反逆者編
城では派手な祝賀パーティーが行われていた。
それは何故か?
勇者が帰還したから?
しばらく上がらなかったレベルが上がったから?
これらの理由も一理あるがもっと重大な事実が王族の秘宝の1つによって伝えられたからである。
”北方ダンジョンの踏破を確認しました”
当代の王にしか読めぬ幾何学的な文字を読み取った王は
「宴じゃ!新騎士団長が戻ったら盛大に宴を開くのじゃ!!」
興奮した様子で部下にそう伝えたという。
それも無理は無かった、この100年ダンジョンが踏破されることはなく一番最近でも120年前の出来事であり、まだ冒険者達が強かった頃、その英雄たちのパーティーによってなし遂げられたのが最後だったのだ。
吉報に心躍る王は各地から名のある貴族に手紙を送り、稀に見る祭りになることを喜んだ。
これは王が悪い訳では無い、王は勘違いしたのだ。
王家の秘宝はダンジョンが踏破されたと表示しただけだ、”誰が”とは記されいない。
最近騎士団長の新任式を行い、その騎士団長が北方のダンジョンに向かったのも数日前の出来事、そして新たに騎士団長を務める者は召喚された勇者の中でも断トツに強く我が娘が見初めた者。
だからきっと彼の仕業であると勝手に解釈したのだ。
今城は数名の仲間を連れ逃げるようにダンジョンを後にし、薄暗く成る頃に城下町に入っていた。
たった数日とはいえ豪勢な生活を送っていた彼・彼女等は、悪臭がしてじめじめで埃っぽい洞窟はもうこりごりだった。
いち早くシャワーを浴び、温かく柔らかい食事を胃に通したかった。
顔パスで城内に入ると正装に身を包んだ2番と3番の隊長が彼らの前に跪き、最敬礼の形を取っていた。
「この度のご活躍は王から聞き及んでおります。お疲れのことと思いますが一度謁見をお願いいたします」
「この後、団長様の偉業を国中に知らしめるための祝賀会が催されます。謁見が終わりましたらご用意が出来次第お部屋に伺わせていただきます」
2人の部隊長はそう言ったが今城には心当たりが無かった。
ダンジョンは35階までしか進んでおらず休憩する意味をこめてこうして戻ってきたのだ。
それなのに”偉業”とか”祝賀会”という言葉が出ると悪い気分では無かった。
何だか知らない内に偉業を成し遂げてしまった、それが何かは知らないが王に会いさえすれば分かるはずだ。
すっかり贅沢病に犯された彼にはしばらく最高の食事が提供され、女も金も思いのままであるという軽い考えしかなかった。
一時間後、今城は王に謁見し自分が何を成したのか王の口から聞きたかったのだ、そして口合わせをしたかった。
「騎士団長殿、いや勇者今城殿。此度の働きは真に見事であった。我が王位について以降これ程嬉しいことは無いぞ!」
「お褒めの言葉を賜りまして恐縮の限りです、ですが陛下私はこの知らせを出来るだけ早くご報告しなければと、馬を飛ばしてきてまいりましたのに一体どこでお知りになられたのですか?」
「おお、そうであったか!これは悪いことをした。どこで知ったかとな、それはな、この代々王家に伝わる看破の水晶によって知らされたのだ。”ダンジョンが踏破”されたとな!」
王の一言によりその場にいた者達は騒めいた。
そして今城も不思議がった、自分は踏破などしていないと。
だが、ここで否定すれば御馳走を取り逃してしまう。
「もうご存知であらせられるのでしたら前置きは必要ありませんね。そうです僕達が北のダンジョンを踏破しました!!」
「「「「おおー!」」」」
彼は言ってしまった、そしてその言葉にその場に居た者達は歓声を上げ、隣の者と抱き合ったり腕を組み合ったりして喜びを表現していた。
王も本人の口から聞くことが出来て安心していた。
この中にただ1人いやただ1つ怒りに震えている物が居た、その物はその場にいた人間に対し一文字の言葉を眩い閃光と共に発言した。
”否”
看破の水晶は今城の嘘を見抜いた、だが雷鳴の閃光のように強かったその光をその場にいた者達は
「王家の秘宝も喜んでいる」と言う風に解釈し、さらに確信が強くなってしまった。
勘違いを訂正することも出来ない看破の水晶はゆっくりと光を失い、スリープモードに入った。
そしてその夜から祝賀会は開催され昼夜問わず城は賑わいを見せていた。
それは3日と言わず7日でも10日でも王が続けよと言えば延期さるような、無駄な祭りだった。
城でパーティーが行われているのだ、浮かれていたのは王だけではない、知らせを聞いた国民も騎士も喜びに溢れ、または雰囲気に流されてのお祭り騒ぎであった。
そんな時であった俺が到着したのは。
「またあの王は・・・!あれ程パーティーの頻度を落されるようご忠告を重ね申したことか!」
どこの国でも同じなのだ、農民は貧しく生活し貴族や王族は豪遊の日々。
その資金が出てくると考えている、結局は民の税だ。
