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15:人間がしてきたこと


 俺はリコをグレイヴウルフから守るために、リコを体で覆って庇った。


 リコの絶望的な顔が見える。

 

 俺の被弾は免れないだろう、確実なものだ。

 

 だが、高所からのジャンプで足を挫かなかったこの体ならば。

 

 ゲームシステムに支配されているこの体ならば。

 

 もしゲームと同じダメージ判定なら。

 

 俺はグレイヴウルフの攻撃を耐えられるはずだ。

 

 この一撃さえ耐えれば良い。受けたら反転して反撃だ。それで終わる。

 

 仮に俺が死んで倒しきれなくても、俺の反撃で弱ったグレイヴウルフをリコなら難なく倒すことができるだろう。

 

 問題ない。一つ問題があるとすれば、俺がリスポーンできるかだが、今のこの状況にそんなことを考えている暇はない。

 

 それよりもリコを守ることを第一に考えていた。

 

 この刹那の間に導き出した答えがこれだ。

 

 だが――

 

 …………。

 

 ……。

 

 ――いつまで経ってもグレイヴウルフの攻撃はこなかった。

 

「そ、ソウセイ……?」


 リコの様子は少し怯えてる感じだが、危機感は感じなかった。

 

 後ろからグレイヴウルフの声も音も聞こえていない。

 

 まさかミリアムが戻ってきたのか?

 

「オイ」


 後ろから男の声がした。

 

 この声、臭いは――

 

「貴方は……」


 後ろにいたのは集落で出会った、黒い毛並をした狼人族の男だった。

 

 何故彼がここに……。

 

「ゲイル!」


 リコがそう言った。彼の名前、だろうな。

 

「……私を助けてくれたんですか?」


「勘違いするな、確かにお前を助けたカタチになったが、オレが助けたのはリコだ」


 ツンデレなのか真実なのか計りかねるが、助かったのは間違いない。

 

「どちらにせよありがとうございます、助かりました」


 助けてもらえたということは、俺は信用されるようになったのだろうか?

 

 いや、もしグレイヴウルフが飛びかかっていたのが俺だったら、彼は俺を助けただろうか?

 

 完全に信用された訳ではないかもしれない。まだ気を抜かない方が良さそうだな……。


「ゲイルがいなかったら危なかったにゃ。助かったにゃ~……あれ、でもどうしてここにいるにゃ?」


 それは俺も気になる。

 

「ソイツが変なマネしないかずっと見張ってたんだよ」


「ソイツじゃないにゃ! ソウセイにゃ!」


 リコが両手を上げてプンプンしてる。


 どうやら俺はずっと見張られていたらしい。モーファーを見つけたあのときの臭いは、どうやら俺ではなくゲイルのものだったか。

  

 しかしこの臭いでグレイヴウルフに見つからないものなのだろうか?

 

「よく見つかりませんでしたね……その、臭いとかで見つからないんですか?」


「グレイヴウルフはこの臭いを嫌うからな、都合がいいんだよ」


 そうなのか……。逆に引き寄せそうなものだが。

 

 グレイヴウルフを見ると後頭部に矢が刺さっていた。

 

 枯れた雑木林まで結構距離があるし、中への隙間は横幅一メートル四方しかない。どこから撃ったのかは分からないが、それでもこの隙間を通すほどの腕がこの男にあるようだ。

 

 剣や格闘で戦いそうな雰囲気だが、彼、もといゲイルは弓の名手みたいだ。

 

「いたならさっさと助けるにゃ!」


「イテェ!?」


 リコがゲイルの足をゲシゲシ蹴っている。二人の仲は良さそうだ。あ、リコが襟首を掴まれて持ち上げられた。

 

「はーーなーーすーーにゃーー!!」

 

「離したらまた蹴るだろお前」 

 

