、仕方なく石斧で丸石を叩き続けた。

 

「おっ!」


 心臓の鼓動が跳ね上がり息が震える。


 三回目の攻撃で右下のログに鉄鉱石のアイコンが流れた!


 鉄の資源である鉄鉱石を、俺は入手したっ……!


 僥倖っ……! ここで丸石を発見したのはっ……!

 

 丸石を三回叩いたことで耐久値を十五減らし、残りの耐久値は二百八十五になっている。

 

 そこまで叩いて鉄鉱石一個入手だ。単純計算で丸石一個で鉄鉱石二十個入手できる訳だ。

 

 辺りを見渡すと他にもいくつもの丸石を見つけた。


 これで暫く鉄資源には困らないかもしれない……! 


 喜びで体が震える。だが落ち着け。ミリアムの言葉では今まで丸石はここに存在していなかったようだ。つまり資源も俺と一緒にこの世界に生成された可能性が非常に高い。

 

 ということはコットンやゴールデンハーブ、各種鉱石もあるかもしれない。

 

 これは面白いことになってきた。俄然やる気テンションモチベーションアップだ。


 テンションが高まりすぎないように必死に抑えようとしてるが、この先のことを考えると顔のニヤケがどうしても抑えられない。

 

 ク、クックック……ダメだ抑えろ、笑うな……!


 ここで声を出して笑ったら変なやつだと思われてしまう……!


 大きく息を吸って、ゆっくり息を吐いた。


 一呼吸置いてクールダウンする。


 まだもう少しモーファーの解体には時間がかかりそうだ、その間に破壊できるだけ丸石を破壊して鉄鉱石と石を集めよう。

 

「ミリアムさん、これは早い段階で鉄の道具や武器を用意できるかもしれません」


「ほ、本当か!?」


「ええ、この丸石には鉄鉱石が含まれているので、これを壊していけば鉄資源を集めていけます」


「そうなのか……こんなただの丸い岩から鉄が取れるとはな。つくづくソウセイには驚かされる」


 俺だってビックリドッキリだ。

 

 だが鉄鉱石を製錬するにはフォージが必要になる。

 

 フォージの用意が急務だな。どうやって鉄のショートパイプを入手するか……。

 

 そんなことを考えながら丸石を叩き続けた。


 資源の獲得数値や耐久は変更される可能性があります。


 2019/07/14 丸石の資源回収量を調整しました。

       最初の部分に思いっきり加筆しました。


 2019/07/14 異世界転生/転移 ファンタジー 日刊ランキングで11位をキープし続けています。

       総合日刊ランキングでは50位以内の49位でした。

       総合評価点は投稿一週間で2300ポイントほどに。

       皆様の感想やブックマーク、評価のお蔭様です。

       沢山の評価、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

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