自分は農民上がりだ、幼き頃毎年冬になると食べ物が減りよく泣いていたことを思い出した。
その時父に言われた
「私達のお金は大切なことに使われている。お前も大人になればわかる」
父よ、俺は未だに分からない。
自分も村に居た頃よりは贅沢になった、だがそれでも副騎士長の職にあった時でさえああいったパーティーには出たことがなかったのだ。
無駄なことだと割り切って居たから。
民衆の流れに逆らい馬を走らす、城門を潜り馬宿に馬を預けると見張りの兵士に
「至急報告したいことがある、王に取り次いで頂きたい」
「只今陛下は、祝賀会にご出席なされております。いかなる面会も日を改めてまたお越しください」
「俺は、元副騎士団長のオリトルエだ。大事な報告があるのだ、急いで取り次げ」
「いかなる御用でも御帰り頂きたく存じます、陛下御自らの命です」
「お前達のような雑兵に話をしても無駄なことが分かった。無理にでも通らせてもらう」
断固として道を開けない見張りの兵に職務に従順だと評価するのでなく、あくまで邪魔だと判断した。
実力行使で彼らを薙ぎ倒し城内に入ると、居るは居るは着飾った男女が高そうな酒の入ったグラスを持ち談笑している光景が。
彼らから視線を外し王が居るであろう謁見の間へと上がっていく。
「侵入者だ!取り押さえろーー」
「おーーー!?」
「おいどうした、何故立ち止まる!?」
「お前達は2番隊の騎士か」
「うげ!まさか侵入者って」
「「「オリトルエ殿!?」」」
ダンジョンから這い出てきた格好でこの場に居るのだ目立たないわけがない。
そして幸か不幸かこの国の騎士達は優秀だった、優秀であったために薙ぎ倒していかなければならなかった。
「お前達にも特別に稽古をつけてやろう、今の俺を一歩でも後退させられたら部隊長も夢では無いぞ!」
1歩進むと騎士達は3歩後ずさり、背を向けるよな真似をすることも無かったが、脇を通り抜けたその後も誰一人として動けるものは居なかった。
「どっははは!でな!その敵があまりにもデカくてな、僕のこの聖剣でズバババンっとな」
「あっっははあ!」
「申し上げます!騎士の1人が謀反を起こし、ここに向かっております。ただいま2番3番の部隊長が制圧に当たっておりますが・・・あ!ぎゃぁー!」
「勇者はここにいるのか、おい今城!お楽しみのところ悪いがお前をぶっ飛ばすために地の底から這いあがって来てやったぜ!」
王族貴族騎士その他もろもろがこの謁見の間に集合していた、その中でも王と姫それに勇者の豪遊ぶりはまれに見る光景だったという。
今城は美女を囲み酒に酔いダンジョンで自分がしたことを脚色し語っていた。
そこに一人の騎士が慌てた様子で緊急事態だと、報告しようとして何かを見て叫び声をあげた。
扉が乱暴に開け放たれ3人の男が転がってきた、一人はさっきの騎士でも二人は侵入者の制圧に向かったという部隊長の2人だった。
そして彼らを投げ飛ばした人物が今城に宣戦布告した。
しんと静まり返った会場が一気に喧騒に包まれた、どうやら貴族たちが騒ぎ出したらしい自分の身の安全を優先させようと付き人や護衛を呼び出していた。
「安寧を乱す者よ止まれ!」
「これはこれは、親衛隊の皆さんですか」
「貴方は・・・何故貴方ほどの人がこんな愚かなことを!」
もしもの時のために配備されていた騎士団とは別に組織した少数精鋭の王族親衛隊が俺を取り囲む。
彼らの中には自分と同期の者もチラホラ見えるし、何人かは手ほどきもした。
そんな彼等には動揺の色が見え隠れしていた。
「俺は急ぎ報告をしに来ただけだ、ただ融通の利かない兵士に止められはしたが」
「貴方でも王の命令に背くことは軍規違反です!そのことは良くお分かりになっておいででしょう!」
「軍規だとかそんなものはもう関係ない、俺は今日で騎士団をやめる」
「!!??」
「退団の置き土産だ、お前達にも稽古をつけてやる。さぁ掛かって来い」
親衛隊の騎士達は目の前の騎士に気圧されていた。
足が動かない剣が震える汗が滴り焦点が定まらない者も居た、ただ相対するだけで実力の差が見えてしまうのだ。
「何をしているのですか!侵入者を早く取り押さえるのです!勇者様の御手を煩わせないで!」
「これはこれは、姫様、今日も一段と見栄を張って疲れはしませんか?」
「オリトルエ!貴方降格処分を受けたのにまだそんな態度を取るつもり!一生この国で生活できなくすることもわたくしには出来るのですよ?」
「この国にこだわる必要はない、何処となり行くさ」
わなわなと震える姫に棒立ちの親衛隊、幽霊でも見たかのように目を大きく見開いたまま微動だにしない今城、それらを流して玉座に座る王の前で跪いた。
「この騒ぎの主犯はお主かオリトルエ」
「はい、この度の非礼を詫びると共にお伝えしたいことがありまして馳せ参じました」
「お父様!そんな下級騎士の言葉など聞く価値もありません!今すぐご命令ください、さすれば」