 リコの重さは三十から四十くらいありそうだが、それをゲイルは片手で易々と持ち上げている。リコがそれ以上に軽いのか、ゲイルもまた筋肉マンなのか。


「あっ、またグレイヴウルフはきませんか?」


「言っただろ、アイツらはオレの臭いを嫌っている。鼻が良いからな、この臭いに気づいて寄ってこねーよ」


 狼って汗のすえたような臭いが嫌いなのだろうか……いや、ここは異世界でグレイヴウルフは地球の狼とは違う。これは考えても仕方ないことだな。

 

「なぁ」


「は、はい?」


「バケットの中のお湯はいいのか?」


 ゲイルに言われて気がついた。そういえば粘土バケツをキャンプファイヤーにかけていたんだった。

 

 確認すると粘土バケツの中の水は沸騰してお湯になっていた。少し時間が経ってしまったのか、お湯は半分くらいまで減っていた。

 

 だが。クラフトしたキャンプファイヤーと粘土バケツで、クラフトシステムを使わずにお湯を沸かすことができた! 俺の中でこれはとても大きな発見だ!

 

 ……少し興奮してしまったな。しかし、どうやって飲むか。

 

 粘土バケツから水を飲む仕様はなかったが、まぁ普通にこれ持って飲むことができるだろう。……できるよな? 

 

 もし仮にできなかったとしても、水源からダイレクトに飲むことはシステムでも可能なので、最悪その手でいくしかない。

 

 今のところシステムに阻まれてできなかった行動はアイテム譲渡くらいか。

 

 そしてもう一つの問題として、これがまだ俺が飲める水とは限らない。川の水を沸騰しただけで現代人の俺が飲めるとは到底思えないが、生のまま飲むよりかは幾億倍マシだ。

 粘土バケツを持って確認したいが、熱されている粘土バケツを持つほどアホではない。

 

 せめて缶があればキャンプファイヤーで飲み水をクラフトできるが、この世界に缶が存在するとは思えない。旋盤があれば缶をクラフトできるが、旋盤をクラフトするための鋼鉄が無いし、鋼鉄をクラフトするにはまだまだ道のりが長い……。

 

 フォージをクラフトして、砂を入れて溶かしてガラス資材に変え、そこから瓶をクラフトする。これが安全に飲める飲み水の最短ルートだろう。

 

 フォージを作るための障害が鉄のショートパイプだが、これを入手するのにも時間がかかる。それまでの間、沸騰させた川の水で凌ぐしかない、か……。

 

 ワールドクラフトでは汚い水のまま飲むと、ニ十パーセントの確率で病気にかかるデバフがつく。このデバフがついても死ぬことはないが、スタミナの消費が激しくなり、行動することがかなりキツくなる。治すためにはゴールドハーブティーを飲めばいいのだが、この異世界ではまだゴールドハーブを見かけていない。

 

 まだまだ問題が山積み過ぎる……。

 

 あまりの問題の多さに苦悶し、俺は頭を抱えて仰け反った。

 

「……おいリコ、アイツさっきからあんな調子だが、大丈夫なのか?」


「大丈夫にゃ。……多分」


「それにしても、コレ、アイツがやったのか」


「アイツじゃないにゃ! ソウセイにゃ!」


「イテテテッ!! 分かったから蹴るな!!」


 気がつくとまた二人がじゃれている。まるで兄妹みたいだな。俺にも妹がいたが、妹の反抗期はもはやトラウマレベルだった……いや、忘れよう。思い出したくないことまで思い出すところだった。

 

 一直線に誘導するために設置していた両横と天井の木枠を回収する。縦ニマスの空いている空間には木のドアをクラフトして設置した。これで良いだろう。

 

「ハン、大したもんだな」


 ゲイルが木のドアを注意深く見ている。

 

「こんな感じで、あとは屋根と床を設置すれば家として使えますから、集落にいる人達に作って上げられればと思っています」


「……余計なお世話だっつったらお前はどうする?」


 ドクンッ。

 

 心臓が高鳴り、全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、血の気が引いた。


 余計なお世話。俺は現代世界でも良かれと思ったことが裏目にでることが多々あった。今回も余計なお世話だったのだろうか。

 

