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真の騎士編


召喚魔法陣によってオリトルエは暗闇の廃墟に置き去りにされた。

手当はされたと言えど這って進むことすらできない身体は死を待つのみであった。

徐々に体温が奪われていく、呼吸が途切れ途切れで小さくなっていき命の灯が消えようとしている、

月明りもない星もない、光源が何一つないその廃墟だが世界で唯一無二の存在が封印されていた。

その者の名は誰も知らないがその者を指し示す畏怖の敬称は誰でも知って居る、

彼は”魔王”世界の半分、闇の世界を支配し長い歴史の中で唯一神々に恐れられた者、そしてその神々の力によって封じられた半神でもあった。


そんな彼の領域に強い魔力反応が起こり今にも命が消えかかった生命体が取り残された。

封印され数千年を生きた彼に数百年ぶりの訪問者である、自らが支配する世界と言えどただ孤独に耐え永遠にも近い時を過ごすには退屈過ぎたのだ。

そして気まぐれでその訪問者を自らの足元に転移させ、魔王であるが下位の回復魔法を修めていたため、その者の傷を死ぬ危険が無い程度にまで回復させた。


とはいえ傷が塞がろうとも生命体は起き上がることはなくそのまま眠り続けていた。

せっかくの客人である、数百年という歳月に比べれば数時間や数日待つことなど億劫に感じることでは無い。

ゆっくりとその小さき者の意識が戻るのを楽しみに、再び目を瞑ったのだった。




俺は体に違和感を覚え目を覚ました、だがそこは真っ暗だった。

体の感触・服の感触・土の感触はあるのに見えない、色が無かった。

そしてこれは夢なのではないかと考えた、俺は今城に卑怯な手で追い詰められ生死を彷徨っていると、そう考えればこの意味の解らない状況にも理解が付く。

であるならば、ここに留まっていることは最悪の行動だ、まず移動しなければと周囲を見回して光を探したがそれらしき物は見えなかった。

ただ出鱈目に歩くのは愚策だ、だがこんな闇の中方向感覚もないというのに一体どうすれば。

そう頭を悩ませていた時、声が聞こえた。


「ようやく目覚めたか、小さき者よ」

「・・・・・!だ、誰だ!?どこにいる!?お前が俺をこんな場所に連れてきたのか!?」

「寝起きでよう喋る、まずは1つだけ質問を聞こうか」


「この暗闇はなんだ?幻覚魔法か」


男の声であった。

その声は全方向から聞こえてくるように感じ、居場所を絞り込むことは出来なかった。

男は少し呆れた風に言葉を喋り、質問をせよと言った。

そこで俺はこう考えた、これは夢だと。

そしてこの声の主が自分の心を現した何かで、あの時のように自分はまた試されているのだと。

だから、慌てることはせず少しずつ情報を聞き出そうとした。


「この闇は余の闇であり世界の闇である、幻覚魔法などという下級なものではない」


「そうか、なら次だ。俺はこの後どうなる?」

「知らぬ、何もせねば息絶えるであろう」


「では次。ここは何処だ?」

「余の世界だ」


質問を続けていくにつれ仮定は確信に変わっていく、やはりここは夢か幻の世界なのだ、そして俺はそこで彷徨っている。

このままこの場に居続ければ意識がなくなり現世に戻れなくなる。


「大体わかった。つまりお前を倒せば俺は自分の世界に戻れると言う訳だな!?」

「何を言っておるのだ?」

「これも試練とかいう奴のだろう?最初は面食らったがそうと分かれば話が早い」


「其方は・・試練?まさか、其方・・・その刀は」


声の主は困惑している、よしよし、早くも企みがバレて焦っているな?

でも待ってなどやらんぞ、俺はあいつを置いてきたままなのだ!あの勇者から守らなければ。


「余からも質問する。其方はダンジョンを踏破したか?」

「あ?したけど、そんなこといま関係・・・」


”正”


「うっせ!なんだ今の嫌な音は!?」

「なるほど、あやつを倒したのか。確かにその刀は余の・・・」


急に声のトーンが上がり、それに不思議がって答えると猿の泣き声の様な音が聞こえ耳を塞いで悪態を吐く。

声の主は納得した風にカタナがどうとか言ってくるが、そんなことは今はどうでもいい、俺は早く戻らなければならないんだ!