「よい、ワシはいまとても気分が良いのだ。其方の無礼を許そう、話してみるがいい」
「流石は一国の王話が早くて助かります、では」
姫の言葉を王は制し、魚のように口をパクパクさせた間抜けずらを晒すこととなった。
そして俺を意を決し深呼吸で息を整え
「50階層のボスを撃破しダンジョンを踏破致しました」
「ん?その話はもう知っておるぞ、なんじゃお主も勇者今城の・・」
「いいえ、王は何か勘違いされているご様子」
「ダンジョンを踏破したのはそこの勇者じゃない、この俺だ!」
本日2回目の静寂だ、王並びに姫貴族たちはポカーンと口を開け固まっていたが、誰かが言った、この嘘吐きと。
「戯言を抜かすでない!証拠ありません、いいえそれどころかこれは立派な虚言、陛下のお言葉を否定することに他ならない」
「では、陛下に問います。勇者がダンジョンを踏破したという物的証拠を今ここで提示していただきたい」
「なっ!下級騎士の分際でお父様に何という口を!今すぐこの無法者をひっ捕らえなさい!」
王の隣にいた学者と姫が食って掛かるが俺は王の目をじっと射貫くように睨みつける。
「証拠とな?それはこの看破の水晶によって知らされたのじゃ!」
「ではその内容は?」
「北方のダンジョンが踏破された、とのお告げだったのじゃ」
「・・・それで何故今城が踏破したと判断したのですか?」
「騎士団長!勇者今城、其方申したよの、自分達が踏破したとこのワシに」
「・・・・何故アイツが、くっそ・・・っは!もちろんでございます!陛下並びに御来席の皆さま、ダンジョンを踏破したのは僕等勇者で、そいつは途中でどこかに消えたんだ。なぁみんな!」
ただの騎士の言葉と救世主である勇者の言葉、どちらに重きを置けばよいかは誰であっても同じだろう。
今城の声にその場にいた勇者達は皆首を縦に振った。
「勇者殿が嘘を吐くなど信じられぬことだ、となれば怪しいのは貴殿の方、こちらに証拠を求めたのだ貴殿も何か証拠があるのだろうな?」
「確信を得られるような証拠はない、お目汚しとなるのも致し方ない」
「何をしているのですか!服を!」
学者が俺の方を下賤でも見るように見下ろし証拠を求められた。
だが、俺も勇者と同じように物的証拠はないのだった、であるならば状況証拠に委ねるしかない。
「この傷は50階層のボスとの戦闘で出来た傷だ、危うく命を落としかけた。勇者に問おう、貴様は50階層のボスと戦い傷を負ったか?」
「最強のこの僕がモンスター相手に深手を負うなどありえない!」
「では、ボスの姿は?俺の相手は人型であった」
「・・ど、ドラゴンだ!」
「では最後に、ボスを倒したことで何か得られたのか?」
「ああ!当り前だ!ドラゴンだぞ!金銀財宝があったに決まっているだろう!」
「俺はこの二振りの剣を得たのだがな」
上着を脱ぎ包帯を外すと痛々しく生々しい傷が現れ、指の間から見ていた貴婦人が数人それを見て気を失っていた。
聞けば聞くほど似ても似つかない状況証拠に苦笑いさえも混じってしまう始末だ。
作り話か、それとも30階層のボスの話でごまかしているのか、奴は俺と被らないように聞こえがいい様に吹聴した。
「話を聞く限りでも今城様の方が壮大で聴きごたえがあります、それに引き換え貴方、そんなボロッちい剣を戦利品だと抜かすのですか?」
「そうではないが、言ってもお前達には理解できないだろう。金にしか目がいかないボンクラどもは」
「ギぃ!私を愚弄するつもりですか!いいでしょう!その剣を鑑定して差し上げましょう!50階層で手に入れたというならば、相当な名剣なはず。怖いのですか?どうしたのですか早く渡しなさい、それとも嘘が見破られるのが怖いというのですか?」
「いいだろう・・これをあいつに渡せ」
嫌味な学者は俺の剣を差し出せといい、大人しくそれに従う。
この剣が業物かそうでないかなど俺には関係ない、あの場で思い出した心こそが最も重要なのだから。
「っは!なんですかこの骨董品は。一体いつの時代の駄作なのでしょうか!」
「学者よ、あれはそんなに大したものは無かったのか?」
「はい、恐れながら陛下、この者はとんだ法螺吹きです。こんな錆びた武器を戦利品だとかいうのですから」
2本とも鑑定し終わった学者は鼻で笑い乱雑に剣を突き返し、やれやれといった感じで心配になった王の言葉に自信をもって価値無しだと答えたのだ。
国一番の学者がそういうのだ、再び威厳を取り戻した王は
「貴殿がなぜこのような暴挙に出たのかは知らぬ、だがワシ等の宴を邪魔するだけでなく勇者殿功績を横取りし穢そうとした其方の行い、どう見ても正気の沙汰とは思えん。一体何が目的じゃ」
「俺の目的?それは簡単です、其処にいる屑勇者の横っ面を思いっきり殴らせていただくだけでです」
「何故じゃ?ワシは結構お主に期待しておったのじゃぞ!?」
王よ、期待ではダメなのだ。
