僕の名は
僕は何て名乗ればいいのだろうか――――――
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ダメだ。何も思いつかない。
「ねぇ聞いてる?名前は――――――」
よし。自分の名前を少しずつ変えていこう。
『月読』、『ツクヨミ』、『TU KU YO MI』、『TU KI YO MI』、『つきよみ』、『月読』
う~ん。漢字は一緒だけど、これでいっか。そして僕は嘘をつかない正直者だから――――――
「僕は誠。『月読誠』です。」
『月読誠』。とっさに付けたけた名前だけど、いい名前じゃないか。(今僕は偽名という嘘を使った)
「誠?女の子なのに男の子の名前?ま、いっか。これからよろしく。誠君って呼んでいい?」
「いいよ」
耀のセリフの前半分は聞き取れなかったが、まあいいだろう。
握手を求めて差し出された耀の手を僕はしっかりと握った。
握手の手が、右手じゃなくて左手だったらいいのに。と、左利きの僕は思った。
「耀、病院は?」
熊女が後ろから話しかけてきた。その事に驚き僕と耀は振り返る。
「母さん。えっとその~、あの~、そう!誠君が無理やりこっちに連れて来たの。病院から逃げ出したんじゃないわ」
ギロ!
「そうなの?」
熊女が容赦なく僕を睨みつける。
「え、え、え、え、え、え、えっとですね、病院はつまらないから外に出してあげようと思って――――――」
「殺ス」
「ちょ、ちょっと待って!
病院って病気の人達がいるべき場所だよね?」
「ええ。それが?」
熊女が僕を睨みながら言った。
「じゃあ、耀は病院にいとかなくていいよ」
「何言ってるのかしら?」
熊女さん目が怖いよ~
僕はこっそり術を使い、術で耀を健康体にした。
そして、ちゃんと不自由なく生活できるように一般的な成人男性と同じくらいの筋力もプレゼントした。
(術の力で力を増やしたので、筋肉量の増加などの外見の変化はない)
あっさりと「健康体にした。」と言ったが、ホントは凄い事なのだ。
僕もかなりの力を使っちゃったから、一か月はこの術が使えない。(と、思う)
「耀!立ち上がってジャンプをして!」
「私の耀に何させようとしてるの!」
「そうよ!私、体が弱…」
戸惑っている耀に僕は、「いいからやって」と、叫ぶ。
僕に脅された耀は慌てて立ち上がり、軽くのつもりだろうが、一メートルほどジャンプする。
ドン!
天井に頭をぶつけた。飛びすぎだよ…。
ドテ!
耀はちゃんとジャンプしてくれたが、着地に失敗し、勢いよく床と接吻する。
あ、
いくら体が健康体でも、力の使い方を知らなかったらダメだったか…。
「いてて…」
「ね。ホラ、飛べたでしょ」
にこやかに言う僕だったが、
「何させるのよ!」
と、立ち上がって怒り出す耀。
「まぁいいじゃん。
元気になったんだし。」
「言われてみれば…私、元気だわ」
「耀、本当?」
手を取り合う二人。感動の親子愛。
「昨日までは体が弱い光だったのよね?」
「うん」
え?どうしてそんなこと聞くのだろう?
「特に何の治療も受けてなかったのよね?」
「うん」
ちょっと…その会話にどういった意味があるのかな?
「私に入院費先払いさせた詐欺師にしてやぶ医者の先生から、払ったおお金を倍にして取り返さなくちゃ♡」
語尾の♡が気持ち悪い。
「その意気だよ母さん!」
耀、なんか元気になって変わったな。怖い方に。
「この子が来てから耀が元気になったんだ。
この子、もしかすると神様なのかもね」
「ははっ、僕はそんなんじゃないですよ」
すいません。今の嘘です。
そのもしかです。
「まあ、いいや。
今日は耀が元気になった日であり、新しい家族が出来た日だ。
昼と夕飯はごちそうだ!今日は飲むぞ!」
「やったー!久しぶりのお酒だ!」
「誠君はお酒飲んじゃだめよ。」
「耀、ケチはやめてよ」
「子供はお酒を飲んじゃダメなの!」
「そんなぁ」(泣)
酷い。あんまりだ。
僕が大好きな『米麹100%の甘酒』が飲めないなんて…
涙目になる僕。
そんな僕を見た二人は小声で話し始める。
「誠君、今までどんな生活をしていたのだろうね?」
「そうだねぇ?
服は高そうな着物だけどボロボロだし、何だろうね?」
「一つ言えるのは誠君がお酒好きだという事だね」
「ああ。こいつにはアルコールを与えないようにするよ」
「ん?何を話しているの?」
「な、何でもないよ!」
「ふ~ん。」
何を話してたんだろ?
ま、いっか。
「ねえ、お腹すいたー」
「朝ごはんまだなのかい?それじゃあ、持ってくるよ」
耀のお母さんは僕達の朝食を台所まで取りに行ってくれた。
「誠君。」
「何?」
「着替えたら?」
「え?」
あ、
確かに僕の服はボロボロだ。
僕が着ている立派だった黒い着物は、千年以上の着用でボロボロになり、更に、鉄の怪物の攻撃により大きな赤い染みができてしまっている。
これでは衛生面も精神衛生面もよくない。
着替えた方がいいだろう。
でも、
「着替えるの面倒だからいいよ」
ここれが僕の答えだ。
「え、でも、ボロボロだし、赤く汚れているよ」
「このくらい大丈夫だよ」
にこやかに答えたが、耀は汚物を見るように僕を見ている。
「ダメだよ!
すごく汚れているし、ボロボロじゃない!
臭いよ!」
「そうかなぁ?」と、自分の服の匂いを嗅ぐ。
うん。臭くない。無味無臭だ。口にしたわけじゃないので味は分からないけれど、多分味はない。
「臭くないよ。」
「そんなわけ…あった。」
服の匂いを嗅いだ耀が不思議そうに首を傾げた。
僕は神だ。だから、汗などで服が汚れない。
なので、千年も着続けて服でも臭くならないのだ。
それでも、服は赤い血にに染まっているけど…。
「それでも、着替えたほうがいいよ。
いいお嫁さんになれないよ」
ん?お嫁さん?
そんなものになる気はないから平気だよ。
「大丈夫だよ」
「はぁ………………………」
大きなため息をつく耀。
そこに耀の朝食を持ってきてくれたお母さんがやって来た。
「あ、母さん。
ねぇ、母さんも誠君に言ってよ」
「何を?」
「『着替えて』って言っても聞いてくれないの」
「別にいいじゃない。」
同感。
「ダメだよ。この服、ボロボロだし、血が付いているよ」
「それは血じゃないわよ」
いいえ。血です。
「そういうデザインなのよ。
最近はボロボロの服が流行中なのよ」
え?そうなの?
人間が考える事は分からないなぁ。
「なんだ、そうだったの!
そうなら、そうと言ってくれたらいいのに」
また一つ、誤解が生まれた様だ。




