序章
王城で騎士団副長をしていた男がいたそいつの名前はオリトルエ。
農民上がりであるにも関わらず20という若さで周りの騎士貴族を抑えその職に就いた天運の持ち主であったが、就任5年目簡素な自室1人でチェスを差しながら今起こっている問題に頭を抱える。
1人でチェスをしているのは精神を落ち着かせるためなのだが下手過ぎて付き合ってもらえる相手が居なく、妄想で作り上げた相手と差している。
だが自分で作り上げた都合のいい相手にすら一度も勝ったことが無い。
剣の腕は確かなのだが戦略に掛けてはど素人なのだ・・。
だがこれは本人も分かり切っており、どうにかして人並みにでも上手くならない物かと合間を縫って分身と
勝負をしている。
さてこの男が今抱えている問題それはチェ・・・こっちじゃない、魔王と呼ばれる悪魔が復活し魔物の動きが活発化になり騎士団と自衛団だけでは対処しきれない、と判断した王家が代々受け継がれてきた異世界から勇者を・・・なんだ?召喚?出来る魔術を使いその儀式を行いそれ自体は滞りなく終わり勇者が現れた・・・がその数が多すぎた。
文献を読む限り多くて5・6人と記述されていたのにも関わらずその数
「100人って多過ぎんだろ!」
男の独り言の通りキッチリ100人の勇者と言われる若者、彼らは自分達のことを「ガクセイ」と呼んでいた、その世界の自衛団かなんかの総称かと思ったがそうではなく勉学を習う団体のことだそうだ。
だが彼ら彼女らは我々が何年何十年という厳しい鍛錬によって築き上げた実力を上回る力を持っていた。
騎士団長エドワード様が彼らの剣技の指導に携わっていたが、模擬戦で勇者筆頭 今城 誠 の悪意のある魔法乱射により騎士数名とともにしばらく休養する事態になった。
その時に交わされた会話には今でも怒りが込みあがってくる
「ああ、すまんすまんwwそれ位避けられるのだと思ってたwww」
「貴様・・・勇者様、今のはわざとなさった行為と受け止めてよろ・・・」
「男に興味はない、女を寄こせ」
笑いながら形だけの謝罪を行い問い詰めるために近づこうとすると、笑いは失せ制止され女性を要求された。その声に呼ばれるように化粧を濃くした女性が取り囲み訓練場を出て行った。
「くそったれ!神にでもなったつもりか!我々のメンツは丸つぶれだ!!」
途中だったチェス盤を払い飛ばしを石の机に両拳を叩きつけ、その手の平から赤い液体が石のヒビに滲み込んでく。
「まぁまぁそんなに荒れずに落ち着いて」
「お前は気楽でいいな、サヤ!」
「気楽じゃないよ、貴方が暴れ出しそうで冷や冷やしているよ。やる?襲っちゃう?」
「あの勇者もお前には手を出さんだろう」
「・・・鈍感くんめ」
換気のために開けていた窓側にラフな格好の人物が立っていた、サヤ呼ばれた女は笑い声をあげ背の方に立ちオリトルエに話しかけ豊かな胸元を押し付け耳元で囁く。
なんか近しい雰囲気を出しているがそんなことは無い、ただの幼馴染だ。
昔からいつも人に引っ付いて来ていた、それが王都にまで付いて来て今は諜報部員の方をやっている。
「ここに来たんだ調べは持って来たんだろうな?」
「うん、あの勇者のことだよね。サヤちゃんがしっかり調べて来たよ!褒めて撫でて?」
「・・・25超えて同年来の頭撫でる奴がどこに居る!?」
「えー昔は一緒にお風呂入ったのに・・・」
「赤ん坊の時の話だろうが!」
こいつと話していると楽しいのだが・・・もう少し年を考えてほしい。
それと背中に当たっている肉の塊はいつになったら退かしてくれるのだろうか?