勇者など召喚した時点で俺は期待などには沿えなかったのだ。
だから今、一つ真実を告げよう、それがこの国に恩を売るか仇となすか。
「そいつは俺が気に入らなかった。だから35階層で落盤事故があった時、床にぽっかりと開いた穴に俺を突き落とし殺そうとした。」
「!!??」
「何が”途中でどこかに消えた”だ、お前の魔法が俺を突き落としたんだろうが!」
「僕は知らない、消えたと思ったはずなのに、何で生きてるんだよ!」
「話しただろう、お前に突き落とされて50階まで行ったと。そこで俺は試練を受けた、自分自身を越えるための試練を、そして打ち勝ちこうして生存している」
突き飛ばされ穴を落下していた時は恨みも憤りも最大だったが、今は落ち着いていた。
静かにこれから敵となる者達を見返していた。
王は動揺していた、元副騎士団長は堅物だが非常に堅実で真面目な人だ、騎士達の評価は高く城の外でも彼を慕っている者は多いと聞く、そんな者が仕えるべき主を目の前にして信頼できると断言した勇者と対立している、どちらも選ぶという選択は無い、どちらか一方しか選べないのだ。
そしてどちらを選べば国にとって損害を最小限に抑えることが出来るか?その選択に迫られた王は凡庸な答えを出した。
「ワシは勇者今城の言葉を信じる、勇者を信じずして何が王か!・・元副騎士団長オリトルエ其方はそれでも主張を変える気はないか?」
「非常に残念でなりません。俺は貴方方と分かち合えなかったのですか」
「お父様!では早くその不届き者を!」
「うるさい!・・・それでは先ほど申しました通り、私は騎士団を退団させていただきます。王御身に置きまして私の様な不遜な部下を持っているのは誠に遺憾だと感じておられるでしょう。まったくその通りにございます。」
王は勇者を取ったのだ、だがそれは至極当然であり、満足げに腕を組んでいる今城もその自信は揺らがなかったようだ。
勇者達はわざわざ外の世界からこの国が、王が呼び出した者達である。
疑わしいから切り捨てるなどと簡単には出来ないし、そんなことをしてしまえば身内でも反乱がおき自分の地位すらも危ぶまれる、評価が高いとはいえ替えが効く騎士と比べられる訳もなかった。
「これで心置きなく戦うことが出来る」
「貴方!今度は何を!?」
「騎士団に身を置く限りこの剣技・忠誠は王に捧げられるもの、間違ってもその王に切っ先を向けることは出来ない、それは姫である貴方に対しても、騎士団長に対しても同じこと。どれほどムカついても我慢するしかなかった」
「ひっ!」
「王よ、感謝します。退団を認めてくださったことを、やはり俺には副騎士団長など・・・王を守る盾になどなれませんでした」
肩の荷が下りた、高々20半ばの若造には今の職は早すぎたのだ、それを改めて実感できた。
雌犬のようにキャンキャンと吠える姫に殺気立った剣気を向ける、親衛隊が意地でその間に割り込むと糸が切れた人形のように姫は意識を失い崩れ落ちた。
就任時に賜った双剣を左右に居た騎士に返し投げ出された2振りの剣を腰に携えた。
これでようやく組織という柵から解放された。
「さてと、」
首の関節と指の関節を鳴らし、憎い敵の元へと進んで行く。
それに気付いた今城の周りの者はさっと避難しそこだけ空間が出来た。
「俺はお前をどうしても許すことが出来ない、お前達が来てから俺の生活は変わってしまった。苦労して就任した副団長も解任され、王とも険悪な関係となってしまった」
「自業自得だろう!お前が嘘を吐くから悪いんだ!」
「・・まだそんなことを言っているのか、お前は特別だ、特別視される人間だ。特別でなければ生きていけない人間だ」
「ふん、当然だろう僕は勇者だ!お前の様な凡人とは違うんだよ!」
「俺はお前の様な者が一番嫌いだ、何が勇者だ!戯言を抜かすな、お前は贋者ものだ!今までの制裁も含め、貴様に・・・決闘を申し入れる!!」
どうしても自らの非を改めることが出来ない今城は王の御前であるにもかかわらず、荒い言葉を吐き周囲を見下した態度を取った。
一部の者がそれに不快を感じたようだが口に出すべきではないと飲み込んだ。
敵意を押さえることなく発せられた言葉に周囲の者達は騒めいた、それは王も同じでまさか自分の決断がそこまで彼を追い詰めているとはといった感じのものだった。
ここで今城は口元を緩ませ
「お前如きが僕と決闘だって?笑わせるねww僕と君とでどれだけ力の差が分かってる?ww僕は50階でドラゴンを倒してるんだ!君は人型の何かだろう?もし僕の後に50階層に到着してそこで何者かと戦ったとしても、ドラゴンと人間とじゃ格が違うんじゃないかなwww」
「・・・・・・・・・」
「確かにNPCの中では君は強いよ?wwwでも僕らは主人公だ、わき役は脇役らしく身の程を・・!?」
「ごちゃごちゃ抜かす暇があれば剣を持ってついてこい、ここでは流石に死人が出る」