「凄まじい闘気だ、人間がここまで闘気を極めるなどこの数百年間でどれほど進歩したというのだ」

「何を訳の分からないことを言っている!さっさと姿を現して戦え!」


「其方が何か勘違いをしていることは分かった。そしてその言葉に従おう」

「うわっ!まぶ・・し・・」


驚いた声を上げる主が俺の言葉を承諾すると辺りが明るく照らされ、暗闇に慣れていためを慌てて覆うと奴の姿が露になった。


「先に名乗らせていただこう、余は魔王。闇の世界を支配する最強の魔王なり!」

「まおう?魔王?じゃお前は試練のあいつが言っていた魔王!?」


「余の姿に驚きはすれども恐怖は無いか、大した奴よ!」


光が収まり夕闇のような明るさとなった廃墟には2つの灯篭の明かりがともり、その間に巨人が巨大な椅子に座り頬杖をついてこちらを見下ろしていた。

その巨人が聞き覚えのある単語を言うとつい最近の記憶が呼び覚まされた。

魔王・・俺が戦った試練の主だ。

明らかに異質な存在だった、そして何よりそこが知れない力を秘めていた。

先ほど俺のことを感心している風に言っていたが、この姿を見せられてはそれも皮肉と言うモノだ。


「其方の闘気といいステータスといい、全く人間で居させておくには実に惜しい」

「ちょっと待て、今ステータスとか言ったな?分かるのか?俺のステータスが!」

「何をおかしなことを言っておる?そんなもの大概のものは自分で見れるに決まっているではないか」


「は?自分で、見れる?」

「其方は少し奇妙な数値であるからな、通常の式では表示されぬかもしれぬ。どれこれで見せてやろう」


俺は魔王の言葉に惹かれた、ステータス。

勇者達がその言葉を口々に出し自分達の成長を喜んでいた魔法の言葉。

そしてそれ以外の者は看破の水晶でしかその存在を知ることが出来ない、不思議な力。

その存在に気付いたのもつい最近のことだ、それこそあのダンジョンで知り得た知識だった。


魔王は俺のステータスを見せてやると言い、何か呟くと目の前に看破の水晶と同じ位の球が飛んできて空中で停止した。

そして俺の周りを2周したところで変な数字が頭に入ってきた。




個体名 オリトルエ

種族 人間 性別 男

Lv50/50 限界突破無し

Lv50/99 限界突破有り


HP 2000/7000

MP 120/400

STR 769

DEF 477

AGI 630

INT 110


LUK 890


スキル 風魔法ⅠⅡⅢ(風の刃・真空波・暴風剣) ヒールⅠ 両断Ⅴ

バッシブ 騎士道


なんだこれ?

個体名・種族・スキル・性別、ここら辺は何となくわかるがその下の数字と文字みたいなのはなんだ?


「それがステータスというものだ。簡易的に説明すると上から生命力・魔力・攻撃力・防御力・素早さ・賢さ・幸運という項目が連なっている」

「は・・・はぁ」

「其方は全てにおいて非常に高い数値を叩きだしている。例えるならば、昔の英雄と呼ばれる者は攻撃力などの数値が300を1つでも超えている者のことを指し示したそうだ。そして達人と呼ばれる者達はその数値が100を超える者達を言ったのじゃ」

「・・・・つまり?」

「其方は超人中の超人であると言っても過言ではない。余の右腕のステータスは平均500であった、それに迫るか同等の強さをもう身に着けておる。恐ろしいのぉ」


魔王が球をくるくるさせながら説明をしてくれる。

そして俺の数値の異常さも教えられた。

大昔の英雄か・・・今より遥かに冒険者の質が高く多くのダンジョンが踏破されたそんな時代、その中であっても俺は頭の可笑しい数値であると言われた。


「じゃ、なんで俺はこんなに強いんだ?いくら何でも可笑しいだろう」

「それはな、そのステータスの中でも一際高い幸運という数値が関係するのではないかと思うのだ」

「幸運・・890か」

「ステータスの中でその数値だけは生まれて死ぬまで変動しないのだ、そしてその幸運の数値だけで見れば余よりも高いのだ」

「マジかよ!?魔王より・・・」

「幸運が高い者は天から様々な恩恵が与えられる、幸運以外のステータスも当てはまる。勿論のこと努力でも数値は伸ばすことも出来る、だから全て絶対ではない」


自分のステータスは幸運によって作られたものだと、そう言われるのが少し怖かった、自分力が自分で勝ち取ったものでないならばこれ以上滑稽な姿はなかったからだ。


「そして余が恐ろしいと言ったのはそれだけではない、其方はまだ成長過程なのだ」

「はい?」

「其方は元々Lv50が限界であった、つまり現状が上限であったのだ。だがそれもあのダンジョンを踏破することで更なる高みを目指せるようになったのだ」

「・・・・・」

「だが、LVを99にするのは不可能に近い。余自身が98で止まっているのだ。そしてこの数千年99というLVに到達した者はおらぬ、もしいたならば余はとっくに滅ぼされておる、故に余は安心できるのだ、誰も余を超えることは出来ぬとな」


知らない情報を知り過ぎて頭がパンクしそうだった、そういえば賢さの数値だけ他と比べても低いがこれが俺のチェスの弱さであることは無いだろうか?でも100を超えていれば達人クラスとも言っていた。

なら俺でも軍師程度の頭はあるはずなのだ。

上限がとても高いと言う事実にも驚いた、今でも十分強いと思うのだ、そのこれをさらに超えようなどと。


「まぁ、人間と魔王ではそもそもレベルアップに必要な経験値が大きく違う、其方が10上がっても余は1も上がらぬなんてことは珍しくない」

「ならばなぜそんなことを俺に教えるんだ?俺が強くなってお前を倒しに来るかもしれないと考えられぬのか?」

「言ったであろう、人間と魔王では大きく異なると。端的に言えば其方がどれだけ強く成ろうとも4桁に届くかどうかというもの、それに対して余は幸運以外の数値が既に4000を超えているのだ。人間にしてみれば異端でも余からすれば童にも等しいというもの、一体なにを恐れよというのだ?」

「よ、四千!?」


魔王は説明を続ける中で自慢げに自分のステータスを語った、そしてその予想外の数値に俺は声を荒げるのだった。

自分の幸運以外のステータス数値を合わせても2000にすら届かないのに、魔王は1つで4000を超えているという、確かに俺程度では赤子の手をひねる程度で死んでしまうだろう。


「余とステータスについてはこれくらいでよいであろう、次は其方に問おう。どうやってこの世界に来たのだ?」

「・・・正直なところ分からないんだ」

「分からぬとな?それは無かろう、其方は転移させられたのだ。それも強力な魔法陣によって、でなければこの世界に入ることすら叶わ・・・いや、その刀が余との扉を開いたのかもしれぬな」


