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13/48

13:簡易迎撃拠点建築

 

 日時は1日目 13:43。

 

 インベントリに残っている木材をウッドスパイクとウッドスピアにクラフトしていく。

 

 ウッドスパイクはとりあえず十個くらいでいいだろう。これは一個作るのに木材十個と、クラフトの時間が一分かかるのがネックだが、その分効果は折り紙付きだ。耐久値はそこまで高くないが、高威力で足止めもできる優れ物――なのだが、優れ物過ぎて何回も弱体化されたトラップアイテムという歴史がある。それでも十分使えるので問題は無い。


 どのくらい使えるかと言うと、拠点周りを囲むように三列ほど敷いただけで、ラプターや他のモンスターを処理できるくらい強力なトラップなのだ。勿論プレイヤーキャラクターが踏んでも大ダメージを受け、装備無しの状態だと二回のダメージ判定で死んでしまうほど強力だ。たまに自分でウッドスパイクを踏んで事故ることも少なくない。

 

 そしてクラフト予約枠にはクラフト中のウッドスパイクの次にウッドスピアが予約中だ。

 

 ウッドスピアも十本ほどクラフトする。これも耐久値は高くないが、そこそこの威力で射程もあるので、比較的安全に戦える武器だ。突いて攻撃するのがメインだが、投げ槍としても使えるので、スペアは用意しておくのが良いだろう。

 

「とりあえず今準備をしているので、リコさんは周囲の警戒をお願いします」


「任せるにゃ!」


 リコと二人だけ。内心バクバクだ。冷や汗が出てくる。

 

 何故なら俺は焦っている。いつモンスターが襲ってくるか分からない。リコが見張っているとはいえ、今群れで来られたら流石にヤバイ。


 ミリアムを本当に一人で戻らせてしまって大丈夫だったのか。やはりリコも一緒に行かせるべきだったと後悔している。だがもう遅い。あとは天に祈るしかない。

 

「ソウセイ? 凄い汗にゃ。大丈夫かにゃ?」


 リコが心配してくれている。いや、心配させてしまった。情けないな。

 

「大丈夫です、ちょっと考え事をしていただけなので」


 カコン。

 

 視界の右下にウッドスパイクがプラスされたログが出た。一つ目が完成したようだ。

 

 ウッドスパイクを設置する前に、まず木枠で距離を測る。

 

 モーファーとキャンプファイヤーを囲むようにウッドスパイクを設置するため、まず横に――あ、木枠ブロックで囲って強化して、視線を切ればいいのでは? ウッドスパイクは強化した木材ブロックに隣接させるように設置しようそうしよう。

 

 まだ残っている木枠ブロックを急いで設置してく。急げ急げ。

 

「おおおお、どんどん木の枠が積みあがっていくにゃー!」


 ぽんぽんぽんぽんとリズム良く木枠ブロックを設置していき、急ピッチで全方向に木枠ブロックの壁を設置した。

 

 正面が縦三マス、横十マスの三十個。両面も縦三マス、横八マスの二十四個。後方の川側にも正面と同じ三十個の木枠ブロックを設置。これで木枠ブロックは残り僅かになってしまった。あとでストックしておかないとマズイな。

 

 インベントリにはウッドスパイクが五個ストックされていた。周囲を囲うにはまだまだ足りない。とりあえず木枠ブロックを強化して木材ブロックにしていこう。

 

「あれ、でもこれどうやって外に出るにゃ?」

 

 リコが首を傾げている。リコの言う通り出入り口はないのだが、あとで正面の木枠ブロックを外して木のドアに付け替えればいいだろう。ドア設置予定以外の場所の木枠ブロックの強化を開始した。

 

「あとで正面にドアを設置するから大丈夫ですよ」


「なるほどにゃ」

 

 まずは正面から強化を始める。正面が一番敵に見つかりやすいからだ。後方の川も反対の岸から見つかるが、川を挟んでいるので大丈夫だろう。

 

 トントントントンと木枠ブロックを強化する音と、川のせせらぎが合わさって心地よい。

 

 リコの視線を感じる。何か話したほうがいいだろうか?