嘘もここまでスラスラペラペラと並べられると半信半疑であった元副騎士団長派の騎士達も今城に賛同する手が上がる、今城の言葉はそれだけの説得力がある。
こちらが何も言い返してこないことで調子に乗りしたり顔で言葉を続けようとした時、彼の頬から血が滴った。
オリトルエが何かしたことは明白だが誰もその攻撃が見えなかった。
いや見抜いた者は居ただがそれは普通、攻撃と呼べるものではなかった。
闘気に殺気を乗せて繰り出した空気の刃と似通った物、しかし魔力は感じず予備動作もない、勇者の中でも最も強い今城に気付かれず傷を負わせた。
彼は言った”死人が出る”と彼は本気で戦うつもりなのだ、人間相手では使う必要が無かった力を遂に。
この戦いは騎士としてではなくただの男としても見る価値がある、否、見なければならない。
この決闘は向う10年は語り継がれることになっただろう、両名が死力を尽くしどちらかが死に絶える迄続けられたのならば。
元副騎士団長vs勇者兼騎士団長今城の決闘は野外の闘技武舞台で行われることなった。
何故野外か?それは見学を申し出た者・・主に貴族が多すぎたからだ、前回行った室内の舞台ではこの人数が入りきらなかった。
刺激と娯楽に飢えている貴族たちからすればこんなに面白いものを見逃す手は無かった、片や我が国最強とされる騎士、片や異世界から召喚されし勇者との対決だ、心躍らないわけがない。
そういった感情を漲らせているのは何も貴族ばかりではない、この国の騎士達も2人の姿を固唾を飲んで見守っていた。
副騎士団長オリトルエ・・農民の出でありながら若くしてその地位に駆け上がった彼は騎士の特に平民や位の低い貴族の憧れであった、実力さえあれば農民でも高みに登れると体現した人物なのだから。
彼は騎士として名実共に最高の男だった、だから知りたかったその強さを、その相手が勇者の中でも群を抜いて強い今城であるから期待していたのかもしれない。
「・・騎士として決闘を見世物にされるのには憤りを感じるが、王があれではもう」
「あんたはもう騎士団を辞めたんだ、騎士でもなんでもない!」
「はぁ・・貴様はそんなことも分からないのか」
「うるさいうるさい!お前は僕に殺されるべきなんだ!あの時しぶとく生き延びたことを後悔させてやる!!」
「両名とも準備のほどは整いましたか?」
俺に食って掛かる今城は既に臨戦態勢の形を取っていた、だがその気込みも酷くちっぽけに見える。
2人が抜剣し構えると合図を掛ける男が最終確認を行った。
この世紀の戦いについていける者は恐らく現世には居ない、この審判も役柄上この場に立っているが2人に比べれば自分などとてもちっぽけな存在でしかないと、ダモンとも実力が伯仲する王族親衛隊長であるアギスは思った。
「よろしいですね・・・・・それでは、始め!!!」
アギスは開始の合図を高らかに叫び、闘い火ぶたは切られた。
「ブースト!ブースト!ブースト!ブースト!ブースト!ブースト!」
「・・・・・」
「強化!強化!加速!加速!硬化!硬化!」
「・・・・・ふぅ」
「オールマイティ!武神の加護!女神の加護!大地の加護!賢神の加護!」
開始合図の前から魔力強化を重ね掛けしていた今城だが、合図を皮切りに更なる自己戦力を増大させるスキルを発動させていき、それら全てが終わる時彼は神々しいまでの光に包まれていた。
人智を越えた力に足を踏み込んでいた、ただの決闘でたった一人の人間を倒すには明らかに過剰な力であった。
見物人の安全など彼は考えていなかった、ただ目障りな騎士を一人叩き潰すことだけに集中していた。
「雷神の怒り!風神の猛り!炎神の暴虐!」
「・・・・・・・」
「おやめください今城様!このままでは城にまで被害が!?」
今城が唱えたスキルはその一つ1つが天災クラスの攻撃であった、人間など何百と集まったところで消し炭に出来る程の威力を持っていた。
観衆がざわめき騒ぐが彼らは勇者が自分達に攻撃を当てることなど考えている訳もなかった。
超弩級のパフォーマンスだと高を括っていたのだ。
「・・・三刀両断」
そんな天災級の攻撃をたった3つの斬撃で打ち消してしまった。
剣士なら誰も覚える初級スキルによく似た技で。
親衛隊長並びに騎士達はそんな光景を見て顎が外れそうになった、彼らの目に見えたのは3度の”両断”スキルであったのだ。
彼らはそのスキルを自在に使うことが出来る、だがそれは接近または接触してる物体に限ったことであり、宙に浮いている極大魔法を撃ち消すなど前代未聞の事であった
「な、な、なにをした!?」
「あまりにもちゃちな魔法だったので消した」
「ちゃちだとぉ!!」
唖然となっていたのは騎士達だけではない、その執行者さえも状況が読み込めず喚き散らしたのだ。
そうしてムキになり聖剣を振りかざしながら突撃してくるも
「安直な姿勢だ」
「なにぉ!?」ゴン!ガン!ダン!ドン!