「余に話すがよい。其方がここに送られる前に何をしていて、何を理由に飛ばされたか。その原因だろう者を」


魔王は独り言のようにぶつぶつ何かを言っているつもりなのだろうが、体が大きすぎる故普通に聞こえるのだった。

そして魔王に尋ねられた、俺が何者なのかと。

その問いには今まで歩んできた騎士人生の最初から話す必要があった、騎士を志し騎士に生き勇者に殺されかけた者として、俺は語った。


「この時代にも勇者がおるのか、にしても100人とはまた天界の大盤振る舞いだな。余の時代でも精々10人程であったのであるが」

「天界だと?そんなところがあるのか?」

「神々や天使の類が領地としている世界を天界、人間が住む世界を下界又は人間界、余の居るこの闇の世界を魔界・・昔はそう区別しておった」

「天界・人間界・魔界、お前が俺にどうやってこの世界に来たと言ったが、この3つはどこかで区切られているのか?」

「少なくとも余がまだ封じられる前は人間界から天界も魔界も稀にだが行き来することが出来た。だがそれも余が神に戦いを挑み敗れてからはばったり交流が止み、技術の進歩は止まった」


魔王の話は未知がたくさん包まれていた、国のまま王の意志のままに生きていればこんな知識は一生知り得ない。

それでいて面白かった、俺はこいつと話をすることが楽しかったのだ。

だが、それも神に戦いを挑んだという言葉を聞くまでだった。

幾ら無知でも神の存在を知らぬ人間は居ない、そしてその恩恵も。

だから俺は聞いた


「魔王、闇の支配者よ、お前は悪い奴なのか?」

「余には其方等のいう善悪という思考が理解できぬだけだ。余は余の意志により生きておっただけだ」

「人間を殺したのか?」

「余を退治するなどと抜かした英雄共は消し炭にしたが、余から人間界に赴くことはしなかった。人を多く殺すのは余より其方ら人間、もしくは神の方だ」

「神が人を殺す?そんなこと・・・」


「神は人間を道具のように扱っていた、遊技でも楽しむかのように。ある時は豊作で喜ばせ別の国が飢饉に陥るとその国の王に囁き戦争の火種を生み出していた。またある時は大病を蔓延させその根源が余にあるなどとお告げを下し、勝てるはずもない英雄共は身をすり減らし余に歯向かってきた」

「・・・・・」

「余はそのやり方が気に食わなかった。そして武神の子でもあった余は神々に戦いを挑んだ、それでもいくら余が強くとも数十の神相手には勝負にならなかった。その後反逆した余の責と取った父は死に、余はここに封印されたのだ」


魔王の話は信じられないような話であった、俺達は国に忠誠を捧げると共に神にも忠義を誓っていた。

神が人間を産み落とし災厄から、争いから守ってくれているとそう思って人間は神に信仰という形の忠義を誓っていたのに、その神が人間を玩具にしているだと?

これが本当の話ならば全くもって許せるはずもない、そのためには神に負け封じられたという魔王の話を信じることになるが、不思議と奴が嘘を言っているようには聞こえなかった。

善悪が理解できないということは嘘を吐く意味がないということ、嘘を吐きそれが良いか悪いかという考えがないということ、奴は悪も善も関係ない、ただ”正”として生きているのだと俺は思った。


「其方はその今城という勇者に負けたのだろう?何故だ、其方の強さは終ぞ神にすら匹敵する、多少強い勇者と言えど負けるはずがない」

「・・・・大切な人を人質にされた、守れなかったんだ。俺が至らなかったんだ」

「なんだ、そんなことか」

「・・・・そんな、ことだとぉ!!!」


勇者の誇りなどとうの昔に捨て去っていたのだろう、俺はそんな奴に正々堂々当たりに行って卑劣に卑怯に屈してしまった。

分かっている、分かっているはずだったのに俺はまだ甘かった、次があれば絶対にあの男を殺す!

