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転落編


騎士団長及び副団長の任命と解任を行えるのは国王ただ一人であり、幾ら王妃と王女の決定であろうとも従う道理など無い、無いのだが俺はもう疲れた。

就任して5年半、この半年だけでそれまでも5年間の疲労と同等な物を負わされていた。

騎士としての誇りを持ち、いかに勇者であろうとも舐められることが無いよう威厳を保ちながら接してきた。

だがその結果がこれだ、任を解かれ平の騎士に戻る、別に嫌ではない、一般的に自分の歳では騎士見習いとして修業を積んでいる者の多いと聞く、そんな中で一人前の騎士として役を与えられるのだから。

だが自分が間違っていたとは思いたくない、これが俺の騎士として理想であり夢でもあったのだ。


身を屈ませたまま修練場を後にし自室の整理を初め、私物を集めそこも後にした。

自己評価としてやれるだけのことはやった、満点とまでは行かないが合格点位は付けてやりたい。

抱える荷物を落とさぬように一般騎士が日々の生活を過ごす寮にやってきて、寮長に挨拶を済ませ一室を借りた。

騎士に限らず国へ奉公に来ている者は必ずその衣食住が保証され人としての生活が確保される。

それは貴族や有名な武道家剣術士を輩出している族からすれば当然の保証であるが、元々裕福とは言えない地方の農村で生まれた俺にとっては天国の様なところだと子供ながらに思ったことがある。

平民農民が騎士に取り立てられるのは一年に数人居るかどうかで、仮に騎士に成れたところで他の者達からの虐め等で心を病み早々に実家に帰る者も珍しくない。

そういう俺も新兵の時、何度か貴族共にいちゃもんを付けられ暴力で解決しなければならない時もあった。

・・・何が言いたいかというと今まさにそういう状況にある。


「平民風情が騎士になろうなんて生意気なんだよ!」

「・・・・・・・・・?」

「こいつ言葉も分かんねのかよ、どこのド田舎出身だぁ?」

「・・・・・・・・・は?」

「やっと喋ったかと思ったらおれ等に対して”は?”だと!私は卑しいドブネズミです!の間違いだろうな!」


かなり若い少年三人に囲まれてた、彼らは貴族の三男坊か四男坊の様な振る舞い方で事あるごとに俺をいじっていた、大体は無視してきたのだが修練の休み時間に木剣で叩かれた時にはもうその気は無かった。