「え、ええと……それは」


 頭が真っ白になって何も言えない。何を言えばいいのか分からない。


「……」


 声が震える。絶対喜んで貰えると思っていた。だがそれは俺の基準で物事を考えた場合だ。世界が違えば価値観も違う。俺は甘かっ――

 

「ゲイルのアホにゃーーーー!!」


「ッテェェェェーーーーーーーー!!??」


 リコの渾身のトーキックがゲイルの脛にクリティカルヒットした。

 

「ソウセイが困ってるにゃ! リコやミリアムはソウセイが作ってくれるって言ってくれて、凄く嬉しかったにゃ!!」


 リコが涙目になりながら怒っていた。

 

「っつぅぅーー……。冗談だよ冗談、試しただけだ。だからそんな怒んなよ……」


「なんでそんな試すようなことするにゃ……」


「リコ、ミリアムもそうだがお前らはあめーよ。コイ……ソウセイは人間だぞ? 人間が俺達にしてきたことを忘れたのか?」


 やはりこの世界の人間がしてきたことの根が深い様だ。

 

「でもソウセイはこの世界の人間とは違うにゃ! リコ達を助けてくれてるにゃ!」


「その助けるのが、あとでお前達を奴隷として売るためだったとしたらどうする?」


「えっ……」


「待ってください、いくらなんでもそれは言い過ぎでしょう、流石の私も怒りますよ……!」


 言葉では丁寧に話しているが、内心ブチ切れる寸前だ。

 

 最初は俺の認識の甘さもあったが、これは違う。

 

 流石の俺も頭にくる。ゲイルに詰め寄った。

 

「……お前と同じことをして、オレの言ったことをしてきた人間を、オレは見てきてるんだよ」


「……!」


 もしそれが本当なら、ゲイルの俺に対する態度も少しは納得できるが――

 

「そ、ソウセイはそんなことしないにゃーー!!」


 リコがそう言ってくれるのは嬉しいが、少し不安になる。まだ出会って数時間しか経っていないのに、どうしてそこまで俺を庇える?

 

「リコ、お前は人間の狡猾さを知らないからそんなことが言えんだよ」


「……そこまで言うなら、あのときグレイヴウルフを倒さないで俺を殺していれば良かったんじゃないですか?」


 正確な射撃ができるゲイルなら、俺がグレイヴウルフに攻撃されたあとでも十分倒せるはずだ。そこまで言うなら俺を見殺しにすれば良かった。いや、いくらでも俺を殺す機会はあったはずだ。


 (かぶり)を振ってゲイルは溜息を吐いた。


「お前が死ねばリコが泣くかもしれねぇだろ」


「……それだけですか?」


「ミリアムの言葉が嘘になって、集落のやつらが見つけたせっかくの希望も無くなる。だから助けた」


 ゲイルが俺を助けた理由は、俺に利用価値があるからという理由なのだろう。

 

「だからオレがお前を死なせない、だがお前がおかしなマネをすれば――オレがお前を殺す。覚えておけ」


 ゲイルのその声と視線に刺された気がして、俺は気圧された。

 

「……大丈夫です。何があっても私は貴方達の味方であり続けますから」


「フン……」


 ゲイルはそれだけ言って、俺がクラフトした椅子に乱暴に座って足を組み始めた。

 

「あーーーー!! それはリコが貰った椅子にゃーー!!」


「うるせぇな、ケチケチすんなよ」


「どーくーにゃーーーー!!」


 リコは大きく右足を後ろに下げ、その結果、川辺にゲイルの悲鳴が木霊した、ような気がする……。


 展開が面白くてもつまらなくても、どんなところが面白かったとかつまらなかったと言ってもらえると、今後の展開の参考になりますので、是非とも遠慮なく一言だけでも感想をいただけると、嬉しいですし助かります。

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[一言] トラウマ持ちらしいが 主人公が頭おかしすぎてキツイ
[良い点] βの方を先に読んできました。こちらの方が荒削りではあるものの真っ直ぐで気持ち良く読めます。 βの方は伏線を張るだけ張って回収していないし、作者だけが理解しているのであろう『含みを持った』表…
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