だが次など来ない、俺は敗北したのだ。

そう考えていた時、魔王の何気ない心無い一言にブチきれた。


「ぬぉ!落ち着け、闘気を収めよ!・・思いのほか短気だのう、余は其方を馬鹿にしたわけではない」

「じゃぁどういう意味だ!」

「その気持ちが余にも分かると言いたかったのだ」

「は?」


「余が神々に戦いを挑んだ一番強い理由はな、神に愛する妻と娘を殺されたからなのだよ」

「・・・・」

「余と其方は似た者なのかもしれん。だが、決定的に違うところがある、それはな」


意外に理性的な魔王は俺に戦わぬよう止め、謝罪した。

そしてなぜ自分が神に挑んだのかその核心的な理由を教えられた。

魔王の過去を聞かされた時俺はどう反応すればいいかわからなかった、無言で次の言葉を待つと希望ともとれるそれを魔王は言った。


「其方はまだ愛する者を失っておらん、ということだ」

「!・・・」

「余は救えなかった、だが其方はまだ救える希望が残されている」

「何故だ、何故そんなことが言える!?」

「其方の帰りを待っている乙女が見えるのだ。封印されたとはいえ全ての力を封じられたわけではない、天界は無理でも人間界であれば余の千里眼で見ることが出来る」

「サヤは無事なのか!?どこにいる!今すぐ助けに行くぞ!」


「今の所無事だが、いつ周りの人間に犯されてもおかしくない状況だ」

「!!!あのクソ勇者が!!!」


暗くて魔王の顔は見えないが何となく柔らかに微笑んでいるように見えた。

サヤが生きていると分かり安心したものの危機的状況であることには変わりがない、抑えることが出来ない闘気によって魔王の体が照らされる。

そして初めて分かったことがある、こいつには、魔王には右腕が無かった、肩の付け根から頬杖付いている左腕の様な逞しく太い腕が無かったのだ、


「眩い光か・・懐かしいな。其方に提案を授けようではないか」

「お前、腕が」

「これか?封印される直前、余の直属の部下に与えたのだ。封印されてからは動けぬのでな別に困ったりしておらん」

「・・聴こう」


「では、オリトルエと申す者よ、余の騎士となってみぬか?」

「・・・・・」

「騎士と申しても余は闇の支配者である、よって身に着けるのも黒鉄の鎧しか着れぬし王である余には絶対服従だ。」

「拒否す・・・」

「待て待て、其方は短気でせっかちか?話は最後まで聞け」

「ん・・・・・・・」


つい最近騎士団をやめ王に仕えるのをやめてきたのに、また誰かに仕えるなどまっぴらごめんだと速攻で断ろうとしたところ食い気味に止められた。

その姿はあの王とも似通っており威厳もへったくれもなかった。


「結局のところ余は退屈しておったのだ、其方が余の騎士となってもここに留めておくだけではもったいないことこの上ない。しからば其方に力と自由を与え人間を見返してやるのに一興だと考えたのだ」

「それで?」

「余の騎士となれば其方のステータスを今の倍にしてやろう、その上、其方と余は同格の関係として魔王も騎士も関係ない感じにしよう」

「もう一声」

「LVを80まで引き上げてやろう、そうすれば如何に勇者であろうと太刀打ちできまい。卑怯な手段を取る前に首チョンパだ」


「乗った」


相当寂しかったのだろうか、魔王は俺の言葉を飲み、俺も魔王に仕えることに決めた。

だが時間がない、何か儀式をするならば早い所済ませてほしい。


「よし!それではその刀を一度余に返すのだ」

「これが何の意味を?」


差し出した剣によく似た刃物、カタナを前に差し出すと重さが消え、球と一緒に魔王の元に戻っていく。

そうしてカタナと球が融合し異常な威圧で体を押し戻されると魔王の喜びの声が聞こえた。


「ぬぬ!動くぞ!やはり封印される前に切り離しておいて正解だった」

「その腕・・・あの剣はお前の腕だったのか!?」

「左様これで余は完全な力を取り戻すことが出来た」


右腕を大いに動かし、体の感触や座っている椅子の形を確かめているその行動を奇妙な者でも見るかのように眺めていると、視線に気づいた魔王は咳をし


「これであれば契約も容易い、どれ・・・ふんぬ!!」

「う・・ぉ!」


巨大な腕を目の前に翳すと闘気よりも強い何かが俺の中に入ってきた。

これは・・レベルアップの感覚と同じであった、この高揚感忘れもしない。


「よし、これで其方のLVが80まで引き上げられた、でこれが本番だ。おぬう!!」

「なんだ・・この力はぁぁ!!」


「ふぅ・・契約は済ませた。後はそこの宝物庫から体に合う武具を持っていくと良い」

「・・・これが、これが俺か?どこも変わっている様子は無い、顔の形も・・ほとんど変わらない」

「なんだ其方、契約したら悪魔にでもなると思ったのか?半端な魔人ならともかく余ならばそんな失敗はせぬよ」


さっきとは比べ物にもならない力が体を駆け巡り、身を縮こまらせて何とか耐えると魔王の声が聞こえ力の流動も止まった。

そして危惧していたことが起こらず不思議に思っていると魔王がそんな心配はないと声を掛けた。


「其方はもう自分でステータスを開くことが出来る、看破の水晶などはもう不要だ」

「じゃぁステー・・」

「そんなことをしている場合であったか?そろそろ危険じゃぞ」


「あ!クッソこのドアホが!!俺を早くサヤの元に行かせてくれ!」

「ここから直通では行けん、一度ダンジョンを経由しなければ」

「なんでもいいから早くしてくれ!!」


ハッと思い出し愚かな自分を再び叱咤した、それに若干渋った魔王だが右腕を翳すと魔法陣が足元に現れ彼の姿をある場所まで運び去った。


「では、余もそろそろ動くとするか」


魔王は騎士に感化され重い腰を上げ憎き神どもに再戦を挑むのであった。




ダンジョンと言えばもうあそこしか思い当たる場所がなかった。

人生で最悪の経験と最良の知識を得た場所である。


北方のダンジョン、その入り口の魔法陣が強く黒い色を放っているとスタンジアは兵士の報告を受けその場に急行した。

彼女は騎士団長に待機の命令を出されて、この場に留まり負傷者の看護を続けていた。

無論と勇者のオリトルエの決闘の話など知らず、オリトルエが国外追放になったことも知らなかった。

そしてこの魔方陣によってまた彼がやってくることなど予想だに出来ない。


彼女は明らかに変異した魔法陣を見て兵を集め自らも剣を抜き、何が出てこようとも一歩も引かぬ覚悟で臨もうとしていた。

その覚悟も相応しく強大な力を持つ黒の全身鎧を着た者が一人立っていた。

その姿を見て自分達では敵わない彼女はそう感じた、だがここで逃げるなどあっては騎士の名折れ自分はある騎士を尊敬しているのだ、その人が私をみたら何と言うだろうか?きっと私はその言葉を受け止めきれない。