「なんだ餓鬼ども、騎士は強い者ほど偉いんだぞ?こんなことやってないで一回でも素振りの本数を多くしろ」

「うっせぇ!大体なんだその物言いは!俺は貴族だぞ!てめぇみたいな平民よりも偉いんだぞ!」

「はぁ・・・じゃ、もうどっか行けよ。俺を格下と思うなら関わるな」

「黙れ!平民はオレ達貴族の踏み台になってればいいんだよ!それが生意気にも意見しゃがって!」


この場には50あまりの騎士又はその見習いが集まっており、それぞれのレベルに合った者達で修練に打ち込んでいる。

それは目を見張るだけの価値のある者から、目の前の者達のように無駄に時間を使っている者達までの上下幅のある空間だった。

俺はここに来てから真面目に修練を受けていない、いやレベルが低すぎて張り合えるような奴がいないので仕方なく瞑想をしていたのだ。

そこにちょっかいを出してきたのがこの三人と言う訳だ。


「おい平民!いつもそこでぼさっとしているが、ようは剣の腕に自信がないのだろう!」

「なら怪我しないうちに家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」

「なんなら案山子として使ってやってもいいぜ!!」

「うるさい、うるさいな、本当によく喚くな?」

「んだと!この野郎!」


「貴様等いつまでさぼっているんだ!我が隊には貴様等の様な軟弱者の居場所など無い!さぁ!剣を取れ!」


「っち!こいつがサボってるから焼き入れようとしただけさ、やる気ないのはオレ達じゃないこいつだ!」

「そうだそうだ!オレ達は良かれと思ってこいつを鍛えてやろうとしたんだ!」


「ふむ、ならば座っている貴様、顔を上げろ!お前に至っては一度もまともに修練を受けていないな?よしその根性、私が叩き直してやる」


馬鹿三人組は大声を上げて近づいてくる女にびくびくしながら俺を出しにして距離を置くと、その女がこちらに向けて真剣の切っ先を向けた。


「チッ・・女だからって調子に乗りやがって、この借りは必ず・・・」

「貴様等も私の剣の錆びになりたいのか?」

「いいえ!滅相もない!ほら早く行くぞ!」


女の気迫に気圧された馬鹿どもはその場から距離を取り、同士でチャンバラごっこでもするみたいに剣を交えこちらの様子を伺っていた。


「後は貴様だ、早く立ち上がらんと頭が胴体とおさらばするぞ?」

「俺は最近入ったから知らないんだが、ここは何番隊だ?」

「立ち上がれと言っている!」

「どこの部隊か言えよ、でないと俺は何もしない」


「強情な奴め、いいだろう。学の無い平民にも分かりやすく教えてやろう、ここはな?この私ガルベール・スタンジアが隊長を務める、この国の主力部隊の1つであるⅤ番隊だ!」

「いっ・・・そうか、五番か」


どうもこの女も貴族上がりのようだ、いちいち鼻につく言い方がそう物語っている。

やっとこの女の正体が分かり、突き付けられた切っ先によって切れた額から血が流れ顎をから膝にぽたぽたと落ちるのを気にもせず両足に力を籠めすっと立ち上がる。


「久しぶりだなスタンジア副隊長・・ああ、今は隊長だったか?」

「あ・・貴方は、え?何故貴方様がここに!?」

「そう畏まらなくていいさ、もう俺は副騎士団長じゃない一介の騎士に降格になったのだから」

「いえ、あの、その・・・」

「根性叩きのめしてくれるんだったな?じゃぁお願いするよ五番隊隊長殿?」


この国は騎士が集う部隊と言うモノが1~5番まである。

部隊は才能と実力で割り振られ、1が最も強く5がその中では一番弱い。

その1~5各に部隊長と副部隊長が居り、それら10人を纏めるのは騎士団長と副騎士団長であり、その二名は彼等よりも強い者が成る。

剣のオリトルエ盾のエドワードと評されることが多く、攻撃力ではオリトルエが一番で防御力ではエドワードが一番である。

そして1番と5番の隊長でも雲泥の実力差というものが存在し、それをさらに超えるオリトルエとスタンジアでは勝負になるかも怪しい力の差があったのだ。


「立てよ、俺は今凄く虫の居所が悪いんだ。お前もここ五年で少しは腕を上げたんだろう?見せてみろよ」

「はぁ・・はぁ・・もう、立てません。ご勘弁を・・」

「っくそが!もう少し骨があるかと思えば手加減してやってもこの程度か!腑抜けめ・・全く仕方ない、他の部隊長を当たるとしよう」


案の定相手にすらならず不完全燃焼もいい所であったからか口調も素行も荒くなった。

息も絶え絶えでようやく喋っている女を見下し、木剣を振り回しながら近くにある修練場へ向かった。


「4番の部隊長!出て来い!道場破りだ、貴様の部下は軟弱すぎるぞ!」

「フェニックスさま!変な奴が殴り込みを掛けてきました!?部下たちではどうにも力不足でして・・」

「慌ただしい奴だな。まぁ丁度退屈していた所だ、私自ら迎え出てやろうではないか!」


「おぉ、4番はフェニックスかスタンジアよりは退屈しなさそうだな」

「あ・・あ・・あ、副騎士団長殿!?まさか道場破りとは・・・!?」

「俺の事だ!加減は要らん!さっさと構えろ!」


どっさりと詰所の自室の椅子に座っていた細身の男は慌ただしく入ってきた副部隊長から事情を概ね聞くと、壁に掛けらていた細身の剣を手に取り修練場に姿を現すが、部下たちが呻き倒れているのと正面に立っている人物に心当たりがあったこともあり剣を持つ手と声が震えた。