「・・お前はそれでも50階層を突破したのか?」
懐に潜り込み刀身と柄で奴の体を殴打し、簡単にそれを受けた相手に向かって率直な感想を吐いた。
奴自身の超能力強化と剣自体の切れ味が悪いことで大したダメージにはなっていない。
だがそれは表面的なことで今城はショックに打ちひしがれていた。
そんな状態だが立ち直らせてやる時間をやるほど今の俺は慈悲がない、困惑している奴に次々と斬撃を与えていく、勇者は木の葉のように飛び石ころのように転がった。
今城は恐怖した、全力を出しているのにも関わらず手も足も出ずただ打ちのめされるだけ、そしてこんなことが前にもあったのを思い出した。
このままではあの時と同じだ、あの時はまだ王の目にも留まって居なかったから無様に伸されてもまだ誤魔化せた、だが今は違う、勇者の代表となり姫に認見初められ次期国王も確実で騎士団という組織も自分に平伏したのだ。
なのに、なのにあの男に負けてしまってはそれらが水の泡になることが、高慢ちきな頭でも想像に難くなかったのだ。
それだけは・・それだけは、何をしてでも阻止しなければならなかった、だから、だから彼は卑怯な手を取ることも厭わなかった。
今城は彼女を使うことにした、自分の周りをこそこそと嗅ぎまわっていたネズミを。
そしてわざと無防備な態勢のまま突撃し、攻撃が振るわれる瞬間に
「次僕に攻撃を当てたらあの女を殺す」
「!?・・・・ッ!」
今城の言葉を聞き振るわれた剣が僅かにその身体を避けた。
不気味な笑みを浮かべる今城は続けて
「フヒヒ、そうだ。お前の大切な女を殺す、下手な真似はするな。」
「あいつは関係ないだろうが!」
「関係大有りさ、僕の周りをこそこそと、目障りだったから捕まえておいたらお前の幼馴染だという話ではないか?これ以上ない肉盾じゃないか!」
「貴様・・・・」
「おっと動くなよ、動いたら女の喉を掻っ切るぞ?こっちだってあんな上玉殺すのは惜しい、後でたっぷり苛めてやろうと思ってるんだからな!」
今城の視線の先に、拘束されサヤの首に短剣を突き付けられているは下卑た男達が居た。
視線を戻すと剣の横薙ぎをまともに喰らい後ずさった。
下手に手が出せなくなった、一瞬で今城を殺し見物人ごと男達を切り伏せても間に合わないだろう。
そして何よりも堪えたのはサヤが強い眼差しを俺に向けていたことだ。
自分はどうなってもいい、だから勝って・・・そんな感情が伝わってくるようだった。
「・・・・っく!」
「おっと、武器は捨てるなよ?無抵抗の相手をいたぶるのは勇者の沽券にも関わることだからな」
「どこまでも卑怯で自分勝手な・・・!」
「卑怯でも勝てばいいんだ!僕が勝者でお前は敗者だ!」
先ほどまでの猛攻撃はどこへやら、オリトルエは今城の攻撃を防御することに徹していた。
少しの間彼らで会話をしていたようだが見物人の歓声でそれを聞き取れたものは居ない。
誰もが歓喜していた、一時は反逆者に攻撃を許したがやはり最後に勝つのは勇者だと!