だから目の前の鎧人に一瞬で切り伏せられよう共とも、騎士である誇りを捨てて逃げるよりマシだ。


「何者だ!ここは我が国の領土であり、貴様の様な不審な者に立ち入れが許可された場所ではない!即刻立ち去るか、我が剣の錆びとなるか!どちらか選・・」

「その声スタンジア隊長か、悪いが今お前に構っている時間は無い」


「なっ!その声はもしや!」


ダンジョンに出ると言われたことである程度予想したところに転送されたようだ。

目の前には猛々しい女騎士もいる、であるならば、場所は分かる。

戦闘の意志は無いと彼女に伝えると察したように顔をハッとして剣を下げた。

その内に彼女等の脇を抜けて岩肌から飛び上がった。


「風の船!」


この高さから落下すればただでは済まない、だから体に風属性の魔力を纏わせやや下降しながら目的地である城に急いだ。




城の地下牢獄にサヤは閉じ込められていた、周囲に人であった肉片の中でただ震えながら怯えていた。

サヤはあの決闘の後、アギス親衛隊長に賊の被害者という名目で保護されたまでは良かったが、そのアギス親衛隊長が王の不信感を買ってしまい解任された。

そして後に就任した勇者の一人によって投獄された。

王の安全よりも小娘の身を案じた大バカ者、周囲からの評価は駄々下がりであった。

そんな中でも彼の部下は彼に付き従い同じく投獄されることとなった。


そして新任の親衛隊長が王に


「勇者達で親衛隊をつくるからあれは要らない」


騎士数人分の戦力を持つ勇者が周りに居ればあらゆる脅威から身を守れると、新任の親衛隊長の言葉を大喜びで賛同した王は気付かなかった、”要らない”と言われた彼らがどういった末路を辿るのかを。


決闘が終わり騎士達に邪魔された今城は尽きぬことの無い憎悪に取り込まれようとしていた、そんな彼に提案したものある


「親衛隊の騎士を解雇した、処分はお前に任せる」と


今城がその者を見るとよく知った勇者だった、クラスのガキ大将のように威張っている男だったからだ。

今城は自分より目立つ者が大嫌いだ、そういう意味ではこの男も嫌いな分類であった。

元は自分の取り巻きの一員だったが、途中から実力をつけ始め彼は彼のグループを作り地固めに勤しんでいたのだ。

嫌いな男からの願ってもない頼み、鬱憤を晴らすためにそれを受け入れるのであった。

まずは最初は邪魔をした親衛隊長の首を刎ねるとその四肢を徹底的に切り刻み、その部下も同じ目に遭わせて皆殺しにした。


そうして彼は気付いた、自分のLVが5つも上がっていることに。

ダンジョンで70に到達してから全く経験値を稼いでない、そんな彼は気付いてしまった。

何も魔物からしか経験値が生み出さる訳じゃないということを、なんなら人間を殺した方が多くの経験値を得られるという新事実を。

たった十数人殺しただけで5つも上がるんだ、この国には騎士が何百と居るんだ、そいつらの半分でも殺せば自分は最強の勇者にだって成れる!

その日から訓練中の騎士が行方不明になる事件が多発した、騎士だけではない戦闘向きではない勇者も数名行方知れずとなっていたのだ。


誰もが王を不信がった、前の親衛隊を切り捨てたのも最終的には王の決定であったからだ。

王は最も頼れる者に相談した、その者が犯人であるとも知らずに。

勇者に相談したにもかかわらず騎士の失踪届けは相次いだが、ある日を境にぱったりと止んだ。

これで信用を再び取り戻せると信じた矢先、王の所に1.2.3.4部隊長が謁見を申し込み総じて退団届けを差し出した。

王は問い2番部隊長が答えた。


「何故じゃ!何故こんな一度に揃って」

「私どもは間違っておりました、オリトルエ殿の言っていた通りでした。あの勇者は信用なりません、それに貴方もです我が王」

「何じゃと!?お前達までワシを愚弄するつもりか!!」


「恐れながら、貴方様は我々の宝を捨て、それに気付かず泥を掴んでしまった。前王であればこのような失態はあり得ませんでした。全て貴方様の選択が仇となったのです!」

「ええい!うるさい!たかが一部隊長の分際でワシをコケにしおって・・勇者達よ!この不届き者をひっ捕らえよ!」


4人の部隊長が抗議にやってきたのだ、絶対服従にも等しい彼らが初めて主人に噛みついた行動でもある。

全てがうまくいかない王には彼らの行動はこれ以上ない侮辱とも取れ、勇者で結成された親衛隊を呼びつけるのであったが


「・・何故じゃ!何故誰も来ぬのだ!どいつもこいつも使えん!」


王の叫びは空を響かせただけで答えた者は居なかった。


「どいつもこいつもうるさいな、あ、陛下」

「おお、今城殿丁度いい所に!この者達がワシに反抗し居ったのだ!ひっ捕らえよ!無理なら殺しても構わん!」

「王よ!」

「わかったよ、丁度そろそろ頃合いだからね」


王と同じく悪態を吐きながら何かを蹴り、王の顔を見るとズンと踏みつぶしたのだ。

それは整った顔が悲痛に歪みズタズタにされ胴体から切り離された、姫の頭であった。

娘が手に掛けられたことなど知らない王は、立ち上がり今城に命令した


「勇者に誑かされたか我が王よ!!」

「我等部隊長!御身を思い身を斬る思いでも助言!それでも届きませぬか!」


「死んでしまえ!」

「危ないダモン殿」「フェニックス殿!」


今城の一線がダモンとフェニックスを捉えた時、2番と3番の部隊長が2人を突き飛ばし代わりに絶命したのだった。

唖然としたダモンは雄たけびを上げて今城に切りかかった。

1撃2撃3撃とダモンの巨大から繰り出される大剣が打ち当てていくも、涼しい顔でそれを受け止める今城は腹部をコツン突いただけでダモンを吹きとばしフェニックスを薙ぎ倒した。

