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ラミアの独り言 ---「気がついたらラミアに」サイド・ストーリー ---  作者: 並矢 美樹


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ヴェスター家最高の騎兵

本編「589. 急転」の時間的にはほんの少し前の話となります。

 「ロア様、速すぎます。 これでは他の者が付いて行けません」


 「何言ってんの。 貴方たちはこのボルハン騎兵部隊のメンバーなのよ。 この位の速度で音を上げていて良い訳がないわ。

  それに騎兵ではない私に付いて来れなくて、どうするのよ。

  ボルハン騎兵部隊は、ヴェスター領最速の騎兵部隊なのよ」


 「いえ、それも、これも、ロア様とアレア様が騎兵たちを率いていたから、我々ボルハン騎兵部隊はそうなった訳で、ロア様より遅いと怒られても、なんとも言いようが」


 「あのねぇ、騎兵部隊の指揮官は貴方であって私じゃないのよ。

  そもそも、私にしろアレアにしろ、臨時で騎兵の指揮をしたことはあるけど、正式に騎兵部隊の指揮官になったことなんてないんだからね。

  私たちの正式なポジションはミーリア様の副官であって、騎兵の指揮官じゃないんだから」


 うーん、騎兵たちの訓練を気分転換にするのは、私もアレアも控えた方が良いのかな。 騎兵たちは隊長を筆頭に、みんなどういう訳か自分たちこそが私とアレアの直属の部下なのだという感じで振る舞う。 私たちは最高指揮官であるミーリア様の副官であって、戦場で部隊を率いることは決して主な任務ではない。

 私たちは普段から、ミーリア様の指揮の補佐ができるように、現状を把握したり、その判断の基礎となる情報を整理してまとめたりといった作業を忙しくしている。 ミーリア様に何か問われた時に、それ答えられないようでは副官の役が果たせないからだ。

 私たち2人はミーリア様の問いに答えられるように、ミーリア様が今何を考えていて、どんな情報を求めているかを、常に考えて集めている。

 ミーリア様の考えていることは多岐に渡り、その発想はラミアの常識に囚われない。 そこがとても難しいところで、ラミアの常識に囚われた考えで集めた情報は役に立たないことが多いのだ。 この点に関しては、私たち2人はナーリアたちや、ボブ、アレクたち、ラミアの騎士と今ではまとめて呼ばれる男たちと、とても親しく交わった時の経験が一番役に立っている。 ラミアの常識を簡単に壊されることが何度もあったからなぁ。


 それでもミーリア様に副官として仕えるのは並大抵のことではなくて、常に脳みそをフル回転させているような状態だ。

 そういった頭脳労働と言われる仕事の疲れは、単純に休めばとか、寝れば取れるという訳ではなくて、疲れがずっと溜まるような感じになってしまうのだ。

 そんな時に私たちは、馬に軽馬車を取り付けて、駆け回って気分転換を図る訳だ。


 同じように頭脳労働、あっちはもっとだろうけど、とにかく頭脳労働に明け暮れているセカンとディフィーはマールを連れて駆け回り、ナーリアも必要だから訓練していると言っているけどアーブを連れて、こっちは2輪の軽馬車で駆け回っている。 同じように本当の主目的は気分転換と疲労回復だろう。

 ミーリア様は、しない訳じゃないけど、あまり馬で駆け回るということはしなくて、これは私の推測だけど、もっぱら疲れると子どもたちと遊んでいる気がする。 ま、ミーリア様は不器用だから、他のことであまり手伝えることは無くて、子どもたちと遊んでいてくれるのが最も周りにとってもありがたい、というのもあって、ミーリア様が子どもたちと遊んでいても誰もそれに文句を言わないし、ちょうど良いのかなと思う。


 で、私とアレアが気晴らしに馬に軽馬車を装着すると、待っていましたとばかりに、騎兵たちが集まるのだ。 そして私たちの後を追って来ることになる。

 そうなると、別に騎兵部隊の訓練を担当している訳じゃないけど、やはり鍛えたくなるんだよ。 そうして構って、ついしごいたりしてしまうから、騎兵部隊が直属の部下のように振る舞うことになってしまうのだろう。