結果は4番隊長も満足のいく試合をすることが出来なかった。

それから3番2番と順位を上げていくがどいつもこいつも階級倒れの強さしか持ち合わせておらず、夕暮れを迎えるまでもなく1番隊の修練場まで辿り着くことが出来た。


「来たか・・・」

「ご無沙汰しておりますダモン殿」

「挨拶は無しだ、貴様道場破りのまねごとをしているようだな?」

「ええ、まぁ。ですがどいつもこいつも弱くて話になりませんが」

「我々は真剣で貴様を迎え撃ったというのに、その手に持っているのはなんだ!?」

「練習用の木剣ですがなにか?」

「副騎士団長である貴様の強さは我が良く知って居る、そして聴こう我を相手にしてもその木剣を使うか?」


黒鉄の重厚な鎧を纏った大男が腕を組み、他の部隊の詰所とは比較にならない程広い建物の前で仁王立ちしているのが見え軽く会釈をする。

重苦しい男だ、だが一番隊隊長を任されるだけあって手強い相手だ。

武器は大剣を使い、申し訳程度に小楯を左手に付けている。


「貴方は序列でいえば俺の次に強い方だ、よって真剣を使えばただの殺し合い。無駄な血は流したくない」

「真剣では戦わないと?」

「そういうことになる」

「・・・このダモンも舐められたものだ、そんな木剣ではこの鎧に掠り傷1つ与えられんぞ?」

「ええ、ですから少し本気を出します」

「本気だと?」


何を言っている?

練習用の剣を使っている時点で本気も何も無いだろうとそう口にしようとして気付いてしまった。

奴はまだ剣を一本しか使っていない。

騎士団の旗には一対の剣と一枚の盾が描かれている、それは騎士の姿を現しているのだ。

剣は敵を倒すために振るい物と誰かを守るための2本、盾は己を守るための1つ。

普通に考えれば剣を二本持ちその上、盾を持たなければならないという余計な想像図だが、それに近い男が目の前にいる。

”流星のオリトルエ”それがその双剣使いに付けられた2つ名であり、誰か名付けたか言い始めたかは不明だが名前負けすることもない剣撃の数と速さは正しく流星の如き。

自分が誰を相手にしているのか思い出したダモンはその身とほぼ同じ長さの大剣を鞘から抜き構えると、巨大な魔獣に立ち向かう様に己を高ぶらせるため咆哮し突撃した。


勝負は一瞬で着いた。


「見事・・・・だ」

「やっぱり、これくらいが限界だろうな」


ダモンの剣は自分の頬を掠めスッと赤い線が描かれる。

だが倒れたのはダモンだ。

彼の胴には2か所大きく凹んだ箇所がありそれは木剣によって付けられたものである、代わりと言ってはなんだが当たった木剣は反動に耐えられず木っ端みじんとなり地面に落ちた。

倒れた彼を体格のいい部下たちが担架に乗せて詰所内へ運んで行った。

丁度良く修練終了の鐘が鳴り自分も寮に戻ると隊長達が入り口で地面に正座していた。


「「「「御早いお着きでリオトルエ殿!」」」」

「お前達何をしている?」

「いえ、私どもも一同、下積みを今一度実感し、また鍛え直そうかと思いまして」

「いい心がけだが、自分の部隊でも出来るだろう?」

「それもそうなのですが、折角ならばリオトルエ殿のご指導の下修練したいと思いまして」


「俺はただの騎士に降格したんだぞ?そしてお前等は曲がりなりにも部隊長だ、人の目と言うモノもある」

「それは伺いましたが、降格されたからと言って実力まで衰えになったわけではございません。なにとぞ私どもをご指導ください」


また厄介なことになった・・だが、この国の騎士もまだそこまで腐っていないということも知ることが出来清々しい気分になった。

まぁ、問題にならなかったわけではない、2~5の部隊長が一気に休暇願を提出したことにより、部下である副部隊長や予定を組む大臣らが事情を聴きに宿舎に訪れるくらいだったのだから。