たった数秒で部隊長を無効化したのを見た王はこれで世界が手に入ったも同然と妄想していた。


「流石は勇者今城、次は隣の国のあの憎いくそ爺を・・」

「嫌だね、もうアンタは用済みだよ」

「え?」


とぼけた声を上げた王の首は宙を舞いボトリと床に落ち、娘と同じ最期を迎えた。

今城はもう騎士達を半分以上殺し尽くし自らの限界Lvである85に到達していたのだ。

彼は思っているであろう、この世に自分より強い者など存在しない。と




城の地上部で起こっていた騒ぎも地下牢獄に入れられていた者にとっては対岸の火事だが。

その真っ只中、牢屋で震えていたサヤを助けた者達が居た、それは生き延びた2番3番隊の騎士達だった。

彼らは今は亡き部隊長の命に従い彼女を助けにきたのだ、その数20。

この地下牢は今城の息のかかった勇者達によって守られていた、それを突破出来たのがたった20名だったのだ。


「さあ、地上に出ましょう!貴方の待っている人は必ず来ます、外に出て元気な姿を見せてあげるんです!」

「でも、私のせいで親衛隊の人達は・・」

「時間がありません、上の仲間達が勇者を押さえてられるのも少しの間だけ」


「いたぞ!小癪な騎士どもをやっちまえ!」


「!?もう突破されましたか、ここは私達がなんとか防いで見せます。ですから貴方達はどうか外に!」

「でも、」

「でももへったくれもありません!貴女が死んだらきっと彼は悲しむでしょう。さぁ行きなさい!」


「ぐへへ、女騎士もまだ残っていたのか、これはしばらく楽しめそうだ!」

「こんな下賤な者どもを私達は勇者様だと崇めていたのですか、自分自身に吐き気を覚えます。いいでしょうお相手をして差し上げます。私は誇り高い2番部隊長様の騎士ですぅー!」


サヤだけを走らせ他の騎士達は高らかに名乗りを上げ勇者達の注意を引くために戦いを挑んでいった。

一人緊急避難用の脱出口から外に出るとそこには武器を手に待ち構えていた 勇者達が居た。

万事休すか、逃げ場のない状況に目を瞑りせめて楽に死ねることを祈った。   


「民間人の方ですね、大丈夫です。私達はもう今城とは縁を切った者ばかりです」

「え・・」

「正確には戦えない勇者なんだけどな」

「戦えない?」

「私達は戦闘に向いていないステータスであり、早い段階に王から見放された者です」


その場にいた数名の召喚者達は自らを戦えない勇者だと言った。

ステータスの値が極端に低かった者達は王や貴族達に見込まれることなく城を離れ、技術を磨き生活していたのだった。

そんな彼らがなぜこの出口に居るのだろう?