 私とアレアの移動速度がとても速いといっても、その理由の半分以上は軽馬車の性能によるところだろうと思う。

 私とアレアは、アレクがラミアのために軽馬車を、バンジ、セカン、ディフィーと工夫して作り始めた時から使っている。 そして、最も使用する機会が多かった。 そのせいで、軽馬車の扱いに関しては、ナーリアたち以上に習熟することになった。

 1輪のにしろ、2輪のにしろ、軽馬車を上手く走らせるには、かなりの技術が必要ではあるのだが、慣れてしまえば、特に悪路でないならば、人間の騎兵よりも高速で移動できるのは自明のことなのだ。 馬は背に人を乗せて走るなら、普通は1人を乗せて走るだけだが、馬車を引くなら数人を乗せていても走れるのだ。 それが最も軽快な1輪の軽馬車なら、人間より重いラミアだとしても、人が騎乗しているよりも速く進めるのは当然のことなのだ。


 それにしても馬車の発達も恐ろしい程だ。

 車軸を獣の皮と油を使って滑らせるようにして回転させるように改良した時や、革の弾力を利用して乗り心地を良くした時に、アレクとバンジの工夫に感動したのだけど、今はもうそんなものではない。 車軸に鉄を巻いたり、鉄のバネが使われるようになって、もう全くの別物という感じだ。


 私たちが使う戦闘用の軽馬車も、車輪には鉄の輪が嵌められて耐久性が増し、車輪の回転軸の部分も鉄になり、なんと摩擦で上がる温度を下げるために、円盤のような物まで取り付けられている。 馬に蹄鉄を履かせていることもあり、もう以前とは比べ物にならない。 そんなこともあって、以前より益々私とアレアの軽馬車の速度は増している。 それに合わせて操馬や軽馬車を乗りこなす技術も上がっている。


 そんな私たちのことを、ヴェスター辺境伯領最高の騎兵なんて言う人がいる。 ボブやアレクたち、それに直属騎士団を管轄しているブマーやエレオ・エレドが私たちを立てる言動をするのがいけないと私は思っている。


 「ま、ヴェスター領最高の騎兵と言ったらアレアのことで、私のことではないから別に構わないけどね」


 「何言っているのよ。 最高の騎兵と言ったら私じゃ無くてロア、貴方に決まっているじゃない」


 「それは違うよ。 アレアの方が速いじゃない、だから貴方の方よ」


 「それは私の武器は双刀で、ロアの武器は薙刀だから、その重さと軽馬車に

乗っている時の取り回しのしやすさの差じゃない。 それが証拠に、武装をしないで互いにナイフしか持たずに乗れば、速さは同じじゃない。

  それに私は主武器が双刀だから、軽馬車に乗っている時は弓は使えるけど他の攻撃方法がないから、偏った戦闘しか出来ない。 貴方は薙刀だから、他の騎兵と共に敵陣に突入するような戦闘も出来る。 どう考えても、最高の騎兵はロアの方よ」


 「私たちにしてみれば、最高の騎兵というのは何も個々の戦闘能力だけを評して語っているつもりはないのですけどね。

  アレア様もロア様も、騎兵を率いて他の追随を許さない卓越した指揮を見せるじゃないですか。 それを皆さん知っていらっしゃる上で、最高の騎兵はお二人だと思われているんじゃないですか。

  そもそも単純に馬に乗ったままの近接戦闘が強いというだけなら、ボブ様やアレク様、いやもしかするとギュート様が一番強いかも知れないですよ」


 「なんだそこにブマーの名は出してあげないの?」


 「ブマー様も直属騎士団をあずかっていて、そこそこお強いのは当然ですけど、それでもラミアの騎士の方々や、この前武闘会で勝ったクラウス様には敵わないかと思うんですけどね」


 私たちの軽い言い合いに、くだけた場だから本来のボルハン騎兵部隊長が口を出して来て、それをアレアが茶化したりしている。


 まあ、そうだよな。 馬に乗っていたり、軽馬車に乗っている状態では、近接戦闘ではそうでない時以上に力の差がモノを言う。 私たちラミアは、技量のあまり変わらない人間の男との戦いでは分が悪い。 うーん、確かに馬に乗っての近接戦闘だとギュートが強そうだ。 元々馬の扱いは最も巧みだし、力は一番あるからね。