 

「ソウセイって本当に人間なのかにゃ?」


 リコのほうから話かけてきた。

 

「人間ですよ。いや……人間のはずです」


 正直ゲームシステムを持つ俺を人間という枠組み入れてしまっていいのか疑問である。


「……人間は獣人をただの道具としか思ってないにゃ。でもソウセイはそんなことするようには思えないにゃ」


 やはりどこの世界でも同じなんだな。


「私の居た世界では、人間が人間を道具のように、使い捨てるように扱っていましたからね。よく分かりますよ」


「ソウセイの世界も似たようなものかにゃ……」


「だから私は人間は嫌いです」


「でもソウセイも人間にゃ」


「はは、そうなんですよね」


 苦笑いでリコのツッコミに返す。

 

 そうこう話してる間に正面の木枠ブロックの強化が終わった。ふと立ちっぱなしになっているリコを見て気がついた。

 

 俺はクラフトウィンドウを開き、木の椅子のクラフトを始めた。流石にずっと立ちっぱなしは疲れるだろう。椅子に座らせてあげたい。

 

 カコンという音とともに木の椅子のクラフトが完了した。ツールベルトにセットしてリコの目の前に椅子を設置する。

 

「にゃ!?」


 リコが突然現れた椅子に驚いてバックステップした。ちょっと面白い。

 

 木の椅子は四脚に四角い座があり、細工の施されている少し長めの背もたれが特徴的だ。なんとコスト木材六個で作れてしまうお手頃家具。

 

「あぁ、すみません。これは木の椅子ですので、良かったら座って待っていてください」

「びっくりしたにゃ……」


「驚かせてしまってすみません。座り心地はあまり良くないかもしれませんが、立っているよりかはマシだと思いますので、どうぞ使ってください」


「……分かったにゃ」


 リコが木の椅子に座った。リコの小さい体には大きかったのか、足を浮かせプラプラさせていた。

 

「どうですか?」


「ま、まぁまぁにゃ」


 リコの尻尾がピンと立っていた。嬉しかったのだろうか。


 ともあれこれで後顧の憂いは無くなった。作業に戻ろう。

 

 その後は特に何事もなく残りの面の強化も終わり、あとは正面の未強化の木枠ブロックを木のドアに付け替えれば終わりだ。木枠ブロックを回収しようと触れようとした瞬間だった。

 

「待つにゃ!!」


 リコが声を荒げた。瞳孔が細くなり猫の目になっている。この感じは――

 

「そこから離れるにゃ!」


 その瞬間、木枠ブロックに何かが凄まじい勢いでぶつかってきた。

 

「グレイヴウルフにゃ!!」


 グレイヴウルフと呼ばれた個体を見た。毛色は銀と白が入り混じり、体高は木枠ブロック一個分だろうか、デカく感じる。ワールドクラフトにもダイアウルフという狼がいたが、それよりかは少し小さく見える。

 

「グルルルルルルルルル……」


 グレイヴウルフの頬肉が上がり、鋭い牙が見える。なるほど、犬歯の部分が槍の穂先のグレイヴのように見えることから、グレイヴウルフと呼ばれている、のか?

 

 突っ込んできたグレイヴウルフの後ろに更に一匹のグレイヴウルフがやってきた。つがいか?

 

 何故グレイヴウルフがここへやってきたのか考える。思い当たるフシがあった。俺はモーファーの死骸を見る。リコが付けたであろう切り傷から血が滴り落ちている。


「血の匂いに釣られたか……!」


「ま、まずいにゃ……ソウセイ……」


 リコが泣きそうな顔で俺を見ている。俺だって泣きたいくらいだよ……。

 

 グレイヴウルフはうろうろと歩き回っていた。どこか入れるところを探しているのだろうか。

 

 今の内にウッドスパイクの残りのクラフトをキャンセルし、ウッドスピアのクラフトに切り替える。クラフトしたウッドスパイクは八番目のツールベルトにセットし、木枠ブロックの前に設置した。ウッドスパイクは高さ一メートルの、先端が削られて鋭く尖った木材が綺麗に組まれたトゲの罠だ。横から見るとXに見える。

 

 仮にグレイヴウルフが木枠ブロックを破壊しても、このウッドスパイクを越えなければこちら側にはこれない。それを最大限利用するために、設置したウッドスパイクの両側に残り僅かの木枠ブロックを二段重ね、それを壁から二マス伸ばす。そして二マス目にもう一個のウッドスパイクを設置した。

 

 飛び越えられないように三段目にも木枠ブロックを設置して、ウッドスパイクの上に簡易屋根を作る。一本道に限定して確実にウッドスパイクを踏ませる通路を用意した。これで簡易迎撃システムの完成だ。

 

「バウッバウッバウッ!!」


 入口を見つけられなかったグレイヴウルフがヒビの入った木枠ブロックに体当たりした。

 

 木枠ブロックのは木材で作られた木の枠組みなだけで、スカスカで視線は通るが、視線と飛び道具と水は通しても、それ以外の物体を通すことはない。だから木枠の隙間から侵入されることはないのが強みだ。

 

 バカン!!