「・・今城の暴挙を止めに来たのです」

「オレ達は王にも貴族にも見放されたが国には見放されなかった」

「ボク達を助けご飯をくれた人も居た」

「でも、あいつが騎士団長になって僕等を見つけて馬鹿みたいに金を毟り取って、生きていけないからこの国を出て他の所に行くことも考えた、でも」

「そんじゃぁ、助けてくれた人に顔向けできねぇだ。オラ、頭悪ぃし今城の考えはわかんねぇ、んだけんどよぉ、恩人見捨てて逃げる程馬鹿じゃねんだ!」


「私達は奇襲で抵抗戦を挑むつもりです。自分達で作った最高の武具と勇気をもって」


彼らはの瞳には固い覚悟の意志が宿っていた。

ギリギリ持てるだけの武器や鎧を一人一人が装備し、ステータスの数値を補い向かうつもりなのだ。

彼らは強者でない、だが勇者である。

彼等には彼らのプライドがある、逃げて一生後悔するより・・・


「このクソアマぁ!手間取らせやがって!やっと出口だ・・ん?」

「どうしっゃした大将?ん?」

「お前等・・・今城と一緒にそこまで堕ちたか!!」


「なんだ、女男か?」

「馬鹿力と田舎者に臆病者にお人よしまでいやがるぜ」

「落ちこぼれの雑魚共が今更何しに来やがった?まさかおれ達を止めるとか言わねぇよな?」


後ろから勇者達の怒声が聞こえ、女騎士が鎧を剥がれた状態のまましがみ付きながらも抵抗している姿があった。

それを先頭の男は殴って引き剥がし頭を踏み躙って唾を掛けたのだった。

ゆうゆうと出口に屯い、面白いものを見たとこちらの召喚者に視線を向け余裕な表情を見せる。

明らかな戦力差であった、数にいても質にいてもこちらが負けていた。

そんななか一際大きな剣を背負った男が召喚者達の前で勇者達の視線を受けるよう立ちはだかった。


「オレの友の悪口はやめてもらおう」

「お人よしか、お前もなんでそんな雑魚共と出て行っちまったんだ。お前ぐらい強かったら・・」

「やめろと言っただろう!!」

「ちっ・・・厄介なのはお人よしと馬鹿力だけだ!他を先に囲んで畳んじまえ!!」


「・・・風の刃」


両陣営が戦闘態勢になる中、1つの見えない刃が洞穴の手前に激突し土砂と勇者達を巻き上げ生き埋めした。

そしてそれを放った黒鉄の騎士がサヤの前に降り立ったのだった。

突然の攻撃に呆然としながらもお人よしがサヤを庇う様に立ちはだかると


「俺に攻撃する意思がなければ、剣を下げよ」

「・・その声・・・まさか・・オリ君?」

「・・・サヤ遅くなって悪かった。お前を迎えにきた」


「オリ君!オリ君オリ君!!よかった!生きてるんだよね!?幽霊じゃないんだよね!?」

「あるお方の助けを受け、俺はこの世界に留まれたんだ。」

「わかったよ!分かったよ!オリ君が生きてるって分かっただけで私は、」

「これからはずっと一緒だ、好きだもう離さない」

「私も好き!オリ君を愛してる!大好きオリ君!!」


「ああ、いい所の雰囲気に横やり入れて悪いんだが、お前副騎士団長か?」

「そうだ、騎士団はもうやめたが」


サヤは俺の声を聞くと共にこの身に飛び込んできた。

彼女は俺がどういう経緯であの世界に飛ばされたかを知って居るのだろう、もう会えないと思っていたかもしれない。

そしてずっと心に秘めていた思いを伝えると、サヤはもっと大きな言葉を響かせた。

相思相愛の2人に若干苦笑いの召喚者達、その1人が申し訳なさそうに俺に質問した。

それに対して鉄仮面を外して答えると


「オレ達はアンタに感謝してもしきれないんだ!」

「?」

「そうだべ!お前さんの教えてくれた領主様がとてもいい人だったんべ!」

「僕等もそうです、街の鍛冶屋さんを紹介してくれなれば・・僕は・・」


召喚者達はそれぞれ思うところがあるのだろう、俺に向けられた表情はどれも嬉々としたものだった。

そんな中でも1人だけ暗い顔をしてるやつがいた。


「私も貴方には感謝しています。ですが、唯一の歯止めであった貴方が騎士団をやめたことにより、正気な騎士は一斉に役目を放棄し無知な勇者が支配することで、この国は一気に崩壊の一途を辿っています」

「それはイイことだ、今の王政では国を支えられられなかった。少し滅ぶのが早かっただけのこと」

「上はそれでもいいかもしれません、ですが、民は・・国の人はどうすればいいのですか?」


「この世界の問題はこの世界の住人である俺達が解決すればいいと思っている。お前達には責任も責務も負わせる気はない!」


彼女は弱弱しい声で言葉を繋ぎ答えを求めたが、無責任ともとれる言動で答えると。


「私達だってこの世界の住人です!この世界で生きたいんです!」

「そうだ!オレは師匠から剣を教わった!素早さがカスの俺にも剣は奮える!」

「僕だって腕力しか取り柄が無くて、物を壊してばかりだった、でも鍛冶を覚えることによってこの腕力が生かされたんだ!もっと多くの人の役に立ちたい、そう思えたんだ!」

「ボクもただ飯喰らいだって言われて教授に拾われるまでゴミ拾いしかしてなかった。この世界は元居た世界とは違うけど、本とか読んで勉強して新しい技術を発見したんだ!屑なボクでも何かできる、ならやんなきゃって!」

「畑耕すのは楽しいっぺ、たくさん食べ物作ってみんなに笑顔を届けるっぺ!」


「・・・・そうか、お前はどうだ?」

「オレは友を守る力が欲しかった、最初から今城のやり方には気に食わなかった。だから奴らとは別れ、力を付けながら彼らを助け助けられここまでこれたんだ。・・・オレはオレは、弱い者を守る盾になりたかった!この想いはこれまでもそしてこれからも揺るがない!!」


一人一人の意志と言葉を聞き俺はもう一度勇者を信じてみようと思った。

そのためにはあの贋者は邪魔でしかない。


「では、お前達にもこの世界を任せよう。それに必要な準備は俺がする、あの贋者をぶっ殺す!」

「・・・オリ君、それ私が一緒だとダメかな、また人質になったら・・わぁ!?」


「俺はもう誰にも負けない、お前を守ることも奴を倒すことも容易だ」

「やっぱりオリ君は私の騎士様だね!ずっと前から・・」

「約束したからな、守るって」


彼女をここに置いていくという選択肢は最初から無かった、最強の騎士は勇者の贋者如きに遅れをとる訳が無い。

幼き日の約束はようやくここで果たされたのだ。




城の地下牢獄に今城は居た。


「どこだぁ!!あの女は!」

「今城様、落ち着いてくだ・・・ぎぁー!」

「うるさい!僕に命令するな!どいつもこいつも役に立たない屑共が、折角最高LVになった祝いでズタズタにぶち犯してやるつもりだったのに!!このゴミ共が!」


彼は姫を国王を殺した後、サヤを陵辱するためにやってきたが、その企みは命を懸けた騎士達によって狂わされた。

思い通りにいかないストレスでご機嫌を取ろうとする取り巻きにすら斬りかかっていた。

オリトルエに受けた傷は奴が大事にしている女を壊すことで癒される、そう信じてやまなかった今城は最高のタイミングを好んだ、それが悪手だったことも彼はもう気付くことが出来ないほど精神が疲弊していた。