「サヤちゃんの報告タイムでーす」チラチラ
「・・・続けろ」
「最近冷たいよね・・・えっと勇者筆頭の今城 誠についてですが、魔法は全属性使用可能その内雷と炎がもっとも使いやすいと女の子に自慢しており大体王宮魔導士に匹敵するようです。弱点と呼べる点も見つからず武器は剣を使用し、経験人数は15人女の子は常に7・8人侍らせており毎晩とっかえひっかえに・・」
「おい・・お前はなぜにそういうのを挟む?真面目にやれよ」
「オリ君と違って顔もいいし女たらしと言う点以外はほぼ完璧だね」
「殴るぞ・・・」
「きゃーそんなこと言って焼きもち焼いてるくせに。コノコノ」
あんまり中てにならない報告だったがこいつに完璧と言わせられるのであればかなり面倒なことになる。
さっきから何を悩んでいるかって?それはなぁ・・・
「大規模遠征・・・どこに行こう・・・」
「あれまだ決めてなかったの?来月だよ」
「本来はエドワード殿がお決めになられるはずだったし、余程のことが無ければ俺もそれに賛同するつもりだった。だがあの勇者のせいで団員が次々負傷し精鋭揃いの王国騎士団の名は地に落ちた、終いには我々が引率するはずだったのに王が独断で傭兵なんかを雇っていたと知らされた時には・・・もう涙が。」
遠征自体は新人兵のために毎年の様に企画されており、勇者が召喚される前から決まっていたが今回は王の要望もあり実践として力試しを行ってはどうか?といった感じだ。
王自体はそんな悪いお方ではないが、少し意見に流されやすいというか押しに弱いというか・・・
「へぇー大変なんだね」
「勇者という名の疫病神だ!あれのせいで騎士団も半分近く機能しなくなっている」
「へぇ・・・」
「退役届や休止届もこんなに・・・」
「うわー・・・」
涙が零れるのを抑え立ち上がりここ数日で受け取った封筒を小山を見せる、とサヤはチラっと興味ないようで何とも言えない感じの反応をしただけだった。
「で、どこいくの?」
「お前は・・・ブンダル山脈の麓、総勢220内我々が70人・・・他はいつもの通りだ」
「少ないね・・・半分にも満たないんだね、オリ君は行くの?」
「・・・団長代理として同行する、個人的には行きたくないがな」
目的地聞きたいようなので一番近い遠征場を告げる、あそこは近いけどそこそこ難易度が高い場所もある新人はともかく、有頂天な勇者共には丁度いいだろう。
毎年騎士団が100~150人護衛として付くのだが、さっきも言ったが辞退する者が今年は多く警備が手薄になる可能性が高い。
だからほぼ参加してこなかった自分も出る羽目になる・・・。
「お勤めご苦労様・・・ねぇねぇ付いて行っていい?」
「遊びじゃない上に、また巻き込まれる可能性がある」
「大丈夫大丈夫、守ってくれるでしょう?」
「一応団長代理だ・・・女一人に構ってられない」
「ふーん、じゃいいや、いってら。オリ君のことだから大丈夫だろうけど・・気を付けてね?」
いつもの様に付いてくると思いきや流石に遠慮したのかベタベタ触って来ること無く、手をヒラヒラさせ窓枠に足を掛けるがそのまま顔だけこちらに向けて一言残し飛び降りた。
「ここ4階だぞ・・・毎回どうやって来ているんだろうか・・」
扉から入れば良いものを一々窓から入って来る最初それをされた時、敵襲かと思って斬りかかってしまった。
風魔法を使えば体を軽くすることくらいは出来るだろうけど、出っ張りもない壁をまさか一跳びで?
結局その日もチェスは50戦の全敗だった。
時は進んで遠征当日・・・。
出立の時だけ見た重視の白を基調とした鎧を身に纏い王城を出る、ブンダル山脈は王城の背に位置する山々の通称でそれぞれにもなんか名前が付いているという、学者か現地の神父くらいしか覚えていないほとんど知らずとも生活には影響がないことだ。
日が沈まないうちに到着し野営の支度をしなければならない、ところが出立予定時間になっても20程がまだ揃って居らずその場にいた者達に聞きただしたところ
「今城か、あいつらが遠征なんか”行く訳ない”だろう」
「ったく、確かになんで俺達より”弱い奴”の言うことなんか聞かなきゃいけねぇんだよ?とは思うしな」
「王様が何言ったか知らないけど私達は”勇者”なんだし、そんなところ”行かなくてもいい”じゃん?」
「なんだみんなもそう思ってたのか!じゃ解散するか!」
居ないのはやはり今城というあの勇者らしい、そしてそこに居た者達からの口からも信じられない言葉が発せられこの数週間の鬱憤が爆発し口調が荒くなる。
「勝手な行動は許さん!私の・・・我々の指揮下にいる間だけでも命令には従ってもらう、勇者だろうがなんだろうが違反者には罰則を与える!」
「そんなの決まってないじゃん・・・」
「今決めた、私が決めた!おい今城とやらの居る場所に案内しろ!お前たちは待機している新兵達のところに行き先にブンダルに出立しろ、5人だけ俺と来いそれ以外は今すぐ出立だ!!」
強引に甘やかされた勇者共を立ち上がらせ反抗する者は容赦なく突き飛ばし、殴り掛かって来る者には加減せず剣の柄で勝ち上げ床に伏せさす。
その行動を見ていた周りの騎士達も新兵時代を思い出したようで、男女関係なく襟を掴んで外に引き連れて行き時々全員出すまで幾度となく恫喝が響き渡った。
そして残した騎士5人と共に一番甘垂れた者どもの部屋に向かい、鍵のかかった扉を蹴り破り中に侵入する。
するとビックリしたような顔で十数人が騒ぎ立て奥からあの男が女を連れ顔を覗かせる。
「数日前に本日遠征にブンダル山脈に向かうと陛下よりお達しがあったはずだが、貴様らはなぜ集合場所に来ない!陛下のご意志に背くつもりか!?」
「うるさいな・・・大声出さなくても聞こえるよ、王から話は聞いたけど大した場所でもなさそうだし僕らは辞退させてもらっただけさ。ご意思ってww威勢はいいけど貴方方が僕らをこの世界に呼んだんだよ?言うなればお客だ、王がどうのこうの言われても僕らには関係ないねwイタイ目に遭いたくなければさっさと戻った方がいいよ?ww」
「だとよ。騎士さまwお勤めご苦労さんwww帰っていいよw」
「驚いて化粧がずれちゃったじゃんか・・早く出て行ってよね!」
一応敬礼を取りその青年に向かって質問を投げかけるが、遠征自体のことは聞いていたと言われ完全に引けない状態になった。
我々は国民と陛下を守るために発足された国営の組織だ!ガキに舐められた真似をされてこのまま帰れる訳ねぇだろうが!
