プロローグ
「悪は絶対にゆ“る”さ“ん”! 変! 身!」
「…はいカットー! 倉谷さんの本日の撮影これで終了でーす。次、アクションシーン行きまーす!」
ここは某所にある撮影現場、今は50年間シリーズとして続いている特撮ヒーロー『仮面ブレイバー』そのシリーズの最新作『仮面ブレイバー オニキス』の撮影中である。
今作の主役を務める『倉谷 てつお』に監督からの今日の撮影の終了が告げられると、真っ黒い全身タイツの様なスーツに派手ではない飾りつけや赤や黄色のラインが入った衣服をまとい同様に黒いフルフェイスのいかにもヒーロー物の様なヘルメットをかぶった一人の男が倉谷と入れ替わる様に倉谷の立っていた場所に立つ。
仮面をかぶった男はヘルメットの中で深呼吸をすると倉谷が最後に取ったポーズを構える。
「高元さん入りまーす! シナリオ12! シーン35! テイクワン!」
「今日も頼むぞ! 高元ぉ!」
「お疲れっしたー!」
「お疲れー。 今日も暑かったなぁ!」
「でも無事晴れてよかったっすよ。今日の最後のシーンはあの夕日が無いと…」
「だな! しっかし、さすがはミスター仮面ブレイバー高元 誠次郎さんだよなぁ! あの最後の立ち姿! アレはあの人じゃなきゃ出せねぇよ!」
「世辞を言っても今日の飲みは奢らねぇぞ? 徳永。」
「ええ! 世辞じゃないっすよ! 俺、マジで高元さんに憧れてこのヒノモトアクションエンターテインメントに入ったんすから!」
「おぉおぉ~んじゃ素直に受け取っときましょうかね。しっかし、お前も変な奴だよなぁ、普通変身ヒーローに憧れるって言ったら、あっち側でしょうよ?」
無事撮影が終わり、撮影スタッフは撮影所に併設されている控室のシャワーで汗を流すなどをして、今日の撮影を笑いながら振り返っている。
シャワーを浴びて汗を流した高元は徳永と呼んだ男の後ろに近づくと自分の後ろに立って他のスタッフと談笑している倉谷 てつおを親指で刺す。
「お前さん、今風の顔だし、十分あっち側で行けたと思うぞ?」
「解ってないっすね~高元さん、そりゃ子供の頃なら俺もアッチ側だったでしょうけど、俺はコッチが良いんす。」
「っても、俺たちゃ、いわば裏方、顔は出ねぇんだぞ?」
「確かに世間一般での認識では、仮面ブレイバー=主役俳優っすよ。でもそうじゃない事は倉谷さん含め、俺達はみんな知ってるっす。俺、気付いたんすよ。俺が憧れたのは格好良いヒーローじゃなくって、そのヒーローを最も輝かせる事の出来るスツアクなんだって。」
そう徳永が熱く語ると、高元は照れ隠しに徳永の頭を乱暴に掻き回した。
「次の撮影から二号ブレイバーの登場だ、頼んだぜ! 徳永!」
「うっす!」
そう言って、徳永の後ろを着いて行くように、高元は控室を出ると、そんな高元を狙いすましたかのように一筋の雷光が直撃した。