「暇だな・・・」


修練場で寝っ転がり流れる雲を眺める俺はそう呟いた。

部隊長らは引き連れてきた部下や同士で修練に励んでいる。

5番隊の修練場は他の隊に比べ少し狭いし設備も貧相だ、だが剣を振るうのに豪華な設備は要らない、だだっ広い広場でも出来ることだ。

一度だけ部隊長4人と模擬戦をしてみたが俺の圧勝だった。

その時


「オリトルエ殿、貴方をご満足させることは我々には出来ないようです。申し訳ありません」


足が縺れて腰が抜けたフェニックスがそう汗だくで言ったことにより、自分の強さが規格から外れていることを改めて実感した。


「オリ君!」

「・・・・何の用だ」

「暇?」

「だから何だと言っている」


久々にサヤの声を聞き目でその姿を追い素っ気なく反応するとさらに距離を詰めてくる。

のぞき込むショートヘア頭のこいつの顔をまじまじと見る。

そして隣に座りその横顔を眺める。


「どうしたの?私の顔に何かついている?」

「ああ、相変わらず阿保面だなと」

「む・・・見とれてたんでしょ、この私の可愛さに?ほら!」

「お前の自信はどこから出てくるんだ」


こうは言ったが内心ドキッとしたのは事実だ。

俺がもう少し素直な奴であれば言えたのかもしれないが、この5年で気持ちもロクに伝えられない男になってしまった。

サヤは妹の様な子分の様な存在だ、小さい時からずっと俺の後をチョコチョコと追っかけ回し、俺が我慢する性格であるからか年上にからかわれても堪えていたのをずっと見ていた、だが俺とは反対で年上だろうが男だろうがムカついたら喧嘩してボコボコにしていた。

村の大人はサヤをじゃじゃ馬扱いで、子供の中ではガキ大将のポジションにいた。

それを唯一宥められる存在が俺であったのだ、ガキ大将の兄貴分でもありやんちゃな妹分でもある、ゆえに血のつながりは無くとも家族の様な存在でもあった。


「副騎士団長を解任された」

「・・・聞いた」

「そうか、これからはあまり忙しくはならない」

「・・・!」

「また昔みたいに一緒に居られるかもしれない」


そう、昔みたいに。

その言葉が気に食わなかったサヤは頬を膨らませ


「私って女として魅力ない?」

「何をいきなり・・」

「私ね、ずっとオリ君の事・・」


「オリトルエ殿!大変です!すぐに一番隊長殿の詰所にお越しください!」


間の悪い声がかかりサヤは言葉を最後までいうことが出来なかった。

愛の告白・・・それを中断させたフェニックスは正装を着た状態で俺を呼んだ。

ただ事ではない、だが


「ううん。何でもない、ほら早く行って、元副団騎士団長様」

「すまない・・」


居心地が悪い空気が流れサヤが俺を促し自分も立ち上がると苦笑いを浮かべ手を振る。

バツの悪そうに頷いた俺は彼女に謝りそのまま詰所を目指した。

一番隊詰所に到着すると部隊長が総揃いしており全員が正装に身を包んでいた。

何事かと腕組みをして瞑想しているダモンも声を掛けた。


「ダモン殿、これは何の騒ぎですか?」

「陛下が新しい騎士団長の任命式を行ったのだ」

「新しい騎士団長?騎士団長はエドワード殿に決まっているではありませんか」

「そうだった、というべきか。エドワード殿は怪我と御歳を理由に騎士団長から副騎士団長へと自ら下り、代わりに今城いう勇者が騎士団長に任命されたのだ」


「は?」


要領を得ない、何故だ?エドワード殿は確かに齢60を超えておられるが未だそのお力は健在である、それが自ら副騎士団長などに・・。


「貴様が原因でもあるオリトルエ」

「ダモン殿、それは・・」

「貴様が王女の怒りを買い副騎士団長をやめさせられたのが今回の大きな起点だ。要はまんまとあの王女様の手の上で起きた出来事だ」

「今城・・・」

「貴様と同じくオレも王女は好かんし勇者も好かん、が、どういった事情であろうとも決定がなされたからには従うしかないのがオレ達だ」


自分のせい、そうダモン殿は言った。

そしてあの憎たらしい王女の顔が脳裏に浮かび苦虫を嚙み潰したように表情が歪む。

ここに居る部隊長達は国王の命令は絶対に近い、多少の口利きが出来る騎士団長含め副騎士団長とは違うのだ。


「そしてスタンジアの5番隊とフェニックスの4番隊にオレの部隊が徴収を掛けれられた」

「何をしに?」

「長らく未発見だった山脈のダンジョンの調査だ。これには一部の勇者も参加するようだ」

「チッ・・・」

「どうも今城という勇者と貴様には因縁がありそうだな」


主要な部隊の3つを派遣させるとの事だが、果たしてそのダンジョンにそんな価値があるのだろうか?