 でもまあなんて言うか、同じように2人でミーリア様の副官をしているからか、私とアレアはコンビのように周りの人から語られることが多いのだけど、確かに何かと仕事を振られる時も、同じように振られたりもするのだけど、私は普段から少しアレアに対して劣等感を感じているのだ。


 とにかくアレアは出来る奴だ。

 私は私たちの世代の中での最優秀は死んでしまったアーリルだと感じていた。 彼女は本当に優秀で、あとほんの少し、自分が主になって物事をしようという気持ちを持っていたら、完璧なラミアと評されるラーリア様のようなラミアになったのではないかと思う。 ミーリア様やミーレナ様とは、ちょっと系統が違っていて、やはりラーリア様のような感じだ。

 その次に位置するのが、アレア、私、アリファ、それに加えてアレオとローの元の仲良しだ。 アーリアも本当は優秀だったのだろうと思うけど、個性が強すぎて周りとの協調性が全くなかったからなぁ。


 で、アレアなのだけど、これがまた優秀なんだよなぁ。 気配を消す能力や、スピードはレンスと双璧をなしているし、指揮能力も高い。

 それより何より私が評価するのは、咄嗟の時の決断力だ。

 だからなのだろうか、ここ一番の重要だった場面では、必ずと言って良いほどアレアは目立ってはいないが大きな功績を残している。 ゴブの最初の戦いの時に、ゴブの集団を見つけたのも、誘導したのも、逃走を許さなかったのもアレアだ。 ミーリア様が『美しのミーリア』として王都で絶大な人気を得て、ラミアが王都で普通に過ごせる下地を作ることになる活動をしたのもアレアだ。 そのとばっちりで、『ミーリア様の怖いお付きのラミア』と呼ばれるようになったのには笑ったけど。 その後、ゴブのヴェスター領への侵攻を、最初に確認したのもアレアだ。


 ほぼ同じように活動していたはずなのに、そういったあまり表立っては目立ってないけど重要な働きは、ほぼアレアがしている。 みんな、まあ、そのことを評価はしているのだけど、たぶん最も近くでそれを見ていた私に言わせると、もっともっと評価して良いことだと思うのだ。 ん、まあ、ミーリア様や、セカンとディフィーの2人、それにナーリアあたりは評価してると思うけどさ。

 それに比べて、私はどうなんだろう、と時々考えてしまうのだ。


 「でもさ、私は軽馬車に乗っての近接戦闘はできないけど、ロアはちゃんと出来るのよ。

  そこを考えると、やはりロアの方が優れているわ」


 「ま、そう言われてしまうと、確かにその部分ではアレア様よりロア様の方が優れていると言って良いかも知れないですね」


 「そうでしょ。 大体、ロアは私よりもずっと色々出来て、すごいのよ。

  夜目だって、私よりずっと利いてすごく見えるから、夜間でも敵を見逃さないし。 だけど、そういうことより何より、私が本当に見習いたいけど出来ないのが、誰とでもすぐに打ち解けて話が出来たりするところなのよ。

  今こうして、私は隊長と話しているけど、それは私が隊長とも時間を掛けて関係が作れているから、私はそうでないと話が、ましてや気楽にこんなおしゃべりなんて出来ない。 だけどロアは、新人に対してだって気さくに声を掛けて、すぐに打ち解けて話をすることが出来る。

  それって、隊をまとめ上げていくという時に本当に大きな事よ。 私はそういうのは全くダメで、新人なんて私の前では固まってしまうけど、私も固まっちゃっているのよ。 本当にダメダメだわ」


 あれっ、私がつい、アレアに比べて自分のダメさを考えていたら、アレアが隊長に自分のダメさをアピールしていた。


 「全く、変なところでアレアは自己評価が低いんだから」


 「本当のことだから。 私だって、ロアを見習ってどうにかしたいとは思っているんだ」


 「何言ってんのよ。 それに私たちの役目はボルハン騎兵隊をまとめて、鍛えることじゃないわ」


 「そうね。 私たちはミーリア様の副官が役目だものね」


 そうなんだ。 今はミーリア様の副官としての役目を果たすことに全力を尽くさなければいけない。 自分と他人とを比べて劣等感を感じていたりしている暇はない。 そろそろ本当にきな臭さが強まっている気がする。 そういう気配をひしひしと感じるのは、私たちが何度も危機に陥っていたからだろうか。


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