「無理やりにでも連れていく事にします、おい!丁重にお連れしろ!!」
「「は!了解いたしました!」」
「なんだテメェ等俺達に勝てると・・・イッテェ!おい、放せ!」
「乱暴にしないでよ!?マコトに嫌われちゃうじゃない!」
まずは2人を退室させそれを見た何人から身構えたが、素人の格闘術などいくら力が有っても軽く捻り上げられる。
約半数を片腕だけで相手にし部下に連れていかれた、後は今城とその女どもだけだ。
「へぇ・・アンタ出来るんだね、でもさぁ僕には勝てないよ?この全属性を操ることが出来る完ぺきな僕にはね」
「何か勘違いしているようだが、別に全属性が使えるからって何も偉くない。使い手が稀なだけで王宮にも何人か居るはずだ、剣技も大したことも無い付け焼刃が図に乗るのもいい加減にしろよ!」
「誠様!あんな奴の言葉など聞く価値もありません!!あいつはただのNPC私達からすれば”遥かに劣る”存在なのです。力の差を分からさせなければ何度だって刃向かって来るでしょう!」
「それもそうだね、僕は主人公そいつはただのモブだ。考えればどっちが強いか位分かったね?」
「はい!誠様」
見た目は大人とほぼ変わらないが考えからが甘すぎる、やはりこいつだけは自分で相手をしなければならないようだ。
私のことを何かに例えているようだが舐めてもらっては困る、これでも王国騎士団副長ぽっと出の若造に後れを取る訳がない。
「それでは、強引にでも連れてまいりますのでご容赦・・・」
「アヒャヒャwww直撃しゃがったwwwザマァwww」
一言言い終わる前に今城の掌から光弾が射出され、礼をしていた私の頭に直撃し腹を抱え笑い出しその取り巻きにも笑い声は広まっていった。
生身の人間に当たればただでは済まない、騎士であっても人間には違いが無いが
「城内での直接的な攻撃及び魔法の使用は緊急時を除き禁止されております、初日に私の方からご指導差し上げたのですが覚えていらしゃらないのですね。・・・今回の遠征は貴様のみ医務室で養生とする」
雷系の魔法の攻撃を受け正装用の兜が弾け額から一筋に血が流れる、本当に調子に乗っていらっしゃる。
「な!?直撃したはずだ!なぜ倒れていな・・・」
「城内での攻撃魔法使用及び数項目の危険行動の施行を確認しましたので、私の独断で罰則を下します」
「僕は勇者だぞ!お前なんかに・・」
「そうですか、あくまで反抗しますか。仕方ありませんね棒打ち100回に50上乗せし、棒打ち150回に処します。ここには棒がありませんので私の剣で代用します」
動揺するガキを睨みながら罪状を読み上げ、背負っていた剣を手に取り鞘が外れない様に紐で縛る。
勇者(笑)は余程ショックだったのだろう余裕な笑みから汗をだらだら流し、周りの女にもたれ掛かっている。
「お、お前!正気か!虐待・暴行だぞ!僕の親は議員なんだぞ!お前なんか・・」
「元の世界のご身分は関係ありません、貴方はただの罰則者です弁解はありません。それとそこのガキどももこのまま一緒に居れば同罪を課しますが、仲良くボコボコになります?それとも遠征行きます?お好きな方をどうぞ」
ギインというものは何かの役職だろうか?だが親がそうだったとしてもこんな場所では何の役には立たない。
それと取り巻きにも最終通告を言うと蟻の子散らすようにそいつを置いて部屋から出ていく。
一人残されたそいつにじっくり時間をかけ棒叩きを施した。
今年の遠征はまれに見る地獄だった。