未発見であったということは深さやモンスターの種類は分からないのだ、そんな危険な場所に大規模な進軍を行うこと自体馬鹿だ。

大体経験を積みたいならならばテメェ等だけで行ってこや。


「馬鹿馬鹿しい・・」

「本当に馬鹿馬鹿しいな、陛下も何をお考えになられているのか。王女に少し甘すぎるのではないかとオレもたまに思うのだ」

「甘いどころの発言ではない。俺を解任したのはアレだからな」

「・・直接陛下からお言葉を賜ったわけではないというのか?」

「そうだ、陛下とはしばらくお会いしていない」

「なんということだ・・・」


俺の話を聞いたダモンは口を半分開きにし唖然としていた。

彼も騎士団長・副騎士団長の任命・解任権を誰が持っているかくらいは知って居る、なんならそこらへんは俺より詳しいかもしれない。

国の守りの要がコロコロ変わってはならないという理由で決定権を絞っているのだが、親ばかな国王と勇者にぞっこんの王女によりその体制は崩れかけだ。


「確かにいくら何でも急すぎるとは思ったのだが、そういうことか」

「さてと、用事はこれで終わりか?」

「やけに余裕だな、オレ等から見てもあの勇者たちは異常な実力をしている、この国を乗っ取ることくらい容易なほど。エドワード殿がお怪我なされたのも納得がいく。・・・確かに貴様は強い、ここの5人が束になっても貴様に勝てるとは言い切れない程に」


別に余裕がある訳では無い、だがあの今城のことだけはどうにも認めることは出来ない。

それも個人的にだ。


ダモンの詰所にを後にすると自室に戻りベットに横たわる。

勇者召喚、これを行ったことでこの国は変わり始めている、いい方向にとは言えない、どちらかと言えば悪い方向にだ。

俺の力がどう利用されるか解らないが、俺は自分の騎士道を信じて生きるだけだ。


1・4・5部隊を合わせると70人ほどの人数となりそれらが目的地に向けて出立した。

そして俺のまぁまぁ平凡な人生が分岐を迎えた。



山脈の麓までは2日ほどで行ける。

だが未発見のダンジョンとやらは中層にあるようで、部隊ごとに分かれてそこを目指して上っていく。

流石にこの程度ではへばらない・・と言いたいところだが、修練を怠けていた者達は上がり切ったところで肩で息をし座り込んでいた。

こんなんで探索任務が務まるのかと思っているところに


「おやおや、どなたかと思えば解任になった元副騎士団長様では無いですかwww」

「・・・・・ッ」

「確かに見覚えがあると思ったらwwお似合いですよ見習い兵士の格好もww」


嫌な奴らに目を付けられたものだ。

こいつらは今城の腰巾着の威勢だけは一人前の勇者共だ。

だが、力という観点では油断ならない。

こんな奴らでもこの国に十分脅威になりかねんのだからな。

この場は素早く立ち去るのが一番だ、妙な気を起こしてしまぬ内にな。

ほんの少し、頷く程度に頭を下げ部隊に戻り一息吐くと遅れている部隊が到着するのを待つ。


「只今から未発見ダンジョンの探索を開始する!各部隊!隊長の命令に従い順に侵入しろ!」

「「はっ!!」」


全ての兵が集まると休憩を取る間もなく指揮長を務めるダモンが全体 (特に部隊長)に対して指示を行うと、自身も部隊へ指示を出すためスタスタと戻っていく。

ダンジョンへの侵入順序は、まず1番隊が脅威となる魔物の討伐を行い奥へ進んで行き、4番隊が再び魔物が充満する前に拠点を各階層に配置し、その階層に5番隊と4番隊の隊員が駐屯し警戒に当たる。

一方勇者共は1番隊が切り開いた道を歩き、ダンジョンの最深部目指して潜っていき更なるレベルアップと装備の一新を狙うようだ。

長らく発見されていないダンジョンの場合、魔素が溜まりに溜まってダンジョン自体が保有できる容量を超える様な状況になると、一気にその濃度が高くなり強力な魔物が生まれやすくなるといった特徴もある。

これをダンジョンが変異したと学者共は呼ぶ。

そしてダンジョンが深ければ深いほどその魔力が溜まる上限が多くなるが、一旦変異してしまうと軍隊を派遣して滅しなければならない程の脅威を及ぼす可能性がある。


だが、それはこの世界の常識であり、ある程度の教養がある者ならだれでも知って居ることだ。

この世界の者ならばな。

逆に手っ取り早く強い敵を倒し多い経験値を得られる、異世界の住人である勇者達からすればその程度の認識しかなかった、それに輪を掛けて彼らは強かった、今ではある程度成長し一人で騎士十人を一度に相手にしても不自由なく戦えるほどに。