見物人たちでは勇者の不正を見抜ける者は居なかった、彼らは勇者にしか目に入っていないのだ、自分達側にそんな者が居るだなんて分かるはずもない。
そんな中にも違和を感じる者がいた、同じく舞台に上っているアギスは急にオリトルエの動きが鈍ったのを感じていた。
最初の斬撃もさることながら勇者に与えた打撃のどれも彼には見切ることは出来なかった、それなのに会話を挟んだ途端に見える速さに落ち込んでしまったのだ。
見物人達同様彼も2人の会話は聞こえなかったが、明らかに後手に回り手を拱いているのが分かった。
勇者にされるがままに打ち止めされている彼の視線は時折ある方向に向いているのに気付いたが、審判という立場上変によそ見し決定的な場面を見てなかったでは済まない。
だから審判である私はその方向が正面に来るように視野を変え、彼が何に視線を送っていたのかを目を凝らした。
そして驚愕した。男達が女性を囲み、あまつさえその首元に剣を添わせているのを。
合点がいったのと同時に私の勇者を見る目がガラリと変わった。
何て非道な行いをするのだろうと、良心が痛まないのだろうかと。
こんな行いをする者が勇者なのだろうかと、今すぐ止めに入って不正を明らかにしたいと・・。
だがこれは決闘だ、両名死力を尽くしての戦いにはいかに審判であろうとも中断させることは許されていない、開始時と終了時の合図を上げるためだけに同じ舞台上にいる案山子なのだ。
過去にはこれと同じような手を使い相手を降伏させた貴族も多くいたという。
そっと腰に携えられた愛剣に手を伸ばす。
審判は自らの身を守るため、決闘者があまりに酷い暴虐を成した時にのために帯剣を許されいる、今この剣を抜くべきか葛藤が始まっていた。
まだ勝負は付いていない、私はこの舞台上では少なくとも中立でなければならない、決闘に関する知識は頭に叩き込んである、勇者の行っている行為は違反ではない、違反ではないのだ。
これは舞台の外で行われている非道であり、舞台に上がった私はここの結果だけで勝敗を決めなければならない。
何と無力なのだ私は・・・。
それに引き換え彼女の態度、なんと強き瞳だろうか。
彼女は分かっているのだ自分が完全に足手まといであることが、だから断固たる意志を持って勇者を睨み”騎士”の勝利を願い信じる心がこもっていた。
私はあのような心を持つことが出来ようか?否、出来ぬであろう、私は半端者だ、力と権力の両方を欲しこの地位に落ち着いた。
ダモン殿のように部下に慕われている訳でもない、オリトルエ殿のように目標とされている訳でもない、エドワード殿のように騎士団を背負うような器もない。
「”贋者”か・・・私も騎士の贋者だったのかもしれない」
オリトルエ殿が勇者に向かって放った言葉が頭の中で木霊する。
本物の騎士が何か、それを追い求めることを私はしてこなかった、だがその答えがすぐ目の前にあるとすれば。
「アギス親衛隊長殿」
ふと自分の名を呼ばれ決闘中であるにもかかわらず声のした方に振り返ってしまった。
そしてそこには懺悔するように跪いている部下たちの姿があった。
「アギス殿のお考えになっていること、遅れながら私達も同じ結論に落ち着きました」
「お前達・・・」
「隊長殿の見ている方向を見れば誰だって同じ反応をするはずです」
彼は自身を過小評価している、一番隊部隊長のダモンと同等であれば騎士の中でもトップに近い実力者だ、そしてエリート達を引き抜きまとめ上げたその手腕はダモンに劣るものではない、彼にもいいところはたくさんある、だから部下たちは付いてきたのだ。
王族を護衛するという名目で集められた私達だ、揃いもそろって王の元から離れるなど職務怠慢もいい所だ。
だが私はそんな彼らを誇らしく思った、騎士とは本来こういう生き物でなければならない。
そう彼のように。
「ウキャキャ!惨めだな!弱者は弱者らしくそうやって地面を這い蹲って居ればいいのだ!」
「・・・ふぅ・・・」
「ゴキブリ並みのしぶとさだな、いいだろう、この技でお前をこの世から消してやる!」
サヤが人質となり今城が俺を嬲り始めてそれなりの時間が経った、ダンジョンの時の傷が開き呼吸すら辛い。
剣の一本が手から離れもう片方だけで奴の斬撃を防いでいたがそれも限界に近い。
俺は今一度サヤの方に視線を向けた、彼女の悲しそうな表情にぐっと心が痛む。
体はまだ動く、ゆっくりと立ち上がり棒立ちで今城に相対すると奴の余裕そうな笑みは消え真顔となり自らの剣に魔力を集中させていく。
あの技は25階層のボスを倒した技にそっくりだ、とても剣一本で防げる攻撃ではない。
「聖剣エクスカリバー!!!」
「・・一刀両だ」
「僕の・・僕の勝ちだぁ!!」
僅かに剣を上げるのが遅れ奴の技をまともに喰らいそのまま倒れた。
そして勝利を確信した今城はもはや持ち上げることすら厳しい聖剣を頭上に掲げ、倒れている者の首元めがけて重力に従い振り落とした。