「ああああああ!!こうなったら、あいつを探し出して・・・バラバラにして王座に飾ってやる!フフフフ、ハァハハハ!!!」

「申し上げます!ただいま見張りの者より黒い騎士が現れ、その者が逃げ出した女を抱えているという報告がありました!」


「ハハッハ・・は、それは本当か?虚偽だったら一族皆殺しだぞ」

「この目でも確かめました。間違いありません!」

「よし、お前達すぐにその者から女を奪いにむか・・いや、僕自ら出向こう」


気が触れた叫びと笑い声を上げている今城に、いまだ残されてる騎士が一報を入れると不安そうな取り巻きを連れて地上に出るのだった。


「お前が黒騎士か!僕を見下ろすとは失敬な奴だ!僕はこの国の王だぞ!すぐに降りてその女を差し出し平伏すのだ!!」

「俺が仕えるのは闇を支配する者である、貴様の様な小物に下げる頭も物も無い」

「無礼者!今すぐあいつを空から引き売り下ろせ!!!命令だ!」


「やれやれ、今度は国を乗っ取って国王気取りか。この贋者が!」

「?お前無礼にも・・・にせものだと!?お前はまさか!」


サヤを抱きかかえ”風の船”で空に留まっている俺は今城の姿をみて若干引いた。

装飾を全身に散らばせ聖剣にも金であしらった王家の象徴を象ったドラゴンの像を付け、宝物庫に飾られていた王家の鎧にすら余計な装飾を凝らせ着られていた。

明らかに痩せ細り血走った眼で俺を見る今城は堕ちていた、人であり人で無かった。


「死に淵から再び蘇ってやったぞ?お前を殺すためにな」

「お前さえいなければ!お前さえいなければ!!」

「俺がいないからこの国は終わったのだろう、俺が騎士になったこの国の王は皆無能だ」

「僕が無能だと!?もういい、お前を殺してその女もズタボロにはらませから殺してやる」


「・・・真空波!」


地団駄を踏む今城は剣をこちらに向けると意気揚々と俺達を殺すと言った。

だがそんなことは出来ない。

今城にはダメージが薄くても周りの勇者・騎士達は真空の刃に切り刻まれ失神した。

一対一の形だが生憎と俺はサヤを手放す気はない。


「無駄だぞ!僕は最高LVまで上げたんだ!この国の役立たずを糧にし、最強の勇者となったのだ!お前が勝つ未来など一生来ないのだ!!」

「・・・外道が、お前の様な者が勇者な訳がない。贋者は贋者らしく死に絶えろ!」

「また言ったな!?死ね!消えろ!聖剣エクスカリバー!!!」

「そんなもの、防ぐまでもないわぁ!!!」


この国は死んだのだ。助けを求め自分達を守るために召喚した勇者によって。

そしてその勇者が次に標的にするのはこの世界だ。

犠牲を糧にして確かに今城は歴代の勇者の中でも最強のステータスへと成長した、だがそれは勇者”の”に他ならない。

彼との差は勇者最強と人間界最強という、近そうでまったく次元が違う実力差であった。

その証拠に今城の攻撃を俺は闘気を放つだけで掻き消したのだ。


「そんな・・エクスカリバー!エクスカリバー!エクスカリバー!!!」

「何度やっても同じこと、お前などに見せるのももったいないが、見せてやろう!蘇った俺の強さを!」


「ステータスオープン!!」



個体名 オリトルエ

種族 人間 (超越者)

性別 男

Lv80/99 限界突破有り


HP 35000/35000

MP 1160/1200

STR 3187

DEF 2746

AGI 3600

INT 450


LUK 890


スキル 風魔法ⅠⅡⅢⅣ(風の刃・真空波・暴風剣・風の船) ヒールⅤ 両断Ⅹ

バッシブ 騎士道(極み)



自身のステータスが天空に掲げられた。

魔王のステータスにはまだ及ばないとしても、元々の数値からは考えられない程の成長だった。

天に掲げられたことによって近くに居た者達もそれをみることとなった、いや否応なしに釘付けとなったのだ。

そして肝心の敵である今城さえその数値の異常さに怯えていた。


「な、なんだよ!なんなんだよ!?STR3千越えってなんだよ!!おかしいじゃないか!僕は勇者で最強だぞ!その僕が・・・ひっ!!」

「屑がやかましいな、たかが勇者の分際で俺に逆らおうなんてこと自体愚かだったんだ」

「オリ君オリ君、顔が怖いよ?」

「・・・・・サヤ、少し降りてくれ、こいつをぶん殴るために」


「やめろ!近づくな!わ、悪かったよ!もう僕はあんたに係わらないからね!ね!命だけはたすけ」

「無駄だ、死ね!」


怯え命乞いをする今城の横面を全力で殴りつけた。

今の俺の顔は相当醜く歪んでいるであろう、奴の頭は粉砕し体もゴミとなって瓦礫に紛れた。

熱が込み上げる、今城を殺したことによりその経験値が俺に割り振られたのだ。

魔王に注がれた時の様な高揚ではなくドロドロしたヘドロが侵食してくるような感覚だった。

自分のステータスを確認するとLVが2つ上がっていた。


「終わった、終わらせたんだ・・う・・・」

「!オリ君から出て行って!!!」


途端に来た胸の痛みに膝を突くとサヤが怒ったように俺の体を叩き、その度に苦しさが抜けるようだった。

痛みが消える迄俺は、殺したはずの今城と戦っていた。

奴は俺を乗っ取ろうとしていたのだ、神をも超える力を手に入れようとしていた。

だがそれは愛の力によって敗れた。


「サヤ・・もう大丈・・う!?」


礼を言うおうとサヤの方をむくと急に息が出来なくなった。

違った、サヤにキスされていたのだ、初めてだった。


「終わったんだね?」

「ああ、終わった。全部・・」

「じゃあの人たちの所に行こう?これからの復興に向けて話をしないと!」

「・・そうだな」


数十秒か数分か、塞がれていた口が離れ少し恥ずかしそうに頬を赤らめるサヤは俺に確認した。

その言葉からこの国は復興されていった。






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