一番弱い勇者でさえ騎士数人分の力を有しているのだ、権力者たちが彼らを優遇するのは分かる。

そしてその勇者の大半はまだ成長過程にあり、更に力を何倍にも増大させる可能性も大いにあるのだ。


この行軍にもある意味そう言った権力者共の意をくんで行われたのだろう、息のかかった勇者の成長を目論む上で短期間でレベルアップ出来ついでに脅威となる魔物のも討伐できる、一石二鳥かそれ以上の利益を生むのだから。


「さて、我々もそろそろ出発するとしよう・・・オリトルエ殿少しよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「・・・騎士団長様の御命令で貴方をこの部隊から外し、勇者様方の護衛に付けよと」

「・・・・・・拒否したいのだが駄目か?」

「はい、上官の命令は絶対です」

「そうか」


「申し訳ございません」


5番隊長の号令がかかり隊員は億劫な表情でダンジョンがに入ってく、そしてそのほとんどが入って行くと彼女が俺に向かって、自分がここに居る原因を作った者の元に行けという命令を下し。

振り向いた俺の顔がとても不機嫌に見えたのだろう、彼女は親に叱られる子供のように震えていたが職務を全うする方を選んだ。

短く返事をし荷物を持って入り口付近にいる気に入らない勇者の方に歩いていくと、半泣きの言葉が投げかけられたが片手を上げてそれに答えた。



「やっと来たな、元副騎士団長さんよwww」

「・・・・・・・・・・・」

「仕事奪われて給料減って今までこき使ってきた者に見下げられるってどんな気持ち?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「何とか言ったらどうだ?おれ達はこの世界を救う勇者様達なんだぞ!?」


「雑魚がキャンキャンうるさいな」


さっきも絡んできた格下勇者が今城の前であるからって息づいて突っかかってくるので散々無視してやったが、それも胸倉掴まれるまでで反抗的ともいえる態度で手を捻り上げた。


「何か勘違いしてる様だから言っておくが、カス共が多少強いからって調子乗ってんじいゃねぇぞ!こっちとらテメェ等のせいでいい生活が出来なくなってイライラしてんだよ!次突っかかってきたらその腕へし折るぞ!」

「痛てて、いてぇっ!この野郎!」


「あ?やろうってのか?」

「ひっ!」


虎の威を借りる狐という言葉が異世界であるそうだ、要は強い者の前で粋がる弱者の事だそうだが、目の前の状況にピッタリだな。

後、こいつらどこか見覚えがあると思えば、あの遠征の時ボコボコにした勇者共だった。


「そのくらいにしてやってくれませんかね、オリトルエさん?貴方には悪いことをしたと思ってほしんですよ?なにせ完全完璧最強無欠のこの僕に手を上げようとしたんですから~そして王には姫の婿として、この国の次代国王として出世も決まっているこの僕にね?」

「・・・・・・話にならん」


今城が俺の前に割って入り、腕を痛めた奴を他の者に任せると長々と自慢し始めた。

何が完全完璧最強無欠だ、そんなモノはこの世に存在しない。

お飾りの国王の姿を想像し、この国の未来が暗闇に突っ込んでくのを憐れに感じた。


ただでさえ魔王が復活し、国の戦力が足りないと議論が立っているところなのに、隊員の一部は騎士団をやめ戦力は低下、それを傭兵や勇者で補うもその代償が大きいと来た。

目の前の勇者を功績を上げてから騎士団長でも親衛隊長でもすればいいが、こいつは勇者という肩書だけで贅沢三昧し王族の仲間入りも果たすそうだ。

全く呆れる。


「おっとこんなところで落ちこぼれに構ってる暇は無んだ、さっさと中でレベル上げをするぞ!」

「はい勇者様!」

「勇者様に続け!」


勇者という言葉を他の転生者も使っていた、なるほどこの言葉が指す者が決まったと言う訳か。


最後の最後、誰も居なくなったこの場でこの身に注ぐ温かな光を精一杯浴びると、一歩一歩ダンジョンに足を踏み入れていった。










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