ガキン! 金属と金属がぶつかる音が聞こえ、今城は何者かによって阻まれた己の剣先をみて怒りに満ちた顔となった。
「何故お前が!どけ!そいつを殺すんだ!」
「剣をお納めください今城様、この決闘は今城様の勝利です!これ以上の戦闘の継続は認められません」
「邪魔だ!そいつを殺さなきゃ僕の勝ちじゃない!退け!退かないとお前も殺すぞ!!」
「グアァ!ゆ、勇者様・・・」
「隊長ー!おのれ・・いくら勇者様といえど許せん!」
親衛隊長が今城の剣を止め勝者だと告げるも半狂乱となった彼は剣ごと親衛隊長を切った。
愛剣と共に叩き斬られ力なく倒れるその姿に親衛隊達は剣を抜き、ぞろぞろと舞台へ駆けあがっていき今城を囲んだ。
元々のステータスが騎士の数倍ある勇者の中でもその頂点に組みする今城からすればこんなNPCなど数の内に入らないはずだった。
はずだったが、親衛隊も騎士の中から選りすぐられた精鋭達である、戦いで消耗している今なら数で押せば身動き位は抑えられると思っていた。
「くそぉ!!邪魔だ!殺すぞ!邪魔する奴は皆殺してやるぞ!」
暴れる今城を必死で抑える親衛隊達、一人また一人と刃によって傷を負っていくがそれでも引くことなく団結し体重を預ける。
そうして大半の親衛隊員が勇者を押さえている間、別に動いた者達も居た。
「そこの男共その女性に何をするつもりだ!」
「ん!何もしてねぇぜ、こいつは」
「言い訳は通じん!御来客の皆さま危険な賊が皆様の中に紛れ込んでおりました!ですが、ご安心してください、我が王が選りすぐった親衛隊である我らがすぐに取り押さえて見せましょう!」
「っち、女一人抱えてるだけの簡単な仕事じゃなかったのかよ!あの野郎しくじりやがったな!!」
数人の親衛隊員が周囲の見物客に注意を呼びかけ男共を囲み取り押さえたるまでそう時間はかからなかった。
男達はそれこそただのゴロツキレベルの素人であり、厳しい訓練を積んでいる精鋭騎士達には造作もない相手だった。
多くの見届け人が見届ける中、勇者vs元副騎士団長の決闘は勇者の勝利で幕を閉じた。
そして観客の中に紛れていた賊を親衛隊員が素早く取り押さえたことにより、彼等も称賛の声を浴びたのだった。
それでも被害は馬鹿にならなかった、アギス親衛隊長は勇者の一太刀で利き腕を再起不応にされ、取り押さえていた部下も致命傷までは行かずとも重傷を負った。
そして勇者が取り押さえられた後、死なせるのは心苦しいとの声もありオリトルエは一応の応急処置を施され医務室に運ばれ一命を取り留めた。
だがその幸運も長くは続かなかった、勇者達が抗議したのだ
「あのような危険人物を放置していればまた同じことを仕出かし、今度はこの中の誰かが死ぬかもしれないと」
騎士より勇者の言葉を信じた王でも勇者達の意見に疑問を思ったが、今更意見を違える訳にもいかずオリトルエへ裁きが下されることなった。
それは国外への追放だったが、そんな生易しい意味では無かったのだ。
全治数か月は掛かる怪我の回復を待たずして、勇者召喚の儀を行った魔法陣に放り込み国の外に追放する、という方法だった。
昔から城で重罪人などを処罰する際によく用いられた方法で、直接手を下すことなく辺境の地で野垂れ死ぬことが見込める画期的なものだった。
だが、王に反逆した今でもオリトルエを慕っている者は多い、そんな彼らがそんな方法に賛成するとは思ってなかった、だから王は秘密裏に事を運んだ。
出来るだけ波風立てず勇者に味方で居てもらうために。
王は信頼できる兵士にオリトルエを運ばせその身体を魔法陣に寝かせた、後はいつの間にか魔法陣が起動しその者を何処かに連れ去っていくことを願って。
兵士が召喚の間から出ていき気付かれず入ってきた者がいた。
アギス親衛隊長だった、いや今は王よりその任を解かれたただの騎士となっていたが。
彼は利き腕に包帯を巻き足も引きずるようにして召喚の間に入ってきた、そのもう片方の手に2振りの剣を持って
「オリトルエ殿、私は今なら貴方の言葉を信じることが出来る。あの勇者は贋者だ、そして貴方は本物の騎士だった。だが、どれだけ強い騎士も武器がないのでは格好がつかんだろ?・・・任を解かれた私に出来ることはこれくらいしかない、すまない、私の目が濁っていたばっかりに、偽者が蔓延る世の中にしてしまった」
アギスは足を引きづりながらも魔法陣の傍らで膝を突くと、眠っている者に懺悔をするように形で頭を下げ傍らに剣を添えた。
魔法陣が青白く輝きだし、オリトルエの体を包んでいく
「彼女のことについては心配しないでくれ、お前が戻ってくる間、私が私達がこの命に代えても守る!だから絶対に生きて帰ってきてくれ、そしてお前が帰ってきたら酒を酌み交わそう、お前にはまだまだ借りがある・・・・私を本物にしてくれた礼があるからな」
アギスの言葉は最後まで届かなかった、すぐそこにあった彼の体は埃1つ残さず消えていた。
それから暫くして親衛隊は解散となった、今城の手によって皆殺しという形で。