 ヒビの入っていた一段目の木枠ブロックが体当たりで破壊され、その勢いでグレイヴウルフが侵入してきた。

 

「ソウセイ!!」


「リコは下がって!!」


「は、はいにゃ!」


「バウッ!!」


 間近で吠えたグレイヴウルフに体が震え、鼓動が早くなる。だが――


「キャインッ!」


 侵入してきたグレイヴウルフは勢いのままウッドスパイクにハマり悲鳴を上げている。


 ウッドスパイクは縦の当たり判定が見た目よりも大きく、確実に一マス余裕を持って超えないと引っかかってダメージを受けてしまう。故に越えさせないように天井部分を設置したのだ。隙間を抜けられるという一抹の不安はあったが、こちらのシステムが勝ったようだ。

 

 この隙にリコを俺の後ろに下がらせ、インベントリからクラフトの完了しているウッドスピアをツールベルト七番目のスロットにセットし、意識を七番目のスロットに集中して装備した。


「……恨むなよッ!!」


 俺はウッドスピアを両手で掴み、ウッドスパイクにハマっているグレイヴウルフを攻撃した。

 

「キャインキャイィン!」 

 

 ウッドスピアはグレイヴウルフの腹部を貫き、悲痛な叫びが響き渡る。グレイヴウルフは激痛にもがき暴れるが、暴れるだけウッドスパイクでその身を傷つけていく。だが全く効果がない訳でもなく、ウッドスパイクが徐々に壊れていた。

 

 その悲鳴に泣きそうになったが、やらなければ俺達がやられる。俺が死ねば後ろのリコも死ぬ。それだけは絶対に避けなければいけない。もう二度と失いたくない……!

 

 俺は何度も何度もグレイヴウルフの体をウッドスピアで貫いた。


 ウッドスピアを伝ってグレイヴウルフの血が手に付着する。

 

 そうしてグレイヴウルフは悲鳴を上げなくなり動かなくなった。ウッドスパイクもグレイヴウルフの抵抗で破壊され、完全に壊れてしまい消失していた。

 

「ソウセイ、まだくるにゃ!!」


 息をつく間もなくもう一体のグレイヴウルフが二段目の木枠ブロックを体当たりで破壊して突っ込んできた。一体目の攻撃で二段目も壊れやすくなっていたようだ……!

 

 しかしグレイヴウルフは二列目のウッドスパイクに引っかかり、体に幾つものスパイクが刺さる。

 

「キャイン?!」

 

「くそがあああああああ!!」


「そ、ソウセイ……?」


 俺は無我夢中でウッドスピアを突き出しグレイヴウルフを攻撃した。

 

 何度も何度も刺した。何度も何度も何度も何度も何度も動かなくなるまで刺した。


 これはゲームじゃない。現実だ。

 

「キューン……クゥーン……」


 クソッ、そんな声を出すなよ……。

 

 俺はまた泣きそうになっていた。昔犬を飼っていたことがあったから、そのせいかもしれない。意識したくなくても愛犬だった犬とグレイヴウルフを重ねてしまう。見た目も全てが違うのに。

 

「……ソウセイ、だ、大丈夫にゃ?」 


 リコが隣にやってきて俺を慰めてくれている。少し怯えているような気がするが……そうか、口調が変われば驚きもするか……。


 俺の両手は震えている。初めて自分のこの体で、この手で、ゲームではない現実で、他の生き物を、動物を殺してしまった。この感触は一生忘れることはないかもしれない……。


「大丈夫、大丈夫ですから……これで危機は――」


「――まだにゃ!!」


 俺は俯いていた顔を上げた。新たな三匹目のグレイヴウルフが俺ではなくリコへ飛びかかろうとしている。

 

 景色がスローモーションに見える。動かないと。今動かないとリコが――

 

 俺は無我夢中でリコの前に出て、リコを庇った。


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 2019/07/11 ウッドスパイクの描写を加筆修正しました。

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